編集後記
人は誰でも間違えます。どれほど頑張っても失敗してしまうことがあります。この事実を素直に認め、現実から謙虚に学び、学びを未来へ繋げる。言うは易く行うは難し。
世界は狭くなり、人も物事も複雑に絡み合っています。課題は複雑化し、深刻になり、切迫しています。課題を取り巻く関係者はそれぞれの価値観を持ち事情を抱えています。利害がぶつかります。
課題を解決するには、お互いの価値観や事情を認め合い、衝突する利害を乗り越えなくてはなりません。乗り越えるには、人々を繋ぐ「橋」が必要です。
橋を作るために、先ず、何が起きているか、どうなっているか、事実を特定する。次に、特定した事実に対して価値判断をする。
事実特定と価値判断は異なります。絡み合う課題を解きほぐすには二つの切り分けが不可欠です。混ぜたら危険。
現実には、事実を一つに結論出来ないこともあるでしょう。根拠を詰め切れず、あるいは価値判断と切り離しきれないかもしれません。しかし、事実を特定しようとする努力は橋を架けるための第一歩です。
事実を特定した後、価値判断も一筋縄ではいきません。「価値」判断ですから、一つの事実に対していくつもの結果があり得ます。10を目指して7を達成したら、達成した7と届かない3をどう考えるか。更に、改めて10を目指すか、7で十分とするか。答えを出すために共に呻吟する経験はお互いの理解を深めて橋を頑丈にします。
「対等に学びあう双方向の関係を築いていく姿勢は、我が国の開発協力の良き伝統である」、昨年改定された開発協力大綱の一節です。先人は橋を築いていらっしゃいました。
現実から謙虚に学び、学びを未来へ繋げる。それを愚直に繰り返すことで、自らを高め、周囲の信頼を勝ち取り、手を携える友を増やしていく。言うは易く行うは難し。
私たちが橋を架けるために試行錯誤したこの1年間の記録を謹んでお届けします。
大臣官房ODA評価室長
新井和久