ODA評価年次報告書2024 | 外務省

ODA評価年次報告書2024

2023年度外務省ODA評価結果

タイ国別評価

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評価者
(評価チーム)
評価主任:湊 直信 国際通貨研究所客員研究員
アドバイザー:藤村 学 青山学院大学教授
コンサルタント:株式会社国際開発センター
評価対象期間 2018年度~2022年度
評価実施期間 2023年5月~2024年2月
現地調査国 タイ

評価の背景・対象・目的

インドシナ半島の中心に位置し、南シナ海とインド洋の両海に面するタイは、地政学的に重要な位置を占めている。日本とタイは、政治、経済、文化など幅広い分野で緊密な関係を築いており、特に経済面において非常に強い結びつきを有し、2022年には両国首脳間で、幅広い分野で両国関係が進展していることを踏まえ、両国関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げすることで合意し、協力を更に強化することを確認した。一方、タイは中進国入りしたものの、持続的な発展のためには、持続可能な開発目標(SDGs)に沿って、産業分野の人材育成、産業の高付加価値化を見据えた研究開発の能力強化、質の高いインフラ整備、治水・防災対策の推進及びエネルギー・環境・気候変動対策といった課題がある。また、援助国でもあるタイと、開発パートナーとして、両国の強みを活用した協力を展開することは、中進国に対する開発協力のモデル構築の観点からも効果的である。

本評価は、タイに対する近年の日本の政府開発援助(ODA)政策や重点分野に基づく支援を評価することにより、2024年度に改定予定である対タイ国別開発協力方針の立案や実施のための提言や教訓を得ること、また、評価結果を公表し、国民への説明責任を果たすことを目的とする。

評価結果のまとめ

● 開発の視点からの評価

(1) 政策の妥当性

日本の対タイODA政策は、タイの開発政策・開発ニーズ、日本の上位政策、国際的な優先課題とそれぞれ整合している。日本、及び主要援助国・機関は、タイを戦略的パートナーと位置付け、タイの20カ年国家戦略(2018~2037年)に従って遂行されている国家経済社会開発5カ年計画に沿った支援政策を策定し、「充足経済の理念に基づき、安全、繁栄、持続可能な先進国となる」という国家目標の達成を共に目指している。さらに、東南アジア諸国連合(ASEAN)、及びメコン地域において中心的役割を担っているタイにおいて、ASEAN連結性の向上、及び地域内の格差是正に関係する支援が計画されている点から、日本の地域政策との整合性が高い。加えて、日本の長年のソフト面からハード面までの援助実績とトップドナーとして構築された信頼関係を踏まえ、タイと協力して行う第三国支援が計画された点、インフラ整備、産業人材育成、研究能力強化、環境・気候変動、社会保障などの日本が知見と経験を有する分野において事業が計画・実施された点、多様なスキーム・アクター(有償、無償、技プロ、個別専門家派遣、協力隊派遣、科学技術、研修事業、民間連携事業、日本NGO連携無償、草の根技術協力など)が活用された点において、日本の比較優位性を活かした政策である。以上より政策の妥当性は「極めて高い」と判断した。
(評価結果: 極めて高い)

(2) 結果の有効性

援助実績(インプット)及びアウトプット(人材育成の人数やインフラの構造物など活動の結果)は計画どおりに実現したことが確認できた。いったん計画したらその計画どおりに実施されており、これが現地の援助実施機関からよく聞かれた「日本に対する高い信頼」に結びついていると肯定的に評価できる。具体的な成果(アウトカム)として、鉄道駅及び地下鉄のハード・ソフトの支援による交通輸送能力の量的・質的拡大などの成果はたいへん満足できるし、理工系人材を中心とした産業人材の育成の量的・質的な成果もたいへん満足できる。また、デジタル化などの新しい課題への対応支援も行われており、第三国研修(日本が支援してタイ援助機関が実施する周辺国向け研修)は今後ますます重要性が高まると思われる。モニタリング評価などに若干の課題はあるがほぼ満足できる。これらの成果と重要性を総合的に判断すると結果の有効性は「極めて高い」と評価できる。
(評価結果: 極めて高い)

(3) プロセスの適切性

開発協力方針の内容は現在に至ってもタイ側のニーズと一致しており、タイと日本の関係機関・省庁との関係は良好である点を踏まえると、現行の援助政策の策定プロセスは適切であったと言える。援助実施プロセスに関しては、要望調査において効率性を高める工夫がなされているほか、プロジェクト実施中は合同調整委員会(JCC)を設置して定期的なモニタリング・評価を行うなど、日本とタイが協働で案件管理を行っている点は適切である。現地で訴求効果の高いソーシャルメディアを選択・活用した広報活動を積極的に行っていることも高く評価できる。また、中進国であるタイに対するODAの特性として、ODAが民間企業や自治体との共同事業に発展するケースが確認された。タイと日本が連携する形での周辺国向けの借款事業など、新たな取組も進行中であり、中進国に対するODAの在り方に対する示唆となり得る。したがって、実施プロセスは「極めて高い」と判断した。
(評価結果:高い)

(注)レーティング: 極めて高い/高い/一部課題がある/低い

● 外交の視点からの評価

(1) 外交的な重要性

外交的な重要性という観点から、タイは、ASEAN/メコン地域の安定や発展において中心的な役割を果たしており、日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現においても、地政学的に重要な位置にある。日本とタイは長期にわたり友好的な関係を築いており、タイ政府及び他の援助機関からは、日本の開発協力に対する高い評価が寄せられている。タイで実施される開発協力は、タイの経済社会発展のみならず、タイに進出する日本企業、ひいては日本の経済発展に貢献していると言える。このように、日本とタイの相互の協力関係を維持し、発展させることが日本の国益にとっても極めて重要であると言える。

(2) 外交的な波及効果

外交的な波及効果という観点からは、日本は第三国研修というスキームを通じ、タイを通じて周辺国への援助を実施しており、ASEAN諸国からの参加者がタイで技術研修を受け、日本の知識や経験を習得するという波及効果が生じている。さらに、二国間関係においても、多くの要人が日本を訪れ、日本の開発協力に感謝の意を表明していることからも、両国の信頼関係の強化に一定程度貢献していると言える。タイは特定の国への過度な依存を避け、バランスを保つ外交姿勢をとっているが、重要な局面では日本を頼る傾向があることが指摘されている。このように、日本の開発協力がタイや周辺国にも波及効果をもたらし、タイと日本の友好関係の維持に貢献している。

評価結果に基づく提言

(1) 新興ドナーとなる中進国支援の新しい在り方を検討する。

(2) 広報の在り方を改善する。

(3) 第三国研修のモニタリング評価を改善する。

(4) タイへの今後の開発協力の方向性:より良いガバナンス実現に向けた支援を強化する。

ODAで建設されたことを示すプレートがバンスー中央駅構内に掲示されている写真。

日本の支援で建設されたバンスー中央駅。ODAで建設されたことを示すプレートが構内に掲示されている。

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