2023年度外務省ODA評価のまとめ
2023年度は、国別評価3件(タイ、バングラデシュ、エジプト)、課題別評価として「難民及び難民受入れ国支援の評価」、外務省が実施する無償資金協力個別案件の評価2件(2014年度対ヨルダン無償資金協力「地方産機材ノン・プロジェクト無償資金協力」及び2016年度対ヨルダン無償資金協力「経済社会開発計画」)の計6件の第三者評価を実施しました。
開発の視点からの評価
政策レベルの評価(国別評価3件及び課題別評価1件)の評価結果
● 政策の妥当性
国別評価の評価対象国に対する我が国の開発協力政策は、いずれの国も我が国の上位政策や相手国の開発政策・ニーズ及び国際的な優先課題に整合しており、また、我が国の比較優位性をいかした支援が実施されていることが確認され、タイ及びバングラデシュは「極めて高い」、エジプトは「高い」と評価されました。
課題別評価でも、難民支援関連政策は我が国の上位政策や現場のニーズ、国際的な優先課題と整合しており、被援助国政府に受け入れられる形で政策の現実的な実施が図られ、日本の優位性がいかされており、政策の妥当性は「高い」と評価されました。
● 結果の有効性
国別評価では各国とも支援実績(インプット)は適切に投入されたことが確認されました。タイ及びバングラデシュではインフラ分野など複数の分野で大きな成果・貢献が確認され、評価結果はそれぞれ「極めて高い」、「高い」となりました。エジプトでは、一部効果が発現しているものの新型コロナなどの影響で事業実施に遅延が生じており、「一部課題がある」と評価されました。
課題別評価では、我が国が国際会議で表明した主なインプットが達成され、個別事業でもおおむねアウトプットが達成されたことから「高い」と評価された一方、国際社会全体の支援不足や、人道・開発・平和の連携(ネクサス)の一環として、紛争の解決や帰還に向けた支援の必要性が指摘されました。
● プロセスの適切性
国別評価の各国において、政策策定プロセスに加えて、相手国ニーズの把握、モニタリングや広報などの政策実施プロセス及び援助実施体制のいずれも適切であったことが確認されました。タイではソーシャルメディアを活用した積極的な広報やODAが民間企業や自治体との共同事業に発展するケースなどもあり、「極めて高い」と評価されました。バングラデシュでは他ドナー、国際機関、民間、NGOなど多様な援助主体との連携が取れており、エジプトでも開発に関わる他のアクターとの協調・連携が見られ、それぞれ「高い」と評価されました。
課題別評価では、緊急支援時に迅速に対応できる仕組みの構築や多様な機関との連携など、政策の策定・実施プロセスはおおむね適切であったものの、外務省本省では、難民支援を担当する部署が複数に分かれ、被援助国の難民支援全体を見据えた協議が十分行われておらず、JICAやNGOの案件形成と国際機関を通じた人道支援案件形成が別個になされており、国際機関案件のモニタリング・情報公開が不十分であることなどから、「一部課題がある」と評価されました。
無償資金協力個別案件2件(地方産機材、経済社会開発計画)の評価結果
● 計画の妥当性
2014年度案件はヨルダン政府のニーズ、日本政府の外交政策及び開発協力政策と整合し、東日本大震災から3年後の当時、我が国の地方で生産された機材を供与する無償資金協力として採択されたことは妥当であったこと、2016年度案件は、ヨルダン国内におけるテロ事件発生件数が過去最多の年に計画され、治安対策に関するヨルダン政府の開発計画やニーズに整合しており、日本の中東外交及び対ヨルダン開発協力政策にも合致し、機動性や迅速性を特徴とする経済社会開発計画を採択したことは妥当であったことから、いずれの案件も「高い」という結果となりました。
● 結果の有効性
2014年度案件では、要請機材の納入後も機材の適切な使用と維持・保守管理のための取組が見られた一方、引渡し式が実施されず、現地における日本の地方産機材のプロモーションには一部課題が見られ、「高い」と評価されました。2016年度案件では、本案件に続いて日本のODA事業を通じた国境検問所への治安対策機材の導入が継続的に実施されていることなどから、「高い」と評価されました。

レーティング基準
極めて高い: 全ての検証項目で極めて高い評価結果であった。
高い: ほぼ全ての検証項目で高い評価結果であった。
一部課題がある: 複数の検証項目で高い評価結果であった一方、一部改善すべき課題が確認された。
低い: 複数の検証項目で低い評価結果であった。
(注1)政策レベルの評価の場合
(注2)プロジェクトレベルの評価の場合。なお、令和2年度に実施した「外務省が実施する二国間無償資金協力個別案件の評価についての分析・評価手法の分析」の結果を踏まえ、令和3年度から、開発の視点と外交の視点とを統合し、「外交的な重要性」にかかる検証項目は「計画の妥当性」に、「外交的な波及効果」にかかる検証項目は「結果の有効性」に含めている。
外交の視点からの評価
2023年度の国別評価においては、評価対象国それぞれの地政学的重要性に加えて、我が国の支援によるタイとバングラデシュの発展への貢献や、地域の安定にとってのエジプトの安定の重要性などの外交的な重要性が確認されました。また、いずれの国でも我が国の開発協力による友好関係の維持・促進や日本への親近感醸成への寄与が確認されたほか、タイでは第三国研修を通じた周辺国への援助、バングラデシュでは日本の平和・安全及び日本国民の安全確保への貢献などの外交的な波及効果も確認されました。
課題別評価でも、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」推進への貢献などの外交的な重要性や、日本のプレゼンスや好感度の向上といった外交的な波及効果が確認されました。
提言・教訓
2023年度に実施した6件のODA評価の結果を踏まえた提言が出されました。それらのうち、複数の案件に共通する提言、また、他案件へも適用が可能な提言・教訓は以下のとおりです。
複数の評価案件に共通する提言
● 広報・情報公開の改善
複数の案件で、広報・情報公開の在り方の改善について提言されました。エジプト国別評価と課題別評価では、国際機関を通じた支援を含め、我が国の協力の案件間やスキーム間の関係について広報・情報公開を強化する必要性が共通して指摘されました。
● 柔軟性のある制度運用
課題別評価では、人道支援と開発支援の双方のスキームにおける迅速性・柔軟性のある制度運用について、エジプト国別評価では、円借款の本邦技術活用条件(STEP)制度の運用の柔軟性向上について提言されました
他への適用が見込まれる提言
● PDCAサイクルに基づくODAの実施
バングラデシュ国別評価では、プログラムの計画段階における分野ごとのセオリーオブチェンジ(TOC)の作成や指標の策定を含むプログラムの評価の導入が提案されました。2014年度対ヨルダン無償資金協力の評価では、案件の内容に関する特に重大な決定や変更については合意内容などの文書記録と保存期間の見直しを行い、後に教訓をいかすことが重要との指摘がありました。
● 連携のための体制整備
課題別評価では、人道・開発・平和の連携(ネクサス)の強化に向けた多様なアクター間の連携及びそのための体制整備として、現地、外務本省の両レベルにおける体制づくりについて具体的な提言がなされました。