コラム
東ティモール国別評価の現場から(外務省評価担当の声)
2022年5月19日から20日にかけて、東ティモールの首都ディリにおいて、ジョゼ・ラモス=ホルタ新大統領の就任式が行われました。
この大統領就任式には、令和3年度外務省ODA評価として実施した「東ティモール国別評価」(本報告書p.9参照)の評価チームの方々も招待され、長谷川祐弘日本国際平和構築協会理事長(評価主任)、大門毅早稲田大学教授、稲田十一専修大学教授らが、日本からディリに渡航して参列されました。また、現地では、ラモス=ホルタ大統領と個別に話す機会もあり、長谷川理事長からラモス=ホルタ大統領に対し、評価報告書を直接手交しました。
さらに、2022年9月、故安倍晋三国葬儀参列のため来日されたアダルジザ・マグノ・東ティモール外務協力大臣に対しても、マグノ大臣のJICA訪問の機会をとらえ、東ティモール国別評価の結果について評価チームから報告を行うことができました。
過去300年以上にわたり、ポルトガルやインドネシアなど他国の支配を受けた東ティモール。激しい武力闘争の末、ちょうど20年前の2002年5月20日に独立を果たしました。日本は、同国の独立前から復興支援や人道支援を開始し、国連平和維持活動(PKO)に自衛隊施設部隊を派遣するとともに、その後の一時騒乱時の支援も含めて、これまで継続的に東ティモールの国づくりの努力を支援してきました。
この東ティモール国別評価では、過去5年間の日本の対東ティモールODAを評価対象とすることを基本としつつ、これまでの日本による支援の総括も意識し、この20年間の外交関係を踏まえた上で、今後の支援のための提言や教訓が出されました。その調査の一環として、長谷川理事長の人脈により、ラモス=ホルタ大統領、シャナナ・グスマン東ティモール再建国民評議会(CNRT)党首(初代大統領)、デ・アラウジョ元首相といった、東ティモールの独立を率いた英雄や要人の方々にもオンライン・インタビューを実施して、日本のODAに対する率直な意見を得ることができました。
評価結果はこの年次報告書に記載のとおりですが、こうしたインタビューに外務省担当者として同席した中で、特に印象に残ったのは、東ティモールの大統領、首相といった国のトップの立場に就かれていた方々が、日本の過去の支援について実務的な内容まで実に詳細に記憶されていた点です。どの指導者も、日本のこれまでの支援に対する心からの謝意を述べられるとともに、東ティモール国民の生活向上のために何をしたらよいかを真摯に考える日本のアプローチを高く評価し、継続的に支援してきた日本に対する信頼がうかがえました。(ちなみに、ラモス=ホルタ大統領は、黒澤明映画監督の大ファンで、黒澤監督の映画は全てご覧になっていると嬉しそうにお話しになっていました。)
その他の関係者へのインタビューにおいても、日本の支援の良さは、人材育成に丁寧に取り組んでいることであり、それはつまり、あれをしろ、これをしろと上から押しつけることなく、日本もパートナー国と同じ目線に立ち、カウンターパートと膝を突き合わせて議論し、パートナー国側が自国の発展について自ら判断する方向性を支援している点だとの意見をいただきました。まさに、釣った魚を渡すのではなく、釣り竿を渡して釣り方を教える、そうした日本の長年のアプローチが、相手国の方々にも伝わっていることを感じました。
評価チームの評価主任であった長谷川理事長は、独立直後から国連事務総長特別代表として同国の自立的発展を現地で支え、退任後も継続的に東ティモールの発展や日本との二国間関係の促進に尽力されています。同じく評価チームの山田満教授、大門毅教授、上杉勇司教授が所属される早稲田大学は、長きに渡り東ティモールの留学生を学内に受け入れるとともに、東ティモール国立大学に教員や学生を継続的に派遣するなど、同国の人材育成に貢献されています。また、評価チームに現地コンサルタントとして参加した樋口洋平氏及び丹羽千尋氏は、長年東ティモールの開発事業に従事したり、現地でのNGO活動を継続されています。
その他にも、NGOやJICA専門家、協力隊員、日本企業の方々が現地の生活に入り込んで汗水流しながら長年積み重ねてきた努力に対し、揺るぎない信頼が現地の方々から寄せられていることを今回の評価を通じて目の当たりにしました。こうしたODA関係者や民間、有識者の方々、いわば日本の東ティモール応援団による長年の地道な努力と、それに対する現地の方々の感謝と信頼は、評価報告書の中で数字として表すことはできませんが、これもまた日本のODAの波及効果なのだと、評価のプロセスを経て実感しています。

ラモス=ホルタ大統領に評価報告書を手交する長谷川評価主任
(提供:日本国際平和構築協会)