ODA評価年次報告書2021 | 外務省

ODA評価年次報告書2021

2020年度外務省ODA評価結果

ブラジル国別評価

評価主任 佐藤 寛
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所研究推進部 上席主任調査研究員
アドバイザー 近田 亮平
アジア経済研究所地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ長代理
コンサルタント 日本テクノ株式会社
評価対象期間 2009年度~2019年度
評価実施期間 2020年8月~2021年3月
現地調査国 ブラジル(オンライン遠隔調査)

評価の背景・対象・目的

ブラジルと日本は、2020年に外交関係樹立から125年を迎え、古くから緊密な友好関係にある。2014年から両国関係は戦略的グローバル・パートナーシップと位置づけられ、幅広い分野で協力が進展している。1959年に対ブラジルODAを開始して以来、日本はブラジルが抱える問題に寄り添い、資源、医療、治安、インフラ等の分野で持続的成長を支援してきており、ブラジルは中南米におけるODAの主要な被供与国の一つである。本評価は、ODA評価の目的である、ODAの管理改善及び国民への説明責任を果たすことを念頭に置き、直近5年間に重点を置きつつ、平成21(2009)年度以降の対ブラジル支援政策を評価し、今後の支援政策立案や実施のための提言や教訓を得ることを目的とする。

評価結果のまとめ

● 開発の視点からの評価

(1) 政策の妥当性

日本の対ブラジル協力の政策は、日本のODAの上位政策である政府開発援助大綱(2003年)や開発協力大綱(2015年)、ブラジルの開発計画である多年度計画(PPA)に合致している。また、国際的な優先課題であるミレニアム開発目標(MDGs)及び持続可能な開発目標(SDGs)との整合性、ブラジルで支援を行っている各ドナーの支援の方向性との整合性も取れている。さらに、①防災、②ガバナンス(地域警察協力)、③自然環境保全、④水資源(無収水対策)、⑤保健医療(母子保健)といった日本の比較優位性のある分野を中心に政策策定が行われてき ている。(評価結果:極めて高い A

(2) 結果の有効性

ブラジルはODA卒業移行国に分類されるため、日本の対ブラジルODA金額は減少傾向にあるが、広大な国土に多様な援助ニーズを有する同国に対し、重点3分野(①都市問題と環境・防災対策、②投資環境改善、③三角協力)の中で案件を絞り、適切な質とタイミングで支援を行っている。都市問題及び環境・防災対策分野では、環境配慮型都市の構築、自然環境保全、防災を柱とした支援において、投資環境改善分野では、民間連携の橋渡しとしての役割において、また三角協力では、特徴ある協力を展開し続けることで成果を得てきている。(評価結果:高い B) 

(3) プロセスの適切性

国別開発協力方針は、日本側及びブラジル側の関係者と適切な協議を行った上で策定されており、事業展開計画も毎年更新されている。実施プロセスにおいても、実施体制の整備、ニーズの把握、対ブラジル支援重点分野に基づく個別案件の実施、モニタリング、広報が適切に行われてきている。(評価結果:高い B

(注)レーティング: 極めて高い A/高い B/一部課題がある C/低い D

● 外交の視点からの評価

(1)外交的な重要性

日本とブラジルは2009年以降、継続して要人の往来を実現している。また、日本は従来、中南米地域を世界経済における生産・輸出拠点、資源の一大供給地及び有望な市場として重視し、経済関係の強化に取り組んできており、2014年からは対中南米政策の3つの指導理念(共に発展(経済関係強化)、共に主導(国際社会での連携)及び共に啓発(人的交流、文化・スポーツ交流などの促進))、2019年からは中南米の3つの「連結性強化(経済、価値、知恵)」という方針に即して、関係強化を進めている。さらに、日本とブラジルは、環境・気候変動問題、軍縮・不拡散、国連安保理改革、北朝鮮問題及び南シナ海・東シナ海問題といった多くの国際的共通課題について連携、協力してきている。このような観点から、対ブラジルODAは外交的な重要性を有している。

(2)外交的な波及効果

日本とブラジルには継続した活発な交流実績があり、日本の支援が両国の友好関係促進に寄与した事例も多数見られる。また、ブラジルは、国連安保理改革、貿易、環境、軍縮・不拡散などの分野を始めとして、国際社会での活躍が顕著である。かかる中、日本はブラジルとの協力関係構築に努めてきたが、特に国連安保理改革において、両国は常任理事国候補として共通の立場を有しており、改革の実現に向け緊密な協力関係を構築することが必要である。さらに、経済関係強化の指標の一つとして進出日系企業拠点数を見ると増加傾向にあり、ODAが日本企業進出の一助となったとも考えられる。

評価結果に基づく提言

(1) 開発協力の戦略性の強化

国別開発協力方針に設定されている開発重点分野は、日本の能力の高さ及び専門性等を生かしつつ、これまでの協力実績を生かせる分野での課題設定となっている。政策策定においては、ブラジル側の政策に対し、長期的、戦略的、かつ地球規模的視点により、協力の妥当性を判断することが必要である。加えて、そのような政策策定を行っている点を日本国民に見えやすくする点も重要である。同時に、高所得国に見合った円借款の実施、科学技術協力、デジタル社会のニーズに応えていく職業訓練、日系社会と連携した協力、インバウンド・地方創生を意識した日ブラジル双方へ裨益する取組をブラジルコミュニティと協働していくなど、これまでの協力をさらに高度戦略化し展開していくことが望ましい。

(2)三角協力を軸としたブラジルのドナー化支援を通したパートナーシップの強化

ブラジルは、自国が地域における地政学的な役割や自国よりも開発の遅れた国に対して協力を行う能力を有しており、その役割を果たすことで先進国のドナーの中で独特の役割を担うとともに対等なパートナーシップを強化できると考えている。今後、日本は対ブラジル支援の軸に三角協力を据え、ブラジルが被援助国から中南米地域の援助国へと移行するためのドナー化支援を通じたパートナーシップの強化をも目指す、新しい協力の形を模索・形成していくことが望ましい。

(3)三角協力における関係国間の対話の強化

日本のODAの重点分野として三角協力の枠組みをさらに効果的に活用するため、まずはプログラム全体の方針を策定し、個別のプロジェクトに落とし込む仕組み作りを検討する。また、受益国も含めた三か国間での定期的かつ継続的なモニタリング・評価体制を確立することが望ましい。

(4)民間連携を活用した社会課題解決の促進

ブラジル都市部をたくさんのバスが走っている写真。

ブラジル都市部の様子(写真提供/JICA)

既存の日ブラジル間の政府・民間での対話・連携枠組みに積極的かつ横断的に関与し、日本にはないブラジルの新しい技術をブラジルのニーズに活用していくことが望ましい。それによって、人材育成、生産現場の効率化、インフラ構築・改善、格差解消などが促され、SDGs分野における社会課題解決・ビジネス展開にも大きく寄与することが期待できる。

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