コラム
女性の活躍推進と開発(ODAプロジェクトの現場から)
外務省は2019年度、ジェンダー分野におけるODA評価を実施し、ケーススタディ国としてケニアとキルギスを取り上げました。評価団一行は現地の政府関係者、国際機関、裨益者などへの聞き取りを行い、さらにプロジェクト現場を視察しました。
キルギス
女性の自立を促す地域活性化事業
中央アジアに位置するキルギスでは、首都ビシュケクから車で山道を通り数時間、貧困問題がより深刻なイシククリ州にある生産所を視察してきました。そこでは、地域活性化を目指し、商品開発や生産指導などを行うJICAの専門家の指導のもと、女性たちが地域の素材を生かしたフェルト製品や化粧品を生産・販売していました。
キルギスの都市部以外では、一般的に男性が放牧業に従事し、女性が家庭で家事、育児に従事します。そのため、女性が収入を得る機会がなく、地域や家庭で女性の発言権が弱いという課題があります。
この生産活動に参加することにより、それまで仕事による収入を得た経験がほとんどなかった女性たちが、現金収入を得て、それを家計の足しにできるようになりました。この生産所で会った女性たちは、「最初は反対していた家族も自分たちが仕事に行くことに対して好意的になった」、「自分の家庭内における存在感や地位が高まった」と口々に話してくれました。
日本の支援が、女性たちのビジネススキル習得や収入の向上などの経済的な効果のみならず、彼女たちの地位の向上、すなわち女性のエンパワーメントにつながっている好事例です。
また、この地域活性化事業は他ドナーやキルギス政府機関での評価も高く、ジェエンベコフ大統領(2019年9月当時)からも謝意表明があり、良好な二国間関係の維持にも貢献しています。

キルギスの羊毛で作られた動物

イシククリ州のフェルト製品生産所で作業する女性たち
ケニア
パワフルで輝く女性たち(ジェンダー研修)
評価団一行は、ケニアでも輝く女性たちに会ってきました。ナイロビから車で数時間走ったキリニャガ州で小規模農家を支援する取組みの現場を視察してきました。農家のみなさん30人程が歌を歌って、温かく評価団を迎えてくれました。
ケニアでは農業生産労働の70%を女性が担っているにもかかわらず、女性は土地資本、技術へのアクセスが制限されています。さらに家事や育児を一手に担っており、女性たちの過重労働が農業生産性を低下させていることが課題でした。また、農作物を売って得られる収入の管理や家庭内の意思決定は、男性が行うのが一般的であり、この不平等さが女性の勤労意欲を低下させることも課題でした。
評価団が訪れたプロジェクト現場では、日本の支援により農家の人たちを対象として「ジェンダー研修」(注)が行われていました。これは、男女の役割分担や意思決定に関する考え方を見直し、男女が共同経営者としての意識を持ち、適切に役割分担をすることにより、効率的で収益性の高い農家経営につなげることを目標とするものです。農家の人たちは研修で、女性の家事の負担、主に女性が行っていた水汲みや薪集めの重労働、男性のみが行なっていた家計管理などの課題について話し合い、男女にとって平等な解決方法を見出しました。女性の家庭における負担が減ることによって、農業活動の生産性が向上し、収入が増加したことや、男女で家計を管理することにより無駄が減り、貯蓄につながったことを話してくれました。その結果、電気やガスを導入したり、重要な移動手段であるバイクを購入したり、生活環境が大きく改善したそうです。購入した大きな牛2頭と建てた牛小屋を見せてくれた人もいました。夫婦が協力して働くようになり、家庭内が平和になったとの声も多く聞きました。職場や家庭内でのジェンダー平等推進の取組みの好事例です。

ジェンダー研修に参加した人たち

増えた収入で購入した大きな牛と牛小屋
今回、評価団一行が視察したプロジェクトは、日本が実施しているジェンダー分野のODAのうちのほんの一例ですが、このように日本の支援により、開発途上国において女性のエンパワーメントにつながっている事例は多々あります。今後も日本のODAにより、世界中の女性たちがますます輝く社会を目指すことが期待されます。
(注)農業・農村開発におけるジェンダー課題や、ジェンダー視点に立った事業を実施するために必要な取組み、農業・農村開発事業にジェンダー視点を主流化していくために必要な分析や手法について学ぶJICA専門家による講義及びグループ演習。