ODA評価年次報告書2019 | 外務省

ODA評価年次報告書2019

2018年度外務省ODA評価結果概要

コスタリカ・ニカラグア国別評価 <概要>

(注)下記は、評価チーム作成の評価報告書に基づき、外務省ODA評価室が作成したものです。全文はこちらからご覧いただけます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000496680.pdf new window

評価者
(評価チーム)
評価主任 高千穂 安長
ノースアジア大学経済学部教授
アドバイザー 狐崎 知己
専修大学経済学部教授
コンサルタント 株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング
評価対象期間 2006年~2017年(コスタリカ)/ 2007年~2017年(ニカラグア)
評価実施期間 2018年7月~2019年3月
現地調査国 コスタリカ

(注)ニカラグアについては、現地の社会政治情勢及び治安状況に鑑み、現地調査は見合わせた。

日本の協力により設置された太陽光パネル(コスタリカ)の写真

日本の協力により設置された太陽光パネル
(コスタリカ)

評価の背景・対象・目的

日本とコスタリカ及びニカラグアは、1935年の外交関係樹立以来、第二次世界大戦中を除いて長年の友好関係を築いている。日本はコスタリカへは1973年、ニカラグアへは1964年からODAを供与している。本評価は、日本の両国に対するODA政策及び協力実績を全般的に評価し、今後のODA政策の立案や実施のための提言や教訓を得ること、また国民への説明責任を果たすことを主な目的とする。

Ⅰ. コスタリカ

評価結果のまとめ

● 開発の視点からの評価

(1)政策の妥当性 (評価結果:A 極めて高い)

対コスタリカ開発協力方針は、ODA大綱(2003年)及び開発協力大綱(2015年)などの日本のODA上位政策、コスタリカの開発計画及び国際的な優先課題に整合している。また、社会的弱者支援分野における青年海外協力隊派遣や環境分野における地熱発電開発の協力など日本の比較優位性を考慮した政策策定が行われてきた。更に、日本は地熱発電開発などにおいて、米州開発銀行と協力してコスタリカを支援しており、他ドナーとの相互補完性も高い。

(2)結果の有効性 (評価結果:B 高い)

政策の重点分野により異なるが、全体としては開発課題に対する一定の成果と政策の有効性が確認された。日本の対コスタリカ支援の中で最も投入金額が大きい環境分野への支援の成果が特に高かった。また、障がい者の自立促進のための法律制定へ貢献する等、地域に根付く協力を多く実施し、社会的弱者支援の成果が高かった。一方、事業展開計画がより論理的に整理されると、政策の目標達成度が示しやすい。

(3)プロセスの適切性 (評価結果:B 高い)

対コスタリカ開発協力方針は、二国間で十分な協議を重ね策定されていた。また、技術協力案件の形成に時間を要する点は双方から指摘されているものの、そうした点に留意し、関係者間で密接に連携しながら、案件形成が行われていた。

● 外交の視点からの評価

(1)外交的な重要性

日本の協力は良好な二国間関係の構築の礎になっていると見受けられ、今後も良好な関係を維持・強化するために、ODAを引き続き実施していくことは重要である。また、環境分野において国際的な重要国であるコスタリカに対し日本が協力すること、また両国が協力して取り組むことは、気候変動分野での日本の貢献の国際的宣伝の観点からも意義が高い。更に、日本は中米地域の統合を支持しており、その一国であるコスタリカへの支援は域内統合の促進に繋がることからも、コスタリカへの支援は重要であると言える。

(2)外交的な波及効果

日本のODAは、両国間の官民レベルでの交流を助長し、コスタリカにおける親日感情の醸成、ひいては友好的な二国間関係の構築の一助になっていると言える。また、三角協力の実施により中南米諸国における日本のプレゼンスの向上にも繋がっている。また、今後、中南米諸国への日本企業の進出が進むと、日本経済の更なる発展に繋がることが期待できる。

評価結果に基づく提言

(1)気候変動対策緩和に資する協力の継続

コスタリカ政府の目標(2030年までに2012年比で約25%の温室効果ガス削減)に資する協力、特に必要性が高まっている都市交通分野における温室効果ガス削減への協力を継続すべきである。なかでも、温室効果ガス削減効果が高く、日本の技術力や他国における協力経験を生かせる鉄道などの公共交通機関の拡大・整備に資する協力の可能性を検討することが有益である。

(2)地方部活性化支援の強化

地域格差是正が喫緊の課題であるコスタリカにおいて、これまで一部の地域に限られていた活動を、今後は全国的に成果が波及するよう支援を強化すべきである。具体的には、農村地域の生活改善支援制度構築や首都圏で実施してきた中小零細企業振興支援を全国的に普及させることが有効であろう。

(3)対コスタリカ協力の経験と課題を踏まえた中所得国に対する開発協力政策の検討

コスタリカは経済発展により中所得国となったが、債務・財政危機や貧困格差、社会不安のリスクを抱え、先進国入りに至らない状況に陥っている。こうした問題は、世界の中所得国も同様に直面している。よって、コスタリカの事例を基に、中所得国特有の課題を整理し、開発協力がどう貢献できるかを分析し、コスタリカ以外の中所得国への協力政策策定への示唆を得ることは有益である。

(4)コスタリカをパートナーとした三角協力の推進

現在コスタリカは、三角協力を積極的に進める方針を有している。コスタリカ政府の援助実施能力の強化に資するため、日本はコスタリカをパートナーに三角協力を推進することが望ましい。日本がコスタリカを通じ、他の中南米諸国へ協力を行うことは、言語や文化的背景の類似性から技術・情報の伝達が容易であり、また日本が直接協力する場合に比べ経費及び作業負担の削減に繋がる利点がある。日本の優位性が高くかつ過去の協力で知見・経験の蓄積があり、成果も発現している環境保全分野(特に地熱開発)における技術研修の実施が有効である。

(5)幅広い国民層への広報活動

日本のODAについて、事業関係者以外の間でも認知度を高めるような広報戦略が必要である。例えば、日本のODA 活動を効果的に伝えるためには、日本の広報戦略をコスタリカ側と共有し、事業実施者や受益者の協力を得て、具体的な広報活動を協働で進めることが肝要である。また、若年層も含めた幅広い年齢層に届くようYouTube等のソーシャルメディアを使ったり、課題ごとに成果をまとめて広報したり、よりインパクトのある広報を実施すべきである。

Ⅱ. ニカラグア

評価結果のまとめ

● 開発の視点からの評価

(1)政策の妥当性 (評価結果:A 極めて高い)

対ニカラグア開発協力方針は、ODA大綱(2003年)及び開発協力大綱(2015年)などの日本のODA上位政策、ニカラグア政府の開発計画及び国際的な優先課題と整合している。また、日本は、日本の比較優位性が高い交通インフラ整備(橋りょう・道路整備)に重きをおく政策を実施しており、選択・集中した政策策定が行われていたと言える。

(2)結果の有効性 (評価結果:B 高い)

すべての重点分野において、確認できた範囲では一定の成果が認められる。特に橋りょう建設に関する協力は成果が大きく、「橋りょうといえば日本の協力」との強い印象を与え、地域住民や他ドナーにも広く認知されていた。また、保健及び教育分野における支援の成果も高かった。更に、日本の技術協力による人づくりのアプローチが、コミュニティの強化に力を入れるニカラグアのニーズに合致し、成果が根付いている側面も確認できた。

(3)プロセスの適切性 (評価結果:B 高い)

対ニカラグア開発協力方針は、二国間で十分な協議を重ね、策定されていた。対ニカラグア協力の事業展開計画において、重点分野と個々の協力案件の関連性が不明瞭な点も見受けられたが、2017年の改定時に整理が行われており、これにより協力の方向性が明確になったと考えられる。

● 外交の視点からの評価

(1)外交的な重要性

地域の経済的潜在力とニカラグアの地政学的重要性を考慮し、日本が中米統合機構(SICA)を通じた域内統合支援と共に、域内各国の開発協力を軸とした二国間の関係の強化を重要視していること、また、地球環境問題に関する国際的貢献の必要性などに鑑みて、ニカラグアに対するODAの実施・継続は外交的に重要である。

(2)外交的な波及効果

JICAの専門家やボランティアによる地域に密着した協力を通じ、親日感情の醸成及び友好関係の促進に繋がっていると言える。また、隣国に通じる道路に建設された3つの橋りょうは、中米各国との貿易の促進に繋がったと考えられ、今後中長期的に予想される域内貿易の活性化により、日本企業進出の展開ひいては日本経済促進への影響が期待できる。

評価結果に基づく提言

(1)貧困層への防災支援の成果を高める工夫

貧困地域の住民は災害に脆弱であることから、災害のみに焦点を当てるのではなく、貧困対策と合わせた協力をすることにより、防災能力を高めることができる。また、貧困地域の住民は、防災意識も低いことから、防災意識を高める教育面での協力も合わせて実施することが有効である。

(2)日本の高い技術力を生かしたインフラ分野の協力

日本の技術力を生かしたインフラ分野への協力は、対象国において開発効果が高いことに加え、日本企業が請け負うことにより、日本経済への裨益可能性がある点からも有効である。また、日本の高い技術が認識されることにより、日本の信頼及びプレゼンスの向上に繋がる。

Ⅲ. 対コスタリカ・ニカラグア協力からの教訓

(1)先方政府のイニシアティブを後押しする協力

先方政府の国家政策における優先順位が高く、政府が強いイニシアティブを発揮している分野に対する協力は、それを取り巻く制度面の整備などが政府によって率先されて行われるため、高い成果に繋がる。また、成果の持続や拡大にも期待できる。例えば、ニカラグア政府が優先している「持続可能な電化及び再生可能エネルギー促進事業」は、政府の強いイニシアティブのもとに推進され、成果は大きかった。

(2)米州開発銀行との協調

中南米地域においては、以下の理由から米州開発銀行との協調の有効性が高いことが確認された。1) 資金協力規模の大きい米州開発銀行との協調融資を行うことで、単独に事業を行うよりも規模の大きな協力の実施が可能となり、開発効果の拡大が期待できる。2) 米州開発銀行は中南米諸国の政府と緊密な関係にあり、各国への影響力が強く、先方政府に対する交渉力・説得力の向上が期待できる。3) 日本が二国間で事業を実施するよりも、事業の形成・実施が円滑に進みやすい。4) 案件形成時から連携することによって、フィージビリティ調査などのコストの削減や受入れ国政府にとっての経済的負担及び調整業務などの作業負担の削減が期待できる。

(3)戦略的なスキーム間連携

多様なODAスキームを戦略的に組み合わせて協力を行うことは、協力成果を一層拡大・定着させるとともに、効率性も高い。例えば、コスタリカにおいては、無償資金協力による人材育成センターの建物整備と技術協力による人材育成を組み合わせ、ニカラグアにおいては、算数教育の技術協力プロジェクトを通じて作成された教科書や教師向け指導書が、青年海外協力隊の隊員によって児童への教育に活用・普及され成果の定着に繋がった事例が確認された。

(4)複数国・地域に対する協力を行う際の留意点

複数国・地域に対する協力を行う場合、テーマに応じ、協力形態を選定すべきである。例えば保健、教育など特定のテーマに関する協力の場合には、同時並行的に協力を実施するよりも、一国で得られた知見や教訓、成果などを第三国に横展開する「広域協力」の形の方が、効率的に成果の発現に繋げやすい。例えばニカラグアで実施されたシャーガス病対策に関わる協力は、中米の周辺国での成功事例をニカラグアに適用する形で行われており、確実な成果に結びついていた。

一方、域内物流改善といった一か国では解決できない地域共通の課題の解決のためには、地域調整機関を窓口として地域全体で取り組む「地域協力」の形で協力すると、域内の基準や手続きの統一化の推進が図りやすくなるといった利点がある。また、各国を代表する高官と接点を持つ機会が増えることで、日本のプレゼンス向上も期待できる。

(5)プログラムレベルでの開発目標及び目標値の具体的設定

ODAによる政策レベルの成果を適切に評価するためには、政策目標をより明確化するとともに、個別の協力プログラムの目標に対し、具体的な指標を設定すると有益である。それにより、開発目標の達成や政策の成果が確認しやすくなり、政策の改善において有益である。

このページのトップへ戻る
ODA評価年次報告書へ戻る