平成17年6月2日
- わが国政府は、パレスチナ自治区における「パレスチナ人児童の感染症対策及び栄養状態改善計画」(the project for Improving the Control of Infectious Diseases and the Nutritional Status of Palestinian Children)に資することを目的として、ユニセフ(国連児童基金)に対し、3億4,400万円を限度とする額の無償資金協力を行うこととし、このための書簡の交換が6月2日(木)、ラマッラにおいて、わが方横田淳駐イスラエル国大使と先方ダン・ロハマン・ユニセフ・パレスチナ占領地域特別代表(Mr. Dan Rohrmann, Spacial Representative, UNICEF/Occupied Palestinian Territory)との間で行われた。
- パレスチナ地域(イスラエル占領下)におけるワクチン投与は、1950年代後半よりイスラエルの民生当局により実施されてきたが、93年のオスロ合意によりパレスチナ暫定自治政府が発足したのに伴い、西岸・ガザ地域について95年にパレスチナ自治政府(PA)に移管された。PA保健庁はワクチン投与を重点分野としたため、60年代には60%だった子供のワクチン摂取率が、97年度には95%程度にまで改善した。しかし、その後、イスラエル軍による封鎖等によるパレスチナ経済の破綻から来るパレスチナ自治政府の財政難や急激な人口増加による保健サービス需要の増大等により、十分なワクチンの投与の実施が困難になっている。
1999年度以降、わが国はPAの予防接種拡大計画に協力しており、パレスチナにおけるワクチン投与率の維持に貢献してきた。しかし、昨年末、西岸北部地区(ナブルス)を中心に流行性耳下腺炎(おたふく)風邪が原因不明で大量発生し、風疹の発生も散見されたため、血清の調査を実施したところ、麻疹の免疫も5歳以下の子どもの2/3しかもっていないことが判明した。これらの発生がこれ以上広がるのを防ぐためには、流行性耳下腺炎、麻疹、風疹の3種抗原(MMRワクチン)を追加接種する必要がある。
また、パレスチナの就学児童におけるヨード欠乏症の割合は15%以上で、西岸南部で高くなっている。
そのような背景の下、ユニセフは、同自治区における子供に対する、流行性耳下腺炎、風疹、麻疹の追加的予防接種およびポリオ等の感染症の感染率・死亡率の低下を図るとともに子どものヨード欠乏症削減のための「パレスチナ人児童の感染症及び栄養状態改善計画」を策定し、右計画に必要なワクチン等購入のための資金につき、わが国政府に無償資金協力を要請してきたものである。わが国は、困窮状況にあるパレスチナ人の人道状況を改善することが、中東和平を前進する上で不可欠との認識の下、本件支援を実施するものである。
- この計画の実施により、パレスチナ自治区内の約120万人の子供(6-18歳)に対するMMRワクチンの追加接種および約10.5万人の乳幼児(0-1歳)に対するBCG、ポリオワクチン等の接種をすることが可能になり、感染症の予防による死亡率の低下、健康状態の改善が期待できる。また、ヨード塩がパレスチナで製造されることにより、ヨード欠乏症の削減が可能になり、同地区の子どもたちの栄養状態の改善が期待できるほか、パレスチナ自治区における人道状況の改善にも貢献することが期待される。
(参考)
パレスチナ自治区は、地中海の東岸に位置し、イスラエルとヨルダンに挟まれた西岸地区およびイスラエルとエジプトに挟まれたガザ地区とから成る。中東戦争の結果1967年以降イスラエルにより占領されていたが、1993年のオスロ合意によりパレスチナ人による暫定自治が認められている。両地区を合わせた人口は約340万人(2003年世銀)であり、1人当たりの国内総生産は925ドル(2003年、世銀)と推定されている。