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アフガニスタンにおける緊急支援調査

2002年8月

 アフガニスタンでは、20年以上の長期にわたり続いた紛争により、国土が疲弊し、国民の生活が破壊されました。2001年12月の暫定政権の発足を受け、わが国は、「アフガニスタン復興支援国際会議」の開催国として、ドナーコミュニティの調整を行うとともに、自らも2年半で最大5億ドルの支援を表明し、アフガニスタンの復興努力を支援してきました。
 そのなかで、国際協力事業団(JICA)の実施する緊急支援調査は、迅速かつ即効性のある支援として重要な役割を担っており、これまで様々な分野における支援を実施してきました。この調査では、破壊された教育施設、保健・医療施設、および放送施設の当面の再建ニーズに応えるための緊急リハビリ事業を実施しています。リハビリ事業の実施にあたっては、まず、復興のための教育分野及び保健・医療分野の短期的支援計画を作成し、相手国政府や地域住民のニーズに見合った事業の実施を心掛けています。この支援計画に基づき、リハビリ事業の他にも、緊急無償による医薬品や機材の供与、政策を助言するための専門家の派遣、研修等が実施に移されています。更に、NGOとの連携の方途についても検討が進められています。

特徴その1~復興計画の提言、住民参加型プロセスの採用

カブール市緊急復興支援調査のサイト、Abu Zar Ghafari校住民集会で活発に意見を出し合う女性たち
カブール市緊急復興支援調査のサイト、Abu Zar Ghafari校住民集会で活発に意見を出し合う女性たち
 緊急支援調査では、まず、短期復興計画の策定を支援します。中長期的な制度や政策の方向性を確認しつつ、短期的な復興のために必要な投入(例:学校の配置、数、設備の内容、教員の養成等)を「短期復興支援計画」として取りまとめます。「短期復興支援計画」の策定にあたっては、これからのアフガニスタンの復興のために政府が主体となって対処すべき課題や各ドナーの取り組みについて、アフガニスタン政府との共同作業や地域住民の意見の反映を最重視し、オーナーシップを尊重しています。この提言を活用することにより、アフガニスタン政府の関係者が、限られた資源を計画的に活用しながら効果的な復興を行う大きな助けになることが期待されています。
 また、調査の過程でとりまとめた正確な情報は、無償資金協力や専門家の派遣など、他のODAスキームを実施するにあたっての貴重な情報を提供するなど、非常に大きな意義があると言えます。
 当然ながら、本調査の投入の一つであるリハビリ対象の選定にあたっても、客観的なデータおよび先方政府や地域住民の要望を踏まえて総合的に決定しており、開発の効果が最大限に発揮できるように工夫しています。
 学校の改修・新設にあたっては周辺の人口から就学予定児童・生徒数を調査したうえで必要とされる教室数を算出するなど、客観的なデータをもとに規模や内容を決定しています。また、女性の就学率の向上は女性の社会的地位の向上に繋がることから、女子校の改修・新設に力を入れています。
 また、規模や内容の決定においては地域住民の生の声を積極的に取り入れています。調査では現地の人材やNGOを活用し、できるだけ多くの住民の声を取り入れました。
 その成果の一つとして、多目的教室(マルチパーパスルーム)の設置があります。これは、地域住民から特に要望の多かったもので、成人のための識字教育やコミュニティーに開放して各種集会などに利用することを目的としています。さらには、周辺校の教員が定期的に集まって生徒の指導方法についての研究会を自主的に開催することも予定されています。このアイデアはカヌーニ教育大臣にも高く評価され、新設校のみならず既存の学校にも取り入れて欲しいとの要請が我が国に対して述べられました。
 将来の国の発展を支える子供達の就学率の向上と、教員の教育指導水準の向上。こうした工夫は、各種調査を機動的に実施する開発調査ならではの成果と言えます。

特徴その2~迅速なリハビリ事業の実施

アフシャール女子校(修復前)
アフシャール女子校(修復前)
 緊急支援調査では、先方政府とJICAとの密接な連携により、迅速なリハビリ事業を実施しています。対象校の選定、施工内容の決定に至るまで矢継ぎ早に関係者との協議を行います。
 そして、施工にあたっては現地の民間企業を対象に再委託の公示を行い業者を選定、公正性を確保しつつ、直ちに工事に取りかかります。

 こうした努力の結果、例えば既存の校舎36教室の改修を行ったアフシャール女子校では調査を開始した2002年4月から僅か三ヶ月で学校を修復することができました。7月上旬には授業も開始され、既に3000人を超える生徒が通学しています。
 これからも5校の学校の新設が予定されており、全て完成すれば、計15棟、171教室および6つの多目的教室が提供されることになり、定員50人の教室で2部授業を行っていることから、約二万人の児童・生徒に教育へのアクセスが確保されることになります。


アフシャール女子校(修復後)
アフシャール女子校(修復後)
 保健・医療施設の改修にあたっても同様のプロセスを経てリハビリ事業の内容が決定されました。対象となった国立の結核センターは1977年にわが国の無償資金協力で建設されたものですが、当該分野の日本人専門家の知見も踏まえ、結核、およびその他の感染症も含めた研修及び簡易な外来診療の機能を持つセンターとして改修することとなりました。更に、調査の結果は緊急無償資金協力による、施設の機材や備品供与に反映されることになっています。
 結核センターは7月下旬に着工し、来年2月に完成・引き渡される予定になっています。現在来日中の研修員達が中心になって、この施設を運営してゆくことになります。

≪地域住民の喜びの声≫

学校に新設された井戸で水を飲む子供達
学校に新設された井戸で水を飲む子供達
 開発調査の機動的かつ迅速な調査と施工に対し、地域住民らからは感謝の声が寄せられています。
 アフシャール校の校長は、次のように調査団に感謝の意を伝えました。
 「学校が新しくなり、これまで学校に来ることが出来なかった子供達が通学してくれるようになった。これまで窓枠もなかったが、これからは冬でも快適に授業ができる。遠くからも生徒が通ってくれるようになった。」  新しく生徒となった21歳の女性は次のように述べました。
 「学校には10年ぶりに来ました。ずっと学校に来たかったけれど、この年になると小学校とはいえ男と女が一緒に勉強することは周囲の目が気になってできませんでした。でも、新しい学校は壁や窓があり、屋内で勉強できるのでこれで気兼ねなく勉強できるようになりました。」
 教師達からは「これまで野外での授業が多く、室内でも床に直接座って授業していたので、生徒が動くたびに砂埃りが舞い上がって、衛生的に劣悪でした。これからはきれいな教室で快適な授業が受けられるようになって、こどもたちも服を汚してお母さんに叱られないで済むでしょう。」という声が聞かれました。

特徴3~様々なニーズに応える柔軟性

熱心に訓練に参加する国営アフガニスタン放送の職員達
熱心に訓練に参加する国営アフガニスタン放送の職員達
 緊急支援調査では、「衛星を用いたテレビ放送実験」の実施、という非常にユニークな取り組みも実施しています。これまで国民の大多数は国の意思決定プロセスに参画する機会がありませんでしたが、今回の緊急ロヤ・ジェルガを含めた和平プロセスでは民意を反映した国造りが求められていました。
 『和平プロセスへの貢献』...こうした新しいタイプのニーズにも柔軟に対応することができるのも緊急支援調査の特徴といえます。
 緊急支援調査では、緊急ロヤ・ジェルガ(2002年6月11日~19日)を衛星放送と地上波放送によりアフガニスタン全土に放映するための支援を行いました。衛星放送機材および回線を確保し、地上局の受信機材を供与・設置するなど機材面での協力を行うとともに、カブールや地方の地上局で受送信を行うという困難が予見された業務を円滑に行うため、国営アフガニスタン放送(RTA)の職員に対する技術指導も行いました。
 その結果、要人挨拶、カルザイ大統領選出の模様、代表の演説・討議、新政府の閣僚発表などが延べ約51時間にわたり中継され、国民の大半が自分たちの代表を選ぶプロセスを生中継で見ることが出来ました。国民は新しい驚きと興奮をもって新しい国造りのスタートを見つめていたに違いありません。


今後も続く緊急支援調査

 こうした特徴に着目し、新しい分野、地域において緊急支援調査が先鞭を切って機動的な支援を行っています。
 現在、紛争の被害が最も激しいとされるカブール市の南西部市街地の都市機能回復を支援するための復興計画と、カブール市全体の公共交通システムの再構築を支援するためのバス輸送を中心とした公共交通計画の策定についての調査を実施中です。
 これにあわせ、市の南西部において舗装がはがれ、円滑な走行が困難となっている道路(約13km)を修復するリハビリ事業も実施する予定です。
 さらに、アフガニスタンの治安の回復に伴い、地方都市を中心として大量の帰還民・国内避難民が発生しています。地域の受容能力には限界があるなかで、急激かつ大量の人の移動は地域の安定化の重大な懸念要因となっています。和平の動きを本格化し、一層の平和を実現するには地方都市における復興支援を強化する必要があります。
 そこで、緊急支援調査では紛争により破壊されたアフガニスタン第2の都市カンダハール市およびその周辺部において社会経済面の復興および発展を支援することを目的として、同市の再建に係る包括的な復興プログラムを作成するとともに、教育施設、保健・医療施設等の当面の再建ニーズに応えるための緊急リハビリ事業を実施する予定になっています。
 カンダハールでの緊急支援調査は、わが国の支援の地方展開を本格化するうえでの先鞭となるものであり、ここで蓄積された情報や経験は多方面での活用が期待されます。

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