重点政策・分野別政策 分野別開発政策

人間の安全保障をテーマにした会議・シンポジウム
「人間の安全保障の過去・現在・未来~MDGsの達成を目指して」

平成22年7月15日


1.概要

 7月15日,早稲田大学大隈講堂において,「人間の安全保障シンポジウム:人間の安全保障の過去・現在・未来~MDGs達成を目指して」(外務省,国際連合及び早稲田大学(アジア太平洋研究科・グローバルCOEプログラム「アジア地域統合のための世界的人材育成概念」)共催)が開催された。

2.目的

 今回のシンポジウムは,

  1. (1) 人間の安全保障の歴史を振り返りつつ,グローバル化が進む現在の国際社会において同概念がいかなる意味を持つのか,同概念を今後いかに活用していくのかについて議論すること
  2. (2) 本年9月にミレニアム開発計画(MDGs)に関する国連首脳会合が開催されるなかで,同概念の主要な推進者である地域機構や国際機関,開発金融機関,そして我が国を始めとする加盟国,国際的な討論フォーラム及び学術機関が,いかなる役割を果たし得るのかについて検討すること

 を目的として開かれたものである。

3.評価

  • 外交団,研究者,学生,NGO関係者等約1000名が来場するなど,我が国が推進する人間の安全保障に対して高い関心が示された。
  • 人間の安全保障という概念の有益性や人間の安全保障基金の役割の確認,地域機構の重要性に対する取組強化への決意,人間の安全保障推進に向けた世界経済フォーラムの活動の歓迎,シンポジウム講演者・パネリストの各々の組織における同概念の一層の促進に向けた意見の一致等を内容とする文書(日本語(PDF)PDF英語(PDF)PDF)がシンポジウム講演者,パネリストの間で採択されたことは,同概念の一層の普及を進めるに当たり有意義であった。
  • 人間の安全保障に関する我が国,国際機関,国際フォーラム等の取組や現状を効果的に周知することができた。
  • MDGs国連首脳会合に向け,MDGs達成に向けた国内の機運を高めることができた。

4.各セッションのポイント

(1)開会の辞

  • 西村智奈美外務大臣政務官は,MDGs達成に人間の安全保障が不可欠であり,日本国政府は同概念の推進に向け引き続き取り組んでいくとの決意を表明した。
  • 潘基文国連事務総長はビデオメッセージにおいて,9月に開催されるMDGs国連首脳会合に向けた議論の場として,本シンポジウムが重要な意義を有すると述べた。また,国連加盟国の取組,とりわけ人間の安全保障基金,人間の安全保障諮問委員会を通じた日本国政府の貢献に対する高い評価を表明した。
  • 内田勝一早稲田大学副総長は,理論的課題を明確にするとともに,人間の安全保障の実現に必要な人材を育成することが大学の任務であると述べ,早稲田大学における世界的人材育成の取組として,グローバルCOEプログラムを紹介した。

(2)第1セッション

 「人間の安全保障の今日的意義」というテーマの下,各方面で人間の安全保障に取り組んでいる有識者から講演があった。

  • 緒方貞子JICA(国際協力機構)理事長は,人間の安全保障の意義,歴史に触れ,グローバルガバナンスをより強固にする概念として,同概念が今後の新たに展開していくことに対する期待を表明した。
  • キショレ・マンデャン国連事務総長室政治・平和維持・人道部課長は,本年4月に発表された人間の安全保障に関する国連事務総長報告を紹介し,同報告が人間の安全保障の概念を明確にし,「保護する責任」との区別を明確化したこと等を説明した。
  • マーク・マロック=ブラウン世界経済フォーラム副会長は,世界経済フォーラムの議論において,人間の安全保障をグローバルガバナンスの上位概念として捉える流れが生まれていると述べ,グローバル化する世界に社会的なセーフティネットを設ける必要性に触れつつ,MDGsの意義や,人間の安全保障がMDGs達成のための重要な概念であること等を指摘した。
  • ヒルデ・ジョンソンUNICEF(ユニセフ:国連児童基金)事務局次長は,人間の安全保障は一部の層のみが享受していると指摘し,ソマリアや中央アフリカ共和国等で不安定と基本的サービスの欠如に苦しむ子供たちの未来のため,人間の安全保障実現に向けた支援の更なる推進を訴えた。
  • 勝間靖早稲田大学教授は,人間の安全保障に関する議論を体系的に整理して説明し,学術機関においても同概念の研究が進んでいるとして,日本の学術機関における取組を紹介した。

(3)第2セッション

 「人間の安全保障の実現~その方策と方向性」というテーマの下,脇阪紀行朝日新聞論説委員をモデレーターとして迎え,緒方貞子JICA理事長,キショレ・マンデャン国連事務総長室課長,マーク・マロック=ブラウン世界経済フォーラム副会長,福田・パー・咲子ニュースクール教授,ヨハン・セルスUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)駐日代表,ラケッシュ・ナンギア世銀局長,杉山晋輔外務省地球規模課題審議官をパネリストとした討論が行われた。

  • まずは福田・パー・咲子ニュースクール教授が講演を行い,新たな脅威に対応するためには,各国政府の政策の優先順位を人間の安全保障の概念に従い,真に求められるものに変えていく必要があると述べた。
  • 続いて杉山外務省地球規模課題審議官より,ムーサ・アラブ連盟事務総長,ピカード米州人権機構議長,スリンASEAN(東アジア諸国連合)事務総長及びジンワラ元南アフリカ共和国下院議員からの,それぞれの地域における人間の安全保障の現状・取組について触れたメッセージを紹介した。
  • 人間の安全保障という概念を通して,相互に密接に関連する世界をグローバルな視点で捉えるべきという緒方貞子JICA理事長の問題提起から始まった議論の中で,ラケッシュ・ナンギア世銀局長は「欠乏からの自由」に,ヨハン・セルスUNHCR駐日代表は「恐怖からの自由」に焦点を当て,それぞれの機関の理念と人間の安全保障の密接な関連について説明した。杉山晋輔外務省地球規模課題審議官は,人間の安全保障に引き続き取り組むという日本政府の強い決意を表明し,概念の普及のみでは足りず,実現に向けたプロジェクト等の実施が重要であると述べた。

(4)質疑応答

  • グローバル化に置き去りにされた貧困層に対し,グローバル化の恩恵を受けたものは何ができるのか,との質問に対し,マーク・マロック=ブラウン世界経済フォーラム副会長は,民間機関から寄せられている多額の寄付の効果を最大限活用するため,貧困撲滅に向けた援助を全世界的に組織し連携させることが重要,世界経済フォーラムがそのような連携の場となるよう今後も活動を広げていきたい旨回答した。
  • 人口増加の結果として物理的資源が限界に達したとき,人間の安全保障の観点からはどう対処できるのか,との質問に対し,キショレ・マンデャン国連事務総長室課長は,全人類の欲求を満たすだけの資源は確かにないが,MDGsが掲げる基本的ニーズを満たすだけの資源は十分にあり,そのニーズはなんとしてでも満たさなくてはならない旨回答した。
  • 最後に,杉山晋輔外務省地球規模課題審議官が,本シンポジウムにおいて,人間の安全保障の意義が再確認され,その実現にむけ各機関を代表する講演者が協力を誓ったことは大変有意義であったと述べ,シンポジウムの成果をまとめた文書の採択を講演者・パネリストに求め,全員一致で採択され,シンポジウムは終了した。

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