平成18年12月
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12月6日、外務省北国際大会議室において、外務省主催により「紛争後の平和構築における人間の安全保障~人道支援から開発への移行~」をテーマに、日本の国際連合加盟50周年を記念する人間の安全保障国際シンポジウムが開催された。
冒頭、麻生外務大臣より人々の目線に立った支援の重要性と日本の取組について開会の辞が述べられた後、第1セッションでは緒方JICA理事長、グテーレス国連難民高等弁務官、デルビシュ国連開発計画総裁から、第2セッションでは国内有識者から発表及び問題提起が行われた。概要は以下のとおり。
人間の安全保障の概念はUNDPの「人間開発報告(1994)」およびUNHCRの「世界難民白書(1997/1998)」で提起された。日本政府も人間安全保障委員会の立ち上げ、人間の安全保障基金の設置に対する支援を通じ、人間の安全保障の概念の発展と実践に貢献した。人間の安全保障委員会が国連事務総長に提出した報告書において人間の安全保障の枠組が示された。トップダウン(上からの保護)とボトムアップ(人々やコミュニティーのエンパワメント)を連携するアプローチが重要である。また、人間の安全保障基金により分野横断的なアプローチによるコミュニティーの強化が国際機関間の連携協力により実践されている。
冷戦が終焉した1990年代以降内戦が頻発し、紛争下の人々を守ることが課題となったが、効果的な紛争解決メカニズムは存在しなかった。国家主権は重要な与件であるが、国家では対応できない危機、あるいは、国家に起因する危機への対応が求められ、これが人間の安全保障の誕生の背景にある。その後の進展により人間の安全保障は紛争や貧困に対する予防的概念のみならず、紛争下の人々を守ること、紛争後から平和構築につなげていく概念としての有効性を強めてきた。アフガニスタンの復興支援は政府機能の強化とコミュニティービルディングという人間の安全保障の枠組みが活用された好事例である。現在、アフガニスタンの治安悪化も報告されているが、平和の維持・構築には長期にわたる安全保障の強化が課題であることが明らかになっている。
ミレニアムサミットにおいても人間の安全保障の考え方を反映し平和構築委員会の設置が決定された。また、紛争後の国は統治能力が弱く、経済・社会開発援助が重要視されている。人道的緊急援助と長期的視点に立った開発援助を節目なくつなげ、開発と平和安全分野の積極的な連携が課題となる今日、人間の安全保障の概念の更なる役割が期待されている。
人間の安全保障は、国家主権と個人の保護の観点から非常に重要な概念であり、複雑な状況において交渉を通じた解決を可能にする。国家主権を重視し内政不干渉が国際的前提であった冷戦時から、1990年代の人道的惨事の経験を踏まえ、国家の枠組みを越えた脅威から人々を「保護する責任」が国際社会において正当化される流れができていたが、イラクへの介入を機に流れが逆戻りしている。介入を恐れた国家が人道問題への外部支援を拒む症状がダルフール問題を抱えるスーダンを始めとした途上国社会に広がっており、惨事を目の前にして国際社会は無力である。個人の視点に立った人間の安全保障のソフト・アプローチはこのような状況を打開する可能性を持ち、国際社会が得ている恐らく唯一ともいえる成果である。
人間の安全保障の概念は紛争後の平和構築における国際社会の団結に、非常に効果的な道具である。我々は現在、緊急援助から開発までの移行期のギャップのみならず、世界秩序・国連システムの在り方から、政府間・組織間の協調、資金の偏り等、様々なギャップに直面しており、人間の安全保障の包括的な概念はこれらのギャップを解消し、連携を促す統合的戦略である。
日本は人間の安全保障の最たる支持者であり、様々な側面を集約する手助けをしてきた。国家安全保障に加えて個々人の安全保障を確保し、これらを繋げていくことが重要である。
重要な課題としては、まず人道支援から開発援助への移行がある。当面の課題は人命救助にあっても、復興・開発へと移行する必要がある。無料の食糧援助は初期段階では有効だが、長期に及べば国内の農業生産向上に対するインセンティブを奪ってしまう。様々な主体といかに活動していくかも問題である。
次に、雇用創出の問題がある。高い失業率は犯罪の増加を引き起こしかねない。見せかけの雇用ではなく実質的な経済活動をおこすことが必要。
第三に、民間セクターの役割も考慮すべきである。人道支援や開発援助には公的機関が関わることが多いが、当事国を持続可能な成長路線にのせていくために民間セクターの果たす役割は大きい。我々のような機関は、非商業的リスク軽減のための保険のように、民間の参加・活動を助けるメカニズムを構築し、紛争への逆戻りを防止すべきである。
これらの他に、国家主権と人々の保護とのバランスをとる必要があり、国連安全保障理事会は現在の国際状況を反映し平和構築に携わっていくべきである。
第2セッションでは、より実務的観点から人間の安全保障についての発表と意見交換が行われた。
赤十字社は国際人道法を基に、世界的かつ地域に根ざした活動を、中立的な機関でありながら、政府の補助機関として行っている。緊急人道支援だけではなく、現状を「複合危機」として捉え、復旧・再建・開発協力も考慮しつつ、受益者の参加と被災国の救援機関の機能強化をキーワードに活動している。メディアの関心や資源の偏在が見られるが、必要な人道援助、現地に根ざした団体の組織強化や、支援側の人材育成をすすめることが重要である。
人間の安全保障が目指す恐怖及び欠乏からの自由が今日の重要な政策課題となったことは既に国際的なコンセンサスが得られており、特に保護とエンパワメントを概念的枠組みとする人間の安全保障の普及には日本の外交的努力が重要な役目を果たした。現在は、安全保障が国家レベルから個人レベルに下りる国際システム上のパラダイムシフトの過渡期を迎えており、今後はこれまでの努力の再評価及び現場での実績を積み重ね、人間の安全保障のスタンダードを作ることが必要とされている。
平和構築については、様々な成功例と日本の貢献があったが、紛争後の平和は脆弱であり、持続的な平和構築のためには人間の安全保障の実践を含めた多角的なアプローチが必要である。また、基礎社会サービス等の復旧を中心とした平和の配当を、格差なく全国で、特に女性、子供が感じられることが重要である。女性や子供、若者は紛争の被害者になることが多いが、持続的な平和構築の担い手となれる。
NGO(市民社会)においては、政府や国連に比べると人間の安全保障とはまだ距離感があり、これまでの活動において人間の安全保障は必ずしも意識されてこなかった。一方で、専門性を重視し個別に活動してきたNGOがより効果的に活動を行うために、また、政治的介入を恐れる国々において、人間の安全保障は連携と対話を促進する切り口として有効なツールと成り得るのではないか。
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