7月7日、京都国際会館において、「人間の安全保障と国家安全保障」との題で、人間の安全保障シンポジウムが開催されたところ、概要は以下の通り。
基調講演者はクマロ南アフリカ国連代表部大使、パネリストとしてサディク元UNFPA事務局長、ソアレス元OAS事務局長、緒方JICA理事長、北岡国連代表部大使、モデレーターは石川国際社会協力部長が務めた。
本件シンポジウムは、読売新聞およびDaily
Yomiuriの共催により、520名の聴衆を得て行われた。
- クマロ大使基調講演概要
人間の安全保障の問題は、新たな挑戦に対処するためには多国間機構が変化しなければならないことを明らかにしており、いかにしてこの改革を実施するかが問題である。
人間の安全保障の主たる要素は保護と能力強化であり、保護は紛争下及び極度の窮乏の際に必要とされ、能力強化の重要な要素は教育である。
アフリカにおける人間の安全保障は無論必要である。アフリカ連合は平和安全保障委員会を発足させ、紛争に対して集団的安全保障と早期警戒を行えるメカニズムを作っている。しかしながら、例えばギニアビサウに対する支援がなかなか集まらないように、国際社会は平和維持には資金援助を行っても、その紛争の本来的な原因に対処しようとしてはいない。紛争防止、紛争解決、平和維持はすべて良い統治と結びついており、持続可能な開発があってこそ持続可能な平和があるのである。民主体制の強化はきわめて重要である。
人間の安全保障は国家の安全保障を代替するものではなく、相互に強化するものである。国家の安全保障は人々の安全保障の必要条件ではあるが十分条件ではない。
持続可能な開発と世界の繁栄は、人々が、貧困と戦争を終わらせ、尊厳を取り戻し、平等の地位を与えられることを望んでいることを促進することにある。それによってのみ、人間の安全保障が現実となる。
- パネリストの発言
(1)サディク元UNFPA事務局長
人間の安全保障概念は、国際社会の中、国連の中でもっと推し進めるべきであり、ハイレベルパネルでも是非取り上げるべきである。人間の安全保障のコンセプトを説明し、いろいろな成功例による証拠を示し、多くの人々に知ってもらう必要がある。個人の人間の安全保障なくしてはグローバルな安全保障はあり得ず、平和もない。
貧困は大きな脅威であるが、経済成長により更に貧困が悪化する場合があり、市場制度にのみ任せていてはうまくいかない場合がある。そこで国家の役割が必要であり、自らの開発支援のやり方を考えていく必要がある。
より効果的な国連を作る必要があり、安保理の改革、国連システム全体、経社理の改革等を行わなければならない。また、国連の外にも改革が必要である。
いずれにせよ、人間の安全保障が国家の安全保障の中心であることは忘れるべきではなく、説明責任を果たす必要がある。
(2)北岡大使
人間の安全保障は、最初は難しい概念と思ったが、人々を信じるという極めて簡単な態度であり、需要サイドの安全保障であると言えよう。
日本の過去の経験に照らしても、平和と安全保障があれば、経済成長が上昇する。今後国連の役割、安保理の役割が増大する中で、日本は大きい役割を果たすことができるであろう。人間の安全保障はまだ十分に理解されておらず、基金の予算も十分ではないが、将来的にはきわめて重要である。
(3)ソアレス元OAS事務局長
国家安全保障(National Security)は、中南米においては、共産主義に対抗するものとして、独裁政権のドクトリンとして使われてきた。このため、国家安全保障は、中南米においては抽象的なものではなく、残虐な過去の歴史である。
日本の人間安全保障のコンセプトは歓迎する。市場制度は絶対的な価値を持つものではなく、貧富の差を埋める必要がある。この概念がこのギャップを埋めることができよう。
一方的措置、軍事介入は認められるべきではなく、人間の安全保障とは別のことである。普遍的に認められる概念として強化されるべきである。中南米においては、心理的障壁を除いて理解を深める努力をする必要がある。State Securityは人間の安全保障を強化するものであり、National Securityは違う、ということである。
人間の安全保障の概念は、国連憲章の全てに関わってくるものであり、全ての人々の連帯を促すものである。
(4)緒方JICA理事長
人間の安全保障委員会報告書を作成して以降、普及活動が続けられており、アフリカ連合の宣言にも取り入れられるなど、良い反応を得てきている。
JICAにおいても、この概念を取り入れて事業を行うべく努力してきており、コミュニティビルディング、人作りが重要であると考えている。
人間の安全保障は、概念的フレームワークであり、アプローチである。人間開発と人権とも若干の重なりがあるが、微妙な違いがある。連帯という概念の中で重要なポイントはInclusivenessである。
- 以下、パネリスト間の議論、聴衆との質疑応答が種々行われ、人間の安全保障の概念において、「連帯」の概念がきわめて重要な役割を果たすのであり、この考えを推し進めるべきである、国連安保理においてはアフリカの問題が議論の中心を占めるがアジア地域は最大の貧困人口とエイズの広がりを抱えており人間の安全保障が大きな問題である、また中南米においても人間の安全保障は問題である、アフリカにおいてはNEPADが進められているがこれはトップダウンの慈善ではないパートナーシップと連帯によるイニシアティブである、といった議論が展開された。