2003年12月2日(火)、「安全保障の今日的課題ー人間の安全保障委員会報告書」の日本語版の出版を記念して、緒方貞子国際協力機構理事長による基調講演に加え、1.の参加者を得て、シンポジウム「安全保障の今日的課題」(朝日新聞社・外務省共催)が開催されたところ、その概要以下のとおり。
1.参加者
(1)パネリスト
緒方貞子氏(国際協力機構理事長)
武見敬三氏(参議院議員)
山影 進氏(東京大学教授)
伊藤解子氏(社団法人シャンティ国際ボランティア会・カンボジア担当)
熊岡路矢氏(日本国際ボランティアセンター代表理事)
(2)コーディネーター
百瀬和元(朝日新聞編集委員)
2.冒頭
イラクで亡くなった奥大使・井ノ上書記官を悼んで参加者約400人全員が黙祷した後、主催者側の朝日新聞を代表して、君和田専務が挨拶。
3.基調講演およびパネリストによる冒頭発言ポイント
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人間の安全保障に係わる概論
(1)グローバル化の進展により、従来の国家主権に基づく考え方では世界が直面している問題の解決が困難であり、人間の安全保障が中心的課題になっていることが強調され、今般のシンポジウムの開催が時宜を得ているとの評価がなされた。
(2)人間の安全保障を定義する際、上からの「保護的な部分」と下からの「能力強化」の要素を組み合わせると共に、人々が自分の潜在能力を発揮できるような枠組みが必要であるとの考え方が表明された。
(3)人間の安全保障の考え方は、開発途上国や破綻国家のみに該当するものではなく、先進国にも適用されるものであることが指摘された。
(4)人間の安全保障の観点に基づき国際協力を行うには、従来の国家間中心の縦割りの協力ではなく、複数の国際機関が共同作業として共に横断的な協力を実施することの必要性が強調された。
(5)人間の安全保障委員会により報告書が出されたが、今後更に人間の安全保障の現実化を図りたいとの意欲が表明された。
- 日本の支援のあり方
(1)日本における人間の安全保障の考え方は、アジア通貨危機の際に社会的弱者の問題が深刻化し、如何に彼らに対応するかという問題意識から始まったとの指摘がなされた。
(2)パネリスト複数名から、人間の安全保障の概念に基づき今後日本が行うべき支援についての提案がなされた。主なものは、(イ)国際社会共通の政策概念を作成することを通じた知的貢献、(ロ)我々が地球を大事に扱うことにより地球を守るという考え方(「地球の我々」という考え方)を普及、(ハ)教育、特に基礎教育の充実に対する支援、といった提案であった。
(3)現在日本が実施している人間の安全保障関連の取り組みとして、(イ)人間の安全保障基金および草の根・人間の安全保障無償の大幅な増額、(ロ)新ODA大綱への本概念の組み込み、などが挙げられた。
(4)人間の安全保障関連の支援におけるNGOの役割として、紛争などの苦境にいる人々の能力強化が挙げられた。また、人道支援活動以外で人間の安全保障に必要である紛争の仲介など様々なNGOの活動を日本政府は積極的に認めてほしいとの要望が表明された。
4.討論
(1)イラクでの人間の安全保障を如何に実現できるかという質問に対し、日本としては、草の根・人間の安全保障無償の案件作成や、現地スタッフによって活動を継続しているNGOへの支援などが可能ではないかとの意見が表明された。
(2)資金や物資の支援に加え、イラクに人を派遣することの重要性をどのように考えるのかとの質問に対し、(イ)人を派遣する際には、派遣の決定権者を下す人がまず派遣先の治安を見極める責任を有す、(ロ)日本側の人道支援の意図に反して標的になる可能性があるため、自衛隊を派遣するのは難しい状況になりつつある、等の意見が表明された。
(3)(2)以外の支援のあり方に対する問いに対し、(イ)治安や秩序を乱すことにより利益を得るような者を民衆から引き離す、(ロ)国連の枠組みでイラク支援を実施する、等の意見が表明された。
(4)対北朝鮮支援のあり方に対する問いでは、意見が分かれ、(イ)NGOの立場では、一般的に独裁政権であっても支援すべきとの考え、(ロ)北朝鮮への人道支援はモニターが困難であるため、留保せざるを得ないとの考え、(ハ)北朝鮮については、核兵器開発が進められており日本もその対象になり得るため、短期的には国家の安全保障の考え方が必要との考え方、等の意見が表明された。
5.質疑応答
主な質疑応答は以下の通り。
(1)会場から、中東和平実現に向けいかなる方策が可能かとの質問があり、パネリストより紛争当事者間の話し合いが重要である旨述べた。
(2)会場から、人間の安全保障で他の先進国と比べ日本に足りないものは何かとの質問に対し、パネリストより(イ)縦割行政の弊害や(ロ)NGOを始めとする市民社会の非活用、があるとの指摘がなされた。