重点政策・分野別政策 分野別開発政策

人間の安全保障国際シンポジウム
-G8九州・沖縄サミットから国連ミレニアムサミットへ-

場所:高輪プリンスホテル B1F プリンスルーム
日時:平成12年7月28日(金) 9:00~18:00
開会及び基調講演 
基調講演: 緒方貞子 国連難民高等弁務官
基調講演: アマルティア・セン ケンブリッジ大学教授
九州・沖縄サミット報告: 石川 薫 外務省経済局審議官
第1セッション:  紛争に伴い発生する問題への対応(人道・復興支援)
司   会: 山内 昌之 東京大学教授
パネリスト: 緒方 貞子 国連難民高等弁務官
高橋 昭 UNTAET副代表
フィオナ・テリー 国境なき医師団財団
調査局部長ファン・ヒンケル 国連大学学長
第2セッション: 開発(保健医療、環境、IT)
司   会: 廣野 良吉 成蹊大学名誉教授
パネリスト: アマルティア・セン ケンブリッジ大学教授
リンカン・チェン ロックフェラー財団副理事長
トリオノ・スンドロ インドネシア国家開発企画庁局長
デンバ・バ 世界銀行局長
小宮山 宏 東京大学工学部長
久保田 穣 外務省参与
第3セッション: これからの人間の安全保障
司   会: 高須 幸雄 外務省 国際社会協力部長
パネリスト: アマルティア・セン ケンブリッジ大学教授
リンカン・チェン ロックフェラー財団副理事長
緒方 貞子 国連難民高等弁務官
武見 敬三 東海大学教授(参議院議員、元外務政務次官)
山内 昌之 東京大学教授
廣野 良吉 成蹊大学名誉教授
山本 正 JCIE理事長
総括セッション
司   会: 高須 幸雄 外務省国際社会協力部長
パネリスト: アマルティア・セン ケンブリッジ大学教授
リンカン・チェン ロックフェラー財団副理事長
緒方 貞子 国連難民高等弁務官
武見 敬三 東海大学教授(参議院議員、元外務政務次官)
山内 昌之 東京大学教授
廣野 良吉 成蹊大学名誉教授
閉会

 7月28日、外務省の主催により、高輪プリンス・ホテルにおいて、「人間の安全保障」をテーマに、国際機関、政府機関、NGO、有識者等関係者の参加を得て、国際シンポジウムを開催した。同シンポジウムには約千人の聴衆が参加し、人間の安全保障への関心の高さをうかがわせた。冒頭挨拶の中で、荒木外務総括政務次官より、九州・沖縄サミットから国連ミレニアム・サミットの流れの中で本シンポジウムを開催する意義に触れ、21世紀に「人間の安全保障」をより推進するための知的な検証を期待したい旨述べた。これを受けて、緒方国連難民高等弁務官及びアマルティア・セン教授が基調講演を行い、石川外務省経済局審議官が九州・沖縄サミットの概要を報告。その後、参加パネリストが人間の安全保障の観点から、紛争に伴い発生する問題への対応や開発分野の取組みについて議論を行い、これからの人間の安全保障のあり方について検討した。

1.基調講演及び九州・沖縄サミット報告

緒方国連難民高等弁務官基調講演

 難民問題の視点から人間の安全保障を論じて、「人間の安全保障」は抽象的な概念ではなく現実の必要であり、具体的な行動へと繋げる道具であるべきとして、具体的な事業の実施とタイムリーな財政措置の重要性を指摘した。更に、人間の安全保障を実現する上での3つの主要な課題として、紛争をいかに終結させるか、疲弊した社会の再建、人々の共存への支援を挙げ、具体的な行動として、人道支援から長期的開発復興支援へのギャップの解消、共存の可能性を強化する事業実施等に言及した。日本政府の「人間の安全保障基金」設置を高く評価するとともに、各国政府・機関にも具体的な事業実施に向けた資金貢献を求めた。

セン教授基調講演

 「人間の安全保障」への取組みの必要性を唱えた小渕前総理の慧眼に言及しつつ、人間の安全保障は古くからの問題であるが、今これまで以上の取組みが求められているとして、人間の安全保障を実現するためには、「公平さを伴った成長」というこれまでのスローガンに加え、「(経済の)下降期における安全の確保」をも求めていかねばならないと述べ、そのためには経済・社会面での安全確保に加えて、弱者の政治参加が重要である旨指摘した。また人間の安全保障については、グローバルな取組みが必要であるとした上で、グローバルな体制としてブレトン・ウッズの枠組みを越え、古い諸機関の役割の見直しや人間の安全保障を強化するための新たな道を確保していく必要があると述べた。

九州・沖縄サミットの報告

 石川経済局審議官より、九州・沖縄サミットは、21世紀の経済・社会・政治の3分野でいかにして「一層の繁栄」、「心の安寧」及び「世界の安定」を達成するかを検討した旨説明。同サミットの特色として、透明性と行動志向をあげ、IT、感染症を中心とした保健医療、教育、犯罪、麻薬、武器輸出等の問題につき途上国との関係を含めたG8としての具体的な行動について議論し、我が国としてはその触媒となるようにそれぞれの分野で具体的な国際貢献策を明らかにしたこと等を個別に紹介した。

2.第1セッション(紛争に伴い発生する問題への対応:人道・復興支援)

 冷戦の終了と共に国内紛争・地域紛争が増加し、国家の安全保障を中心に考えてきた安全保障意識に人間を脅威から守るという「人間の安全保障」の発想が必要となってきていることが指摘され、人道支援について、難民キャンプ内で旧民兵による大量殺戮が行われることが多いが、このような治安上の個人の安全について国際社会がもっと率直に事態を認め公正かつ迅速な対応をすべきである、軍人と民間人を引き離す等最低限の安全確保のメカニズムが必要である等の意見が述べられた。更に、人間の安全保障は持続的なものでなければならず、また持続的な安全保障が確保されてはじめて紛争再発防止の効果もあるとして、そのためには人道支援のみでは不十分であり、人道支援から開発復興支援への国際的な取組みのギャップを解消していく必要があると指摘された。この関連で、人道支援の段階から、民主主義教育、他者への理解・共生の必要性を教えていくことが大切である等の意見が述べらた。

3.第2セッション(開発:保険医療、環境、IT)

 貧困は人間的な機会の欠如であり、開発においても「人間の安全保障」の視点が重要として、保健医療、環境、ITの問題を議論。

保健医療 
「人間の安全保障」の観点から、技術的に利用可能な手段により全ての人に対するプライマリー・ヘルス・ケアの確保と脅威を増している感染症への取組みの重要性が指摘された。貧困や紛争が病気のリスクを高めているとして、保健医療分野における社会正義の重要性が改めて強調され、それを実現していく際の「人間の安全保障」の視点の有用性が指摘された。また、地方の主体的な関与とグローバルな取組みの双方が必要であるとの指摘があったほか、特に民間セクターとの協力が重要であるとして、例えばHIV/AIDSに関する研究等の面においては民間セクターとの協力が不可欠であるとの指摘があった。
IT
情報技術の進歩は人と社会の能力を高めるものであり、ITを貧困問題の解決に役立てていくことが重要である。特に途上国のIT関連インフラ整備には先進国や国際機関が果たす役割が大きいこと、その他教育整備面への支援、技術の移転の重要性が指摘された。
環境 
現状のままでいけば21世紀にはエネルギーの枯渇、地球温暖化、廃棄物の問題が危機的状況となる恐れがある。これに対し、技術的にはエネルギー消費効率の大幅な向上による対応が考えられるとの指摘があり、今後、ライフスタイルのあり方の根本的な検討も含め、21世紀の産業・社会の明確なビジョンをたてて技術革新に積極的に取り組んでいけば、地球環境を守り、途上国の開発も実現していくことは可能であるとされた。

4.第3セッション(これからの人間の安全保障)

 これからの世界は、異なる文化、国の人々が信頼と理解をもって共存・共生していくことが重要であり、そのためにはマクロの視点のみでは不十分で、人間個人に焦点をあてる人間の安全保障の考え方は各国の国内及び国際社会における政策上の有意義な視点を提供してきた。今後は、明確な概念規定を行い政策の優先付けが行われるようにしなければならないとの認識が示された上で、人間の安全保障に関する3つのA(重点分野(area)、行動(action)、主体(actor))について議論。

重点分野
 人間の生存にとって密接度の高い分野で、具体的には貧困、環境、保健医療、人道支援等であるとされた。具体的政策の優先順位に関連して、特にローカル・レベルでの関与の重要性が指摘された。
行動面 
財源確保の重要性、グローバルな行動の必要性、更にはそのための政治的な意思が必要であること等が指摘された。
主体
各国政府、国際機関、NGO、企業等様々な主体が効果的なネットワークを構築することが重要であるとされ、この関連で国際的な知的協力の必要性も指摘された。NGOの役割の重要性に関連し、UNHCRが人間の安全保障基金事業としてアジア・太平洋地域のNGOの緊急対応能力向上のプロジェクトを計画している旨紹介があり、国際機関としてもかかるチャンスを生かしていきたいとの説明があった。

5.総括

 セン教授がシンポジウムを総括し、本シンポジウムにおいては相互に関連する多様な視点から「人間の安全保障」の必要性について幅広い検討を行うことができたとしつつ、以下の諸点を述べた。

(1)人間の安全保障という考え方は、あらゆる問題を包み込む重要な概念である。

(2)シンポジウムの議論を通じて、多様な形態による「安全の欠如」が深刻化しており現代世界が直面する中心的課題のひとつになっていることが明らかになった。まずこの挑戦に世界の目を向けさせることが重要な課題であり、国連ミレニアム・サミットを「人間の安全保障」の要請に対処する良きフォーラムとすべき。国連事務総長のミレニアム・サミット報告書は本シンポジウムで示された「人間の安全保障」の諸問題と深い関連があり、我々はまずこれを支持すべき。

(3)自分(セン教授)は、「人間の安全保障」、即ち「安全の欠如」の最も極端な形態の要因を緩和し排除するために何ができるかを議論する上で、諸問題を「生存」、「生活」及び「尊厳」に分類するという小渕前総理の考え方は極めて有効なものと考える。このような分類に基づき、本シンポジウムの議論を整理すると、紛争及び開発は、「人間の安全保障」という観点から取り組んでいくことが有効であることが理解される。

(4)「人間の安全保障」は個人を指向した「行動志向型」のアプローチであるとともに、市場経済に不可避な「下降期」の危険から人々を守ろうとする視点であって、今日の地球規模の課題に対して、国連が既に用いている「人間開発」及び「人権」という2つのアプローチを補完し強化するもの。

(5)本シンポジウムでは「人間の安全保障」を実現していく上で検討すべき問題として興味深い指摘が多数なされており、これをフォローアップし、「人間の安全保障」を推進していく決意が重要。

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