
シンポジウム「日本における庇護:難民の保護、支援、定住をめぐって」
(概要)
平成21年5月

5月15日、外務省・国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所の共催により、国連大学ビル3階(ウ・タントホール)において、シンポジウム「日本における庇護:難民の保護、支援、定住をめぐって」が開催されました。
同シンポジウムは、難民政策に関わる実務者、研究者、元難民の方々等を基調講演者、パネリストとして迎え、「日本における庇護と支援」「日本における第三国定住と定住」の2つのセッションで構成し、200名を超える聴衆が参加し、活発な議論が展開されました。
各セッションの概要
1.基調講演
-
緒方貞子独立行政法人国際協力機構理事長、元国連難民高等弁務官
インドシナ難民受入れから始まり、アジアに広がった日本の多大な人道支援の貢献にふれ、日本が今後の難民政策をどうリードしていくかという点に言及し、日本の難民認定手続きは制限的であり、日本は、保護を必要とする人のためにもっと人道的な精神になるべき(Be human)だと述べた。
-
逢沢一郎衆議院議員・UNHCR国会議員連盟事務局長
UNHCR議連の立場から、人道大国日本をさらに前進させ、人間の安全保障を軸とした議連の活動をさらに強化していくことを表明した。また、難民の中等教育充実の重要性や最近増加傾向にある難民申請者に対して政府が的確に対応し、NGOや地方自治体と連携する体制を整えることが大切だと指摘した。また、「小さく産んで大きく育てる」ということわざにならい、難民の第三国定住を成功させる意欲を表明した。
-
エリカ・フェラー国連難民高等弁務官補(保護担当)
現在、115か国、6500人の職員が活動しているUNHCRの難民支援を紹介し、難民の恒久的な解決策のひとつとして日本が開始した第三国定住は国際的にみても画期的であり、大きなチャレンジであると評価し、ぜひ、持続可能な形でコミュニティーでの永住を行ってほしいと強調した。また、合法的、非合法的に来る人々への庇護、例えば収容施設の問題について、国内庇護システムと照らし合わせ検証していく必要があるとも述べた。日本の難民政策の過渡期となる今後、日本とUNHCRとのフルパートナーシップを強く望んでいると述べた。
2.第1セッション「日本における庇護と支援」
(モデレーター:上田秀明外務省人権人道担当大使)
-
山神進立命館大学アジア太平洋大学副学長
難民認定手続きの変遷と今後の課題について述べ、人道的な配慮を必要とする立場にいる難民への特別在留許可を重視し、限られた予算の中でどう難民認定手続きを迅速化合理化していくかを問題提起した上で、第三国定住がひとつの解決策となることへの期待を表明した。また、透明性の部分では、政府側と支援団体側が意見交換をし合う機会の設置を提案した。
-
永野貫太郎弁護士、難民審査参与員
日本国内の異議申し立て処理件数及び未処理件数を先進諸外国の数値と比べてみると、おおむね10分の1以下で日本の最近の難民申請者急増もさほど問題ではないと述べ、新しい資料もなく3回目、4回目と申請をしてくる者が増えてきているので、このような場合は簡易手続を採用すべきだとの意見もあるが、参与員の間では多数を占めていないと指摘した。また、代理人が付いている場合は、参与員としては資料請求や主張につきあらかじめ求釈明できるので申請者本人にとっても非常に有益であり、公正、公平性の確保のためにも一次審査段階や警察で供述書をとる場合、代理人の立ち会いを認めるべきであることを強調した。
-
ジェローム・カス氏
日本の難民申請手続きの複雑さ、特に証明書類の提出や日本とコンゴとの文化慣習の違いに苦労したことを述べた。また、自身の経験から難民申請者は、社会保障や就労、国民健康保険へのアクセスがなく不安定であり、NGOも正確な情報を必ずしも持っているわけではないので、精神的に苦労した経験を語った。最低限、人間として持続可能な生活を行うため情報提供の重要性を強調した。
-
石川えりNPO法人難民支援協会事務局長
現場での制度的な課題として、1)異議申立てが独立していないこと、2)行政不服審査法が改正されることは喜ばしいが、行政手続法において難民は除外規定になっていること、3)申請中の法的地位が安定していないこと、特に、退去強制令書発布後の収容は期限がないので、希望がみえないこと、そして、4)生活を支援していく上での公的支援不足を挙げた。支援団体としては、審査時間がかかることを前提として、その期間をどうサポートしていくかが重要だと述べ、同時に今年4月から限定的な支給となった難民申請者への保護費を補う支援の緊急必要性を訴えた。
-
質疑応答においては、1)申請者の支援における政府の責任、課題の範囲、明確な法的根拠の有無について、山神氏より、全て税金で処理するのではなく、寄付金を集める等政府として解決策を考えていくべきだと指摘があり、石川氏は、国内の生活保護と同等の保護を要すると述べ、フェラー氏も裁判期間中の保護費の支給、国民年金や保険加入、就労も可能にすべきだと述べた。
また、証明書類を揃えることの困難や偽造書類の普及等の対処法について、永野氏は、本人の供述以外に立証物が何もないという場合でも各国国内人権報告書や本人や代理人からの証言から詳細な調書を作成し、本人から提出のない資料も探す等努力をしていると説明し、参与員の間で最終見解が一致しなかった場合も、少数意見を法務大臣へ提出していると説明した。
3.第2セッション 「日本における第三国定住と定住」
(モデレーター:長有紀枝NPO法人難民を助ける会理事長)
-
志野光子外務省人権人道課長
昨年12月、我が国はタイのミャンマー難民を第三国定住として受け入れる旨決定した。パイロットプロジェクトで受入を計画しているのは毎年30人と必ずしも多くないが、アジアで初めての第三国定住受け入れ国であり、また米豪等のように移民を基盤とした国でも、EUのように国境が極めて低い国でもない、日本が決断した意味は大きいと考えている。受入の環境は政府だけで整えることはできないので、地方自治体、NGO,一人一人の市民の理解と協力が必要であり、また、人道的観点から受け入れるものの、これが日本の社会を多様な価値を認めあえる、より豊かな社会にするきっかけになれば好ましいと考えていると述べた。
-
軽部洋財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部長
インドシナ難民及び条約難民に対する定住支援プログラムの教訓を生かした、より充実した定住支援策が第三国定住難民には必要であると提案し、特により高い日本語教育、きめ細やかな生活ガイダンス、PC技術等現代社会で必要不可欠な職業訓練の実施を強調した。また、第三国定住難民に条約難民と同様の法的地位が与えられることを提案した。
-
Saw Ba Hla Thein カレン・インフォメーションスペース・コーディネーター
自分はカレン族であり、1992年10月に来日し、2006年に難民認定された経験から現在所属する団体では申請者の支援やカレン族の文化広報活動を行っており、自身が日本へ定住するまでの経験から第三国定住プログラムで懸念される言語や長年キャンプ生活を送ってきた人々の日本の生活への適応問題を指摘した。
-
高橋秀和横浜市都筑区福祉保健センターこども家庭支援課担当係長
地域の自治会は、外国人に対し閉鎖的な雰囲気があるので、外国人同士での活発な情報交換や助け合い、住民ととことん語り合い、理解し合う場の必要性を述べた。また、公立中学校を開放し、外国人がしっかり通って学べる機会を与えるべきだと提案した。
-
質疑応答においては、第三国定住に関して、他国や国際機関との連携、市民社会へのリクエスト等の質問がされた。これに対し、志野課長は、国民ひとりひとりが当事者意識を持ち、自主的に動き参加してほしいと強調し、国内関係省庁間でも定期的に課長級クラスの会合を持ち情報及び意見交換を行っていると説明した。また、今後の第三国定住政策の流れに関する質問に対して、日本側の難民選定基準を作成し、その基準に沿って選ばれた難民のリストがUNHCRから提供され、法務省入管局による現地での面接・選定の結果決定した候補者は事前の健康診断や研修を経て、2010年秋に来日すると説明した。また、第三国定住難民の定住先に関する質問に対して、軽部本部長より、インドシナ難民の定住結果からも地域住民の理解が厚いことが一番であるが、彼らの就職先は彼らの希望した就職先とは必ずしも一致してこなかったと指摘した。他には、東京と地方の連絡の問題や労働環境問題や本人のビジョンを尊重すること、人と企業の組み合わせの重要性も指摘した。また、フェラー氏は、依存ではなく、自立したいという持続可能性を見出すことが重要だと述べた。第三国定住難民は、日本へ統合するために来たのであり、安定した地位を付与すべきであること、地域レベルでの人々の交わり、第二、三世代が適応できるように道を開いておくことが必要だと述べた。