9月18日(土曜日)~21日(火曜日)の日程で、カナダ・モントリオールにて、生物多様性条約遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する第9回作業部会追加会合が実施され、我が国から水野外務省地球環境課長ほかが出席したところ、その概要及び評価以下のとおり。
1.概要
- 今次会合は、COP10(生物多様性条約第10回締約国会議、本年10月に名古屋で開催)での採択を目指すABS議定書原案について、締約国の各国間の立場の隔たりを埋め、条文案の一本化を図ることを目的として開催されたもの。
- 法律的、技術的な論点については、各国交渉官の間で理解が進み、条文案の一本化が実現したが、政治的な判断が求められる論点については、時間的な制約もあり議論が尽くされず、COP10での議論に解決が委ねられることとなった。
- COP10の直前(10月16日)に作業部会を再開して、今次会合で修正された議定書原案をベースに議論を進め、COP10(10月18日~29日)期間中の最終合意を目指すことになる。
2.主要論点の交渉の結果
- (1)派生物
遺伝資源だけでなく、その派生物もその利用による利益は配分すべきと提供国側が求めているが、利用国側が反対している論点。 派生物に係る利益配分が義務化されない規定を模索して議論を続けてきたところ、今次会合では、カナダが条文案に不満を表明して議論が一時中断することもあったが、法律的、技術的な論点で各国間の理解が進み、提供国側(中南米諸国)の譲歩にも助けられて、条文案の一本化に成功した。
- (2) アクセス
提供国側の制度が不透明であるとして、利用国側が制度の改善を求めている論点。
派生物における議論の進展も受けて、提供国側から譲歩が得られ、提供国の制度に係る透明性、法的安定性の確保などの論点で、条文案の一本化が進んだ。
非商業目的の利用に対する簡易な手続については、我が国の主張に対して多くの国から賛同が得られ、ほぼ我が国が求めた条文案で各国の同意が得られた。 - (3)利用国の措置
遺伝資源の利用国が、自国内における遺伝資源の利用について、提供国の国内規制の遵守を確保するための措置、利用状況を監視するための措置を講じるもの。
派生物における議論の進展も受けて、利用国側(EU)が譲歩した論点もあったが、利用状況の監視措置(チェック・ポイント)では、時間的な制約もあり十分な議論が尽くされないまま終了した。 - (4)適用範囲(遡及適用)
提供国側が、議定書発効以前に入手した遺伝資源も遡及して適用することを求めており、利用国側との対立が解消していない論点。
派生物の問題に時間を大幅に割かれたこともあり、今次会合では議論に十分な時間が割けず、議論がほとんどなされないまま終了した。
3.評価
- 派生物、非商業目的の利用などの論点で、進展が見られた点は今次会合の成果として評価できる。また、中南米諸国をはじめ提供国側から幾つかの論点で柔軟性が発揮された点は、COP10でのABS議定書採択に向けた各国の期待の表れと見ることも可能。
- 他方で、技術的、法律的に複雑な論点を扱うABS交渉では、各国交渉官の間での理解の促進、議論の進展に長時間を費やす必要もあり、立場の収れんに向けて、COP10終了までの残された時間を有効に活用して、議論を効率的に進めていくことが重要。