平成20年6月
第31回南極条約協議国会議が、6月2日から13日までウクライナのキエフにおいて開催された。今次会議においては、観光・非政府活動規制のあり方、南極におけるバイオロジカル・プロスペクティング(生物探査:微生物などの生物資源の活用)に関わる活動の現状や法的諸問題について、特に集中的な議論が行われた。また、来年の南極条約50周年に向けた計画についても、第32回ATCMホスト国である米を中心に活発な意見交換が行われた。
南極条約は2009年に採択50周年を迎える。今次会合では、次回ホスト国である米より、「平和と科学の50年」を基本テーマとする次回会合(2009年4月6日~17日、於:ボルチモア)の準備状況が報告され、原署名国であるわが国を含め、活発な意見交換が行われた。なお、次回会合初日には、外相レベルの特別会合が予定され、南極条約の次半世紀の意義を謳う政治宣言を採択する方向で計画中である。
今回モナコの加入により、締約国が47カ国となった。また、2009年の事務局長の交代を前に、次期事務局長選出手続が採択された。
南極地域には、環境上、科学上、歴史上、芸術上若しくは原生地域としての顕著な価値又は科学的調査の保護のため、67の南極特別保護地区(Antarctic Specially Protected Areas; 以下「ASPA」)が設定されている。これらASPAには、それぞれが有する価値を保護するため、ASPA毎の管理計画が策定されており、これらに基づき、厳正な保護がなされているところである。今次会合では、3地区が新たにASPAに指定されるとともに、既存のASPAのうち10地区の現行管理計画の改正が採択された。
また、中国が作成した、ドームA基地に関する包括的環境評価書(案)が、環境の保護に関する南極条約議定書の規定に従って作成されているものと認められた。今後、中国は、各南極条約協議国から提出された意見等を踏まえ、最終的な包括的環境評価書を作成し、それを各協議国に送付した上で、ドームA基地の建設に着手することとなる。
南極における観光業の活発化および昨年の観光客船エクスプローラー号の沈没事故等を背景として南極海で航行する客船問題、恒久的陸上観光施設の建設等につき環境保護及び航行の安全面からこれまでにない活発な協議がなされ、我が国は環境保護と観光活動および科学活動の両立を基本的立場として議論に積極的に参加した。南極における観光活動を全般的に規制すべしとの意見の国も多く、また次回会議では南極観光活動に関わる基本政策の採択も計画されており、今後も活発な議論が予想される。
バイオプロスペクティング活動に規制の是非について活発な議論が交わされた。バイオプロスペクティングについては、具体的な探査活動に関する情報がないまま関心だけが先走っており、実態を知らずに協議を続けても意義に乏しいので、SCAR(南極研究科学委員会)からの情報提供も得るべきである旨の我が国提案が採用された。
(参考)
南極条約は、1959年に作成され、1961年に発効。2008年6月現在、締約国数は47。そのうち、我が国を含む28カ国が協議国となっている。我が国は、同条約の原署名国であり、1960年に同条約を締結、協議国として、南極地域における平和の維持、科学的調査の自由の保障とそのための国際協力、軍事利用の禁止、領土権主張の凍結、環境保全と海洋生物資源の保存等の面で、積極的役割を果たしてきている。その後、1991年には環境保護に関する南極条約議定書が採択され、環境影響評価(附属書 I)、南極の動物相及び植物相の保存(附属書 II)、廃棄物の処分及び廃棄物の処理(附属書 III)、海洋汚染の防止(附属書 IV)、南極特別保護地区規定等(附属書 V)と共に1998年に発効、南極の環境及び生態系の包括的保護が進められている。