生物多様性条約第8回締約国会議概要
平成18年4月5日
日本政府代表団
生物多様性条約(CBD)第8回締約国会議(COP8)が3月20日(月曜日)~31日(金曜日)の日程で、クリチバ(ブラジル)にて開催され、160カ国以上から約4,100人が参加した。わが国からは、南川環境省自然環境局長を団長とし、外務省、農林水産省、林野庁、水産庁、経済産業省、特許庁、環境省等が出席した。
今回の会議においては、2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させるという目標(2010年目標。COP6(2002年。於:ハーグ)にて採択され、ヨハネスブルグ・サミットの実施計画にも盛り込まれた目標)の達成に向け、各議題で今後如何にその取組を強化していくかが議論され、特に、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)及び公海における海洋保護区への関心が高かった。わが国はこれらを含む議題において積極的な発言を行い、今後の作業の方向付けに貢献した。
ABS及び公海における海洋保護区の他、主な成果としては、2007~2008年事務局予算、2010年までの締約国会議の改訂作業プログラムの採択などの条約の運営が決議されると共に、新たな主題別分野である島嶼生物多様性の作業計画が採択されたほか、森林の生物多様性に関する作業計画や侵略的外来生物等に関する決議が採択された。なお、次回COP9は2008年にドイツで開催されることとなった。
また、26日~29日には閣僚級会合が開催され、2010年目標に向けた各国の取組等が議論された。わが国からは南川環境省自然環境局長が参加し、全体会合では我が国の国内外の取組みを紹介しつつ、2010年目標に向けて、生物多様性の配慮を各国の開発計画へ統合することの重要性を強調し、また、そのために限られた資源の有効利用や関係者との連携強化などを通じて、各国が協力して取り組むよう訴え、多くの参加者から賛同を得た。
1.開催期間・場所
平成18年3月20日(月曜日)~31日(金曜日)(於:クリチバ(ブラジル))
(閣僚級会合は26日~29日に開催)
2.参加者
160カ国の締約国、国連諸機関、NGO等、約4,100人が参加した。
3.わが国からの参加者
わが国政府代表団として、南川環境省自然環境局長を団長に、外務省、農林水産省、林野庁、水産庁、経済産業省、特許庁、環境省、独立法人製品評価技術基盤機構、財団法人バイオインダストリー協会及び財団法人自然環境研究センターの担当者が参加した。
4.閣僚級会合
26日~29日に閣僚級会合(ハイレベルセグメント)がブラジル政府主催で開催された。全体会合のほか、「生物多様性と食料及び農業」、「生物多様性と開発及び貧困」、「生物多様性と貿易」、「遺伝資源へのアクセスと利益配分」の4つ分科会が設けられた。
各国から、2010年が近づく中、2010年目標の達成が改めて重要な課題として取り上げられ、目標の達成のため様々な関係機関が関与して、生物多様性保全と開発の両立について議論を進めて行くことが重要だとの発言が相次いだ。
わが国からは、南川自然環境局長が参加し、全体会合では、2010年目標達成に向けたわが国の考え方を表明した他、分科会「生物多様性と開発及び貧困」では、わが国の政府開発援助を通じた環境保全、貧困緩和への貢献及び環境教育の重要性について発言した。また、分科会「遺伝資源へのアクセスと利益配分」においても、「遺伝資源へのアクセス手引き」の国内普及などの取組を説明するとともに、国際的枠組みの策定に関するわが国の立場について積極的に発言した。
5.主な成果
- 遺伝資源へのアクセスと利益配分
国際的な枠組みの策定に関する議論では、COP9までに2回の作業部会を開催すること、作業部会がCOP7の際に課せられた作業を可及的速やかに(遅くともCOP10までに)終了させること、遺伝資源の出所等の認証に関する専門的会合の開催等が決議された。
また、遺伝資源等を利用した知的財産権申請に関する原産国/出所開示等の問題については、引き続き作業部会での議論を継続すること等が決議された。
- 公海における海洋保護区
公海における生物多様性の保全と持続可能な利用に関する事項については、国連総会がその中心的役割を果たし、国連海洋法条約は、海洋での活動に関する総括的な法的枠組であることを踏まえ、CBDはこれら機関における海洋保護区の設置に関する作業に対して、科学的、適当な場合には技術的な情報提供・助言を行う役割を担うべきであることで意見が一致し、今後CBDが国連に対して科学的な貢献をするために必要な作業内容(情報収集、作業部会開催等)が確認された。国連海洋法条約の新実施協定については、その必要性について議論が分かれ、最終的には、実施協定の必要性の評価を行うとの表現で合意が得られた。なお、公海底引き網漁業のモラトリアムについては、一部の国やNGOから、2007年1月から実施すべきとの提案がなされたものの認められなかった。
- 2007年~2008年の事務局予算
わが国は、EUやカナダと協調し、効率的かつ条約の着実な実施と政策課題の追求を可能とするような予算を追求した。この結果、現在の事務局職員数を維持した予算が採択され、2007年~2008年事務局予算は22,403千ドル(前期比4.6%増)、わが国拠出額は各締約国の拠出金総額の22%、3,670,172ドルとなった。
- 島嶼の生物多様性
島嶼の生物多様性の保全の実現のために必要となる2010年までの具体的な作業計画が決議されたほか、島嶼国が国ごとの作業計画を実行するに当たっての支援のあり方について議論された。わが国からは、島嶼生物多様性の保全への取り組みとして、国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)などを紹介した。
- 「2010年目標」等に対する条約の実施状況について
2010年目標の達成に向けた条約の実施状況の評価の枠組みについて議論が行われた。また、COP10での条約戦略計画の改訂に向けて、COP9において条約の戦略計画の改定の手順を審議することを決定した。さらに締約国が国や地域レベルでの目標とそれに関連する指標を開発し、それらの目標と指標を、生物多様性国家戦略などに組み入れることを促すこと等が決議された。
- 保護地域に関する作業計画
COP7で採択された作業計画の実施状況について検討がなされ、検討に必要な情報が限られていること、今後、系統的な情報収集が必要であること等が合意された。また、締約国に対して、保護地域の管理、運営等に必要な手法(tool kit)の利用、開発を促すこと等が決議された。
- 侵略的外来生物
現在の国際的な規制の枠組みでカバーし切れていない、外来生物への対策が必要な分野について、進入経路への国内及び国際的な対策の取り組みを締約国に対して促すことが決議された。また、条約事務局に対して、関連する国際機関等に助言を求めること等が決議された。さらに、締約国に対して、侵略的外来生物の社会等への影響について普及啓発することを奨励すること等が決議された。
- 乾燥地及び半湿潤地の生物多様性作業計画
乾燥地及び半湿潤地の生物多様性に関する系統的な情報収集の必要性について合意された。また、締約国に対して、砂漠化対処条約との合同作業計画の実施の際には、より連携を強化すること等が決議された。
- 森林の生物多様性作業計画
締約国に対して、持続可能な森林経営を推進、森林法の施行と関連する貿易の改善を促すとともに、条約事務局に対して、これらの課題に取り組むために、国連森林フォーラム、国際熱帯木材機関等との協力強化を求めること等が決議された。また、COP9で行われる本作業計画の詳細検討に向けてその実施方法が決議された。
- 生物多様性の構成要素の保全及び持続可能な利用を奨励する措置
COP9において、生態系サービスの経済的価値を示すことにより、公共及び民間における意志決定が改善される可能性があるという立場から、締約国に対して、生物多様性、生物多様性の資源及び機能の価値の評価(valuation)の取り組みの奨励等について決議された。
- 技術移転と協力
条約の目的を達成するためには、関係する技術へのアクセス及び技術移転が重要であるという認識から、これらの情報を集約、分析するために、技術移転と科学・技術協力に関する専門家会合を設置すること等が決議された。
- 条約の実施における他の条約や機関等との協力
民間部門の条約の実施への参画を促すため、締約国に対して、特に環境保全に配慮された製品を扱っている企業に対し、生物多様性の重要性を周知すること、生物多様性国家戦略の作成への参加を促すこと、国家戦略や条約の目的の達成に資するような活動を促すこと等が決議された。
- 農業の生物多様性
食料と栄養について農業の生物多様性への枠組みの要素の組み込み、土壌の生物多様性の保全と持続可能な利用との統合、遺伝子利用制限技術(GURTs)の影響に関する調査の実施、FAOとの協力と他の関係機関との協議を行い、COP9での検討のために作業計画の再検討の実施等が決議された。