人権・人道

外務省・赤十字国際委員会(ICRC)共催「人道支援シンポジウム」概要と評価

平成22年11月


1.概要

 2010年11月5日,外務省において「人道支援シンポジウム:人道スペースへの挑戦」(外務省,赤十字国際委員会(ICRC)共催)が開催された。

2.評価

  1. 国際赤十字,国連機関,国内外NGO,学識者それぞれの立場から,「人道スペース」に対する様々な脅威や「人道スペース」を確保するための様々な取組について紹介があり,議論がなされた。また,アフガニスタンにおける「人道スペース」の現状や取組について経験に基づいた具体的な討議がなされた。
  2. 政府関係者,国際機関,NGO,メディア,学生,日本赤十字社等,多方面から多数の来場があり,活発な質疑応答を通じて,「人道スペース」の確保のための取組,人道支援の実施の本来のあり方について理解を深めることができた。

3.各セッションのポイント

  1. (1)開会の辞
    • 長嶺義宣ICRC駐日事務所長は,支援を必要とする人へのアクセスが困難になっていることや,人道支援スタッフが武力攻撃や拉致の対象となっている現状に言及し,「人道スペース」の確保が一層必要であると述べた上で,本シンポジウムを通して現場の挑戦に目を向けてほしい旨述べた。
  2. (2)基調講演
    • 山花郁夫外務大臣政務官は,人道スペースは,人道支援を実施するに当たって最も大きな課題の1つであると述べた上で,ICRC,国連機関,日本のNGO,日本政府による取組を紹介し,今回のシンポジウムを通して様々な見方や知恵,方策が提示され,支援の現場で活かされることを期待する旨述べた。
  3. (3)第1セッション
    • トビアス・エプレヒトICRCクアラルンプール地域代表部首席代表は,紛争当事者が国際人道法の原則を遵守しないこと,多様な人道支援組織が展開することにより援助の意図が外部に明確に伝わりにくくなっていることが問題であるとした上で,ICRCとしては,すべての紛争当事者との対話を確立することにより,自らの活動の独立性,公平性につき一貫した説明を行うことにより,「人道スペース」の確保に努めている旨述べた。
    • 山本理夏ピースウィンズジャパン事業責任者は,NGOの立場から紛争地で人道支援を行うときには,中立性を維持するということが重要であると述べ,人道スペースを維持するためにも,地元の住民の人々の信頼を得ていくことが何より重要だと述べた。
    • ヨハン・セルス国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表は,国民を保護又は支援する責任というものは一義的に政府にあると述べた上で,人道支援は平和構築や開発との調整を行いつつ,現地のコミュニティーの関与も促進しながら行っていくべきという点を強調した。
  4. (4)第2セッション
    • シーマ・ガーニ元アフガニスタン財務副大臣,コラサン・チャリティー(NGO)事務局長は,アフガニスタンへの援助は偏った地域に届けられていると述べ,長期プログラムや紐付きでない援助,安定した地域への支援を増やすことで援助の質向上を図ることを訴えた。
    • 伊勢崎賢治東京外国語大学教授は,過去の軍閥が現政権に入って政治活動を行っている点を指摘し,今必要なことはアフガニスタンの最も危険な地域でも人道支援を活発化し,国内のタリバン化を防ぐことであると述べた。
    • ティモシー・ピット国連人道問題調整部(UNOCHA)アフガニスタン事務所長は,アフガニスタンにおいては,武装勢力によって,人道援助は西側の軍事的・政治的な戦略の一環として見られてしまったことが問題であり,UNOCHAは,支援される側の人との対話により必要とされる援助を行うと共に,紛争当事者に信用されるよう努めている旨述べた。
    • ジャック・ド・マイオICRC南アジア事業局長は,アフガニスタンにおいて人道支援があらゆる当事者の手段として使われていることが人道支援の動機に関する「混同」を引き起こしていると述べた上で,人道支援活動には中立で明確なアイデンティティが必要であると強調した。また,ICRCは,人道支援を実施する上での犠牲を覚悟している旨述べた上で,地元の人々に受け入れられるためには,自らの活動内容とその理由を説明すると共に,人道支援のプロとして,活動を組織化し,実現することが重要である旨述べた。
  5. (5)質疑応答
    • 人道支援における優先順位というのは,各団体においてどのようにして決定するのかという質問に対し,ティモシー・ピット UNOCHAアフガニスタン事務所長は,国連の新「クラスター・アプローチ」を通して医療,教育,水など各分野が共に現場のニーズ評価を行い,その全体像の中で各分野の戦略を立案し,優先順位をつけながら各プロジェクトを実施している旨回答した。
    • 人道支援を提供される住民自身が武装勢力や紛争当事者であった場合,これにどのように対応すべきかとの質問に対し,ジャック・ド・マイオICRC南アジア事業局長は,国際人道法では文民であれ敵の戦闘員であれ,負傷した或いは捕虜になったことで直接の敵対行為を止めたその時点から,保護を受ける権利を有すると規定されている旨説明し,ICRCとしては支援の受益者の立場に関わらず支援を行っている旨回答した。
    • 最後に,モデレーターを勤めた長有紀枝,難民を助ける会理事長,ジャパン・プラットフォーム(JPF)共同代表理事が本シンポジウムで非常に多くの重要な点が指摘されたことに感謝を述べ,引き続き人道スペースやアフガニスタンについても関心を持ち続けてもらえることを期待する旨述べた。

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