平成23年11月22日
それでは,時間も過ぎておりますので,「ハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会」の第4回会合を開催いたします。
本日は,大谷委員が所用のため御欠席であります。
初めに,配付されている資料につきまして,事務局からの確認をお願いします。
まず,懇談会第4回会合という紙,出席者の紙,座席表。
それから,ハーグ条約を実施するための中央当局の在り方に関する意見募集のとりまとめ結果についてという2枚物の紙。
パブリック・コメントで寄せられた意見ということで,ちょっと分厚いホチキスどめがしてあるもの。
法制審議会ハーグ条約部会概要報告という1枚紙。
最後は,ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備に関する中間とりまとめというちょっと厚目の資料でございます。
以上です。
よろしゅうございましょうか。
それでは,続きまして,法務省から前回の法制審議会での議論につきましての御報告をいただくこととなっております。よろしくお願いします。
おはようございます。法務省の金子です。
最近の法制審の部会での検討状況について,若干御説明いたします。
概要報告という1枚紙に記載のとおりですが,これまで7回ほど開催しております。
本日お配りしております中間とりまとめを9月30日から10月31日までパブリック・コメントに付しまして,今,取りまとめ中でございます。来週月曜日の部会で報告する予定ですので,その後は取りまとめ結果を御紹介できると思います。
最近の部会での検討状況を,若干,この中間とりまとめの中から説明します。
パブリック・コメント期間中も,ここに開催状況と記載しましたとおり,審議の方は進めています。例えばこの中間とりまとめの1ページ,「3 管轄」の「(2)土地管轄の集中」というところにございますが,これが子の返還手続を取り扱う第1審裁判所をどこにするのかということで,パブリック・コメントに甲案,乙案,丙案の3案を併記させていただきましたけれども,部会でもなお議論しているところでございます。
2ページ目で,「7 当事者適格」の「(2)相手方」は,一応,現に子を監護している者に相手方適格があるものとするということにしておりますけれども,例えばお子さんが日本に帰国後,児童福祉施設のようなところに入っているときに,その場合に施設の関係者等が相手方になるのかというようなところが議論されております。
5ページ目で,「13 裁判記録の閲覧等」という部分では,相手方の住所の取扱いをどのようにするのかという辺りが,今,議論されているところで,何らかの形で裁判記録中に相手方の住所が含まれることが出てくると思いますが,それがこちらで議論されていることとの関係もございまして,何か特別な扱いをできないものかというようなところが議論されているところでございます。
13ページで,「33 不服申立て」では,返還に関する裁判が出された場合にお子さんについて独自に即時抗告権を認めるかどうか。13ページの末尾に(注)として書いてありますが,この辺りが賛否が分かれているところでございます。
15ページ目で,「第2 子の返還事由・返還拒否事由」,特に16ページの返還拒否事由につきましては,条約上の返還拒否事由として記載されているうちの(4)に関する部分です。条約上は17ページの乙案の冒頭の3行の部分,これが条約の仮訳の文言ですけれども,これをどのように子の返還手続に関する担保法に落としていくのかという辺りで,甲案,乙案を併記してパブリック・コメントに付しました。部会でもなお,いずれのスタンスがよいのかということが議論になっているところでございます。
それから,ヒアリングを10月28日に実施しました。こちらの外務省懇談会でのヒアリングにつきましては,子の返還手続に関してもかなり御意見が出ましたが,当方でしたヒアリングにおきましては,逆に中央当局の役割に関する部分は比較的少なかったのですけれども,お二人のうち長谷川京子先生,兵庫弁護士会所属の先生ですが,DV関係の事件に大分携わっているというふうにお伺いしていましたけれども,この先生からは多少,中央当局の役割あるいは全体の体制整備に関するご意見が出されております。幾つか,その部分を中心に抜粋してございますので,ご覧いただければと思います。
もう一方の山口惠美子さんは,公益社団法人家庭問題情報センター,いわゆるFPICと呼ばれているところで理事をされている方ですが,もともと家庭裁判所調査官として子どもの調査等に携わっていた方で,最近は面会交流の支援等をされている方ですけれども,この方からは両親の紛争とか別居の状態,こういうものがお子さんに与える影響とか,あるいは子どもの発達や年齢に応じた成熟度等の話がありました。かいつまんで御紹介しておりますので,ご覧いただければと思います。
以上です。
ありがとうございました。
それでは,よろしゅうございましょうか。
次に,本日の1つですが,まず外務省から,先般実施されましたパブリック・コメントの結果の報告をお願いいたします。
ハーグ条約を実施するための中央当局の在り方に関する意見募集のとりまとめ結果についてという2枚紙をごらんください。
9月30日から10月31日までの1か月間,パブリック・コメントを実施いたした結果として168件,うち団体が20件,個人が148件の意見が寄せられました。それの抜粋,主な意見をまとめたものがこの2枚紙で,もう少し詳しくまとめたものがパブリック・コメントで寄せられた意見という少し分厚目のものでございます。2枚紙の方に沿って御説明いたします。
基本的に,項目ごとに御意見を提出された方はそれほど数は多くなくて,御自身の経験に基づいた御意見とか,総論的にハーグ条約についてどう思うのかという御意見が多く寄せられました。
まず項目ごとに,中央当局の任務等について寄せられた意見の部分ですが,まとめた紙の最初の「4.国内における子の所在の確知」,当懇談会でも議論になっている部分ですけれども,この点につきましては,DV被害者への配慮や過度な情報の流出を防止する観点から,提供すべき情報の範囲は明確にすべきであるという慎重な意見もありました。その一方で,子の所在特定は中央当局に課せられた重大な任務であるというような声もありました。
また,2つ目の「黒丸」のところで,中央当局に集まった子の情報というものは,申請者や相手国中央当局には提供すべきではないという意見もありました。
次のページを見ていただきますと,「5.子に対する更なる害又は利害関係者に対する不利益の防止」ということで,子の再連れ去りを防止するためには,中央当局が旅券の一時保管とか新規発給を制限すべきという意見もあった一方で,海外渡航の自由との関係で慎重にすべきであるという意見もございました。
「7.子の社会的背景に関する情報の交換」ですけれども,情報の提供は,裁判所からの求めがある場合に限定すべきである。情報の範囲や情報の提供依頼先が無限定に広がらないように限定的に運用すべきという意見も寄せられました。
飛んで,「10.子の安全な返還の確保」という部分で,子の常居所地国の中央当局及び在外公館との連携が需要である。更にDV事案への十分なケアが必要という意見がありました。
次に,接触の権利に関する部分ですが,その次のページを見ていただきますと,3.の2番目の「黒丸」のところで,充実した面会交流が可能となるような制度を整備すべきという意見もありましたが,その一方で,中央当局の活動は限定的にすべきであるという意見もありました。
「第5 その他」の部分ですが,これは一般的な意見をまとめたものです。最初の「黒丸」のところで,邦人の支援体制,これは在外におけるという意味ですけれども,在外の邦人に対する支援体制を強化すべきである。それで,在外公館で受けた被害者による相談や連絡内容が国内における裁判所からの照会に応えられるようにすべきという御意見とか,3番目の「黒丸」のところで,不法な子の連れ去りを罰則化すべきとか,共同親権の制度化,面会交流制度の改善といった国内法制度の改善の必要性につき指摘がありました。
また,下から2番目の「黒丸」のところで,ハーグ条約を締結することについて,賛成,反対という意見も寄せられました。
法務省の方にも数多くの意見が寄せられていますが,その中にも中央当局に関する部分もありましたけれども,大体,今,申し上げたような意見で,重なっている意見が多く見られました。詳しくは,ちょっと分厚目の方のまとめた資料を見ていただければと思います。
以上です。
それでは,今のパブリック・コメントの結果のうち,この懇談会での議論との関わりの部分は後ほどに回しますが,一般的に,ただいまの御報告につきまして御意見・御質問がありましたら,この段階でどうぞお願いします。
よろしいでしょうか。
それでは,先へ進みます。本日の中心議題ですが,お手元の論点ペーパーに基づきまして議論を進めたいと思います。
今,お話がありましたが,パブリック・コメントでも比較的たくさんの意見が寄せられた論点であります,子の所在の確知のための情報提供義務とか,子の任意の返還その他の問題の友好的な解決の促進とか,子の社会的背景に関する情報の提供,そして,これまでこの懇談会で必ずしも十分に議論できていなかった論点であります,接触の権利に関する中央当局の措置といったことにつきまして,論点ごとに議論を進めていきたいと思います。
初めに,論点ペーパーの1ページから4ページまでが「1.子の所在の確知のための情報提供義務」ですが,これについて議論をしたいと思います。まずは事務局の説明をお願いいたします。
時間が限られていますので,本当に簡単に論点を御紹介したいと思います。
パブリック・コメントを実施したときには,中央当局が収集した情報については,相手方の同意がある場合には申請者に渡すことがあり得べしという案でパブリック・コメントを実施いたしましたが,先ほど御紹介しましたとおり,そういう例外規定を設けるべきではないのではないかという御意見もありましたことを踏まえて,今回お示ししているのは,3ページの真ん中の辺りの(4)ですけれども,「外務大臣は,(1)から(3)までの措置に基づき取得した個人情報を提供してはならないものとする」ということで,出さないということとしています。
ただし,真ん中の部分,赤い字で書いてあります(1),(2)で,2つの例外を設けています。(1)は個人情報保護法の規定による法令に基づく場合,(2)の場合は返還援助申請の対象である子の返還を得るための裁判手続を開始するために必要な相手方氏名を申請者に開示するときという2点です。
2番目の点に関しては,これは連れ帰ってきた者が,例えば連れ帰ってきた母親が子どもと現に一緒にいればそれはいいのですけれども,全く違う人が監護しているような場合ですと,その人の氏名を申請者に開示した結果として,子どもがどこにいるのかが申請者にわかってしまう可能性が否定できません。3ページの一番下のなお書きですけれども,祖父母などが現に子を監護している場合に,祖父母の名前をもって居所が突き止められるおそれがあることを踏まえると,開示すると同時にまたは開示後速やかに相手方にそのことを知らせる必要があることを法律上明記すべきではないかという意見も寄せられています。
もう一点は,順序が逆になりますが,3ページの上のところですが,中央当局が居所情報,住所地の情報を地方自治体と関係機関から提供してもらうという際には,DVの懸念がある場合はそれも併せて伝えてもらうということがいいのではないかと考えられますが,どのような方法で伝えてもらうのか,これについては今後検討を行っていきたいと思っております。
取り急ぎ,以上でございます。
それでは,今の点につきまして,いかがでしょうか。
棚村委員,どうぞ。
民間機関にも情報の提供を求める場合に,ここの御提案で書いてありますように,ガイドラインで定めるということをされているようですけれども,これは担保法の中にいろいろ細かい規律といいますか,ルールみたいなものを定めるよりも,ガイドラインみたいな形で,むしろ実施要領的なものを用意されるという趣旨ですね。
それで,特にこの趣旨というのは,民間の団体にはさまざまな目的や性格や活動内容とか多様なものがあるので,行政機関とか自治体とか,そういう公的なところよりは少し配慮が必要だというようなことでしょうか。
そこまででよろしいですか。
はい。
それでは,いかがでしょうか。
まとめてにしますか。1つずつにしますか。
それでは,ある程度まとめてにしましょう。
棚村委員,よろしいですか。
はい。とりあえず,こんなところです。
それでは,警察庁さんどうぞ。
棚村先生とはちょっと方向性が違うんですが,今,御発言にありましたものを,関係機関が中央当局に対して情報を提供する際に,併せてDVの情報もというところでありますけれども,ここは結構,実務上難しい問題を多分はらむだろう。といいますのは,今の書き方ですと,これは関係機関が懸念をする,こういうことを中央当局に通知するということですので,現実には行政の末端のところで,本当にDVはありましたかと聞くということが前提でしょうね。多分これをやってしまうと,恐らく現場が相当委縮するんだろうと思います。
要するに現場において,まず居場所を確知します。居場所はわかります。それでは,そこから先,どんどん突っ込んでいって,最低限,LBPに居所を知らせていいですか,どう思いますかと聞くのはいい。ですから,そこから先,DVがあるか,ないかという話を現場の人に聞かせる,尋ねさせるということは,実務上は難しいのではないかと考えます。
ですので,通常の形からしますと,これはいわゆる居場所はわかります。そこから先,どんな形で住所地が知られることについて問題があるか。これはある意味で,事実認定のほかに法律的な判断かということで,ここのところについては,要するに,今,やっているように,関係機関の側が調べて通知をするという形を取るのか,それとも,中央当局が自ら聞かれて判断をされるのか,この後については実務的な議論を積み重ねないとちょっと難しいのではないかと思います。
ですので,ここのところについては,今の案ではアプリオリに関係機関の方で懸念の有無を判断するというふうになっていますが,そこのところはもう一回,よく実務的に組み立てないといけないのではないか,その辺りを懸念するということでございます。
ほかはいかがでしょうか。
内閣府,どうぞ。
先ほどの,関係機関が中央当局に対して情報提供する際にDVがあるかどうかという話を伝えるという話ですけれども,これはもともと組立てとして,本人の同意を得て相手方に住所地を伝えるということがあって初めて必要な情報だったと思っていたんですけれども,これはやはり,今の組立てでも必要になるということなんでしょうか。要するに,中央当局がその情報を得て,どういう形で何を検討するのかというのはよくわからなかったものですから,教えていただきたいという点。
あと,子を現に監護すると思われる者の所在を確知するということになっておりますけれども,今まで子を連れ去った方というのは,実際に事実関係として連れ去ったというのはすぐ外形上明らかだと思うんですが,子を監護しているかどうかというのは,単に連れ去ったという外形だけで判断できないところがあると思うんですけれども,その点について,中央当局として,子を現に監護する者の所在を教えてくださいというふうに関係機関に寄せたとしても,そもそも関係機関としても監護しているかどうかという判断がなかなか難しいのではないのかなという点がありますが,その点はどのようにお考えかというのを教えていただきたいと思います。
ほかにもあるかと思いますが,まずはこの辺で。特に今の,所在そのもの,それから,プラスしてDVに関する情報,それがLBPに行く前提なのかどうかということも含めて,お願いします。
最初の,民間に情報を求めるというときは情報をもらうときに配慮が必要ということで,まさに民間団体として,例えばどういうところが想定されていて,どういう形で,手順で情報をもらうのかということをきちんと定める必要があると考えています。
2点目の警察庁さんからの御指摘の実務上難しいのではないかという点につきましては,まさに御指摘のとおりだと思っています。ここで想定しているのは,基本的には関係機関が情報を持っていた場合に,その情報も併せてもらうということで,新たに何か情報を取ってもらうということまでは想定していませんが,いずれにしても,具体的な方法なり実際どうやってもらうのかということは再度検討したいと思っています。
その次,内閣府さんからの御指摘で,同意を得て住所地を伝える場合であれば,DVかどうかという情報は必要ですけれども,そうでない場合は必要でないのではないかという御指摘ですが,必要ではないということも考えられますけれども,もしもそれを関係機関の側が保有しているのであれば,それは中央当局としても承知しておきたいということで,そこまでを中央当局として承知しておく必要が,今後相手方との関係で間に入って,全くそこは知らなくてもいいんだということであれば,あえてもらう必要はないのかもしれませんが,DVの方を保護するという観点から,そこまで中央当局が必要あるのか,ないのかも含めて,今後検討したいと思います。
最後に,現に子どもを監護しているのかどうかという,ここの観点は,法制審でも訴訟の相手方をだれにするのかという議論もありますので,それとも併せて考える必要がある論点だと思っています。
そうすると,とにかく今のDV関連情報も,中央当局としては持っている必要があるのではないかということですが,その場合の情報の中身というものは,どの程度の真実性が要求されるかということもあると思います。TPがそう言っているということだけで。
そういうことで足りるのかどうかということです。
どうぞ。
割り込んだ感じで済みません。
制度全体の仕組みとしては,中央当局がこのDVに関し何らかの情報を知っているのが良いだろうとは一般的に思います。
ただ問題は,それを中央当局が自らお集めになるか,要するに全体の仕組みがわかった人間がお集めになるか,それとも,たくさんある情報の中から,あれもください,これもくださいというふうにされるのかと。関係機関,内閣府さんもそうですけれども,恐らくどの範囲まで出していいのか,言って良いのか,悪いのかということで混乱を来す。そうすると,役人の性ですから,結局出さないということになってしまう。すると,本当は大事な情報なのに行かないということになる。そういった副作用がちょっと怖いなという感じがするということです。ですから,逆に仕組みを全部分かられて,まさにその責任を持たれてやるところがお話をされる,現実にはヒアリングをされるということについては,それは別に問題はないとは思います。
それから,先ほどありました,いわゆる現に監護をする者,これも非常に難しいのですが,これも一つの考え方としては,要するにそこに同居している者というふうに逆に抽象化してもらえば恐らくそんなに困難を来さないと思うんです。ですので,多分そこも,やはり監護という言葉が法的な評価を含みますので,そこのところについては,関係行政機関の仕事のやりやすさからすると,こういったものについては教えてほしいと。「監護」といういわゆる価値判断を含まないものを何か提示いただければ,それはそれで少しは前に進むかなという感じはします。
いろいろありますが,今の監護というのは法制審の方でも議論はあるんだと思いますけれども,もしよろしかったらお願いいたします。
誰を相手方にするかという相手方適格の議論の中では,監護という用語を使うことを検討しています。これは評価的要素を含んだ要件ではありますけれども,最終的に裁判所がこの者は子を監護していないという判断になれば,そこは判断を尽くした上で対応を取るということができるわけで,ここの情報を集める段階での話とは違ってもおかしくはないのかなと思います。例えば同居している人が分かったときに,その人をとらまえて監護している者として申立てをしてもらうということは十分可能かと思いますので,同じ用語を使っていただく必要はないかと思っています。
ありがとうございました。
おっしゃるとおりかなと思いますが,それでは,杉田さん,それから,棚村委員どうぞ。
関係ある民間の団体のところについて,幾つか質問させてください。
まず,確認なんですけれども,関係ある民間の団体に対しては,行政機関に関して規定しているような(2)がないので,情報を義務付けるわけではないという理解でよろしいでしょうか。それを前提とした上で,関係のある民間の団体というものに私立学校も注1のところでは書いてあるのですが,私立学校に関しても同じように民間の団体ということで,情報の提供までは義務付けていないという理解でよろしいのでしょうかというのが1点目です。
2点目は,関係ある民間の団体についてはガイドラインで定める。その範囲については法律に規定するというのは余りにも細か過ぎるというのはそのとおりなのかなという気はするんですけれども,他方でガイドラインというものの仕組みが私もよくわからないので,どういうふうに決められて,これは改定等も当然あり得ると思うんですが,そういうものに,ガイドラインの内容を改定するというときには関係ある民間の団体というものの範囲が場合によってはこれからもどんどん変わり得る可能性があると思うんですけれども,そういうものに対して一定の歯どめ等がきくものなのかどうかということについてお伺いしたいと思います。
棚村委員は,また別の点ですか。
はい,私は別の,先ほどのDVの情報についての取扱いとかそういう点です。
それでは,進行上,今の点についてお願いいたします。
関係ある民間団体について情報を義務付けるわけではないということで,(2)のような規定は(3)の民間団体においてはかけていません。そういう意味において,私立学校は民間の団体と位置づけて,提供の義務づけのようなものは課さないということを考えています。
ガイドラインをどう決めるのかということですが,ここでは基本的に民間団体の範囲はガイドラインで定めることとするというふうにしていますが,今,法制局と法案をどのようにするかという相談をしている中で,必ずしもこれはガイドラインではなくて政省令レベルということも考えられるものですので,今の段階で決め打ちはできませんが,たとえガイドラインであったとしても,ガイドライン全部ホームページで公表しますし,今後,必要に応じて改定をするということもあり得ると考えております。
よろしいでしょうか。
はい。
それでは,棚村委員どうぞ。
先ほどのDVの情報についてですけれども,非常にセンシティブな部分があるので,関係機関としては特に気を付けて取扱いをしてもらわなければいけないということだろうと思います。
ただ,ハーグ条約の場合には7条の2項のb号のところで,やはり中央当局が暫定的な措置といいますか,保全的な措置を取ったり,あるいは他の機関に取らせることによって,子どもに対するさらなる危害とか,あるいは利害関係人に対する不利益の防止ということで,適切な措置を条約上取らなければいけないことになっていますので,先ほども言われたように,その情報の取扱いとか,どの程度の内容のものかということについては,関係している機関の活動とかそういうことの支障がないような形で進めるということで,是非必要だと思います。
アメリカでもイギリスでも,例えば連れ去った親が同居をしていて子どもを保護しているという場合に,やはり暴力の危険があったりした場合には虐待とか,監護者といいますか,親に対する暴力も防止するために何らかの施設への入所などが必要だということになれば,そういうことへの援助とか情報提供もしなければいけないものですから,恐らく関係機関との間で十分調整されて,情報の程度,内容とか取扱いについては慎重にするということで,集める必要はあるのではないかと思います。そうでないと多分,中央当局がコーディネート的な機能を全くできないということになると,条約上の義務が履行できないというようなことにもなりかねないとは思います。
意見というようなことだけです。
警察庁さん,どうぞ。
今,先生のおっしゃられたことは全く,実は同意しておりまして,集めることは必要なんです。その集め方の問題として,途中のパイプが詰まる集め方をしてしまうと危ないよということを申し上げているだけですので,それはおっしゃるとおりであります。
相原さん,どうぞ。
確認させてください。
返還援助申請の対象である子の返還を得るための裁判手続の関係で,必要な相手方氏名として,テーキングペアレントといいますか,連れ去った人であればまだわかりやすいんですが,3ページのところに出てきておりますような,監護者との関係において,だれが監護しているかというのが判断するのが難しいという御意見が出てきていたかと思うんですが,その関係で,中央当局がどういうふうに判断されるのか,どういうふうに,どこまでを相手方として特定されるのか,されることを考えているのか,お考えを教えていただきたい。
といいますのは,例えば祖父母というものがありますけれども,祖父母だったら普通は祖父の方が世帯主で出て,おじいちゃん,おばあちゃんの名前が出ているかと思います。その場合の相手方というのは両名を考えることになるのでしょうか。それから,特に兄弟,例えば妹夫婦とかお兄さん夫婦とかで,おばさんに当たる人が育てている,監護しているかもしれないんですけれども,そのときに多分,世帯主で出てくるのは,夫である男性が世帯主になっているケースが多いかと思いますが,こういう場合,実際に監護しているのは,もしかしたら直接血縁関係のある女性の方であったりするかもしれないんですけれども,そういう場合,中央当局が世帯主として出てきた夫婦を対象として,相手方として指示されるのでしょうか。特に最近はいろいろなケースがあるかと思いますので,そこら辺を中央当局が見極めるのかそこのところを1点教えてください。
もう一点お願いしたいんですが,これは注4のところに,祖父母などが現に監護している場合に,祖父母の名前をもって居所が突き止められるおそれがあることを踏まえると,開示すると同時に,開示後速やかに相手方にそのことを知らせる必要があるということを法律上明記すべきではないかという御意見が内閣府から寄せられているというところの注4があったのですが,ここの点については現段階で中央当局になられる立場としてはどうお考えなのでしょうか。
私の個人的な意見を申し上げるとすれば,これを知らせるということは結局,ここにもありますように,相手方にそれを知らせて監護者を変えてしまうリスクが非常に高い可能性があるかなという気はしております。ちょっと悩ましいところでもあり,非常に微妙な問題があるのかなと思って読ませていただきました。
以上の2点を教えてください。
それでは,どうぞ。
相原先生の御質問いただいた1点目の件なんですけれども,中央当局がどういう形で相手方の氏名を判断するかというところなんですが,基本的には申立人御本人がだれを相手方にしたいかというところに尽きると思います。そこの判断の段階で,警察庁さんからも御指摘いただいた,恐らく同居している者を大前提に考えると思うんですけれども,とりあえず同居している方の名前をお知らせすることによって,その方を相手方にすることでよいかというのを,恐らく適宜,中央当局と申立人側,あるいは外国の中央当局を通じてだと思いますが,相談しながら手続を進めていく,そういうようなイメージになるかと思います。
2点目の注4のところで,外務省としてどう考えているのかという御指摘ですが,この点については,中央当局は基本的に相手方と密に連絡を取っていることになりますので,申請者に対してそのことを知らせれば,それは基本的には相手方にも伝えることになると思っています。ただ,そのことを知らせる必要があることを法律上明記する必要があるのか,ここについて,まさに御議論いただければと思います。
よろしいですか。 どうぞ。
それでは,今のところにつきまして,多分,必要に応じていろんなバリエーションがあるのではないかなと思ってはおります。ただ,法律上明記すべきまで必要かという点に関しては若干否定的な,個人的な意見です。まだこれは特段議論しておりませんので,あくまで個人的な意見として申し上げさせていただきました。
今,出ていた論点について,ほかに何かございますでしょうか。
藤原さん,いかがですか。
関連ですけれども,今まで出てきたことの,1つは確認ですが,先ほどの杉田委員の御質問にも関わるんですけれども,民間の団体に対しては義務はかからないということになりますと,何かあったときは私立の学校にいるか,公立学校に入れるかで差が出るというお話になるわけかということですね。それでいいのかということです。
もう一つは,ここの注のところで,今回,行政機関個人情報保護法の8条1項の規定による,「法令に基づく場合」というものがあって,今,手元に条文がないのですが,裁判所の調査嘱託,民訴法186条ならいいというお話が書いてあるんですけれども,これと横並びの各種の照会,これに関わる弁護士さんから弁護士法23条の照会が来るとか,ああいうものもここの法令になるのかどうか。手元に条文がなくて質問して恐縮なんですが,今の2点を確認したいんです。
どうでしょうか。
まず1点目ですが,民間の団体について義務づけはかからないという構成にしておりますので,先生が御指摘のとおり,公立か,私立かで差が出る結果となる可能性も否定できません。この点について,差が出るのはおかしいのではないかという御議論があれば承りたいと思います。
2点目に御指摘いただいた点なんですけれども,実は現時点では,ここに書かせていただいたとおり,行政機関保有個人情報保護法の第8条第1項に書いてあるような,法令に基づく場合を排除するほどの厳しい規定を置くことは厳しいのではないかと考えていたのですが,弁護士法23条に基づく照会等までもスコープに入れるべきかというところはまさに御指摘のとおりだと思います。
なので,実際の法文に書きおろすときに,ただ単に法令に基づく場合と書いてそれで済むかと言われますと,それは厳しい部分はあると思いますので,具体的にどういうふうに整理するかというのは,実はなお検討させていただければという点でございます。
藤原委員,どうぞ。
今の点は,なぜ申し上げたかといいますと,今回,民間部門と公的部門と分けているわけですけれども,民間部門ですと,個人情報保護法のいわゆる過剰反応と言われた問題のときに,調査嘱託にも応じない。それで,捜査事項照会はようやく少し落ち着いてきたけれども,弁護士の照会の方も,これは金融機関等ですが,まだ拒否する場合もあって,判例も分かれているという状態なので,それとの並びで,あくまで今議論している問題との関係でですが,ここまで民間と行政とで違ってくるとどうか。
勿論,行政機関の情報の共有とか利用のところはここに書いてあるとおりだと思うんですけれども,個別の法令のところですと,実際に情報を集める必要のあるところでは必ず情報が上がってこなければなりませんし,かといって余り広げ過ぎると,今度は上がってくるものも上がってこない場合があるので,少し精査が必要かなという,そういう問題意識です。
第1点の方は,公立学校に入れるか,私立学校に入れるか,偶然の違いで結果が違ってくるのはどうかということですけれどもね。
いえ,偶然の結果という意味もあるんですけれども,これに巻き込まれたら,お金を使ってでも私学に入れるという方向に流れるのではないかという問題意識です。
それも自由意思でそうするのであればしようがないという考え方もあると思いますが。情報が例えば申請国あるいはLBPまで行くかどうかという話とはまた別なので,中央当局が日本国の国家機関としての任務を果たす際に,公の機関相互であれば,それは協力してもらうべきではないかというのが直接の問題ですね。
私もそうは思うんですけれども,逆に外国の当局とかLBPの方に行かないということがはっきりするのであれば,我が国の中央当局としては,やはり集められる情報は,公的部門であれ,私的部門であれ,きちんと集めておいた方がいいという論法もあるかなと思ったので申し上げた次第です。
私も藤原委員と同じようなことを考えていまして,やはり行政機関の情報と,それから,個人情報保護法での民間,そこもやはり子どもの所在を確定したり探し出したいというときには,ほかの国を見ていても,やはり保育園とか私立の学校というようなことも出てきています。その網をかける範囲それ自体については,やはり日本なども私立学校が,私立で営まれているところが物すごく多いはずですから,そういうところにも一応,情報の提供をどういう形で求めるかというのは,先ほど言ったガイドラインとの関係で言いますと,民間の団体の運営の方法とか性格は非常に多様なものがありますから,それは一律にできないとは思います。
ただし,網をかけるかけ方自体にちょっと不均衡があるのは問題がないか。とくに,ほかの国の例を見ていても,民間のところだけは特別扱いということは,仮にその特殊性を配慮したにしても,情報の収集それ自体については幾つか段階を分けて,例えば住民票とか戸籍とかそういうものについて,あるいは出入国の記録みたいなものを,非常に近いものについては割合と第1次的に収集する。それで,最後になるものが,やはり学校とか保育園などの預けられているところが多い。なぜかといいますと,親御さんとの信頼関係みたいなものもありますから,最後の段階でどうしても必要だということになりますと,就学情報とか就園情報みたいなことが出てくるようになるのです。
ですから,そういうようなことを考えますと,民間と公的な機関と分けている必要性というよりは,むしろ,そこが持っている情報が当事者との関係でどういう意味を持っているかというようなことでの違いみたいなものは出てくる可能性はあるのですけれども,そういう点では藤原委員が言ったように,私も行政機関が持っている情報,それから,民間機関の保有する個人情報もきちんとした保護の仕組みがあるわけですから,逆に言いますと,例外的に提供できるというようなことについても,一定のセーフガードを持った上で,中央当局がそこを把握できるような形,あるいは協力を求められるような形にすべきではないかなと感じます。その上でガイドラインとか,きちんとした民間の団体の活動とか内容,多様性に応じて配慮するということでいいのかなと思います。
文部科学省さん,どうぞ。
行政機関についても,この情報提供についてはパブリック・コメントで,義務を課すのはどうかというような意見も一方である中で,民間にまで広げて,特に私学にまで広げて情報提供の義務を課すということについては更にいろんな意見が出てくると思いますし,あと,私立学校とほかの民間団体との間でどういうふうに差をつけていくのか,その辺についても十分慎重に検討しないと,私学について,公立と並行して義務づけをするということについては,先ほどありましたけれども,これを提供することによっていろいろな問題も生じてくるわけで,それについて私学がどこまで責任を負うのかというようなことも考えますと,この辺は慎重に考える必要があるのではないかと思います。
この点は両方の御意見があるということでしょうが,ほかの点はいかがでしょうか。
内閣府さん,どうぞ。
相原先生に先ほどの,例えば祖父母が監護している場合に,祖父母の名前を相手方に伝えたときに,その伝えましたということを祖父母に伝えなくていいかどうかという件なんですけれども,個人的には反対だというお話だったと思うんですが,一応,今回のパブリック・コメントを踏まえた修正案でも,とにかく中央当局における情報の取扱いについては,なるべく裁量をなくしていこうというのが大きな流れだと思うんですけれども,先ほど多様な場合があるのでというようなお話だったんですが,もう少し具体的にお考えを教えていただけないでしょうか。
教えなくていいとまで言っているつもりではありません。ただ,先ほどの法律上明記すべきであるということに関してまで規定すべきかに関しては否定的であると申し上げたつもりでございます。
この流れの中で,率直に言いまして,祖父母というような端的な例だとすれば,申立人からしますと,祖父母はどこにいるのかというのは大体知っている状況なものですから,むしろ祖父母の名前が出てきたからといって,そんなに特定とか所在とかに物すごく意外性とか,ここだとかということで判明する話ではないだろうと思っているんですけれども,ただ,この事例の中で,祖父母のところにいることがわかって,そして,その次の逃げているようなケースだということを想定して,祖父母がわかったら,それで来てしまうから,それを教えるべきであるという前提から入るのだとすれば,そもそも教えるという段階で,多分,祖父母のところにはいなくなるであろうということを想定している話なのかなと思ったので,そうだとすると,法律上明記するとか,しないとかというよりも,先ほど申し上げましたように,転々としてしまうということが想定されている話として,教えるから逃げなさいという前提の話だとすると,それは違うのではないかという意味で申し上げたわけです。
ただ,実際にどういう事例があるかどうかわかりませんので,一切教えるなというふうに申し上げたわけではないということは先ほど言った感じで,法律上明記すべきであるということになってしまうと画一的な話になってしまいますので,住所に関して,とにかく教えないということは私はここでも申し上げていますし,一貫してそれが出ない,申立人もしくは中央当局の方に知らせないという,とにかくそういうスキームは絶対つくるべきであろうし,先ほどから出ています,情報開示をそれぞれの人に義務として課すためには,それは非常に譲れないところであるとは思っているんですけれども,相手方としても,預かっている以上,ハーグ条約の中で縦になって出てこなくてはいけないという以上に関しては,一つのルールとしては,その人に対して申立てできるという制度はつくっておかなければいけないのではないかなと思ったわけです。
非常にバリエーションがあるでしょうからというようなところで逃げてしまっていることになるかもしれないので,ちょっと歯切れが悪いところがあって申し訳ないんですけれども,以上です。
藤原委員,どうぞ。
先ほどの座長の整理ですけれども,学校のところですが,2つに体系的に美しく分けろと申し上げているのではなくて,棚村先生のものと少し違うのかもしれないんですが,戸籍情報から徐々に下がって来たときに,最後に学校情報が必要なときに,中央当局がその情報をどの程度重要なものと考えるかということだろうと思うのです。
つまり,この場合は公私に分かれた以上仕方がないと割り切っていい程度の情報なら私はこれで結構ですし,そうでなくて,どうしても必要がある場合があるんだという認識であれば,そうすると,公私に分けたら,多分,現在の個人情報保護法の運用から言えば出てこないと思います。出していいという裁判例があっても,必要性と合理性を考えても,先ほどまさしく文科省の方が言われたように,責任ということを考えれば慎重になるという話で出てこない。そこの割り切りの問題かなと思っているというところだけ申し上げておきます。
今の,本当に必要かという話と,また別の論点ですけれども,相原委員がその前に言われた,おじいちゃん,おばあちゃんのところか,あるいはそこから更におじさん,おばさんのところということがありますね。その辺がケースによって違うのではないかと言われたんですが,共通するのは,中央当局である外務省さんとしては余り裁量の幅を持ちたくない,平たく言えばそういうことでもあろうかと思うのですけれども,その点はどうですか。中央当局の任務として,個別ケースについての判断をさせるということがいいのかどうか。
棚村委員どうぞ。
先ほどの内閣府の原さんの御質問とも関係すると思うのですけれども,既に金子官房参事官も言っていたと思うのですが,現に子を監護すると思われるものですから,あくまでも法的な部分と,事実上のものと,それから,外から見えるものというのは大分違ってくる可能性があるわけです。ですから,どうしても外形からわかりやすいところ,一緒に住んでいるとか,暮らしているとか,そういう辺りのところでつかまえざるを得ないと思います。
ただ,先ほどから言うように,転々としたり,あるいは補助者みたいな者を使って,親族とかそういうところに更に預けたりというようなことも起こってくる可能性があると思いますので,こういう辺りも,私は現に監護していると思われる者というのは,国内担保法で返還手続でもそういうような表現を,現に監護する者を相手方とするというので,全く平仄を合わせる必要はないと思いますが,そういう形でやっておくということでよろしいかなとは思います。法的な状態と事実状態が一致する場合もあれば,ずれる場合も出てきますし,それから,転々とする場合も出てくると思います。
それから,先ほどの氏名の取扱いですけれども,これも祖父母の名前とか,現に監護しているということで知らせてしまった場合は,恐らく居どころもすぐわかりますし,それを知らせることの方が誠実ではないか。逆に言いますと,逃げる権利を与えてしまうようなところについてどうするかというのが相原先生の御指摘だったと思います。情報の開示と,情報を開示したということの通知というものは,普通はワンセットで少し考えるのですけれども,今回について,やはり法律で明記すべきかどうかというのは,先ほどのガイドラインではありませんけれども,それをどういうふうに取り扱うかということも含めて,国内担保法の中にこれを入れなければいけない事項なのかなというのは私も相原委員と同じように疑問を持っています。
非常にセンシティブなところがありますので,むしろガイドラインとか,場合によってはもう少し上の省令とか何かになるかもしれませんが,少なくとも担保法の中にこういう浮動的な状況の概念について,裁量の幅をなくすというのは結構なのですけれども,ただ,もともと,そのことをどんなに明確にしようとしても,非常に流動的な要素があると思います。祖父母が出てくるということ自体が,まず連れ去った親がそこに預けて働きに出ていたり,いろいろな事情があり得るのです。そのときに,どちらを監護している者というふうに判断するかを外務省にむしろ求める方が大変なので,いろんな情報が集まってくるうちに,おじいちゃん,おばあちゃんがやって,ほかの,連れ去った親は完全に手を離れたのか,それとも,そうでないのかというのは,むしろ段階的に,もし外務省がわかるとすれば,後でわかることがあるというだけで,外から見た感じではほとんどわからないことも多いのではないかと思うのです。
ですから,こういうようなことも,現に監護していると思われるというものも相当幅があるということを前提にルール化した方がいいのではないか。余り細かいことをパブリック・コメントで,確かにこういうことを言われたと思うんですけれども,なかなか全部盛り込めるのかなという感じはちょっと思っております。
そろそろ時間を気にしているのですが,それでは手短にお願いします。
先ほどの座長の御質問の,裁量の個別ケースをどう考えるかですけれども,今回パブリック・コメントを受けて,この5番のところを変えたこととか,先ほどの必要性と合理性の判断等については,文字どおり,外国の中央当局との関係を含めて,このハーグ条約,国内担保法をどう考えるかの問題で,我が国の中央当局として裁量の余地を持たなくて,ある程度,個別ケースを捨象しても,情報が定型的に来て,それでハーグ条約の国内担保法として大丈夫であればそれはそれでいいという,裁量の余地をそんなに認めなくていいという判断はあろうかと思います。
それでは,いろいろ御意見を伺いましたので,まだあるかとは思いますけれども,次へ進みたいと思います。
次は,論点ペーパーの5ページから6ページ,「2.子の任意の返還その他の問題の友好的な解決の促進」について議論したいと思います。それでは,事務局から説明の方をお願いいたします。
「2.子の任意の返還その他の問題の友好的な解決の促進」ですが,6ページ目の五と六が今回追加した部分です。
五というのは,先ほどの子の所在の確知のところで,相手方から同意がある場合は,中央当局は申請者に対して居所の情報を伝えるという余地を残していましたが,その余地をなくしてしまっていますので,その結果として,相手方は申請者に対して自分の情報,住所地を教えてもいいというようなことを考えていて,ただ,自分からは連絡はしたくない,代理人がまだついていない,中央当局が間に入って先方にそれを伝えてほしいというような要望には応えられないという結果になってしまいますので,それを手当てすべく,五として,「当該子を現に監護する者又は申請者からの要請を踏まえ,両者の間の連絡の仲介を行うこと」を入れています。これは中央当局が持っている情報を申請者に対して出すということではなくて,相手方から改めて要請を受けて,情報をもらって,それを申請者に対して伝えるという構成を念頭に置いたものです。
また,六の部分ですが,これは今までのパブリック・コメントの案では,パスポート,旅券の保管については,「子に対するさらなる害の防止」のところで規定していた部分ですけれども,これを問題の友好的解決の促進というところに移しています。これは法制局とも相談している中で,実際に旅券を預かって出国をとめるというような措置は,外務省の設置法上,そこまでの権限は外務省にはないのではないかという指摘を踏まえたもので,両者が合意をして,面会交流がうまく実現できるように,連れ去りの危険がないように,その両方からの信頼関係に基づく問題解決の一環として旅券を預かるということであるならば可能なのではないかとの指摘を踏まえたものです。
以上です。
それでは,今の点についていかがでしょうか。
杉田委員,どうぞ。
細かい話になりますし,多分,今後詰めていくところだと思うんですけれども,六について,双方の合意があった場合には,子が発給を受けた旅券の交付を受け,これを保管するとなっておりますが,万が一,話し合いの過程で返してくれとなった場合には,基本的には提供した側に返すということを想定しているということでよろしいでしょうか。つまり,どちらに返すんだということが問題になり得る事態があり得るのかなというのがちょっと気になったものですからね。
基本は,提供した人に対して返すということを想定しています。
ほかはいかがでしょうか。
棚村委員,どうぞ。
私もちょっと疑問に思っているところがこの六なんですけれども,返還については,できるだけ話し合いをして問題の解決を図るためにいろいろ努力するということはいいと思います。しかし,パスポートを預かるというんですか,そういうことというのは,要するに円滑な返還とか合意,問題の友好的な解決というところで必要になるというふうに御判断になったんでしょうか。
といいますのは,普通はパスポートの預かりとか何とかというものは,再連れ去りとかそういうことの予防,そういう形で議論されている場所のように思われます。それで,先ほどもちょっと言いましたが,内閣法制局によると,パスポートの預かりとか移動の自由みたいな憲法上の権利を制限するということに問題があるので,この場面でもって合意に基づいて預かるというようなことをされるということなんでしょうが,そうなると,質問は,かなり実質的な当事者の話し合いの中に外務省などが深く関与して,パスポートも預かった上で問題の解決を図るということにはならないんでしょうか。その辺りが疑問です。
勿論,合意ができなければ預からないということなんだと思いますけれども,返還やパスポートの預かりに合意ができて預けたということになると,外務省がかなり専門的に関与して,そして,その合意をあっせんしてくれて問題の解決を図ってくれるというような期待というものが出てくるものですから,いかがなんでしょうか。
法制上の問題というより条約上の,中央当局の任務とか権限という中で,任意の返還とか問題解決を有効に図るというところに,このパスポートの預かりというものが出てくるものですから,ちょっと私自身はここに,どういう趣旨で預かられるのかなということで誤解が生じないか。これで面会交流とかそういうこともかなり積極的に関与して,積極的にやるんだということであれば一貫してくるのですけれども,ここで合意に基づいてパスポートだけ預かるといいますと,一体,何の援助をここで考えられているのかなというのがちょっとわかりにくかったものですから御質問しました。
どうぞ。
基本的には,任意の返還とか友好的な問題の解決については,外部の団体を紹介して,そこでやってもらおうと思っていますが,今,御指摘の点は,面会交流などの場合において,相手方が連れ去ってしまうのではないかという不安があるがために,面会交流が実現できないとか,話し合いのテーブルに着けないというような場合であれば,基本的には外部団体に間に入ってもらうんですけれども,両者が合意している場合は,中央当局が旅券を預かって,任意の解決に向けての話し合いの促進を側面支援するというように考えております。
余り中に入り込まないで,しかし,外側から土俵づくりを,場所づくりをするということですね。そういう,ほどほどの信頼できる第三者になれるかどうかということは,実際問題としてはあるかもしれません。
情報提供の方の五ですが,これは藤原さん,どうですか。当事者から頼まれて情報を伝えるというのは,行政機関保有個人情報保護法の枠外,らち外なんですか。そこを伺いたいと思ったんです。
枠外かという意味は,一応,収集のところがひっかかるという意味でしょうか。これは頼まれるわけですから,同意があるわけですね。
ですから,そういうふうに,あの法律を適用し,その上で,これはOKであるということになるのか。
それか,法律の枠の外の話ではないか。
この個別法自体で,一般法の外の世界をつくっているというふうに見るのか。
OKであるとも見られますけれども,これは仲介を行うことという書き方ですね。まさしく仲介してあげるということになりますと,外だと見てもいいのかなとも思いますが,ただ,一般的にすべての情報の動きがということになりますと,どうでしょうか。
その辺は多分,内閣法制局といろいろやっておられるんだろうと思いますので,それでは,その程度にしましょうか。
ほかに,以上の点については何かございますか。
これは法制審の方と絡むのかなと思うんですが,この六の場合というのは,要するに裁判が始まる前ですね。ですから,法制審の方での議論の記憶ですと,裁判が始まった後についてはまだ議論が続いている最中ですので,もしかすると,ここは下手をすると泣き別れになる可能性があるんですが,そこのところの調整はどういうふうにされるんでしょうか。
御趣旨がいま一つのみ込めていないのですが,例えば,法制審の方でも議論が出ているのは,出国禁止の手段は,パスポートを何らかの形で差し押さえたりするということはなかなか難しいという話があって,他方,友好的に協議のテーブルに着けるような事案であれば,パスポートを預かるというのを返還手続における法的枠組みの外側の問題として位置付けることは可能だと思っていて,その外側の話ということになれば,子の返還の手続の始まる前後を問わない話ということで整理することはできるのではないかなと思っています。
そこはそのとおりなのですが,要はこれでパスポートを預かったままで裁判が始まったとすると,その後,返せとなる。要するに,裁判が始まって決裂すると,今度はパスポートを返してくれとなる。そうすると,そのときは中央当局だけの判断で返すということになるんですね。そのところの確認なんです。
要するに,今,法務省さんが言われたように,裁判の外側の話なので,これは子の返還手続の進行とは全然別に,もう外務省の判断として,いわゆるあっせんといいますか,行える範囲の中で行える行為であって,それ以外の効果は,目的は持たない,こういうふうに整理しているということですね。
いかがですか。
まさに御指摘のとおり,双方の合意に基づいて預かるというだけですので,決裂したような場合には,双方の合意がなくなった場合には返すという,別のものとしたいと思っております。
わかりました。
棚村委員,どうぞ。
そのことが実は一番触れたかった話だったのですけれども,私は法制審に出ているものですから,相原委員も出ていると思うんですが,裁判所の保全措置みたいにすることは非常に難しいという議論になっていまして,非保全権利が一体どうなのかとか,そういう構成も非常に難しいというようなことも出ていまして,そうなりますと,例えばこれを合意で預かるのは任意の返還に向けた話し合いなので別に構わないんですけれども,その合意ができないときに裁判所の保全措置によって預かり続けるという,ことはできないのでしょうか。といいますのは,こういうような形で外務省が中央当局として関与するのであれば,何らかの形で担保法に,例えば預かりについての規定を裁判中は置けるということになりますと,外務省が裁判所の決定に基づいて預かり続けるということはできるのではないかとも思うのです。
それで,先ほどおっしゃっていただいた話と全く同じで,任意の話し合いを進めたい。そして,例えば返還手続が起こってしまう。それで海外ですと,やはり返還手続をやる前の段階で調停とか調停を斡旋する機関を利用して2~3日ぐらいやってみて,そこでまとまるものもかなりあるのですけれども,まとまらなければ返還手続に入る。そして,迅速な返還に行く。その間に,例えば所在とかそういうものが変わられてしまうと大変なことになるので,保全措置みたいなもので,合意が取れない場合には出す。合意ができれば今のスキームでできると思うんですが。合意ができなかった場合には,それでは,それは勝手にやってくださいということですと,ちょっと外務省,中央当局と返還手続に関わる裁判所との連携の問題は何か取れないような感じがするのです。
むしろ,パスポートの保管について連携を取っていただいた方が,任意の話し合いから始まって,第三者といいますか,専門の機関が入ってやるにしても,それから,場合によって調停の方が返還手続のところでは議論されていませんから,調停みたいなことが仮に行われるということがあるにしても,パスポートの預かりについては,合意ができない場合にも何らかの措置は取れないんでしょうか。それは連携の問題として金子さんにもお尋ねしたいと思った次第です。
どうぞ。
幾つか考える要素が複合的にあるような気がしているんですが,一般的な出国禁止の議論は,何らかの措置を取れないかということで,なお引き続き議論することになっていますね。
行政的かどうか。
行政的か司法的かは別にして,それは言わば意思に反して出られないようにするというたぐいの話ですね。そのときに手段として,パスポートを何らかの形で取り上げることによって出国することができないようにするというのは,言わば手段の問題としては今後もなお選択として残るかもしれませんが,ただ,それはなかなか難しいという話が出ています。
友好的に預かったものを保管しておくために何か裁判が必要かといいますと,それはそういうことにはならないはずで,そこは友好的な場面の方については,中央当局が両者から提出してもらったものを,例えば話し合いができればどちらかの代理人が預かってもいいような話ですけれども,それよりはきちんと中央当局が預かろうということなんだろうとは思います。他方,このような合意に基づく方法ではなく,出国できないようにする手段については,なお法制審で検討する予定にしています。その手段としてのパスポートの保管ということは,なお議論としてはあり得る話だと思っています。
そんな感じでしょうか。
今回の整理で,返還のための預かりではない,友好的な解決のための預かりであるということになっていますので,そうすると,よけい中央当局が関与する範囲というのは狭まってくるんだろうと思うんです。だから,どこかで,これはもうだめだというのであれば,中央当局の役割は終わるという感じかなという気がしました。
関与をしていて,本案の訴訟が始まるとすると,それは訴訟が始まっているんだから,もう友好的な協議ではないのではないということで,この仕組みというものはやめるんだねというふうに思ったんですが,そうではないということを確認したかったんです。
訴訟が始まった,すなわちそれがイコールで,それで返すということでは必ずしもないと思いますが,一般論としてはまさにおっしゃったとおり,訴訟が始まっているということは,双方で任意の和解に向けてパスポートを預けましょうみたいに友好的な関係ではないというふうに想定されるので,そういうケースが想定できると思っております。
その場合でも,なお訴訟をしつつも解決を見出すということはあり得るので。
解決を見出して,更に預かっておいてくれということであれば,それは預かっておくということもあり得ると思います。
その辺は応用動作なんでしょうか。
一応,この程度で,次へ進みたいと思います。それでは,次は論点ペーパーの7ページから8ページで,「3.子の社会的背景に関する情報の提供」です。事務局の説明をお願いいたします。
8ページを見ていただきたいんですが,子の社会的背景に関する情報の提供ですけれども,日本の中央当局から外国の中央当局に対して,子の社会的背景に関する情報の提供をお願いするというのが(1)で,(2)は逆に外国の中央当局から日本の中央当局に対して,子の社会的情報をくれと言われた場合の対応という2つございます。
これまでは必ずしもこの点は明確にはしていなかったのですが,今回,(1)で,日本から外国に求める場合であれば,日本における裁判手続に係る裁判所から求めがある場合に,相手方の中央当局に対して求める。(2)で,外国から求められるときも,相手方の国の裁判所,または行政手続で返還を行っている場合は行政当局ですけれども,ここからの求めに基づくものとして,社会的背景について情報をくれと言われた場合に,下にある一から四の要件を満たした場合に,その情報を収集して相手方に提供するということを考えています。
ここで御議論いただきたい点が,(1)の場合の赤字のところで,「裁判手続に係る裁判所(並びに申立人及び相手方)」としておりますが,ここで申立人及び相手方にまで広げる必要があるのかという点でございます。
外務省としては基本的に,求める場合も求められる場合も,その裁判手続に必要な場合と限定するのが適当ではないかと考えております。また,この範囲を広げてしまうことによって,中央当局の事務量を考えても,そのように限定するのが適当ではないかと考えております。
それでは,いかがでしょうか,今の点について。相原さんどうぞ。
この点につきましては,日弁連等からも意見書を出させていただいた中に,裁判手続に係るということを前提に社会的背景に対する収集ということをお願いしていたかと思いますし,内容的には,私個人としては適切に御対応いただいているかと思っております。
それから,今の申立人及び相手方からの申立てを含めるかどうかにつきましては,裁判手続自体が申立人及び相手方からの申立てによって裁判所が判断されるというケースが通常は考えられるところでありますので,今,辻阪さんがおっしゃったような形での対応でもいいのではないかなとは感じております。
以上です。
ほかに御意見は,それと違う御意見はありますか。
法務省さん,どうぞ。
これは,子の返還手続における当事者の役割の問題とも関係する問題かと思うのですが,社会的背景に関する情報は,返還手続の裁判で裁判所が判断するに当たって相当なウェートを占める情報が含まれてくると思います。
そのときに,裁判所の求めに応じて中央当局が情報提供を求めるとした場合は,言わばそこの裁判所側の必要性の判断というものが先行することになります。その過程で申立人及び相手方から裁判所に,こういう情報があると思うんだけれども,集めてくれないかというような事実上の働きかけがあるのかもしれませんが,いずれにしても裁判所が中央当局に,こういう情報が必要なのでということを裁判所の判断でされるということが前提になってくると思います。これに対して,提出する主体として申立人及び相手方を想定した場合には,申立人及び相手方が申請をして,申立人及び相手方が中央当局から情報を得て裁判所に提出するという在り方も考えられるところだと思います。
第1次的に,返還事由については申立人が,それから,返還拒否事由については相手方が資料を提出する。それで,補完的に裁判所の方が職権でも調査するというような,法制審の部会でのおおよそのコンセンサスを前提にしたときに,裁判所からの求めの場合だけに限って情報提供するという在り方でいいのかどうかという感じがしています。この辺は裁判実務の方の影響があるかと思うので,最高裁の御意見をいただけるかもしれません。
いかがでしょうか。
この点は,裁判所として必要だと判断する事項については,裁判所から中央当局に対して求める。その方法が嘱託になるかはまた検討が必要かと思いますけれども,それがまずあると思います。
それに加えて,今回の返還手続が,基本的には職権主義を取りつつも,返還事由あるいは返還拒否事由については当事者にその主張立証を委ね,これらの事由については,第一次的には当事者が立証活動を行うことが期待されている,そういう構造になっている関係からしますと,当事者が中央当局に対して,社会的背景についての情報収集を申し出る,そして必要なものを当事者の方で取捨選択をして,それを裁判所に提出するということは,審理の適正なり充実という観点からは望ましい選択であると考えております。
外務省からも言いたいことがあるかもしれませんが,いろいろ御意見を伺ったということでいいですか。
御意見ありがとうございました。
その申立人及び相手方を,日本から外国中央当局に求める場合は申立人及び相手方もあり得べしということで,外国から逆にもらうときは裁判所に限る,ここは立て方としてそういうものもありなのかもしれないですが,そうだとしますと,外国からもらうときも裁判所からの求めだけではなくて,申立人及び相手方が欲しいといった場合も対応する必要があるのかなと。そこまで広げると,ここはかなり広がってしまうという印象を持っております。
裁判所,法務省,いかがですか。どうぞ。
今の点につきましては,逆の立場のときに困るかどうかというのは中央当局の役割と関係しますので,引き続き御検討いただければそれでいいと思います。
ありがとうございました。
それでは,この程度にして,次へ行きたいと思います。最後は論点ペーパーの9ページから14ページで,「4.接触の権利に関する中央当局の措置」です。これは,この懇談会でもまだ十分議論していないところでもありますので少し時間を取っておりますが,まず事務局から説明をお願いします。
接触の権利ですが,ここで2つの軸から考えたいと思っています。10ページの下にある(4)の「ア 対象となる事案の範囲」というところで,これには場所的範囲,事項的範囲,人的範囲,それから,時間的範囲というものがありまして,12ページにあります「イ とるべき措置の範囲」ということで,そもそも対象となる事案は何なのか,そこを定めた上で,中央当局はどういう措置を取るのかという,この2つから考える必要があるのではないかと思っています。
詳細な条文の根拠等までには立ち入らず,ざっと御説明いたしますと,10ページの下の「場所的範囲」のところですが,基本的には2つの締約国の間で国境をまたいで生じている事案だと考えております。
11ページの上から7~8行目ぐらいのところにありますが,条約第1条bの規定の趣旨にかんがみれば,我が国として条約上措置を取ることを求められるのは,他の締約国の法令に基づく「接触の権利」が我が国において効果的に尊重することを確保することであると考えています。
その結果として,この2つを考え合わせた結果といて,その下の下線部のところですが,子及び子と接触できない状態にある親が,異なる締約国に居住していた場合であっても,当該親の「接触の権利」が日本の法令に基づくものであって,「接触の権利」が,日本で子とともに居住するもう一方の親の拒否によって侵害されているときは,このケースには当たらないと考えています。後で事例に基づいて説明したいと思います。
次に「事項的範囲」ですが,これは2段落目のところにありますけれども,「接触の権利」の侵害は,条約上,不当な子の連れ去りまたは留置によって生じたもののみに限定するような定めはありません。この結果として,返還請求については不法性が要求されますけれども,「接触の権利」は第21条において,不法な子の連れ去りまたは留置というふうに限定されたものではないと考えています。
その下の「人的範囲」ですが,基本的にはこれは個人が享受できるものと考えています。
次のページに行っていただいて,「時間的範囲」のところ。返還申請につきましては,締約国間において,当該締約国について効力が生じた後に発生した不法な連れ去りまたは留置となっていますけれども,そのような規定が「接触の権利」についてはかかっていませんので,締約国間において,効力が生じた後に,「接触の権利」が現実に行使し得ない状態となっている,またはそのような状態が継続しているのであれば,対象となる,要するに連れ去りもしくは留置が発生した時点を問わないと整理したいと思っています。
これを踏まえまして,13ページのところに青色の字で例1から例4というものが書いてありますので,これに基づいて御説明したいと思います。
まず例1の場合ですけれども,A国において,お父さん,お母さん,子どもが住んでいました。A国で協議離婚が成立して,母親には「監護の権利」が,そして,父親には「接触の権利」が認められた。その後,母と子が日本に帰ってきましたという場合に,日本にいる母が,日本に一緒に帰ってきた子どもと,A国に残された父親との接触を拒絶するといった場合は,A国において認められていた「接触の権利」が日本において侵害されているというケースですので,A国にいる父親が日本の中央当局に対して援助申請をすれば,これは認められるというふうに考えたいと思っています。
この例1の裏返しのケースが例3になりまして,これは日本において離婚が成立して,その結果として,母子が,今度は逆に,A国に行ってしまったような場合,そして,日本に残された父が,A国にいる母子との面会交流ができていないというような場合は,父から日本の中央当局に対して,ハーグ事案として支援をしてほしいという要請を日本の中央当局が受けた場合,それをA国の中央当局に伝達するということです。
例2に戻っていただきまして,これは逆にA国において協議離婚をして,A国においてお母さんの方は「接触の権利」が認められて,お母さんだけが日本に帰ってきたという事案を想定しています。お母さんだけが日本に帰ってきたんですが,その後,A国にいる子どもと会おうと思ったら,それが会えないというような状態が続いている場合で,この場合,もし母親が日本の中央当局に対して,ハーグ事案としてこれを扱ってくれと言われた場合に,これはA国で認められた権利がA国において実現できていないという場合なので,これは申請の対象外とするということで,例2の場合は×になっています。
例4はこれと逆のケースでして,日本において,日本法に基づいて離婚が成立して,父親だけがA国に帰ってしまった場合,そして,A国にいる父親から日本にいる子どもと会えないという申請を受けた場合に,日本の中央当局は援助するのかどうかという点ですが,これは日本において認められた「接触の権利」が日本において実現できていないというふうに構成して,日本の中央当局はハーグ事案として受け付けるのではなく,A国の父親が日本における「接触の権利」の実現を図ろうとするのであれば,日本の法令に基づいて実施を図ってもらう必要があるというふうに整理したいと考えています。
以上が対象となる事案の整理でございます。
12ページに戻っていただきまして,「イ とるべき措置の範囲」ですが,これは条約の第1条bとか,第21条第1項や第2項等に規定があることを踏まえますと,まず「黒丸」の2つ目のところですが,第21条第2項で,中央当局の義務として,「接触の権利」が平穏に享受されること及び「接触の権利」の行使に当たり従うべき条件が満たされることを促進するため,第7条に定める協力の義務を負うということと,(2)として,「接触の権利」の行使に対するあらゆる障害を可能な限り除去するための措置を取ること,この2つが中央当局の義務として課せられています。
条約第7条は,皆さん御承知のとおり,例えば子の所在確知の部分ですと,不法に連れ去られ,または留置されている子の所在を確知することとなっていますが,「接触の権利」においては不法性は認められていないので,不法性は要件とならないので,その結果として,これはやらなくてもいいのではないかということも考えられますが,第21条第2項において,中央当局としてあらゆる障害を可能な限り除去するということですので,ここは,「黒丸」の4つ目のところですが,条約第7条に定める事項のうち,「接触の権利」の行使に関するものについては,中央当局として返還援助と同様の措置を取ることが求められていると解釈してはどうかと考えています。
第7条においては,まさに返還のための司法上の手続の開始とか,返還を前提とした部分がありますので,そうではなく,返還とは関係がない,例えば子の所在確知とか,「接触の権利」の内容の効果的な行使を確保するための措置等を,第7条において返還以外の部分で,「接触の権利」について使える部分について,中央当局は措置を取ると構成したいと思っております。
諸外国の取扱いですが,基本的に我々が調査した範囲内,もしくは諸外国が出しているカントリープロファイルを見たり,中央当局に聞きますと,基本的には返還申請と同じことをやっているという回答をもらっています。ただし実際上,どこまで「接触の権利」が実現できているのかについては,これが裁判手続に進むことが条約上必ずしも想定されているわけではないということもあって,必ずしも満足いく効果は上げられていないということを聞いております。
それを踏まえた対応ですけれども,13ページの(5)のところですが,今御説明したことを踏まえまして,「接触の権利」についてどうするかということですけれども,真ん中の(1)のところに書いてありますように,外務大臣は,第2の4.から9.までの援助のうち,これは基本的に第7条を書いたものですが,「接触の権利」の行使に関係するものを行うものとしてはどうかと考えています。
済みません,資料に1点訂正がございまして,14ページの例3の3行目の真ん中からちょっと右に行ったところで,「日本に居住する父の日本法に基づく」とありますけれども,「日本に居住する母の日本法に基づく」です。訂正方よろしくお願いします。
それでは,この点についていかがでしょうか。
まずは,今の御説明の前半であった「ア 対象となる事案の範囲」の方から行きたいと思いますが,先ほどの理解でよろしいようでしょうか。
特に御発言はありませんか。
それでは,次の「イ とるべき措置の範囲」の方はいかがでしょうか。
相原さん,どうぞ。
「接触の権利」の行使に関しましては,御説明いただいたところに関して,特段,従来と異なる,何か新しく述べるところはありません。
ただ,前から出てきていたかと思うんですけれども,やはりどうしても「接触の権利」の行使の援助のイメージといいますか,具体的に子の所在の確知のところに関しては,今,御説明があったような中で,不法な連れ去り等々でなくても,やはりそこのところには中央当局がかなりの役割を果たすことが期待されているのかなとは思っております。
ただ,それ以外の場面におきまして,どうしても具体的な援助として,中央当局に何を期待し,何をしていただけるというふうに考えたらいいのかというイメージができません。検討を要するというのがパブリック・コメントの中にもかなりあったかと思いますが,もし現段階で,第三者機関の利用等々も含め何かお考えになっていること,想定されていること,検討事項と申しますか,そういうものがございましたら教えていただければと思います。
いかがですか。
まさに御指摘の点は最大の課題だと思っております。
先ほどの返還申請の中における任意の問題の解決においても同じ話ですが,中央当局において相手方を探し,その申請が来ていて,会わせたいと言っているというふうに相手方につないだとしても,会わせたくないと言われてしまえばそれまでという部分もありますので,例えば私的仲裁とかそういう機関を使ってはどうかというようなことを促したりとか,そういう形になると思います。まさにそういう紹介できる団体の発掘といいますか,育成といいますか,その辺りは今後の大きな課題であると考えております。
棚村委員,どうぞ。
最初のときも発言をさせていただいたのですが,面会交流とか,それから,こういう合意形成の支援みたいな円満な解決ですけれども,ほかの国々は20年とか30年,ハーグ条約の実施をしながらいろいろ試行錯誤を繰り返しています。それで,日本はこれからやろうということなので,いいものを是非つくっていかなければいけないのですが,その受け皿になるようなところを,どこが,どういうふうな形でつくっていくかということは非常に重要だと思うんです。
ですから,前も言いましたけれども,これは返還手続との関係もあるのですが,やはり法務省とか裁判所の方も,ある範囲でそういうノウハウみたいなものを蓄積している裁判官とか,調査官とか,調停委員がいますし,それから,弁護士会の方でもそういう認証機関みたいなものの中に国際的な家事紛争の調整みたいなことをする。それから,私自身は法務省の委託調査で面会交流をやったときに,かなりの渉外関係の事案があって,関係団体にアンケートをしたときにも,外国人の方でやはり子どもの連れ去りみたいなことがあって,面会交流も実現していないという方たちが十数名,アンケートに答えておられました。そういうようなことも考えますと,やはり民間の機関できちんとそういうものを受け入れて解決できるようなスキルを持った,あるいは専門性や経験を持ったところを,是非関係する機関が協力して育成していくというようなことが前提になって,中央当局も,それから,返還手続に係る裁判所も,円満な合意の解決とか面会交流の支援が可能になってくると思います。
繰り返しになりますが,是非その辺りのところは,厚労省の方も面会交流の国内の支援体制の充実というようなことで,勿論できる範囲で結構ですけれども,市区町村辺りで,神戸などでは実際にDVに関わる面会交流,監視つきのSupervised Visitationについての取組みが始められたというのは新聞報道でもお聞きしています。そういう中での,国際関係の案件についての面会交流とか合意形成の取組みみたいなものは,是非そういうところの支援もお願いできればと思っています。
これは要望といいますか,意見ということです。
厚生労働省さん,いかがですか。何かございますか。
特に今の時点で,ハーグについてこうする方針ですと言える状況ではございませんけれども,そういった御要望があるということについては担当の方にお伝えしたいと思います。
ほかにはいかがでしょうか。
それでは,局長どうぞ。
面会交流につきましては,非常に関心の高い課題だということでパブリック・コメントも種々寄せられておりますし,また,いろいろな場でもいろいろな議論がなされているところだと思いますので,先ほど事務局から御説明申し上げたことにつきましては,この場におられる方々はよく御理解をいただいているかと思いますけれども,外でこの議論を見ておられる方々のために,少し当たり前のことで,言わずもがなとは思われるかもしれませんが,一言補足的に御説明を申し上げたいと思います。
先ほど幾つかの事例を挙げて,この条約上の取り上げるべきものとそうでないものの仕分けを御説明申し上げました。これはいろいろなコメントの中にも出ております,条約のもとで中央当局が行うべき作業と,国内の事例との間で明確な法的違いがあるということを基本的な認識とした上で,条約の義務を果たすための制度の整理をしているということでございます。
例えば,この条約では国籍による差別はしておりません。これは連れ去りの件でも同様でありますが,例えばアメリカの裁判において親権その他についての判断がなされたものがどの国籍の人に対して出された判決であるかは問われておりません。したがって,アメリカの中央当局も,極端な場合,日本人同士がアメリカで結婚した事例について日本の中央当局に対する支援の要請をしてくることは,理論上は排除されていないと考えます。
他方,日本国内で結婚もし,そして,生活もした後で離婚した場合に,その片方の親が国外に出て,例えばアメリカに居を移したときに,アメリカに片方の親が住んでいるので,アメリカの中央当局を通じて日本の中央当局に対する親権関係の協力要請ができるというようなことは,この条約のもとでは想定をされていないというふうに私どもは条約の解釈をした上で整理をしております。したがいまして,日本国内での事案であればいずれの中央当局も介することなく,日本国内なら日本国内で手続を進めていただくことが条約上も想定されていることだと理解しております。
今,申し上げたような理解のもとで先ほどの事例を整理いたしまして,できるだけわかりやすく御説明申し上げたつもりでございます。言わずもがなのことではあると思いますけれども,ややわかりにくいところもあろうかと思いましたので,少し詳しく御説明を申し上げました。
今の点に関してはよろしいでしょうか。
それでは,杉田委員どうぞ。
「接触の権利」に関する,中央当局がこれから行うべき内容ということでこれから議論が進められていくと思うんですけれども,1点お伺いしたいのは,今,法制審の方では管轄について,東京だけなのか,東京と大阪なのか,あるいはほかのところでもということで議論がされているようですが,この面会交流に関して,話し合い等をどこで行うのかということについてちょっとお伺いしたかったんです。
今のお話ですと,紹介先等についてはこれから検討を,どういうところがあるかということも含めて更に調べていきたいということなので,具体的なところまではわかりにくいのかなとは思うんですけれども,面会交流を求められる事案というのは恐らく全国各地にあり得ると思うのですが,そういうものについては,面会交流に関しては返還手続とは異なって,全国各地で行うことがあり得るのか,あるいはある程度集中させるということを,今,念頭に置かれているのか,全く考えていないのか,そこまではわからないですけれども,今,何かお考えがあれば教えていただければと思います。
関連して何かありましたら。
それでは,相原委員どうぞ。
若干関連して,返還命令の方はこれから批准後の,先の話になるんですけれども,結局,今の「接触の権利」になりますと,かなりの件数も予想されるのかなと1つ思っている点があります。それが杉田委員と同じになるんですが,それとの関係で更に,例えば当事者として「接触の権利」を侵害されたとして,祖父母とか兄弟とか,そういうことまでは一応,監護者ではなくて「接触の権利」に関しては祖父母が申請者になることも想定されているかなと理解しているんですけれども,かなりの件数になるということも含めて,大体どのぐらいを想定されていらっしゃるのか,対応として,先ほどのどこでやるのかということも,今,考えていらっしゃることを教えてください。
それでは,差し当たり,今の御発言についてお願いします。
御指摘の点ですが,件数自体は,全国各地にあるということは,返還申請であっても,「接触の権利」であっても,恐らく同じだと思うんですけれども,実際に紹介してできるようなところが,中央当局が立ち上がった直後に全国にできるとはなかなか想定できませんので,研修といろいろな啓発を行っていきながら徐々に広げていくことにはなると思います。差し当たっては,やはり大都市なりを中心にそういうところを発掘・開拓していきたいと考えています。
また,相原委員の御説明のかなりの件数になるのではないかということですが,諸外国から現段階においても,これは裏が取れていないので正確に何件というのはわからないんですけれども,言われている件数を合計すると200件弱ぐらいありますので,その方々が,返還ではなくて,とにかく会いたいということで,条約発効後,中央当局に対して申請を上げてきた場合は,中央当局は援助しなければならないということもありますので,このための支援については早急に関係者とも相談をしながら体制整備を考えていきたいと思っております。
ほかにいかがでしょうか。
それでは,まだ多少時間がありますので,今日の全体について,どこでも結構ですけれども,何か更に御発言があればお願いします。
相原委員,どうぞ。
先ほど,私が意見として,情報収集に関して,申立人及び相手方が中央当局に直接要求するのではなくて,裁判所を通してということもあり得るかなという発言をさせていただいたんですが,そのときに法務省,それから,最高裁の方からは,当事者がいわゆる提出すべき証拠の収集に対して当事者主義的な観点といいますか,それでの必要性から何が求められるかというのは,当事者が一番欲することを直接にという意見があったかと思います。現実によく考えてみたときに,例えば相手方の代理人になったときに,相手方からすると,こういう資料を出してもらいたいとかという意見はかなり出るであろうと想像するわけです。
そのときに,中央当局に出してもらえるのだったら,直接に申し立てたいというのは多分,かなりの割合であるのかなと思いますが,先ほど辻阪さんがおっしゃったんですが,かなりの件数が来たときに,その対応がかなり厳しいのではないか,つまり,申立人とか相手方が直接に情報収集について求めるということは現実問題としていかがなんでしょうか。可能ならば,それもありというふうに考えられるんでしょうか。そこのところを教えていただければと思います。かなりの事務量になるのかなということを先ほどおっしゃったかと思うんですが,非常に広範な資料が想定されるものですから,現実問題としていかがお考えでしょうか。
どうぞ。
御指摘の点を踏まえて今の案をつくっていて,8ページの注1のところですけれども,当事者間で直接,自分たちで連絡したりとか,当事者が自ら情報を得ることが可能な場合であっても,中央当局が仲介した情報提供を想定する必要はないということで,自分で取れるものは自分で取ってもらいたいですし,そこまで中央当局が訴訟すべてについて情報を取るということになるのは現実的ではないのではないかということを踏まえて,裁判所に限ってはどうかということを提案した次第です。
ただし,実際問題として,どうしても中央当局を介さなければ取れない情報ももしかしたらあるかもしれないんですが,その一方で,これは2回前のこの場でも議論になりましたが,日本の中央当局が求めたとしても,先方の中央当局がそれを収集する能力がないというような場合,つまり先方の中央当局において権限として付与されていないような場合には,中央当局が取り次いだとしても相手方中央当局は実際には情報収集できないという場合も想定されますので,外務省としては原則,当事者で取れる情報は取ってもらいたいと考えているところです。
済みません,その関連で,私の個人的な意見ですけれども,社会的背景に関する情報というものは,相手方からしても,その範囲というものが従来出てきたかと思うんですが,非常に広範なものを中央当局が集めてしまうということに関する不安感も一方であるものですから,ある程度の制限といいますか,ある程度のルールにのっとったものを中央当局が集め,更にそれが開示されるとすれば裁判所のフィルターをかけてもらいたいというのが一つのラインとしてあるのかなと思っていたんですが,先ほど最高裁と法務省の方は,やはりこれは基本的に当事者が申し立てるという方がいいんでしょうか。先ほど最高裁の方は,当事者が申し立てるというようなことを想定されていたと思うんですけれども,やはりそれは同じなんでしょうか。
どうぞ。
必要なものについては,裁判所の方で,中央当局に求める,これは当然あり得るわけです。ただ,いろいろな情報が社会的背景に関するものとしてあるときにそのうち,この情報が自分にとって有利だ,不利だという取捨選択当事者の判断に委ねる方が当事者にとって良いということがあると思います。
棚村委員どうぞ。
先ほど金子官房参事官もおっしゃっていたと思うのですけれども,基本的に相手方から求められたときとこちら側とで違いが出てきていますと,条約上,相手方の中央当局なり締約国の間から,その辺りがギブ・アンド・テークの関係になっていないのではないかということは出てくると思うのですが,私自身はとりあえず,今回の提案でいいのかなと思います。
なぜかといいますと,先ほど言いました,まず日本で返還手続が問題になる場合には,国内担保法の関係で,立証の責任というものは返還事由について申立人は負っていますし,相手方が返還拒否事由については負うという構造になっていますから,それぞれに資料を確実に得たい。特に子の社会的背景というものは,子どもの生活環境や生活状況に関わる情報が非常に広範囲に含まれますから,そういう点では必要だと思います。
ただ,こちらの方から出す情報については限定しても私は構わないと思います。もちろん,ほかの締約国からいろんなことを言われて,不評を買ったり何かして改めなければいけないということは起こり得るかもしれませんけれども,今の段階ですと,別に外務省を擁護するわけではないのですが,事務量とか,今後予想される件数とか,いろんなことを考えたときに,最初から国内と国外に出すものと同じような形でやるということはなかなか難しいのではないかという感じはしますので,今回のご提案に賛成します。恐らく,金子官房参事官もそういうような趣旨で先ほど言われていましたので,当面はよろしいのではないかというのが私の意見です。
それで,条約実施をしているときに,ほかの締約国とか締約国の会議などで何か指摘されれば,当然それは改めるとか,それなりの理由を付けるということになると思うのですが,出発点では余り広げておかない方がよろしいのかなという感じはします。
法務省さん,どうぞ。
外国の中央当局から求められた場合のことですが,結局,外国の中央当局からこういう情報を収集してほしいというふうに日本の中央当局として求められた場合に,外国の中央当局がどういう求めに基づいて我が国の中央当局に求めたかということまでこちらで判断すべき事柄なのかという気もするのですが。つまり外国の中央当局として,外国のハーグの法制あるいは運用の問題として,こういう事案であれば取り次ぎます,こういう事案であれば取り次ぎませんというようなことはあり得るかもしれませんけれども,こちらで先方の中央当局への申請がどういうものでなければ我が国として応じないというようなことを我が国として決めるというのがそもそもどうなのかという素朴な疑問があるのですが,その点はどうなのでしょうか。
私も何か,そんなもやもやしたところがあったのです。
基本的に,外国の中央当局から裁判所の求めに基づくものとしてという限定を今回付した背景には,例えば向こうに残されている親が,子どもの社会的情報として,子どもの成績を知りたいとか,子どもが病院に行っているかどうかを知りたいみたいな,そういう個人的要求を先方中央当局から我が方中央当局につながれた場合に,それをすべてについて対応するのはさすがに難しく,恐らく先方中央当局はすべてつないでくるんだと思うので,それを受けるかどうかを考えるに当たって,先方の国で行われている裁判手続の求めに応じてという限定をかける必要があるのではないか。そういうものを排除するためにはこういう限定が必要なのではないかという考えに基づくものです。
棚村委員,どうぞ。
先ほど,私がこういう限定をかけたことを支持したもう一つの理由は,中央当局の中には,自分が当事者になって,非常に積極的に当事者の支援をして,申立てもするところも結構あるわけです。こういうようなところも含めて,中央当局の権限とか任務とか役割が実は相当多様なものがあります。それにすべて平等に応じていくということは,やはり出発時点ではなかなか困難ではないか。
例えば中央当局が,申請者の代理人になって返還の申立てをしたり,かなり緊密に当事者に肩入れをするといいますか,そういうことを認めているところはあるわけです。そういうところについては,情報収集とかいろんなことについても,渡してしまった情報についても,いろいろな判断とか資料について直結するわけですね。ですから,そういうようなことも考えますと,私自身はとにかく裁判所からの,あるいは返還を行う行政機関がやっているところはほとんどありませんけれども,そういう裁判所からの手続が少なくとも開始して,それに必要だというような限定を加えたらいいと思うのです。裁判所からというだけではなくて,裁判手続が開始して,それに必要だという何らかの限定を付した形の協力というような形でどうでしょうか。
それはなぜかといいますと,中央当局というものが申請をしたり,申立てをする方に肩入れをして,代理人になったり,手続も進めるようなところもあれば,全くそうでないところもある。それで,日本が選択したのは,実は中央当局は,やはり私人間の返還をめぐる紛争であるので,協力は勿論するけれども,最終的には当事者の責任においてやるものを円滑に進めるための情報提供とかそういうところから出発するのだということだったと思います。しかも中央当局間の連携の在り方は今後恐らく今後詰めていかれると思いますので,やはり限定があっていいのではないかと考えます。
済みません,棚村委員は,外国からのことについてですね。それとのバランスで,国内での裁判に関しても,この原案で言えば括弧書き,「(並びに申立人及び相手方)」は付けない,と。
いえ,この原案どおりで私はいいと思っています。
この原案は両論併記になっていると思うんですが。
バランスは余り考えなくていいのではないかと思います。
8ページの一番上の赤字のところですね。
当然,国内の事案は当事者同士が資料を出し合って,基本的にはきちんと解決に関わってもらいたいということもありますので,国内のケースに関しては,申立人と相手方からの要請に対しても必要な範囲で援助しないといけないと思います。限定するのは海外から来た場合に対する対応です。
今の点はそういうことで,棚村委員のお考えははっきりわかりましたが,ほかの方々はどうでしょうか。
外国からの求めについては,特に皆様の間で異なった意見はないかなということでよろしいですか。
ただ,裁判所ではなくて行政機関という国があることはあるんです。そういう場合に,その行政機関はどんなものかという問題はあるかもしれませんけれども,それはレアケースであるということで。
(1)の方については,杉田委員,相原委員いかがですか。
あえて反対する必要まではないかと思います。基本的に,先ほどの中央当局の方の手間の面というのはあるのかもしれませんけれども,申立人及び相手方からの求めに対しても適切に対応していただけるのであれば,あえてここで入れるべきではないと,私たちとしても意見を言うつもりはありません。
外務省の方はいかがですか。更に何かございますか。
基本的に,申立人及び相手方ということを入れるという御意見でしたけれども,「申立人及び相手方」という書きぶりになっていますので,当然,裁判手続に関係している場合という限定が付くものと理解しており,ただ単に,個人的にどうなっているのかというようなことまでは含めないと理解しております。
局長,どうぞ。
辻阪の方から事務量の話を少しいたしましたが,事務量自体はつなぐという作業でありますので,中央当局が自分で外国へ行って調べるわけではありませんから,事務量というのは一定の常識の範囲に収まると思います。
他方,相手方の中央当局の事務量は,申立人及び相手方が言ってきたものを丸投げすればどの程度のものになるか,全くわかりません。したがって,真面目に作業をすれば,極端に言いますと,何年もかかるような情報提供要請をかけられた場合に,裁判が既に始まっているときに,その回答が来なければ裁判が続けられないということは,私は訴訟法に明るくないので教えていただきたいんですけれども,1つの裁判日程,これは御承知のとおり,なるべく早く,極端な場合は半年とかそういう制限の付いた中で作業をすることが求められている条約なんですけれども,この手続的な規定から裁判期間が次々の調査を結果待ちという形になるようなことは起きてくるんでしょうか。
中央当局は,申立人から来たものが妥当か,妥当でないかを判断する余地はないですね。それは裁判も始まっているわけですから,裁判所から来れば裁判所が判断してしまうことを中央当局としては当然,相手方中央当局につなぐというのは一つの整理がされたものとして,それから裁判手続上,裁判所が判断したものとして受け止めることができますけれども,どちらかわかりませんが,そこから来たものは,中央当局は判断の余地がないと思うんです。
そうしますと,来たものは全部つなぐという以外に多分,中央当局としての整理をすれば,その整理する根拠が必要になってくるということから,能力もなければ根拠法もない。そこで相手が受けない。それでは,受けるための交渉に入るとか,なぜ,これができないかということを今度は申立人に説明しなければいけないとか,かなりここの部分は,手続的なことであるにもかかわらず時間が非常にかかる。
連邦制のところに行けば,中央当局は連邦政府にあって,そこが次々に州,それから,市等々と行く。そういうことから見ても,調査要求の内容によっては,それ自体の結果が出てくる際に非常に多くの時間と手間がかかる。これは日本の中央当局が受けている手間ではないんです。相手に求めるから,相手方が担わなければならない作業になっている。
他方において,向こうから来るのは裁判と限定すると,外交的に申し上げますと,やはり国と国の行う作業は,通常,一定の相互主義が常識でありますので,こちらがここまで求めているのに,相手方はここの途中でとまるということですと,相手方から,日本の要求はあるけれども,私たちの協力は,日本に対してはここまででとめるんだというようなことを言われかねない。それに対して反論するのは,多分理屈がないと思うんです。
ですから,その辺りを少し,この裁判手続上の問題,それから,外交的に見たときの国と国の相互主義の原則から見てどう考えるのか,この辺りもお考えいただければありがたいと思います。
相原委員,どうぞ。
今,局長がお話しになったのは非常に理解ができるところであります。それと同時に,杉田委員が申し上げたところも,あえて特にそれに対してどうこうという趣旨ではないということです。つまり,現実的な点で期待できるかといいますと,非常に難しいのではないかということを前提にここのところは議論しておりまして,可能ならばその道を閉ざしたくないというレベルでございます。あえて海外の中央当局に対してということで情報提供を求めることができるということにウェートを置くというのは,余り意味のある方向性ではないだろう。むしろ現実的には,前回も出ておりましたけれども,在外公館における邦人の援助だったり,それから,海外における代理人とうまく連携を取るとか,そちらの方が多分現実的であろうということは理解しております。
とりあえず以上です。
それでは,この論点も出るべき御意見は出たということで整理したいと思いますが,ほかにはいかがでしょうか。
どうぞ。
1点だけ先生方に教えていただきたいと思います。今回相手方の,連れ去った親の居所の情報の取扱いに関して,それが相手方に伝わるおそれがあると,要は情報提供もなかなか得られませんし,相手方に伝わるということをDV被害者は一番恐れているわけですから,国内を転々としてしまうようなことになってしまって実質的な解決が図れないということで,原則,外には出さないという厳格な取扱いを決めたと思うんですけれども,前回の法制審議会の議論で,連れ去った親の名前を出すというのは,その方は多分,居所を秘匿しているからいいわけですけれども,それが現に監護している者となった瞬間に範囲が広がって,必ずしも居所を隠していない。そうなった場合に,それを伝って加害者からの追及を受けるおそれがあるのではないかという指摘が最高裁の方からあったと思うんです。
それで結果として,先ほど相原先生もおっしゃったように,もしも通知してしまうと,結局,国内を転々としてしまうことにもなりかねませんねというお話があったかと思うんですけれども,そうしますと,私自身も前回の法制審議会で,そういうことにも気をつけて今後検討する必要がありますよという問題提起があったと思うんですが,それに対して,こういう形でそういう転々としないとか,DV被害者の方々の不安を落ち着かせるためにこういう考え方をしているんですという,どういう答えをすれば良いのか。要するに本当にレアケースで,そういうことは余りないんだといえば,ないのかもしれませんし,そこが私,感覚として,どういうふうに問題提起に対して答えていったらいいのかがわからなかったものですから,少なくとも相手に通知するとか,そういうことがどうかなというのは一つの考えだったわけですけれども,その点について先生方の実務的な感覚として,どういう答えの仕方があるのかというのがありましたら教えていただけないでしょうか。
相原委員,どうぞ。
本当に御指摘の点に関しては,日弁連の両性の委員会の弁護士,前回,法制審の長谷川京子委員やこちらのヒアリングにおいて川島弁護士も述べていたところで,非常に問題点のところで,御指摘はまさにそのとおりだと思います。
今,私の方で確たる回答があるわけではなく,非常に悩ましいところは先ほどから申し上げているとおりですけれども,対外的なところで,相手方に開示することによって,また次のところに行くことも想定してしまうという事態もやはり非常に悩ましいんです。どこかでえいやと相手方を確定しなければいけないところもあるかと思うんですよ。ですから,そこのボーダーをどこで線を引くのかというところかについて,今の段階では回答はありません。御指摘のところはまさに私どもで否定するところではありませんので今後も,DV問題をやっておられる人から今回のパブリック・コメントなどでも御意見が多数出ているところかと思いますので,回答できませんけれども,検討させていただければと思います。
それでは,時間も回りましたし,今日の論点は一応さわったかと思うのですが,局長どうぞ。
お時間が過ぎているところで恐縮ですけれども,外務省を代表いたしまして,この場におきまして,このパブリック・コメントを出していただいた団体の方々,また,各個人の方々に対して,御礼とともに敬意を表したいと思います。
今日の議論を聞いていただければ,お出しいただいた御意見一つひとつ,私どもにとって大変大きな知恵とお考えをお示しいただいたと思っておりまして,このような懇談会を開催し,パブリック・コメントの制度を通じて国民の皆さんから直接お声を聞かせていただくということがいかにこの内容を充実させていくかということを痛感したところでございます。
委員の皆様方にも真剣に議論していただいたということは勿論,日ごろから感謝を申し上げているわけでありますけれども,外におられて,ウェブサイトその他を通じて情報を取った上で,御自身でお考えをまとめて,それをまた私たちに提供していただいているということは本当にありがたいことだと思っておりますので,この場を借りて御礼を申し上げたいと思います。
ただいま局長からは,特にパブリック・コメントに関わっていただいた方々への御発言がありましたが,私もそのように思います。
あと,この懇談会ですが,今日の会議では,積み残しになっていた論点もきちんと含めて意見交換を行っていただきまして,いろんな御意見がございましたけれども,それなりの方向性がかなり見えてきたのではないか。今後,法律案の起草作業を進めていく上で今日の議論は大変参考になるものであったのではないかと思います。
内容について改めて整理することはいたしませんが,今のようなことで今日の議論を一応終えたいと思います。
本日の議論の結果を踏まえた今後の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。
まずパブリック・コメントですが,本日の結果概要は,準備ができ次第,ホームページに掲載して対外的に公表したいと考えております。
懇談会ですが,12月に次回会合を開催したいと思っております。12月の会合では,パブリック・コメントにかけた案においては,「なお検討する」となっていた部分が幾つかありましたが,その後のパブリック・コメントの結果とかヒアリング,これまでの懇談会の議論とか,各省庁の方々と個別に相談させていただいたような事項も盛り込んだ資料を提出し,これにのっとって議論を行っていただいて,その方向性に沿って,今後,法律とか政省令とかガイドラインを作成するという方向に持っていけたらと考えております。
以上です。
それでは,ただいまお話がありましたように,できれば次回の会合は,この懇談会の最終回としまして,これまでの議論を踏まえて,論点の最終とりまとめを行うという趣旨で更に御議論をいただくということになると思います。
それでは,これで「ハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会」の第4回会合を閉会させていただきたいと存じます。
皆様,大変熱心な御議論をありがとうございました。