平成23年9月13日
(小早川教授)
それでは,時間が過ぎておりますので「ハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会」の第2回会合を開催いたします。
早速ですが,初めに,配付されている資料についての確認を事務局からお願いいたします。
(辻阪室長)
配付資料ですが,お手元の懇談会の次第。
出席者一覧。
座席表。
「ハーグ条約の中央当局の在り方に関する主要論点」。
「子の所在特定に関するフローチャート案」。これは主要論点と一体のものとしてお考えください。
右上に「ハーグ条約(子の返還手続関係)部会資料1」と書いてあるもの。
あと,日弁連から出されているアンケートはお手元にありますでしょうか。
(小早川教授)
アンケート結果報告ですか。
(辻阪室長)
「国際的な子の連れ去りに関するアンケート結果報告 9月7日 日本弁護士連合会」というものが配付されているかと思いますが,最後のものにつきましては,日弁連がハーグ条約に関する事案に関して受けた相談について,会員に対してアンケート調査を実施したものでございます。後ほどお目通しいただければと思います。
以上でございます。
(小早川教授)
それでは,本日は時間が限られていることもございまして,今,確認されました資料にあります各論点の,事務局からの説明は省略させていただいて,これから申しますけれども,順序に従って具体的な議論に入っていただきたいと思っております。
続きまして,法務省より法制審議会での議論につきましての御報告をいただけると伺っております。
(法務省(金子官房参事官))
法務省です。
それでは,若干お時間をいただきまして,ハーグ条約の法制審の部会におけるこれまでの議論状況等について簡単に御説明いたします。
法制審のハーグ条約部会は,条約実施のための国内担保法のうち,子の返還手続関係部分について検討するために,本年6月6日に法制審議会の諮問を受けて設置されたもので,髙橋宏志中央大学大学院教授を部会長として,7月13日からこれまで3回にわたって開催してまいりました。
同部会では,先ほど御紹介いただきました本日の資料中にあります「ハーグ条約の締結に当たっての具体的な検討課題」と題する書面に記載された論点を中心に検討を進めております。現在,第1読解として一通りここに掲げられている検討課題の検討が終わったところでございます。
非常に論点が多岐にわたっておりますので,このうち一,二,主として議論になったところを御紹介します。
例えば最初の第1に「3 管轄」とございます。これは子の返還の手続をどの裁判所が管轄するかという問題ですけれども,事件処理については専門的な知見の集積,中央当局との連携等が非常に重要でありますので,管轄を集中しまして,特定の裁判所のみが事件を扱うことができるものとするということが議論されております。例えば東京家裁1庁のみにするのか,あるいは高裁所在地の家庭裁判所8庁に管轄を集中するとか,そのような意見が出されているところでございます。
「34 子の返還の強制執行」に関しましては,子の返還命令が出された場合,どのような形でそれを実現するのかということが議論されております。間接強制のみとするのか,あるいは何らかの国家機関が子を相手方のもとから取り上げて直接履行するということまで認めるかという辺りが問題となっているところでございます。
5ページ目に「第2 子の返還事由・返還拒否事由」がございます。
特に返還拒否事由につきましては,条約上は第13条第1項bというところに該当しますけれども,条約上は「返還することによって子が身体的若しくは精神的な害を受け,又は他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険があること」という規定ぶりになっていますが,この規定のままでいいのか,あるいはもう少し裁判規範としてより明確なものにすべく例示をするなど工夫が必要ではないかということが議論されているところでございます。
その他の検討課題につきましても,第4回以降,引き続き検討を深めてまいるところでございます。
今後の予定ですけれども,7月も2回開催しまして,9月もあと1回開催する予定でおります。今後10月以降もおおむね月2回の頻度で部会を開催することを予定しております。
今までの議論に踏まえまして,中間的なとりまとめを一旦行い,9月末あるいは10月の初めごろからパブリック・コメントの手続に付すことを考えております。なお,このパブリック・コメントは1か月程度を予定していますが,その期間中にヒアリング等を行うことを検討しております。
以上,簡単ですけれども,検討状況の説明とさせていただきます。
(小早川教授)
ありがとうございました。
それでは,今の御説明を承ったということで,次へ進みたいと思います。
今回は2回目の会合ですので,お手元の論点ペーパーに基づいて,ハーグ条約の中央当局の在り方に関し,より具体的な法案のイメージに沿った形での議論を進めていきたいと思います。
先ほど申しましたけれども,限られた時間でこのペーパーについての議論を一通り終えたいと思っておりますので,時間の都合で4つの部分に分けて御議論いただければと思います。
資料の主要論点ですが,第1のパートは,論点1,2です。
第2のパートは,論点3~5です。
第3のパートは,論点6~8です。
第4のパートは,43ページの「9.不服申立て等」でございます。
このように分けて取り扱っていきたいと存じます。
早速,第1のパートへ行きたいと思います。
1ページの「1.中央当局の設置」と,5ページの「2.中央当局に対する子の返還に係る申請」で6ページまで。ここを第1のパートとして議論をしたいと思います。よろしゅうございましょうか。
では,この箇所につきましてあらかじめお目通しいただいていると思いますので,どなたからでも御発言,御意見をお願いしたいと思います。
棚村教授,どうぞ。
(棚村教授)
今年の6月のハーグ条約の実際的な運用に関する特別委員会の結論と勧告を見まして,やはり中央当局と他の機関の連携,コミュニケーションの重要性というのは再確認されておりました。中央当局が任務とか権限とかそういうところできちっとした7条で定められているようなサービスとか任務を果たしていくことのためには,他の関係する機関の連携,協力,支援ということが不可欠だと思います。
ただ,行政はそれぞれに権限や責任というものを持っていますし,独自の役割を果たしているところとの横の関係を少し整理して,中央当局が独自に行うものと,他の機関の協力,援助を求め,そこが主体になってやっていくことに協力をしていく,その2つに整理できるかと思うんです。
今後,いろいろ細かいことが出てくるかと思いますけれども,任意の他の機関の協力というのは勿論大切なんですが,きちんと法文上のほかの国の担保法などを見ましても,ドイツなどでもそうですが,所在の特定であれば,どういうことについてどういう機関の協力が求められるという大枠の枠づけみたいなものは必要な感じがしております。
全般のところの権限とか任務というところで意見を述べさせていただきました。
(小早川教授)
ありがとうございました。
事務局からも何かあるかもしれませんが,まずは委員の皆様から。
大谷委員,どうぞ。
(大谷弁護士)
「2.中央当局に対する子の返還に係る申請」について,2点質問させていただきます。
まず1点は,5ページの「(1)申請があった時の中央当局の対応」です。ここで中央当局が審査を行うものとするという最初の一文がございますが,その中で「監護の権利を侵害して子が連れ去られ,又は留置されたと主張する個人,施設その他の機関から援助の申請があった時は」と記載されています。
ここでは中央当局が申請を受けて,その申請を受理し,さまざまな条約,特に7条で規定された支援を与えるということの要件として書かれているところでございますが,他方,法務省の法制審で議論されております返還手続の方では,返還手続の中での返還申立事由としては,申立人本人が監護権の侵害をされたと主張することとして御提案されていたかと思います。
そこでその整合性の関係ですが,こちらではあくまで行政機関である中央当局への申請で,裁判所に対する返還手続の申請とは場面が異なると承知していますが,ここでお書きになっておられる中央当局に対する申請としては,条約上のとおり,幅広く本人の監護権が侵害されたと主張する個人からだけではなく,施設その他の機関からの援助の申請をも受理されると伺ってよろしいのでしょうかという質問が1点です。
もう一点の質問は,6ページの(3)です。「申請要件欠缺の場合の処理」ですが,6月の締約国会合での議論におきましても,中央当局が明らかに不法性がない場合として,条約27条に基づき申請を受理しない,あるいは却下するという扱いは司法判断を伴うようなものではなくて,明らかに条約上の要件を欠く場合にするのが相当であるといった趣旨の議論がなされており,勧告及び結論でもそうなっていたかと思います。
子が16歳以上である場合や,子の常居所が締約国にはない場合,条約発効前の事案である場合等,申請からして明らかに条約が定める要件を満たしていないと言える場合はわかりやすいのですが,外務省の方では,この明らかに不法性がない場合,3条も挙げていらっしゃるので,この27条に基づいて申請の要件を欠くと判断される場合としては,ほかのどのような場合を想定されていらっしゃるのかお聞きできればと思います。
(小早川教授)
今のことは具体的な御質問ですので。
(法務省(金子官房参事官))
同じことで質問させてください。法務省です。
申請の要件といいますか,審査対象が欠けた場合は不受理とするというものについてですが,今,大谷委員から質問がございましたけれども,パブリック・コメントにかけるのであれば,やはりきちんと書き切ってしまうというか,すべて要件の審査の対象を明らかにしていただくのが望ましいのではないかと思っています。
これは,ひいては,不服申立てのところの,例えば44ページの2行目「要件不具備」の「要件」とは何かということと同じ問題だろうと思いますけれども,この「等」ということでまとめることなくきちんと書いていただく方が望ましいと思いまして,それでほかに何があるのかという大谷先生の質問と重なるのだと思います。
(小早川教授)
では,今の点に関連して,藤原委員どうぞ。
(藤原教授)
私も同様の関連質問ですけれども,申請要件欠缺の場合の処理について,明らかに却下できるもののほかに,ここに不確定法概念で明らかに不法性がないであるとかと書いてあるということとの関係です。今も御指摘がありましたが,43ページ以下では不服申立て等のところで対象と併せて行手法の話があって,標準処理期間のことはあるのですが,申請に対する処分であると構成すると今の議論と関係して,審査基準のようなものをイメージしておられるのかということですね。はっきりしておけという趣旨の中には,規則かガイドラインかはともかく審査基準的なものも書いておけという御趣旨にもつながるのかなと思ったのです。
以上です。
(小早川教授)
発展すれば審査基準の問題になるでしょうが,ただ,その前に担保法そのものの要件の書き方が問題ですね。
(藤原教授)
その前の段階ではそうですね。
(小早川教授)
ほかの委員の方,よろしいでしょうか。
では,今の点,外務省の方ではどうお考えですか。
(辻阪室長)
要件の審査対象を「等」でまとめることなく書き切るべきという御指摘に対しては,そのように改定をしたいと思っております。
監護権の侵害を受けていたのはだれからなのかという点に関しては,中央当局に対する申請は条約に書いてある申請者の範囲と同じものを考えております。
(小早川教授)
ということは,中央当局への申請に関しては,監護権を侵害されたと主張する本人以外の人もそれを理由として申請ができるということですね。
(辻阪室長)
そうです。
(法務省(金子官房参事官))
今の点でお聞きしたいのですが,ここでいう個人のほかに「施設その他の機関」というのは,施設その他の機関が子を監護していて,そこから子が連れ去られたような場合を前提にしており,法務省の方での検討とはそごがないものと思っていたのですけれども,そこは違うのでしょうか。。条約第8条第1項の解釈の問題かと思います。
(小早川教授)
そこはいかがでしょうか。
(辻阪室長)
ここの部分は,3条1項の「監護の権利を侵害して子が連れ去られ,又は留置されたと主張する個人,施設その他の機関は,当該子の常居所の中央当局又は他の締約国の中央当局に対し,子の返還を確保するための援助の申請を行うことができる」という,8条1項の文言を引いてきた部分でございます。
(小早川教授)
親に代わって監護権を行使している施設なり何なりを含むという意味であるということですか。
(法務省(金子官房参事官))
例えば親が実際は監護していて,そのもとから子が連れ去られたけれども,その当該親は何も主張していないという場合に,独立の地位として何らかの国の機関が子を連れ戻せということをお認めになるという趣旨なのかとお聞きするのがよいかと思います。
つまり,施設そのものが監護していて,施設から連れ去られた場合は,その施設はまさに監護権を侵害されたものと言えるのですが,そうではなくて,監護権を侵害されていなくても,別の者が子の返還,援助の申立てをできるのかというように考えるとすれば,分かりやすいかと思ったんですが,いかがでしょうか。
(小早川教授)
最初に言われていた例で考えておられたのは,申立人は外国政府とかですか。
(法務省(金子官房参事官))
施設であっても監護権が侵害される場合はあると思うんですよ。その場合は,私が侵害されたのでもとに戻してくださいということを言うことができる。これは非常に自然なことだと思うのですが,大谷先生の御質問は,多分監護権が侵害された者でなくても,別の者であっても中央当局へ援助申請ができるのではないかという御質問だったんです。
それについては,条約の読み方としてそれでいいのだろうかという疑問があって,ここでいう監護権が侵害されたということが個人,施設その他の機関にかかって読むのではないかというのが我々が法制審でとっている考え方だったものですから,そうしますと,親のもとに子がいて連れ去られても,なお施設なり別の機関なりが返還の申請をできるということになるのかどうかということでお考えいただくと一番分かりやすいのではないかなと思ったんです。
(小早川教授)
では,棚村委員。
(棚村教授)
金子委員がおっしゃったように,英文のかかりとしても個人,施設,機関と出ておりますけれども,その前にそれが監護権の帰属主体となっているところが返還の申立権がある,つまり侵害をされていると理解できると思いますので,何らかの形で子どもについては援助をしているとか,支援をしているとかという団体とか組織というものが申請の資格を持つわけではなくて,親あるいは親に代わったような形で監護権を代行したり,法的に権限を付与されているところが申請資格はあるのではないでしょうか。
(小早川教授)
いかがですか。
(辻阪室長)
今,まさに棚村先生がおっしゃったとおりでございまして,3条1項のaでございます。当該連れ去り,または当該留置の直前に子が常居所を有していた国の法令に基づいて,個人,施設その他の機関が共同または単独で有する監護の権利を侵害していることとなっておりますので,基本的には監護の権利を有していて,それを侵害された人または機関が申請できると考えております。
(小早川教授)
大谷委員,どうぞ。
(大谷弁護士)
今の3条の読み方は,辻阪さんが説明してくださったとおりなんですが,8条の英文のかかり方は,確かにthat以下で,子が監護権を侵害して連れ去られ,または留置したと主張しているとかかっているんですが,「in breach of custody rights」のところで「custody rights」が今の3条のように「person,institution or other body」に帰属しているという特定のされ方がされていませんで,実際,判例を読んでおりますと,返還手続の申立人が例えば父親で,その人自身の監護権は必ずしも認められないんだけれども,裁判所に監護権の方は審理がかかっているので,裁判所が監護権を有するとその侵害であるということで,不法性の要件を満たすといっているような裁判例が見られます。
そのことから,8条の解釈として今のような解釈でよいのかということを疑問に思っておりまして,今,皆様がおっしゃったように,これは申立人そのものの監護権が侵害された場合でなくてはいけないんだと,8条がそう読めるんだと。それをそのまま担保法に移すんだということであれば,今の御説明でよろしいかと思うんですが,8条の解釈については,もう一度ほかの国の解釈と違いがないかということを御確認いただければ幸いです。
(小早川教授)
今,大谷委員が言われたケースは,申立人に監護権があるかどうかが確定していない。そこに争いがあるというケースですね。
(大谷弁護士)
はい。
(小早川教授)
自分が監護権者であると主張はしているわけですね。
(大谷弁護士)
主張はしています。
(小早川教授)
怪しいから中央当局で蹴飛ばす,ということにはならないんでしょうね。
(法務省(金子官房参事官))
自らの監護権が侵害されたと主張する者が申立人だと考えています。ですから,私は監護権はなかったけれども,別の公的な代表として,これは子を戻すべきだという主張ではなく,入り口論として,私は監護権を持っていますと主張すれば,それで恐らく要件は満たすのではないかと思っています。
その意味では,大谷先生の今のケースであれば,お父さんでありながら,今,実際に監護権が認められるかどうか争っているというケースであれば,それは私は監護権者だという主張でいいんだと思います。本案はいずれにしても別の話になるはずですからね。
(小早川教授)
では,棚村委員。
(棚村教授)
これは結局,監護権といった場合も6月の特別委員会のところでも,監護権については各国の概念の規定の仕方とか幅が相当あるので,それについては明確に定める必要があるということを言っているわけです。
大谷先生がおっしゃったような,まさに争いがあったり,帰属そのものについて問題があるようなケースというのは非常にレアなケースだと思いますけれども,いずれ最終的には監護権の所在というのは確定せざるを得ないというんですかね。事実上それをやっている場合というのは難しいですが,私も金子委員が言われるように,基本的には,監護権が侵害をされた個人あるいは団体や機関,これは先ほど言った裁判所が後見みたいな形でパレンス・パトリエというので権限をかなり取るような国もあります。
ただ,そのときに親の権利というのはどこまであるのかというのは,実はいろいろと不透明なところがあるんです。面会交流の権利はあるのではないか,通信とか連絡を取る権利はあるのではないか,情報のアクセス権というところを決めるところはかなりありますから,それを監護権の中に含めるのか。判例の中で争いがあるのは,出国禁止命令というのが取れるとすると,それのロケーションについて居所の指定の権利みたいなものはあるんだから,これも監護権の一種だということで,そもそも「custody rights」自体についてのどこまでをcustodyの権利とするかという争いとか定義というのは,国や運用によって随分違っています。
ただ,日本で考える場合には,親権と監護権とかの関係もいろいろありますけれども,一応,監護権を侵害された者が当事者であり,監護権を有していると主張する者が,最終的にはそれを有していないということがわかったり,反証が上げられてしまえば,申立資格そのものがないということになるのではないでしょうか。
(小早川教授)
かなり整理されてきたと思いますが,今,議論されていたのは,監護権を主張しているけれども,本当にあるかどうかはまだ決着がついていないというケースで,恐らく中央当局として,その場合にそれを蹴飛ばすということにはならないだろうと思います。
確認しておきたいのは,そうではなくて,自分が監護権者であるという主張をしない第三者が申請をしてきたのは,この条約では申請権があるとは言わないというのはいいんですね。
(辻阪室長)
はい。
(小早川教授)
そうしますと,今のような争いのあるケースについては,日本の場合,司法手続の方でそれが問題になるのだろうと思いますが,中央当局で,およそ荒唐無稽な主張をしている申請者に対しても審査はできないのかというのが,先ほどのもう一つの話,申請の要件にどこまでのものが含まれるのかということになってくると思うんです。3条の要件が実体的にあるかないかということをどこまで中央当局が見るか,担保法にどこまでなのかということをはっきり書き込んでほしい,という御意見があったと理解しているんですが,差し当たりそんな整理でよろしいですか。
棚村教授,どうぞ。
(棚村教授)
結局,これは3条の不法性が明らかにない場合と関連してくると思います。つまり,監護権の侵害が例えばインカミングのケースだと,常居所国でその監護権を持っていたかどうか。そして,それが侵害をされたのかどうかということの証明を場合によっては裁判所で得るか,得ないか。それが例えば申請のときに,そういう海外の常居所国での裁判所辺りで監護権を申請者が持っていて,それが不法に侵害をされているということの証明があれば,この不法性についての審査の部分というのは,割合と書面で形式的にできるということになると思います。
しかし,それがないような場合に,監護権の範囲とか,その国での監護権の扱いというものについて明確にするような資料,情報提供を相手から求めないといけないと思います。こちらの方でもある程度不法性の証明書のようなものを確認していくという中で,明らかに不法性や監護権侵害がない場合という要件の判断が可能になってくるのではないでしょうか。
それから,申請に十分な根拠がないというものも,単なる書類の不備とか,必要とされている書類,絶対的な記載事由とか,必要とされている書類のリストみたいなものもみんなつくっているわけです。ですから,必要な記載事項や書類が充足されていないと,完全にするようにできるだけ補正を求めるわけですが,その補正がなされないというときには,十分な根拠,つまり判断の資料が不足しているために申請を受け付けられないという理由になってくると思います。
ですから,今の監護権の所在の有無というのは,あくまでも監護権を侵害されていることが,申請者が一応形式的に証明をするような何らかの文書なりを出し,それについて必要があれば,中央当局も形式的に書類の審査をするなり,不法性の証明とかいう公的なものがあれば,それを出してもらうように促すというところで,ここの審査のレベルは,形式的,客観的に判断できる範囲にとどめる。だから,余り中身に踏み込んで,内容の当否みたいなことを判断する場所ではないということで理解をしていいのではないでしょうか。
ですから,監護権の所在についてもいろいろ各国によって事情が違いますから,その国の基準やルール,法令の下で監護権の範囲はどういうもので,それが侵害されているということの証明を申請者にまずは求めていく。それは国によってそういう証明書を公的機関が出してくれないようなところがありますから,それについては中央当局はしかるべきどういうふうに対処するかを考える。それは,多分申請受理のガイドラインとか,実務指針みたいなものを整備していくことになるかと思います。
(小早川教授)
今の御意見の前提も,形式審査にはとどめるけれども,監護権の所在というものは,要件としてはあるんだということですね。だから,それは,一応形式的にそれを証する資料なり,言明なりは,ないといけないということですね。
だから,要件の定め方の問題はあるわけで,資料の6ページに,先ほど御指摘がありましたけれども,形式要件を満たしていないことのほかに,申請に十分な根拠がない場合ということが書いてありますが,これがどういう意味なのか。今のようなことを意味しているのかということですが,基本的にはそういう方向でいいんですね。
(辻阪室長)
はい。
(小早川教授)
では,その点は少し意味が明確になるようにお考えいただければと思います。
第1のパートについては,ほかにいかがでしょうか。時間が限られておりますので,よろしければ次へ行きたいと思います。
それでは,次へ進みます。論点ペーパーの7ページ「3.子の所在特定」,18ページ「4.子に対する更なる害又は利害関係者に対する不利益の防止」,26ページ「5.子の任意の返還・問題の友好的解決」で,29ページまでになります。相当量がありますけれども,これについて御意見をいただきたいと思います。
相原委員,どうぞ。
(相原弁護士)
日弁連でこの中央当局の役割に関して,8月下旬にワーキンググループで議論をいたしました。したがいまして,今回論点として提出されておられるものと必ずしもリンクしていない部分はありますが,第1回の懇談会の記録に基づきまして,特に子の所在の特定の問題,返還,再連れ去りの問題について,大きく2つの議論がございましたので,簡単に御紹介させていただきます。
まず,子の所在の特定に関しましては,日弁連のハーグ条約に関するワーキンググループ自体には個人情報保護法の専門家の弁護士が入っていなくて,DVの問題,子どもの問題,家事法制という委員が中心の議論であることから,後々の意見書が必ずしも同様となるとは限らないのですが,議論の内容を御紹介させていただきます。
第1回にもありましたように,個人情報保護法との関係で子の所在の特定に関しては,個々の地方自治体,公共機関から情報を得るためには,何らかの立法が必要であろうというところに関しては意見の一致は見られます。しかし,提出することができるというのか,それとも義務として提出しなければならない,開示しなければならないとするかにつきましては,議論が分かれております。
ハーグ条約の目的を達成するためには,ある程度の開示する義務が立法によって制定されなければならないのではないかという意見と,一方で,DV,子どもの虐待等の観点から,知られてしまうということが「taking parent」の心理的な問題となって潜行してしまう恐れがあり,学校にも行かせないという状態も危惧されるのではないか。そうであれば,地方自治体等の行政担当者からすれば,その母子を守るという観点から,必ずしも開示しないということも必要なのではないかという意見もございました。
これにつきましては,まだこれから議論を深めなければならないのですが,そういう点と,一方でハーグ条約を批准するからには,一定の開示義務が必要ではないかという両論があったことを御紹介させていただきます。
もう一点,開示するもしくは開示義務があるにしても,その判断の中に司法手続きを必要とする,そういう手続をワンクッション,裁判所の判断を置いて開示の命令等が出るという手続を考えたらどうかという意見もございました。
また,再連れ去りの問題に関しまして,パスポートの保管に関して,諸外国ではその方法をとっているということがあると聞きます。これも子どもの保護という観点から,どこが保管するかという問題は出てくると思いますが,それも必要ではないかという議論,意見とともに,もう一論としては,子どもの渡航の自由とか,憲法上の権利等を勘案して,そこまでは,また手続上もどういう形をとるのかも問題であり,さらにこれまでそういう方法は,今,日本にはないことから,難しいのではないかという意見がございました。
とりあえず,簡単に御紹介させていただきます。以上です。
(小早川教授)
ありがとうございました。
どちらも重要な論点だろうと思います。ほかの方,いかがでしょうか。
棚村委員,それから藤原委員,どうぞ。
(棚村教授)
やはり子どもの所在の特定については,非常に中央当局としても最初の端緒的な段階での任務の大きなところかと思われます。そのときに責任の所在とか,ある程度の義務づけみたいなものはないと,必要な情報が集まってこない。ただ,集まった情報は非常にセンシティブな個人情報になりますし,DVとか暴力が絡む場合には,慎重にそれを管理,利用していく。特に相手方については,ここで提案しているように,同意がなかったりした場合には,相手方への提供とかは少し慎重にしないといけない。
情報の集め方の問題ですけれども,やはり段階的な対応が必要だということで,ここに御提案がいろいろありますが,多分最初に出国とか入国とかという記録みたいなものをチェックする。その後でもって住民票だとか,戸籍あるいは戸籍の附票とか,そういう形で段階的に順を追って探す。一番最後に,どうしてもわからないような場合には,例えば社会保障給付,児童手当とか,就学情報などの収集で見つける。ですから,文科省から前にありましたが,お子さんと学校との信頼関係を壊さないようにとか,勿論そういう配慮も必要ですし,DVの被害者に対する安全の確保も出てくると思います。
警察との関係などでも,やはり警察などが心配しているのは,日本の場合には連れ去りイコール犯罪というわけではないので,犯罪の捜査という形で得た情報みたいなものも含めてですけれども,そういうものをどういう形で提供するかというときに,行方不明者の捜索とは発見活動という一環でもって,警察への協力を求める。
いずれにしても,先ほど言いましたように,義務付けていくのか,できるというふうにするのかということで,提供する側の裁量とか判断みたいなものをかなり優先させるという仕組みにしてしまいますと,恐らくいろんな危険性とかリスクの評価がそれぞれあると思いますから,出さないということになると具合が悪い。かといって,関係機関の連携と協力,コミュニケーションということはどこでもうたわれていることですので,そういう中で是非バランスをとって,例えばこういう情報の提供,援助を求めることができると中央当局の権限としてやっておいて,できる限りこの援助の要請があった関係する機関は,これに応えなければならないと規定する。こういう少し穏やかな形の言い回しでの規定を置いておけば,相互に権限もあるし,それに協力する責務みたいなものはあるという形になると思います。余りにも義務化ということで,しなければならない,応じなければならないということにしますと,強過ぎてバランスをとることがなかなか難しくなってくる。そうなると,やはり中央当局としては,必要な協力,援助というものを一切求めることができるという形にしておいて,これに援助要請があったところについては,正当な理由がない限りとか,それに応えなければならないとか,責務があるという規定ぶりで,できるだけ調整が可能で,連携が進むような規定ぶりで考えてはどうかと思います。
(小早川教授)
ありがとうございました。
では,藤原委員どうぞ。
(藤原教授)
まず,前半の所在の特定のための情報の収集等における個人情報保護関連のところは,全体の整理としては,私はこれでよろしいのではないかと思います。特に順番等については,フローチャートに書いてあるところでおやりになるということですし,フローチャートの部分でも,子どものところは例外として,あとのところは効率化のために同時に情報提供を求めるという理解でよろしいんですね。そうであれば,私はこれで結構かと思います。
それから,個別の話ですけれども,まず,今,議論になった「できるものとする」と書くのか,「ねばならないとする」と書くのかといったような問題ですが,情報を提供する側の地方公共団体であるとか,民間の団体が一番懸念しているのは,根拠規定がないということですので,その規定が義務か裁量の余地を認める書きぶりかということではないと思います。多分この案件に関しては,自治体の現場等ではそんなに深刻な論点ではないと思います。根拠規定がないのに出してしまっていいのかという話ですね。
それとの関係で言えば,8ページです。確かに刑訴法とか弁護士法自体でも議論はあるのですけれども,更に言えば,法令に基づく場合,設置法が書いてあるんですが,ここは多分争いのあるところではないかと思います。設置法を法令の根拠として読めるかどうかというところですね。結論ですが,確かに刑訴法とか弁護士法に自治体や民間がどう応えるかというのは議論があるところですけれども,その意味では,先ほどの例は義務を少しきつく書いておいた方がいいのはないかと思いますが,明確な根拠があれば,この種の問題でそれほど問題になることはないのかなという感じがしております。
2番目ですけれども,9ページの2段落「また」以下ですが,ここは法律では書かないという前提のでしょうか。TPとDV等を理由とした支援措置の段落です。ここは担保法に書かないという前提であると,ここは個人情報保護法あるいは条例等の解釈の問題となって,同意をどこで読むかという問題が出るだけだということで,法律にないと,ここは今の議論がそのまま引き継がれるところかなと思います。
関連して,その次の「この点,『グッドプラクティス集』」云々と書いてある情報の秘匿に係る法令と書いてありますけれども,これは個人情報保護法の要請というよりは,どちらかというと守秘義務のお話が書いてあることなのだろうと思います。原典に当たったわけではありませんが,守秘義務が解除されるというお話なのではないかという気がします。要は,ここでの話は,法律にどの程度明確な根拠かというお話なんだろうと思います。
もう一つ,12~13ページの情報の利用の話があります。ここには租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律とか,労働関連法規がありますけれども,金融関係で貸金業法とかクレジットの割賦販売法の関連でデータベースに情報をいろいろ集めるときの法改正にもこの種のことは書いてありますし,更に言えば,独法の個人情報保護法には担保措置のことも明文で書いてありますので,その辺りも参考にされればいいのかなと思います。
とりあえずは以上です。
(小早川教授)
ありがとうございました。
杉田委員,どうぞ。
(杉田弁護士)
まず,子の所在特定に関して幾つか質問をさせてください。
7ページの最初に「(1)中央当局による情報の取得・関係機関による情報の提供」というのがありまして,ここには地方の機関のほかに,関係ある民間団体に対し情報の提供を求めることができるものとすると書いてあります。特に就学情報等については,公立に限ってしまっては余り意味をなさない。特に私立等もあるので,関係ある民間団体に対し情報提供を求める必要性というのは十分理解しています。
他方で,関係ある民間の団体というと,正直幅が広過ぎるというか,例えばシェルターとか,あるいは子どもと一緒にいる者のクレジットカードの情報とか,どこまでの範囲を考えているのかというのがわからないというか,どこまでお考えなのかということと,学校に関するものも含めて民間の団体というのは一律に別の扱いというか,そういう感じでお考えなのかというところをお伺いしたいというのが1点目です。
次は,質問というよりは意見という感じなんですけれども,14ページの太字の括弧書きのところに,得られた子の所在等の特定に関する情報に関しては,申請者や相手方の中央当局の方には必ずしも提供しないというか,提供しないことを原則とする。提供しないことを前提とした上でも,司法手続きが開始できるようにする仕組みを構築することが必要となるという記載があって,これはそのとおりだと思いまして,これについては法制審の方でも議論されると思うんですけれども,その場合,管轄の集中との関係でも絡んでくると思うんです。所在が特定できても,それを相手方に知らせない場合,どこの裁判所で行うのかというところで,例えば高裁8か所となった場合だと,ある程度どの辺りにいるのかというのが特定できてしまうのかという関係で,ここは法制審の方で多分議論されると思いますが,問題になり得るところなのかなとは思いました。
あと,最後に,子の所在特定でさらなる措置ということで,15,16ページのところですが,警察が子の所在特定の手続の中で関与するのかどうかというのは非常に難しいというか,問題だなとは思っています。ここに書かれているところは,行方不明者の発見活動に関する規則ということで,そのような限度で行うことを検討されているということのようですが,私自身がまだ十分に行方不明者の発見活動というのがどういうものなのかと。規定を見た限りだと,何らかの活動を行っている中で発見にも配慮してということで,積極的な活動までは当然想定されてはいないんでしょうけれども,やはり警察が関与するということ自体が一般の感覚からすると大事というか,なかなか理解を得られるのが難しいところだと思いますので,これについてはこちらとしても十分な検討をしていく必要があるのだと思っています。
以上です。
(小早川教授)
では,引き続き,大谷委員どうぞ。
(大谷弁護士)
2点ございます。
いただいた原案についての賛成の観点から意見を述べさせていただきます。
「3.子の所在特定」の(1)で7ページの一番下に,段階的に情報提供を求めると。その理由として,行政効率の観点というのを挙げておられます。棚村委員も先ほど御指摘されたかと思うですが,段階的に情報提供を求めるという方針に賛成です。
理由として挙げてくださっている行効率の観点というだけではなくて,できるだけ必要な範囲で必要な限り行うという,一律に情報を全部網羅的に集めるというのは権限濫用というか,必要のないものまで集めてしまう危険性もありますので,段階的ということに賛成です。
もう一点は,8ページの一番下からで,情報を提供するに当たり,関係機関,団体が本人の同意を必要とすることが適当か否かという論点についてです。いただきました案では,同意がある場合に限ってとするのは適当でないという御提案と思いますが,それに賛成です。
理由としては,ここに挙げてくださっているほかに,ここで言っているのは,あくまで子の所在特定,子の所在情報であって,勿論,子と子を連れ帰った親が一緒にいることは多いとは想定されますが,あくまで子の所在についての情報を中央当局が集めるということですから,ここでいう本人というのは,本来,子なのであって,それに相手方の同意を必要とするのは適切ではないと思います。
(小早川教授)
では,文部科学省,どうぞ。
(文科省(池原課長))
2点,要望をさせていただきたいと思います。
1点は,7ページの枠のすぐ下にございます「(1)中央当局による情報の取得・関係機関による情報の提供」のところでございます。先ほどもありました私立学校と各種学校についてでございますが,文部科学省としましては,システム的には都道府県知事部局を経由して照会をしていただくのがいいのではないかと思っております。そういう意味では,民間の団体ということではなくて,関係地方公共団体の方で読んでいただくということでどうかと考えております。ただ,その知事部局から私立学校に行ったときに,私立学校にどこまで協力してもらえるかという問題は発生するかと思います。
もう一点,9ページの枠囲いのすぐ上のなお書きの4行でございます。先ほどから議論がございますが,法律に規定がある場合については,本人の同意がなくても関係機関の長は情報を提供するという趣旨だと思っております。その上で,関係機関については,裁量があると法的・道義的責任を追及されるということで,関係機関については非常に負担が多くかかることがあると思います。
その意味で,ここに情報提供の手続について明確に定めるということがありますが,併せて提供しなければならない情報の範囲をコンメンタールなり,ガイドラインなり,通知なり,何らかの形で例示をしていただけるとありがたいと思っております。その学校に子どもがいるかいないかというのは,当然出すべき情報だと思いますが,例えばその子どもの現住所ですとか,保護者の連絡先ですとか,その子が転校していた場合に転校先の学校,あるいは転居していた場合にその転居した住所といったものまで出す必要があるのかどうか。その辺は私どもはどうしたらいいのかと思っておりまして,その辺の何らかの形で例示なりしていただけるとありがたいと思っております。
以上です。
(小早川教授)
いろいろ御発言がありましたが,多くに共通して,基本になるのは,公の機関,行政機関等と中央当局との間での情報提供のルールをどうするかということと,民間の機関までいった場合にどのような考え方でいくかということがあります。
前者の方は法律にどう書くかという話でもありますが,実際いろいろな立法例を見て,どういう書き方が一番望ましいのかというのは,この場ではわからないですが,法制的にいろんな考え方を整理しないといけない。
私個人としては,公の機関相互というのは,ある機関が法律で任務を与えられて,その法律でそのために情報を集められるということになっていれば,基本的には相互協力すべき関係にはあるのではないか。
先ほど,義務規定にする必要があるかどうかという点もありましたが,基本的には相互協力の義務が一般的にあるんだと思います。ただ,その場合に,この条約上の義務を履行するために,どこまでの情報が本当に必要なのか。どこまでの提供が必要で,だからこそ協力してもらうというのか。その基準はやはり問題になるわけですね。それを法律に書くのか,それとも中央当局と各関係省庁との協議でもって具体的なガイドラインをつくっていくのか。その辺はいろんなやり方があると思います。ただ,いろいろ心配が出てきますので,ペーパーの書き方ももう少し工夫していただければと思っております。
民間団体の方はどうなんでしょうね。これはまた,それぞれの分野で事情も違うので,関係行政機関が間に入って,何らかのガイドラインのようなものができていくことが必要だろうという気がします。
本人の同意がどうかということがありましたが,先ほどの,大谷委員でしたかね。子どもの同意と,親権者ないしは監護者の方の同意は,どうなんですか。
(大谷弁護士)
済みません,私の発言がわかりにくかったと思います。
むしろ先に質問すべきだったのかもしれないんですが,ここで「本人の」と外務省の方でおっしゃっているのは「子どもの」という趣旨だったんでしょうか。よく議論されているのは,どちらかというと子と一緒にいる親の同意が必要かという頭で読んでいたので,そうであれば不要であるということを言いたくて発言をいたしました。
子の同意が要るかという御質問だとすると,子の同意は,この場合,返還手続で言っているこの意義のような話ではありませんので,法律的な意味の同意ということになると,親権者が行使するという話になり,親権者がだれなのか。場合によっては,共同親権であったり,そこに争いがあるということが出てきて,そういった観点からも,子の同意を必要とするというのは適切でないと思います。
(小早川教授)
藤原委員,どうぞ
(藤原教授)
今の同意の場面というのは,どの場面の同意ですか。
(小早川教授)
所在情報の話です。
(藤原教授)
それについてですね。取得の場面ではなく利用・提供の場面であるとするとですが,勿論,実務がスムーズに動くようにしなければならないんですが,理屈を申し上げれば,この種の問題の子の同意というのは財産権の同意ではないですね。どちらかというと人格権的な同意ですね。ですから,いわゆる財産権的な同意で片づけていいかどうかは議論があるところだと思います。
一方に,監護権の問題がありますけれども,16歳ということで年齢もかなり上がってくるし,個人情報保護法の分野で同意はどうかというときによく議論するところですが,出発点はいわゆる財産権の話をしているのではないという点の考慮も要るかと思います。まずそれが1点目です。
それから,先ほどの座長のお話ですけれども,公の機関が相互で職務共助というお話が出て,限界を画するのは情報が余り集中し過ぎないということ。つまり,情報上の権力分立の観点だけだということだと思います。それはそうなんですが,実際に問題になるのは,国の行政機関相互とか,国といわゆる独法対象法人との間というよりは,国と地方公共団体という場面で問題になります。先ほどの刑訴法の捜査事項照会とか,弁護士法の照会でも,国と地方公共団体のときにどうなっているかというお話しが,中央当局対地方のお話のときに実務的な配慮がいるかもしれません。
もう一つ,民間の場合は,恐らく必要性と合理性があれば提供してよい,国賠等の法的責任は問われないんだということがしっかりしていれば,かなり安心感を与えると思うので,その意味で,先ほど申し上げたように,根拠規定がきちんとあれば,書きぶりにそんなにこだわらなくていいのかなと申し上げました。
以上です。
(小早川教授)
相原委員,どうぞ。
(相原弁護士)
ひとつ確認させていただきたいと思います。
開示してもらう情報の対象が子ども,ここには子及び子を連れ去ったと思われる者の現住所ということになろうかと思うんですが,文科省等の御質問にもあったかと思いますが,結局所在調査をするとして,監護者等のところが不明であるとすれば,子だけではなく,更に監護者もしくは監護していると思われるであろうということで広がっていく可能性があるのかなと思います。そうすれば,情報の範囲が広がることを危惧する点や不安に思うという意見もありますので,どこまでを所在確認,つまり子の特定のために必要な情報とするのかその理由をマニュアル,ガイドライン等にきちんと明記してほしいということを,ここで申し上げておきたいと思いました。
とりあえず,以上です。
(小早川教授)
棚村委員,どうぞ。
(棚村教授)
それと個人情報保護との調整の問題ですけれども,大谷委員もおっしゃっていように,子の所在の特定ということが一番情報収集の主たる目的になるわけです。それに伴って監護者というか,現に監護をしている者の居所というのも併せて出てきてしまうということだと思うのです。
そのときに,子どもあるいは子どもと所在する者の同意といった場合に,あくまでも親が知らせたくないというのが親側の事情なのか,子どもを守るためのことなのかというのはなかなかわかりにくい場合が多い。そういうふうにするよりは,児童虐待防止法の13条3にあるように,提供は関係機関に情報提供できる。ただし,本人または保護者の権利や利益を不当に害するおそれがあるときにはこの限りではないみたいな形で,むしろ同意ということにやってしまいますと,欧米諸国からすれば,親が子どもの情報とか,どこに住んでいるか,元気でいるかどうかということを知る権利があると明記しているところは多いんです。日本はたまたまそういうことは当然のことだということで規定していないわけですから,そういう意味で,子ども自身の同意ということにかけるということ自体も非常に問題が出てきますし,保護者も一体化しているわけですから,同意の有無ということで情報を取れるか取れないかということのバランスをとるのではなくて,やはり本人たちの利益を情報提供することによって著しく害するおそれがある場合には一定の歯止めをかけるというやり方の方がいいかなと思います。
(小早川教授)
確認ですが,その,歯止めをかけるという場合に,それは情報を持っている機関,団体が気をつけろということなのか,中央当局が要求するなということなのか,そこはどうですか。
(棚村教授)
結局,中央当局が要求をして,原則は提供を求められるのですけれども,持っている側がその情報について,例えば子どもの生命とか安全を害するようなことがあるということをある程度説明し,納得できるものがあれば出せと言えない場合があるということで,例えば児童虐待防止法などもそういう形にして,情報の共有化とか,関係機関の連携の強化みたいなことを2007年に図ったわけです。それは,まさに個人情報との兼ね合いの中で生命の危険とか,そういうことを守るためには介入も必要だとした。守秘義務もその範囲では解除されることになる。
ただ,逆にそれが本人たちの利益を著しく損なうときには一定の歯止めをかけるということなので,同意が要るか要らないかというのは,第三者提供とか目的外利用をする場合の歯止めにしているわけですけれども,それが一定の範囲で法令上の根拠で認められるにもかかわらず,なおかつ同意がまた必要だというときに,まさに子どもの同意というのは,大体連れ去りが問題になっているのは,各国例を見ても,6~8歳ぐらいが平均です。そのときには,子ども自身の同意というのは余り機能しないのではないかと思います。
それから,親の同意ということになれば,ある意味では,所在を隠す方向に,知られたくないという要請の方が強いでしょうから,中央当局を信頼するという前提で,中央当局には一応そういう情報を集めるけれども,それがほかにみだりに漏れたりすることにならないような徹底した管理と利用についての限定をしていくということでいいのではないかと思います。
(小早川教授)
では,藤原委員お願いします。
(藤原教授)
私が先ほど同意とか人格権と申し上げたのは,その前に,どの場面ですかと申し上げたと思うんですが。
(小早川教授)
所在の特定。
(藤原教授)
所在の特定に係る情報,収集・利用・第三者への提供という場合があるので,ここに書いてある収集のところは,先ほど棚村委員が言われた秘匿のところですね。ここは同意云々ということはこのペーパーでは,にももう決めてあるのかなと思ったのです。
ですから,御質問は別の場面の第三者提供とはっきりしていない部分についての話だと思って,先ほど人格権云々と申し上げたということだけを申し上げておきます。
(小早川教授)
では,相原委員どうぞ。
(相原弁護士)
同意について今,棚村委員がおっしゃったのは,全く同感であります。
あと,これは個人的な意見ですけれども,中央当局に情報が得られたら,そこがきちっとそれをキープして,外に出ないようにするということに責任を持っていただく方向というのはありだと思って同感です。
その上で御質問ですけれども,同意がないとかいう状況のときに,開示した方は,それを監護している人には開示した後に,開示したよという旨は伝えるのでしょうか。開示したよということ自体も言わないということなんでしょうか。これは一瞬悩ましく思ってしまったので,もしお答えいただけるのであれば教えてください。
(小早川教授)
まず,収集した情報をどういう条件でだれに対して開示するのかしないのかということがありますね。その条件に照らしてだれかに開示した,という場合についての御質問ということですね。
(辻阪室長)
同意をとる場面の議論が錯綜しているかなと思ったんですけれども,基本的には中央当局が関係機関から情報をもらうときには,子または子とともに所在する者の同意は必要ないと考えていて,中央当局が相手方中央当局に対して所在情報を提供する必要がある場合には,14ページの黒い太字で書いてあるところですが,その情報を提供するに当たっては「子又は子と共に所在する者の同意があり,かつ,当該情報の提供によりこれらの者の権利利益を不当に侵害するおそれがないと認められる場合に限り」と,更にもう一つ,提供を受ける者が「目的外で当該情報を利用することがないことを確認した上で提供する」と縛りをかけていますので,第三者,中央当局が例えば他国の中央当局に提供するような場合には同意をとりますので,それは本人にもわかるということだと思います。
(小早川教授)
棚村委員,どうぞ。
(棚村教授)
これは条約上のことですけれども,先ほど先生がおっしゃったように,私はここをちょっと問題にしていて,他の中央当局が協力を要請した場合に,勿論本人の安全とか被害が及ぶということは,不当に利益を侵害するというところに入るのですが,同意をしなければ出さないということになったら,ほかの中央当局から信頼関係を持ってもらえるのでしょうか。
逆に言うと,こちらが出してほしいといったときも,相手方がそういうことで,権利を侵害するということではなくて,同意ということだけであれば,出さないということにならざるをえない。同意がもらえない場合には,出せないということになるんでしょうか。
(辻阪室長)
基本的には,同意が得られない場合は,相手方中央当局には出さないということを考えていまして,これは出さないことによって,出さなくても手続が進められると考えておりますが,出さないことによって,例えば司法手続が進まないだとか,相当な理由がある場合には,先ほど申し上げた前提条件を付して出すということで,原則は一切出さないということです。これはアメリカにおいても同じような取扱いをしていると承知しております。
(小早川教授)
よろしいでしょうか。
(棚村教授)
お聞きしたいのですが,例えば返還手続を訴訟で起こしたいというときに所在がわからないということで,所在を求めるということがありますね。そのときに,中央当局は自分で取得した子どもの所在に関する情報を裁判所に提供したり,中央当局に提供することはあると思うのですけれども,当事者に提供して,訴訟の開始みたいなものを支援するというところまでは考えているのでしょうか。
(小早川教授)
いかがですか。
(辻阪室長)
すみません,当事者というのは申立人ということですか。
(棚村教授)
申立人のことです。
(辻阪室長)
基本的には,申立人に場所をわからない形でも裁判が提起できるようにということを考えております。
(棚村教授)
それは返還手続の中でどこまで裁判所が住所とか所在を把握して,それを相手方に伝えるか伝えないかという問題があるかと思いますが,申立てをした本人がどこまで住所を把握して申立てが可能かという手続の問題もあり,中央当局がその何らかの情報を得たときに,どういう条件で提供できるかといった場合に,本人の同意と不当に害さないという要件で,当事者にも提供するという可能性は出てくるわけですね。
(小早川教授)
厚生労働省さん,どうぞ。
(厚労省(森實調査官))
本人の住所を,外国の中央当局あるいは申請人教えるということについては,かなり慎重な対応が必要なのではないかと思っております。
といいますのは,DVの関係で逃げてくるというケースが日本に帰ってくるケースでは多いと言われている中で,相手側から要請があった場合に,相手側から要請があったので,あなたの住所を教えますねと中央当局が帰ってきた連れ去り親に対して働きかけをするということ自体がかなりの恐怖感を持つような事態になるのではないかということが,ひとつ懸念されるのではないかと思っております。
裁判で住所地が必要だということであれば,その必要があるのかもしれないですけれども,返還手続の裁判の中で,連れ去り親の子の日本国内での住所を申請人が知っておく必要性がないのであれば,申請人の方が相手方の住所までを知る必要性というのは乏しくなってくるのではないかと思われます。
それから,行政機関から情報提供をする場合にも,虐待とかDVのケースだと非常にセンシティブな問題なので,その情報がどういうふうに使われるのかということについて神経質になると思うんですけれども,そのままそれがDVをしていた夫の方に行ってしまうかもしれないという前提で渡すというのは,かなり抵抗があるのかなと思われますので,ここはかなり限定的に,原則渡さないという方法があるのではないかと思っています。
(小早川教授)
大谷委員,どうぞ。
(大谷弁護士)
14ページの外務省からの御提案だと,今の厚生労働省さんからの御発言に関連して,原則として渡さないという方針をとっておられると理解していますので,それはそれでよいのではないかと思います。
ただ,実はもう少し進めて,原則として提供しないというだけではなくて,全く渡さないと,例外もないという在り方も逆にあるのではないかと思っております。日弁連内でも,情報提供を義務づけるかとか,いろいろ議論がありましたが,おおむね最初に相原委員が御紹介くださいましたが,全体的には中央当局が子の所在発見をきちんとできなければ,返還手続にも載せられないと。そこはやはり締約国の義務としてきちんと入る以上やってもらいたいと。
そのためには,今おっしゃったようなDVですとか,いろいろな不安がある中で,子の所在情報を得た中央当局が,申立人や申立人の中央当局に対しても一切開示をしないというところに歯止めを設けることで,むしろ関係機関からの情報はきちんととれるように,そういう設計をしていただきたいという意見が強かったように思います。私も個人的にそれがよいのではないかと思います。
実は,棚村委員がおっしゃったことと少し関連しますが,この条約では,任意の解決ということも大きな柱になっていまして,私自身は相手国の中央当局との信頼関係ということもありますが,むしろ申立人との一定の信頼関係を構築する上で,特にその親が仮に何のDV等も問題のない,子の親権者として,先ほど棚村先生がおっしゃったように,本来,子の所在について知る権利があるという人が中央当局に対して,子の所在を知らせてほしいと言っているのに,それが開示されない中で,任意の解決のための話し合いというのが進むんだろうかということに若干懸念を持っておりましたが,その点につきましては,そもそも任意の解決ということであれば,相手方の同意がなければ,そのテーブルにもつけないわけですから,そうしたことが可能性としてある事案については,相手方本人が所在を開示すると。中央当局から開示するのではなくて,本人自身が開示をされるという方法もあることをかんがみると,中央当局としては,一切例外なしに出さないという制度設計もあり得るのではないか。むしろその方がよいのではないかと考えます。
(小早川教授)
どうぞ。
(内閣府(原室長))
今の点に関しまして,14,15ページのところで,不当に侵害するおそれがないと認められる場合に限り提供するとありますけれども,これはあくまでそういうおそれがないということが客観的にわかるという前提で書かれているかと思います。しかし,DV被害の場合,なかなか家庭内のことで外に言いづらい,潜在化しやすい傾向がありますし,今回の場合,外国から帰ってくるわけですから,相談機関につながっていないおそれも十分あると思います。
ですから,DVのおそれ等がある場合ということなんですが,DVのおそれがあることがわかるかどうか,「わかる」ということが前提に制度を組み立てると,非常に危険かなと思います。なかなか人に言いづらい,潜在化しやすいという特質も踏まえて,原則出さないという歯止めもあるのではないかと思います。
(小早川教授)
どちらかと言えば,出さない,提供はしないのを原則にするという御意見が多いようですね。中央当局としては,国内でのなすべきことをやればいいのであって,外に対して,特にほかの中央当局に対してサービスをする必要は余りないんだということだと思いますが,私もそれでいいのかと思いますけれども,そうなると,ペーパーで言えば,当該要請に相当な理由がある場合というのを具体的にどう考えるか。その辺が一つのポイントかもしれないですね。相当な理由があるのであれば,それはしようがない。それを基本的に問題とし,あとは,不当な侵害のおそれがないかどうかなどチェックするということになるかと思いますが,その辺をもう少し詰めた方がいいのかもしれません。
ほかにもあるかと思いますが,この第2のパートで18ページ以下の問題もございます。大谷委員,どうぞ。
(大谷弁護士)
24ページの点で伺いたいと思います。項目としては,子の再連れ去りを防止するため措置です。居所変更の届出に関連して,出入国管理及び難民認定法の25条の2の御説明が24ページにありますが,これは外務省にお尋ねをすればいいのか,法務省かよくわからないのですが,従前からパスポートの保管。それと関連して,子どもの国外の連れ出し禁止ができるかということが議論されています。
それとの関係で質問は,この話になりますと,いつも指摘されるのが憲法22条の居住移転の自由と入管法の規定ですが,憲法22条の移転の自由に関しましては,これが出国制限される子自身の保護のために,子自身の人権を一定の場合には制約できるということを考える余地があるのではないかという議論が日弁連内でもございました。
もう一点の入管法の関係ですが,質問をしたいのは,例えばこうした事案で裁判所の調停の中で当事者が任意に,この手続の間は子どもを国外に連れ出さないことを合意をする場合があります。あるいは私自身も見たことがあるんですが,裁判所が保全処分ということで,子の国外連れ出しの禁止の命令を出したのを見たことがあります。
そうした場合に,そのような当事者の合意に基づく連れ出し禁止,あるいは裁判所がそういう命令を発した場合でも,これは子どもの出国は止められないと。つまり,そのような合意ないし裁判所の命令というのは執行できないと理解してよろしいのでしょうか。それはもうそれ以上の検討の余地はないのでしょうかというのが質問です。
併せて,26ページの「5.子の任意の返還・問題の友好的解決」の一番下の段落の「我が国においては」で,具体的に中央当局においてTPに対し書簡,メール,電話等で連絡の上,説明しとあるところにつきまして,日弁連内の議論としましては,なかなか諸外国で実行されておりますように,お手紙でハーグ条約に基づく返還の申立てがありましたというような説明だけでは,意が尽くせないのではないか。連れ帰っている親としても非常に不安な中で,中央当局からそのようなお手紙をもらったというだけでは,なかなか話し合いですとか任意の解決を考えることも難しいのではないかということで,年間の件数がどれくらいかわかりませんが,ここは中央当局の職員がその親を訪問して,子の安全確認とともに条約の趣旨等について説明をするということが必要なのではないかという意見があったことを御紹介したいと思います。
以上です。
(小早川教授)
ほかにいかがでしょうか。再連れ去りの防止ですね。その辺で,強制力を持たせる,出国はさせないというようなことも考えておられるんですか。
(法務省(金子官房参事官))
では,まず法務省の方からお答えします。
調停等で合意があった場合,あるいは裁判所等で出国禁止の仮処分等があったという場合について,出国管理上の手当てができないかということになると,法務省の所管かと思います。
この点は結局,憲法上の問題とも関係する重大な問題なので,当然,法的な担保が必要になると思います。現行法の下では,なかなかそこに乗るのが難しい。お子さんの国籍の問題もあるかもしれませんが,日本人だということになると,なおさらこの辺が難しい。
そこで,これは外務省の方に話を押し付けてしまうかもしれないですけれども,パスポートを例えば調停で合意したならば,その期間は任意に預けてもらうということは,調停で話合いできていれば,かなり現実味があるのではないかという気はします。そのときに中央当局が任意に預かるかという話がレジュメのどこかにあったような気がしますが,その方法があれば,パスポートがなければ出られないというのは,出国管理上は当然のことなので,そういう方策があろうかと思います。
それから,裁判手続があったらどうか。これもそれだけでは出入国管理上は止める理由に乗らないので,例えば裁判があった場合には,外務省の方が旅券の発給制限というか,もう既に出ていれば返納ですね。そういうスキームをつくっていただければ,出国を止めるということはあり得るかもしれないというのが今までの検討の状況です。
(小早川教授)
ボールを投げられてしまったようですが,いかがですか。
(辻阪室長)
パスポートの保管に関しましては,23ページの上のところに書いてあるんですけれども,中央当局が任意での提出を求めて,中央当局が一時的に保管することも考えられるのではないかということで,中央当局が保管するというのも一つの案だとは思いますが,あくまでも行政機関である中央当局ですので,これはその強制力を持って提出することは難しいのではないかと考えておりまして,あくまでも任意しか無理なのではないかと。任意の場合はどれだけ実効性があるのかという問題があるかと思います。
(小早川教授)
どうぞ。
(染田領事局旅券課上席専門官)
後段の方のパスポートの返納の話ですけれども,旅券法に基づいてパスポートは発給されておりまして,今の返納の事由には,そういうものは想定されていないという状況です。
以上です。
(小早川教授)
では,棚村委員。
(棚村教授)
ハーグ条約の下では,やはり裁判所などが返還の手続をきちんと円滑に行うための保全処分をするというときに,再連れ去りの危険性がある場合には,そのパスポートを取り上げるとか,そういう措置を取っている締約国があります。
日本などは裁判所の保全措置でハーグ条約の返還手続についての規定を持った場合に,その保全措置の中に移動の自由をある範囲で制限をすることでのパスポートの預かりとか,再連れ去りの禁止をする措置というのは取れないのでしょうか。金子委員にお尋ねしたいんですが,検討結果です。
ほかの国の司法的な返還手続では,保全措置はかなり強化していて,英米だと所在の確認情報についても裁判所の決定なり命令を直ちに出して,その必要情報を得るとか,子どもに何か危害が及ぶとか再連れ去りを予防するための必要な措置をやっておかないと,返還命令の実効性がなくなってしまうということで認められています。そうしたときに,パスポートを預かるということの保全処分とか,出国の禁止をある範囲ではするとかいうことは,法的には難しいのでしょうか。
(法務省(金子官房参事官))
法制審の部会の方でも1つのテーマにはなっております。子の返還の司法手続中に出国をされてしまうと,結局それまでの手続が無駄になりかねず,実際にその後,手続を進めても執行ができないということになりますから,一般的な保全の必要性という意味では否定できないところかと思います。
保全命令を発することの相当性とか,あるいはそれを実現するために手段ですね。パスポートの預かりは非常に有効的な手段であるとは思いますが,それをどう実現していくかという辺りも慎重に検討しなければいけないので,今の段階でおおよそできないというつもりはないのですが,もう少し慎重な検討が必要ですし,引き続き法制審の部会の方でも御意見をいただければと思っております。
(大谷弁護士)
今あるパスポートの返納と予定されているものに当たらないというのはよくわかりますし,現在の出入国管理法では難しいというのもよくわかります。ただ,棚村先生がおっしゃいましたように,諸外国では保全措置として,こうした措置が取られており,また,日本人の子どもなので,その出国の制限をかけるのは難しいというお話でしたが,この条約自体が子を国境を超えた連れ去りから保護するという観点からの条約である中で,その子が手続中に出国する自由を保護するために,一切考えられないということはないのではないかと思っております。
ちなみにハーグ国際私法会議事務局が出しておられるグッドプラクティスで,プリベンティブメジャーズの中に,こうしたパスポートの保管や出国禁止の措置を設けている国で,憲法上あるいは条約上,子の人権を侵害するという観点から,それは難しいという議論がなされているかということを調べました。
スロバキアだったかと思いますけれども,法の根拠がないところでは憲法上の基本的自由との関係で問題が生ずるという回答があったと承知していますけれども,移転の自由が強く保障させている欧州諸国においてもそのような観点から,一概にこうした措置が難しいという議論は特になされていないようであり,引き続き御検討をいただきたいと思います。
(小早川教授)
それでは,この点はこの辺で,と思いますが,返還するかしないかを決める司法手続の方で,必要があれば保全措置を,というのは自然な話であるのに対して,中央当局が行政機関として事前にそういう強力な措置を取れるかということになると,なかなかきついかなと,そのように言っては中央当局寄り過ぎるかもしれませんけれども,そんな感じでしょうか。ペーパーでは,当事者の話し合いによる解決の一環として,合意ができれば,それによってパスポートをどうこうするということもあり得る,というような話で,一応整理としては筋が通っているのではないかという気もいたしましたが,この点はこの程度にいたしたいと思います。
それでは,既に若干触れられていますが,5の任意の返還・友好的解決は,特に何かございますでしょうか。
よろしければ,既に御発言もあったということで,次へ行きたいと思います。
30ページの「6.子の社会的背景に関する情報の交換」,「7.子の安全な返還の確保」,「8.接触の権利の享受又は行使の促進」,42ページまで議論をいただきたいと思います。
警察庁さん,どうぞ。
(警察庁(宮城課長))
「7.子の安全な返還の確保」の35ページの上から2つ目のパラグラフ。まさに慎重な書き方をされておるんですが,これは条約上の処罰されるおそれということを受けてのものだと思いますが,ここで書いておられる逮捕される可能性があるか。これは恐らく具体的には逮捕状が発付されているか,いないかということを念頭に置いておられるかと思いますが,実際に捜査の実務を預かっている身からすると,このタイミングで中央当局へ情報を出すというのは極めて難しいのではないかと思っております。
もう一つは,公開の国際指名手配でもしていれば別ですが,基本的に捜査は密行ということでございまして,何らかの形でこれが相手方,すなわち逮捕状が出ている者に対して伝わる可能性がある状態で,他の機関にこの情報をお出しするというのは,捜査機関としてかなり難しい問題だろうと認識をしてございます。
同じ趣旨のことは法制審でもお話しいたしましたが,外国の捜査機関も恐らく同じ感覚を持っていると思いますので,念のために申し上げておきます。
(小早川教授)
そういう御意見ということで。ほかにはいかがでしょうか。
杉田委員,どうぞ。
(杉田弁護士)
「6 子の社会的背景に関する情報の交換」に関してです。30ページで主に日本から連れ去られた子に関しての情報をどのような範囲で,中央当局が情報を外国の中央当局に提供するかというものと,Bの方で,日本に連れ去られた子に対して日本の中央当局が外国の中央当局に対して情報を提供を求めるかということがいろいろ書いてありまして,Aの方に関して,日本が情報を求められた場合にどこまでするということは,ある程度具体的に書いてあるんですが,Bの方,日本に連れさられた子に関して,日本の中央当局が外国の中央当局に対して,どこまで情報提供を求めるかということに関しては,31ページの(4)についてということで一定程度は書いてあるんですが,例えばBの中央当局に対して,子の社会的背景に関する情報の提供を要請した場合に,どこまで実効性があるのか。
どのくらい提供してもらえるかということが,私としてはとても興味,関心を持っているんですけれども,要請はしたとしても情報が全く提供されないのであれば,余り意味がないと思うのですが,そこら辺のところで何か情報等があれば,教えていただきたいと思います。
(小早川教授)
いかがですか。
(辻阪室長)
まさに御指摘のとおりでありまして,情報の提供を依頼したとしても,それに答えてくれるのかというのは,相手の中央当局がどのような考え方を取っているのかということによると思います。
例えばアメリカの場合ですと,裁判所の証拠を集めるという目的のために,こういうことを依頼されても提供はしないということですので,そういう意味ではまさに要請はするけれども,どれだけもらえるのかというのは相手国によると思っております。
(小早川教授)
どうぞ。
(杉田弁護士)
今のとの関連で,今,現状はそのような状況ということですが,例えば今後,ハーグの締約国各国との間でさまざまな交渉なりを行って,そこについてもう少し踏み込んでということは,実際上は可能でしょうか。踏み込んで情報の収集を依頼するなりということですが。
(小早川教授)
どうぞ。
(辻阪室長)
これは相手の国の法制度もありますので,中央当局にどの程度権限が与えられているのか。もしくは中央当局が何をしていいのか,よくないのかということにも関わってくる問題ですので,一概に交渉して,問題を提起することは可能であったとしても,それがすなわちすぐに実現されるという問題ではないと思っております。
(小早川教授)
厚生労働省,どうぞ。
(厚労省(森實調査官))
30ページ6のAについてです。子の社会的背景に関する情報の交換ということで,ここでは中央当局が外国の中央当局から求められた場合には,国内機関に対して必要な情報の提供を要請することができるということで,求められた関係行政機関は必要な情報提供をしなければならないものとすると書いてありまして,最初の子の所在の特定の関係と同じくらい強い,義務に近いような形を想定されているのかなと思われます。
(3)で当事者の同意を得ていることとありますが,ここで想定されている情報が31ページの上の方に,人権相談記録や厚労省関係であれば,これは自治体が持っている資料ということになりますけれども,児童福祉施設で作成される記録や民生児童委員の作成記録という情報が想定されて例示されているんですが,こういった情報については非常にこれもまたセンシティブな内容を含んでいおります。
それから,その記録の中には本人のみならず,第三者の情報も含まれ得るということから考えて,求められれば,そのままお渡しするということは非常に問題が大きいのではないかと懸念しております。ですので,基本的には,子の所在の特定のところで議論があったように,当然,情報保有機関が情報提供を義務づけられるということを想定した形にするのは,非常に問題が大きいのではないかと思います。
以上です。
(小早川教授)
藤原委員,どうぞ。
(藤原教授)
今の厚労省の質問に関連してです。問題は,提供する情報の範囲,項目であろうかと思いますが,今のお話で相談情報等に第三者記録があるというのは,ちょうど文書開示みたいなもので,ファイルそのものがいくイメージも含まれている感じがしたのですが,私がここを読んだときには項目等は整理されて,必要な範囲での情報がいくという前提なのかなと。そういう解釈もあるのかなと思ったのだけれども,その辺りはいかがでしょうか。
(小早川教授)
関連でほかにございましたら。文科省どうぞ。
(文科省(池原課長))
31ページの真ん中辺りに,社会的背景に関する情報について中央当局が外国の中央当局に情報提供をする場合に,当事者の同意を得るということと,目的外で情報を利用することはないということを相手国の中央当局に確認した上で提供することが書かれておりますが,本人の同意が前提であるということになりますと,学校での就学関係の情報については,例えば通知書などである情報は本人が承知するということを前提につくられておりますけれども,例えば調査書,いわゆる内申書などの教師の総合所見ですとか,学習記録,行動の記録とか,そういうものが入っている情報については,原則として本人に見せるつもりがなくて作成しているものですから,これらについてはこの中での情報の対象から除外をするべきではないかと考えております。
(小早川教授)
大谷委員,どうぞ。
(大谷弁護士)
30ページの「A 嘱託事案」ですが,中央当局は外国の中央当局から情報の提供を求められた場合と広く書かれていまして,外国の中央当局が日本の中央当局に何の目的でその情報を求めているかということについて,全く網がかかっていないように見えます。
中央当局がこうした情報提供を要請してくる場合というのは,A事案でいいますと,A国での子の返還手続の中で,裁判所から中央当局に対し,日本で言えば調査嘱託のようなものがあった場合,もしくは裁判当事者から求めがあって,それに協力する場合が考えられるかと思いますが,そこについて何ら場合分けせずに中央当局から情報提供の要請があれば,それに答えるとまでするのは,7条のdで,望ましい場合にはとなっている書き方との関係からしても,やや広過ぎるのではないか。もう少しここは丁寧に御検討をいただく必要があるのではないかと思います。
もう一点,質問ですが,さっき杉田委員からの御質問があったことと関連しますが,外務省から御用意いただいたペーパーによりますと,Aの方に関してはドイツやフランスでこうしたことが中央当局から外国の中央当局に提供がなされているという御説明があった一方で,ほかの国は必ずしもそうではない。日弁連のアンケートでも出ておりますが,日本へのインカミングケースで一番多いと想定される締約国はアメリカです。
そうした場合にアメリカでは,例えばそういう協力がなされていないという場合に,A事案でアメリカに連れ去られた場合において,もしもそういう要請があったら日本では提供するのか。つまり相互性のようなことはここで御検討をされるのか。もしくは日本に対してA事案で外国から要請があればできるという仕組みができた場合には,相手国にそういう制度があるかないかとは無関係に,それは応じるということになるのかという点についてお伺いできればと思います。
(小早川教授)
いろいろ注文や質問が付きましたが,どうぞ。
(辻阪室長)
順番不同ですが答えさせていただきますと,確かに1の場合,ちょっと広過ぎるのではないかという御指摘のとおりで,まさに何の目的でということに対して,もう少しここは縛りをかけたいと考えております。
それから,第三者記録,本人に開示することを予定していない情報もあるのではないかということで,それに関しましては,情報を提供して相手方に出す際には,本人の同意を取りたいと思っていますので,まさに何が本人が知っていて,何が知らないのかということも併せて,教えてもらう必要があると考えております。
ここの求め方が厳し過ぎるのではないかということですが,これは若干,子の所在特定とも関係してくるのですけれども,提供する側に情報提供の範囲について裁量を持たせると,提供側がその情報提供行為についての法的,道理的責任が追及される可能性があることからも,一義的にまず中央当局に出してもらって,中央当局がその同意を取った上で相手方に提供するという枠組みでここは考えたものでございます。
相互性みたいなものが相手の国は出してくれないということがわかっているのに,こちらから出すのかという点ですけれども,嘱託事案の場合はまさに子の返還を求めるために有利となる情報であれば,それは提供した上で,子の返還を求めるのが筋ではないかと考えておりますので,その点から相互性ということを考えるのではなくて,出せる情報があり,そして,本人がそれに同意しているという場合においては,出したいと考えております。
(小早川教授)
ここでも同意ということを絶対の要件にしているわけですね。それが基本的な歯止めだというおつもりだろうと思いますが,そうなると,さっき挙げられた,本人にも見せていない情報の場合は,特殊な話かもしれませんけれども,困ってしまいますね。そういう場合は,保有している機関の同意ということになるのでしょうか。それとも,もうそんなものはおよそ出す話ではないだろうという考え方もあり得るか。御検討ください。
棚村委員,どうぞ。
(棚村教授)
この社会的背景に関する情報の範囲ですが,さっき藤原委員もおっしゃっていたんですけれども,一つは外国の中央当局が本人からの申請でもって,情報を取りたいというケースがあります。大体これは,子どもがちゃんとどんなふうに生活しているかという辺りの情報になってくると思います。そのときに通っている学校,そこで成績とか健康状態などがどうか。生活に困っていないか,いろいろな手当てを受けていないか。どこの場所で暮らすることが子どもにとって幸せかということの評価判断のために,子供の社会的背景に関する情報が必要になってくると思います。
ですから,その範囲で必要情報の範囲というのは,目的との関係でも,ある範囲で限定がかかってくると思います。そういう範囲を限定していただいた上で,先ほどからいろいろありますように,その情報が本来の目的と違う形でもって,いろいろな形で利用されたり流れてしまいますと,信頼関係を壊したりということが起こってくるわけですので,基本的には情報の範囲と中身,どういうふうに利用するのかということのガイドラインみたいなものをきちんと設けていく。
そういう中で情報収集の円滑化とそれがかえって弊害を生まないようなチェックをしていくということが,所在の特定のときもそうですけれども,ここでも同じようなことが言えると思います。余り範囲を限定し過ぎてしまうと,子の情報提供を求めるということが阻害される。あるいはお互いにやり取りをしていくということは余り意味がなくなってきますし,もう一方で,余りそれを不必要な形で流してしまうということの弊害が起こりますので,情報の内容と範囲,その必要性みたいなことを縛りをかけながら,一定のガイドラインをつくっていくということで対応されるのがいいと思います。
(小早川教授)
相原委員。
(相原弁護士)
この社会的背景について,私個人の理解はもう少し一般的なものではないかと,思っていたものですから,もし棚村委員がおっしゃるようなところまでの範囲だとすれば,是非そこら辺についてはガイドラインに,きちんと範囲を考えていただきたいし,場合によってはパブコメ等で御意見を求めていただければと思いました。
もう一点,ここで申し上げる話かどうかわからないですけれども,要望として是非この機会に一言だけお話しさせていただきたい。
先ほど杉田委員からも出ましたが,中央当局が他国の中央当局に対して,社会的背景に関する情報の提供を求めるというのは,他国の状況との関係でかなり限定されてくるというか,期待できない面もあるかとは思います。しかし,実際に事案に当たってTaking Parentの代理人等になった場合に,その範囲というのがかなり限定されてきてしまうとすると,現実に代理人として働く者つまり,事件の担当者としては対応が厳しいかなという個人的な意見があります。
また,33ページ等に在外公館の側面支援が記載されており,これは子の安全な返還の確保の段落において出てはいます。かなり難しい話ではあると思いますが,情報収集という分野でも,在外公館に相当の援助をしていただくように依頼してほしいという意見が日弁連の中で強く出ておりましたので,それの紹介をさせていただきます。
さらに,代理人として動く場合の武器といいますか,かなり限定されてしまうということに対する配慮や事務量の負担等に関しても,翻訳も含めて御検討いただきたいということをこの機会に述べさせていただきます。
(小早川教授)
大谷委員。
(大谷弁護士)
すみません,短くします。先ほど辻阪さんがAの方の事案では日本からの情報提供が有利に働くのでとおっしゃったかと思うんですけれども,そこは私は注意が必要だと思います。どのような情報を提供すると想定するのかにもよりますが,諸外国の返還手続の中では,子を返還した場合に常居所地国で保護がきちんとなされるかどうかということに関して情報を求めるということが想定されます。
その場合に提供する情報によっては,虐待とか暴力等の主張がなされている場合,Taking Parentが常居所地国の保護機関に相談したかどうかといった情報が仮に提供されることになると,それは必ずしも有利がどうかわからない。ここでA,Bの場合に有利か不利かという観点で情報の提供の有無を考えるということではなくて,もう少し一般的に考えた方がよいのではないか。つまり両方に働く可能性があるということも意識をしながら,検討した方がよいと思います。
(小早川教授)
ありがとうございます。
では,いろいろ御意見,御指摘,アドバイスがありましたので,その辺を踏まえて更に検討していただければと思います。
この第3のパートでは,安全な返還の点,先ほど警察から御指摘がありましたが,それともう一つの,接触の関係がありますけれども,何か御発言はありますか。
法務省,どうぞ。
(法務省(金子官房参事官))
39ページの(3)について質問させていただきたいのですが,(4)のすぐ上に「国内事案と同様の方法によることが適当と考える」とあって,裁判手続の方の話ではない文脈でこのことが書かれているとすると,どういうことを想定しているのかがわからなかったので,教えていただければと思います。
(村上子の親権問題担当室課長補佐)
今ここで書いておりますのは,我が国の面会交流,民法の改正もございましたけれども,そういった措置を取るということを前提に考えているというところでございます。民法の改正の後,実際にどういうふうに執行されるかというのは,まさしく国内の実務の積み重ねというのがあるかとは思うんですけれども,そういった趣旨からバランスということもあって,国内事案と同様な方法によるものがよいのではないかと,現時点で考えているということでございます。
(法務省(金子官房参事官))
そうすると,中央当局の役割として,何か特別な執行を考えるとか,そういうものではないということで理解してよろしいでしょうか。
(村上子の親権問題担当室課長補佐)
さようでございます。中央当局は恐らく諸外国のLeft Behind Parent等にどういう日本の制度があるかを享受するといったような役割を担うのではないか思っております。
(小早川教授)
よろしいでしょうか。
では,棚村委員,それから,大谷委員。
(棚村教授)
面会交流の権利に関しては,ハーグの返還手続でも問題になっているわけですけれども,民法766条が5月に一部改正ということで規定はできたわけですが,実際には面会交流を支援したりする機関とか,仲介する人の養成ということが非常に重要になってくると思うんです。そういうことについては,是非法務省とか裁判所とか厚労省とか,そういう関係するところの協力を得て,交流の円滑化の仕組みを整備していただきたい。これは国内ケースも勿論ですけれども,国際的なこういう子の連れ去りにかかる事案についても,是非それを充実させていただきたい。
それから,任意の返還についてもうですけれども,外務省そのものが基本的には問題の解決とか,合意形成援助のノウハウは持っていないわけなので,中央当局として,今あるリソース,今後できる受け皿みたいなものについて,積極的に関わっていくということで,是非充実をさせていただきたい。
つまり面会交流とかこういうものについては,国内担保法でルール化し支援の充実整備を定める。あるいは国内でも既に規定があるからいいというのではなくて,むしろ渉外関係の合意形成の支援とか,面会交流の支援という社会的な支援制度の充実のために日弁連もそうですけれども,関係する機関が協力をして,社会的な支援の仕組みを構築をしていくという方向でお願いしたいと思います。
(小早川教授)
大谷委員。
(大谷弁護士)
37ページの一番下の段落ですが,この21条に基づく申請ができる,言い換えれば,条約に基づく21条の申請をすれば,中央当局による支援を受けられるものの範囲について,質問させていただきたいと思います。
外務省で御用意いただいたものを読みますと,特に38ページの35条の規定との関係から,いわゆる遡及的と呼びますか,条約が発効する前に連れ去り,もしくは留置が起きた事案についても,条約発効後に接触の権利侵害が起きているような場合には,21条による申請ができ,それに対する支援を提供するとお考えかと思います。それ次第については賛成です。
質問をしたいのは,今のは縦の時的な適用範囲の問題かと思いますが,横の広がりといますか,この21条の申請を場合に,国境を超えた不法な連れ去り,または留置があったことが要件となるのかならないのかという点です。ならないとすれば,例えば日本で生活をしていた国際結婚の御夫婦の一方の外国人,外国人に限らないと思いますが,親の一人がほかの国へ行ったと。それがハーグ条約の締約国であったが,子どもと会えない状況があると。この場合に特に不法な連れ去り留置がなく,親の方が移転したという場合を想定しております。
このような場合においても,21条の申請ができるのか。21条の申請でどこまで中央当局が協力するのかということの中には,例えば所在特定にも協力するのか。弁護士のリストを渡すのか。支援の範囲によっては,その申請をできるものの範囲として,違法な連れ去り留意も要件としない扱いでよいのかということは,一応検討しておく必要があるように思いますので,質問させていただきます。
(小早川教授)
どうぞ。
(辻阪室長)
今,御指摘の点ですが,基本的には接触の権利に関して申請を求めることができる場合は,接触の権利有していて,その権利が侵害されているということが要件になりますので,そういう意味で条約の発効前の事案であっても,現在こういう状態が続けている場合は申請を求めることができるということなるかと思います。
それ以外の要件としては勿論,子が16歳未満であるとか,接触の権利が侵害される直前にいずれの締約国に常居所を有していたということが要件になると思います。そういう意味では,ここでは不法性は要件とはならないと考えております。
ただ,実際にどのような援助ができるかという点に関しましては,7条の規定にありますとおり,子の所在発見という部分については,不法に連れ去られ,または留置している子の所在を特定することとなっておりますので,不法であれば,子の所在特定をやりますけれども,不法でない場合は子の所在特定はしない。ただし,友好的な解決のための外部機関を紹介したり,そういうことについては不法性がかかっていないので,そういうものは関係なく提供すると考えております。
(大谷弁護士)
整理をしますと,私が挙げたような事案,日本から親の一人が国外へ転居した場合は,子が他の締約国に常居所を有していたわけではないから,対象外という理解でよろしいのでしょうか。
(辻阪室長)
今のケースですと,両方とも日本に住んでいたということですね。そうであれば,接触の権利が侵害される前に,どちらか締約国に住んでいたという要件が満たされているのではないかと思いますが,事案をよく理解していなくて恐縮です。
(大谷弁護士)
そうすると,不法性を要件としない支援については,対象となる理解でよろしいでしょうか。
(辻阪室長)
はい,結構です。
(小早川教授)
どうぞ。
(法務省(金子官房参事官))
今の接触の権利の範囲ですが,さすがに「不法」を外しても,連れ去りとか留置いうのは要件としては残っているんでしょうね。国境をまたがないケースでもよろしいのでしょうか。また,国境をまたぐことは要件としても,いつの段階で国境をまたぐ必要があるのかも問題になると思います。
例えば現在は両方が日本に居住しているけれども,別居していて面会交流を求めるという,日本でいうと全くの国内事案と同じ場合も重複してくる話になるのか,その辺りが気になります。一方では中央当局の支援が得られて,一方では得られないということをきちんと説明できないといけないと思うので,そこを一度整理していただきたいと思います。
(辻阪室長)
基本的には,すべて国境を越える場合と理解しております。
(小早川教授)
今のケースは,子どもは国境を超えていないのではないですか。この点は条約の規定ぶりとその解釈の問題なので,もう一度確認をしていただきたいと思います。
もう時間がなくなりましたが,最初に,全部最後までやると宣言しましたので,最後の「9.不服申立て等」にいってよろしいですか。
(内閣府(原室長))
35ページのところで確認させていただきたいのですけれども,「C 子が常居所地国に戻った後の対応」ということで,今回条約を批准するかどうかという検討が始まったときから,子が常居所地国に戻った後に実際にどうなっているのかという実態がわからないという話がずっとあったと思います。子が常居所地国に戻った後のフォローアップ,実際にどうなったかということについては触れられていないのですが,そこは今後どこがどういうふうに対応をしていくお考えなのかという点が1点。
35ページのCの(ア)ですけれども,在外公館における適切な支援というところで,ここの部分はこれまでも副大臣会合のヒアリング等でもいろいろ要望はあったかと思いますが,補足説明のところでは,これまでやっている支援に,あとは家事事件に精通する弁護士のリストを提供するという例示がありますが,多分これからパブリック・コメント等を行うときに,ここにさまざまな意見が出てくると思いますので,例えば一番最初に出ていました監護権の侵害という部分につきまして,各国において監護権の侵害に当たる場合には,こういう申立てがあるという,日本におけるその監護権の侵害と外国における監護権の侵害の違いの周知を図るとか,できるだけその支援の内容について,可能な範囲でここにパブリック・コメントの時点で列挙していただければと考えております。
(小早川教授)
よろしいですか。
(辻阪室長)
フォローアップに関してですが,戻った後の話ですけれども,中央当局の任務としては,その子どもが常居所地国に戻ったという連絡をもらうことによって,基本的には中央当局の任務は終了すると考えております。中央当局の任務として,それを超えて,更にその後どうなっていったのかをフォローしているような主要国は,私たちの知る範囲ではないと理解しておりますが,その反面,戻った後で困った状況に置かれているとか問題があるような場合は,当然その邦人保護の観点から領事の対応として,これはフォローアップをしていく必要があると考えております。
もう一点,監護権の侵害につきましては,これは各国でどのようなものが監護権の侵害に当たっているのかなどを考慮するなり,支援の内容については今の段階で考え得るものを列挙していきたいと考えております。
(小早川教授)
時間の関係ですが,10分くらいオーバーしてもいいですか。お許しいただきたいと思います。
それでは,大谷委員,どうぞ。
(大谷弁護士)
私も戻らせていただきます。2点だけ。
39ページの「(2)子の社会的背景に関する情報の交換」ですが,先ほど返還手続の関係で御議論をいただいたことがここにも関わってくると思います。
ただ,この場面で問題となっているのは,先ほどの返還手続の審議のために恐らく必要だからということで,子の所在国,返還手続を行っている国の中央当局から日本の中央当局が情報の提供を要請される場合と異なり,面会交流の申立てをしている国の中央当局からの情報提供の要請ですので,この場合もし情報を提供するとなると,それは返還手続の審理に使われるということではなくて,むしろ中央当局から面会交流の申立てをしている本人に提供されることが要請されるような情報提供の依頼になろうかと思います。
その点で取扱いについては本来別に考える必要があると思われるところを比較的同じように同様の措置を取るこが適当と書かれており,その中には就学状況生活環境等,子の所在の情報を開示することにつながるようなものも含まれて書かれておりますので,そこは御検討をいただければ幸いです。
(3)接触の権利の行使に関する障害を除去するための措置で,ここでは失効についてのみ述べられておりますが,ハーグ国際私法会議事務局のグッドプラクティスでは,ここで言及されておりますのは,ほかに先ほどから問題になっているパスポートの保管などの措置が挙げられています。実際に実務で私自身こういう案件を何件かやっておりますが,常に会わせてもいいけれども,子の連れ去りが心配だということで,なかなか合意の形成がされない。
日本がハーグ条約に入りましたら,面会交流の際に連れ去られた場合,それは返還申立てができるということになりますが,事後的救済では難しいので,やはりそこでパスポートの保管等で連れ去られない体制をつくった上で,安心して面会交流ができるというようにしていくことが必要だと思いますので,その観点でも御検討をいただければと思います。
(小早川教授)
では,あとはよろしいですか。不服申立ての方は。
(藤原教授)
44ページですけれども,9番の整理は申請という行為に着目して,申請の却下と具体的な実施行為に分けて,実施行為には処分性がないという整理になっていると理解できるのですが,この点は結構だと思います。ただ,申請に着目すると,中央当局が申請に応諾したことを連れて来た方の親が不満をもつ。なぜ応じたんだと。表裏の関係と見るかどうかはともかく,その処分性について議論をしなくていいのかということです。
なぜかというと,ここで処分性がないというのは,およそ裁判所が出てこないというか,司法救済するに当たらないという意味で処分性がないと言ってしまうことになるんだろうと思いますので,そこのところは少し気になるという質問です。
(小早川教授)
行政法的な話ですので,私からいいですか。
援助を求めてきて,申請をし,援助すべき場合なのに断られた。これは,申請者にとって,却下は処分であって争えるというのでなければおかしいだろう。それに比べれば,中央当局が援助してしまっている,それは自分にとって不利益である,という立場の人については,その後の司法手続でも権利主張はできるわけですし,3条の要件が実は満たされていないのかどうかはまさに後の方で判断できるということでもありますので,それほどの問題ではない。比較すれば違うのかもしれません。
ただ,先ほどから出ていますように,中央当局が乗り出すこと自体がどれだけの結果をもたらすか。それ次第によっては,そういうことをやってもらっては困るという主張を丁寧に扱わなければならないという気もします。そこは,特に3条の不法性の要件を,申請の段階で,これは最初の話に戻るわけですけれども,中央当局が全く見ないでいいのかということとも関わります。
ほかの皆さんからいかがでしょうか。
(村上課長補佐)
外務省の方で検討する際にポイントとなるのが,条約の趣旨として迅速な返還を実現するとの点。その際に申請の入口の段階で中央当局と申請者とのやり取りをどのように観念するか。更に具体的に言えば,中途の段階で不服申立ての余地を認めることによって,迅速処理との関係でどうバランスを取っていくかというのが相当難しい検討が必要であるかと思っております。
今,藤原先生と小早川先生の御指摘の点を踏まえると,まさしく途中の段階でTaking Parentの方から中央当局が行っている援助行為について争う。果たして行政上の行為をその段階で争うのがいいのか。それとも返還手続の本体で議論をされるべきなのではないかというような考えもございまして,こういった論点をペーパーでは整理をしていたところでございます。引き続き,検討を進めていくということになるかと思います。ありがとうございます。
(小早川教授)
ほかにはいかがでしょうか。さっき10分延長と申しまして,あと5分残っていますので,全体でどうしても言い残したというのがあれば。
(棚村教授)
標準の処理期間ですけれども,これも迅速な処理という中で,目安は設ける必要があると思いますが,それが遅延をしたり,できなかったというときに理由を明らかにするという形で設けることについては賛成です。余り厳格な縛りにならない。
もう一つは,最終的にはこれは統計とかデータの整備とか,先ほどもありましたように,監護権の範囲をめぐった説明とか,ハーグの常設事務局と他の締約国の中央当局とかもやはり緊密な情報交換の必要性みたいなものは,中央当局の任務という中で是非入れていただきたい。
もう一つ,外国の法令とか判例とか,あるいは裁判の資料になるような翻訳の問題ですね。こんなことについても是非情報を集約化するときの中心的な役割を外務省だけとは言いませんけれども,そういう情報収集についての一つの拠点として,中心的な役割を果たしていただきたいと思います。
以上です。
(小早川教授)
それでは,相原委員,それから杉田委員。
(相原弁護士)
主要面な点以外ですが,日弁連の要望をあと2つ簡単に述べさせていただきます。
今,棚村委員が言われたことに関連しますが,とにかく国際結婚をしようとする人に対する広報にできるだけ早く着手していただきたいということです。批准の時期についてはわかりませんけれども,少なくとも国際結婚に関して,こういう問題があることに対する広報は着手していただきたいと思います。
もう一つ,情報との関係で事件記録を全部ある程度のところに集約して,必ずそれを保管して,それを使えるという仕組みをつくっていただきたい。とりかく海外でもあるようですけれども,その辺に関しても是非中央当局の方で進めていただきたいという要望です。
(杉田弁護士)
これまでお二方がおっしゃられたことと関連しますけれども,やはり各国の法制度に関しての情報を中央当局の方で是非収集していただきたいと思います。具体的にはこれまでお話が挙がりました,子の監護に関する法制度は勿論ですけれども,それ以外にも,子の連れ去りに関する法制度。諸外国ではそれが犯罪とされている場合があったりというところも必要になってくるかと思います。
また,児童虐待やDVに関する法制度,各国には児童虐待やDVに遭った場合にどのような保護の制度があるのかというような情報,あるいは法律扶助の制度についての各国の情報も是非収集していただきたいと思います。
併せてこれまで裁判例という話がありましたが,ハーグの事務局の方にあるデータベース,インカダットの方の掲載判例というのも,できる限り日本語にしていただけるとありがたいなと思います。
以上です。
(小早川教授)
いろいろ御注文がありましたので,できるだけよろしくお願いします。
それでは,時間が過ぎております。今回は第2回目ということで,具体的なペーパーに即して詳細に議論をしていただき,非常にポイントを突いたたくさんの御意見をいただくことができました。もう時間もありませんので,それを繰り返すことはいたしませんが,さて,そこで本日の議論の結果を踏まえて今後の予定はどうなるのかを,事務局から御説明をお願いします。
(辻阪室長)
冒頭,法務省の金子官房参事官の方から,法制審は9月終わりか10月頭からパブリック・コメントを行うというお話がありましたけれども,当懇談会といたしましても,これまでの御議論を踏まえて,時期をそろえてパブリック・コメントを行いたいと思っております。
その観点から,本日お配りした紙と今日,御議論をいただいた結果を反映したパブリック・コメント案を作成し,出席している方々に見ていただいた上で,同じような時期にパブリック・コメントをかけたいと思っております。その一環として,法政審でもヒアリングを行うということでしたので,懇談会といたしましても,10月にヒアリングを行いたいと思っております。
以上です。
(小早川教授)
今日は時間が足りませんでした。進行も大変不手際で,あるいは御発言すべきことがまだ残っているかもしれませんが,そこはパブリック・コメント用の今,御説明かあったペーパーへの御意見ということで,何とかしていただきたいと存じます。
外務省の方々には,今日の議論を踏まえて,パブリック・コメントに向けた作業と,後でヒアリングもあるということですので,その準備を行っていただくことにいたします。
それでは,「ハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会」第2回会合をこれで閉会させていただきたいと存じます。
皆様,本日はお忙しいところ,大変熱心な御議論をいただきまして,ありがとうございました。