
G20トロント・サミット首脳宣言
(主要なポイント)
平成22年6月26日~27日
(仮訳・英語原文(PDF)
)
1.前文
- 国際経済協力に関する第一のフォーラムとして位置づけられた後,初のG20サミットを開催。質の高い雇用を伴う成長への完全な回復,金融システムの改革と強化,世界経済の強固で持続可能かつ均衡ある成長の実現のためにとるべき次の措置につき合意。
- 今日までの我々の努力は良い成果を挙げているが,なお深刻な挑戦が残っている。回復は一様でなく脆弱。回復を維持させるため,既存の刺激策の実施が必要。同時に,最近の状況は,財政の持続可能性確保の重要性と,各国の状況に即して差別化された,信頼に足る,適切な段階を設けた,かつ成長に配慮した財政健全化計画の必要性を強調。深刻な財政問題に直面する諸国は健全化を加速する必要。これは,世界需要をリバランスする努力と結合されるべき。また,金融の修復・改革の一層の進ちょくが必要。
- 我々は,市民のニーズに応える,より良く規制され,より強じんな金融システム構築のための新たな措置をとった。また,国際金融機関の改革の完了も必要。
- 雇用の増加及び最脆弱層への社会的保護の重要性を認識。我々は先般の雇用労働大臣会合の勧告及びILOとOECD共同による訓練戦略を歓迎。
- 我々は,我々が行ったコミットメントへの責任を負い,合意した期限内にこれらを完全に実施するためのあらゆる必要な措置をとるよう大臣及び実務者に指示。
2.強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組み(フレームワーク)
- 多くのG20諸国による,需要の拡大,成長のリバランス,財政の強化,金融システムの強化と透明性向上のための行動及びコミットメントを歓迎。引き続き成長と回復のため適切に行動。
- 相互評価の第一段階を完了。IMFと世界銀行によると,我々がより野心的な改革の道を選べば,中期的には,世界の生産量を約4兆ドル押し上げ,数千万人の雇用創出,更に多くの人々の貧困からの救出,世界的な不均衡の大幅な縮小が見込まれる。
- 本日,我々は以下に合意。
- 先進国において,財政刺激策を遂行し,今後実施される「成長に配慮した」財政健全化計画を説明。幾つかの主要国が同時に財政調整を行うことが回復に悪影響を及ぼすリスクと,必要な国で健全化が行われないことが信認を損ない,成長を阻害するリスクとが存在。2013年までに少なくとも赤字を半減させ,2016年までに政府債務の対GDP比を安定化または低下させる財政計画にコミット。日本の状況を認識し,我々は,成長戦略とともに最近発表された日本政府の財政健全化計画を歓迎。
- 新興国においては,社会セーフティ・ネット強化,コーポレート・ガバナンス改革,金融市場の発展,為替レートの柔軟性向上等を実施。
- 構造改革を追求。世界需要のリバランス推進。
- 先進赤字国は,開かれた市場を維持し,輸出競争力を強化しつつ,国内貯蓄を拡大する。黒字国は,外需依存を低下させ,より内需に焦点を当てる。また,我々の政策が低所得国に与える影響を考慮し,開発資金を支援。
- 相互評価の第二段階を国・欧州地域レベルで実施し,必要に応じ,追加的措置を特定することで合意。
3.金融セクター改革
- 強じんで安定した金融システムを構築・強化してきた。
- 欧州安定メカニズム及び同ファシリティの実施,ストレステストの結果を公表するとのEUの決定,米国の金融改革法案を歓迎。しかし,成すべきことは更にある。これまでの金融セクター改革に向けたコミットメントを達成するために協働することを誓約。新基準への移行は,マクロ経済への影響を勘案。
- 改革のアジェンダは以下の4つの柱の上に築かれる。
- 強固な規制枠組み
我々は,バーゼル銀行監督委員会(BCBS)による,銀行資本と流動性要件の新たな国際基準に向けた進ちょくを評価。今次金融危機に比肩する規模のストレスに耐えうるよう,資本の質・量の改善に向け取り組み。新しい資本枠組みについてソウル・サミットの際に合意することを支持。新たな基準の採用につき合意し,マクロ経済影響評価に基づく移行期間を経て,2012年末までを目標に,段階的に実施。段階的実施の枠組みは各国の異なる状況を反映し,新基準との間の当初の差異は,各国が時間をかけて縮小するように設定。
ヘッジファンド,信用格付会社,及び店頭デリバティブの透明性や規制監督を改善する措置の実施を加速化することによって,金融市場のインフラを強化。単一の質の高い国際的な会計基準の実現及び健全な報酬のためのFSB基準の実施が重要。
- 実効的な監督
新たなルールをより実効的な監督によって補完。監督強化に関する勧告を,2010年10月,財務大臣及び中央銀行総裁に報告するよう指示。
- 破たん処理及びシステミックな機関に対する対処
危機時に金融機関を,納税者の負担なしに,破たん処理できるシステムを設計・実施。FSBに対し,ソウル・サミットまでに,システム上重要な金融機関に関する問題に対処するための政策提言を策定するよう要請。金融システムの修復等の政府介入が行われる場合,金融セクターは関連する負担に対し貢献を行うべきであることに合意。そのために,様々な政策手法があることを認識。金融機関への課金を追求している国々もあれば,異なるアプローチを追求している国々もある。
- 透明性のある国際的な評価とピア・レビュー
金融セクター評価(FSAP)に対するコミットメントを強固にし,FSBを通じて実施されているピア・レビューの支援を誓約。非協力的な国・地域に対処。
4.国際金融機関と開発
- 国際金融機関は,IMFによる7500億ドルや国際開発金融機関による2350億ドル等極めて重要な資金を動員し,金融・経済危機へのグローバルな対処の中心。その正当性,信頼性及び有効性の強化にコミット。ピッツバーグ以降,国際開発金融機関の3500億ドルの増資による貸出し能力の倍増,世銀のボイス改革等が達成された。
- 我々は,国際開発金融機関の譲許的融資ファシリティ,特に国際開発協会及びアフリカ開発基金の野心的な増資を確保するとのコミットメントを達成する。
- 2008年のIMFクォータ及びボイス改革並びに新規借入取極(NAB)の拡大の承認等が重要。
- 我々は,IMFがソウル・サミットまでにクォータ改革を完了し,並行してその他のガバナンス改革を実施するために,なお必要とされる多くの作業の加速を要請。国際金融機関の長や上級リーダーに対する開かれた,透明で,能力本位の選任プロセスを,より広い改革の文脈の中で強化。
- 財務大臣・中央銀行総裁に対し,ソウル・サミットでの我々の検討のために,グローバル・フィナンシャル・セーフティ・ネット強化のための政策の選択肢を用意するよう指示。
- ハイチ復興支援,中小企業金融チャレンジ,世界農業食料安全プログラムを実施。
5.保護主義との闘いと貿易と投資の促進
- 急激な貿易の落ち込みにもかかわらず,G20諸国が市場を開いておいたことは正しい。我々は,貿易・投資の新たな障壁を設けない等のコミットメントを2013年末まで3年間更新。財政政策等の国内政策措置による貿易・投資への悪影響を最小化。WTO,OECD及び国連貿易開発会議(UNCTAD)等の国際機関に対し,それぞれの権限の範囲内で引き続き状況を監視,四半期ごとにこれらのコミットメントへの遵守について公表することを求める。
- 雇用創出が貿易自由化への政治的支持を動員する中心であることに合意。OECDやWTOに対し,ソウル・サミットにおいて,貿易自由化が雇用や成長に与える利益について報告するよう求める。
- 「フレームワーク」の目標の達成には,開かれた市場が重要。WTOドーハ・ラウンドを可能な限り早期にバランスのとれた野心的な妥結に導くことを支持。我々は,「貿易のための援助」のモメンタムを継続することにコミットし,世界銀行を含む国際機関や国際開発銀行による貿易円滑化の取組を進めるよう求める。ソウル・サミットで,進ちょくにつき交渉代表に報告させ,我々は交渉状況と今後の進め方につき議論。
6.他の論点と今後の課題
- 腐敗防止に関し,国連腐敗防止条約(UNCAC)の批准と実施を求め,UNCACのレビューを実施。ソウル・サミットでの検討のため,贈賄防止規則,資産回復,内部通報者保護等の分野に関する専門家作業部会の設置に合意。
- 我々はグリーンな回復及び持続可能な世界的な成長に対するコミットメントを改めて表明。我々のうち,コペンハーゲン合意に関与したものは,合意及びその実施への支持を再確認し,他にも同合意に関与するよう求める。我々は共通であるが差異のある責任とそれぞれの能力を含む目的,規定及び原則に基づき,国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下での交渉に従事することにコミットし,カンクン会議の包括的なプロセスを通じて成功裏の結果を確保することを決意している。
- 脆弱なグループを考慮しつつ,無駄な消費を助長する,非効率な化石燃料補助金の合理化・段階的廃止に向けた実施戦略と予定表を策定した財務・エネルギー大臣の作業を歓迎。ソウル・サミットで進ちょくをレビュー。
- メキシコ湾における最近の原油流出を受け,我々は海洋環境保護,事故の防止及びその結果への対処等につき,ベスト・プラクティスを共有する必要性を認識する。
- 本年開催されるミレニアム開発目標(MDGs)国連首脳会合は,2015年までにMDGsを達成するために重要。この関連で,開発途上国が世界的な経済システムの積極的な参加者かつ受益者となることが重要。開発の格差是正,貧困削減は,持続可能な成長等の達成に向けた目標に不可欠。我々は,開発作業部会を設置し,ソウル・サミットで採択される開発アジェンダ及び行動計画を策定させることに合意。
- 次回は本年11月11日及び12日に韓国ソウルで開催。また2011年11月に仏議長国の下で,2012年に議長国メキシコの下で,開催。今回の会合開催国であるカナダに感謝。