1.日程,参加国等
(1)日程,場所
2012年 6月18日(月曜日)~19日(火曜日)(於:墨・ロスカボス)
(2)参加国・国際機関
G8(日,米,英,露,独,伊,加,仏,EU),メキシコ,アルゼンチン,豪,ブラジル,中国,インド,インドネシア,韓国,サウジアラビア,南ア,トルコ,スペイン,コロンビア,チリ(CELAC議長国),エチオピア(NEPAD運営委員会議長国),ベナン(AU議長国),カンボジア(ASEAN議長国),国際連合食糧農業機関(FAO),金融安定理事会(FSB),国際労働機関(ILO),国際通貨基金(IMF),経済協力開発機構(OECD),国際連合(UN),世界銀行(WB),世界貿易機関(WTO)。
我が国からは,初日に野田総理が出席し,二日目は,長浜官房副長官が総理の代理として代表を務めた。
2.主要な成果
(1)総論
今次サミットでは,世界の金融市場を不安定にしている欧州問題への対応等,世界経済の問題を中心に首脳間で活発な議論が行われた。各議題についての議論の概要は以下のとおり。
(2)世界経済
- (ア)多くの国から,欧州の債務危機や金融セクターの問題,及びそれに伴う波及効果が世界経済にとっての最大のリスク要因であるとの懸念が表明され,欧州当局が金融安定化に早急に取り組むべきとの意見が示された。これに対し,欧州当局からは,更なる財政統合や金融面の統合を進めていくことが重要との意見が示された。
- (イ)経済成長と財政再建の関係についても議論となったが,これらは二律背反ではなく相互補完的な関係であり,両立させることが必要との意見が多数示された。特に米国と日本については,中期的な財政の持続可能性を図ることが重要との意見が示された。経済成長に関しては,労働市場改革やサービスセクターの規制改革といった構造政策が重要であるとの指摘があった。
- (ウ)日本を含め,多くの国が,現在の欧州情勢などを受けて,為替を含めた金融市場におけるボラティリティが高まっていることへの懸念を表明し,市場の安定化を図ることが重要である旨を指摘した。
- (エ)アジアについては,成長は総じて引き続き強いものの,欧州危機からの波及がリスク要因であり,チェンマイ・イニシアティブの強化などがセーフティーネットとして重要である旨,我が国やカンボジアが指摘した。
- (オ)首脳宣言と合わせて発出されたロスカボス行動計画では,欧州問題への対処など市場の信認を回復するための対応に加え,財政健全化や構造改革の実施,グローバル・インバランスの是正など,世界経済の成長に向けたG20としてのコミットメントを示した。
- (カ)野田総理からは,概要以下の通り発言した。
- (I)まず,欧州債務問題への懸念の高まりが世界中の金融市場を不安定化していることを指摘しつつ,日本経済のファンダメンタルズが総じて堅調であるにも関わらず株価が下落し,対ユーロ,対ドルともに投機筋主導で急速に円高が進んでいることへの強い懸念を述べた。
- (II)また,ギリシャ再選挙の結果については,ギリシャ国民の賢明な選択を歓迎する,新政権がトロイカとよく連携して支援の継続を確保することで,市場の安定が回復することを期待する旨述べた。
- (III)更に,欧州情勢については一刻の猶予も許されず,金融セクター強化などに早急に取り組んで世界の市場を安心させるべき,また,欧州危機の波及等による市場の動揺に対しては,各国が協調して市場の安定化に取り組むべきと強調し,G20首脳が市場の信認回復に向け,力強いメッセージを示すことが必要であると主張した。
- (IV)また,我が国の取り組みとして,EFSF債の購入やIMF資金基盤強化への600億ドルの融資枠の貢献等を説明し,未だIMF資金基盤強化への具体的な貢献額を発表していない国が貢献額を発表し,市場の安心感を高めるべきことを主張した。更に,チェンマイ・イニシアティブの強化など,アジアへの波及防止についての我が国の取り組みについても説明した。
- (V)日本経済について,財政健全化と経済成長を車の両輪として捉え,カンヌ・サミットにおけるコミット通り, 2015年10月までに消費税率を段階的に10%まで引き上げることを含む社会保障・税一体改革法案を本年3月に国会に提出し,成立を目指して全力を挙げていることや,日本再生戦略の実施を通じた日本経済の再生,震災復興の取組等を通じて本年度2%を上回る成長が可能と見込んでいる旨を説明した。
(3)国際金融アーキテクチャー,金融規制,金融包摂
- (ア)国際金融アーキテクチャーについては,1)IMF資金基盤強化について,中国等多くの新興国から具体的な貢献額の表明があり,この結果,コミットメントは4500億ドル以上となった。2)2010年のIMFクォータ・ガバナンス改革を本年10月のIMF世銀総会までに実施するとのコミットメントや,次期クォータ見直しについて2013年1月までに計算式について合意するとのコミットメントについて,多くの国からこれらを期限通り実施すべきとの指摘があった。
- (イ)金融規制については, FSBからFSBのガバナンス強化の取組が報告されるとともに,シャドーバンキングや店頭デリバティブ,国内のシステム上重要な金融機関に対する政策枠組みの検討状況等が報告され,引き続き作業を継続することを確認した。
- (ウ)多くの新興国から,消費者や中小企業が金融サービスの恩恵が受けられるよう,金融包摂,金融教育,金融消費者保護等の促進の重要性について指摘があり,右に関する国際機関やメキシコ主導の取組等を歓迎する旨の発言があった。
- (エ)野田総理からは,前述のとおり,初日の議論において,IMF資金基盤強化や,チェンマイ・イニシアティブ強化によるアジアへの危機波及防止等,本分野における我が国の取組を説明した。
(4)開発:包摂的なグリーン成長,インフラ,食料安保
- (ア)インフラについては,経済危機の影響を受けているのは途上国であり,途上国の成長のためにインフラ開発への支援が必要であるとの指摘が多くなされた。加えて,国際開発金融機関の行動計画の実施の重要性や,災害リスク管理の重要性についても強調され,我が国の震災を含む各国の経験を世銀がとりまとめた経験集が報告された。
- (イ)食料安保については,農業の生産性向上や食料価格変動対策を中心に議論が行われ,生産性向上については開発のための農業研究や技術普及の重要性や,民間投資動員の必要性を指摘する意見があった他,農業のイノベーションを促進するイニシアティブ(アグリザルツ)の立ち上げが歓迎された。食料価格変動に関しては,昨年合意された食料価格乱高下及び農業に関する行動計画の着実な実施が歓迎された。
- (ウ)包摂的なグリーン成長については,各国より本年議長国メキシコにより優先分野として掲げられたことが支持され,途上国の包摂的なグリーン成長への移行が持続可能な開発に不可欠であるとの認識が示された。また,グリーン成長が保護主義的措置として使われるべきではないとの認識で一致した。更に,6月20日に始まるリオ+20の成功と,リオ+20の成果も踏まえた包摂的なグリーン成長の実現に向けた長期的な協力の必要性が指摘され,引き続きG20の議題としてこれに焦点を当てていくこととなった。
- (エ)野田総理は,初日の議論の中で途上国の開発が必要,この観点から持続可能で均衡ある成長のために,包摂的グリーン成長,インフラ等開発はG20として取り組むべきアジェンダである,我が国は,世界低炭素成長ビジョン,ASEAN連結性強化支援,防災の知見等を活かして貢献する,更にアフリカでのEPSAの下,新たに5年間で10億ドルの円借款を供与すること,来年行われるTICADVでも民間投資を通じた経済成長を議論していくこと等を紹介した。
(注)EPSA:アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ - (オ)二日目には長浜官房副長官(総理の代理として出席)から,ASEAN連結性向上のためのインフラ整備等日本の取組を紹介。また,東日本大震災やタイの洪水がグローバル・サプライチェーンに影響を与えた経験を踏まえ,防災の重要性を強調し,東北で7月に開催する防災に関する閣僚会議への参加を呼びかけた。食料安全保障について,バリューチェーン全体を視野に入れた供給力強化,責任ある農業投資原則(PRAI)の推進を主張すると同時に,農業市場情報システム(AMIS)支援やASEAN+3緊急米備蓄協定(APTERR)等の取組を紹介した。更に,自らリオ+20に参加することを紹介しつつ,G20が途上国の「包摂的なグリーン成長」への移行を後押しすることが重要であると主張した。
(5)貿易,雇用創出,成長
- (ア)貿易については,保護主義的措置が拡大していることに多くの首脳から懸念が表明され,新たな保護主義的措置を設けない(スタンドスティル)等のコミットメントの期限を延長すべき旨の主張がなされた。これに対し,一部新興国から,先進国が農業補助金をはじめとして様々な保護措置を続ける中でスタンドスティルのコミットメントのみを延長することはバランスを欠く旨の意見も表明されたが,成長・雇用における貿易の重要性を踏まえ,現在2013年までとなっているコミットメントを2014年までに延長することに合意した。また,停滞するWTOドーハラウンド交渉を進めることの重要性について指摘があり,多くの国から,貿易円滑化の合意を進めるべきとの意見が出された。
- (イ)野田総理は,初日の議論の中で,貿易,投資の保護主義的措置が増大していることは遺憾であり,G20として保護主義的措置に断固反対するとの強い決意を示すべきと主張。WTO交渉でも途上国関心事項への対応や貿易円滑化等の前向きな動きを歓迎し,これを後押しすべきことを主張した。
(6)結論
以上の議論を踏まえ,ロスカボス宣言,ロスカボス成長と雇用のアクション・プラン(関連文書別添)が発出された。
3.来年のG20サミット
議論の最後に,プーチン露大統領より,次回G20は,来年にサンクトペテルブルクで開催する予定である旨の報告があった。