経済

ロスカボス成長と雇用のアクションプラン(仮訳)

平成24年6月

 世界経済におけるリスクと不確実性が著しく高まっている。我々の市民全てにとっての雇用の見通しを向上させるため,我々全体としての焦点は,現在,需要,成長,信認,金融の安定を強化することに当てられている。我々は,我々の強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組みを通じてそれらの目標を達成するための世界的に調整された経済計画に,本日合意した。この計画は,カンヌ・アクションプランを組み入れ拡張するものであり,より強固で息の長い回復を実現するための我々の取組みを大幅に強化する。「ロスカボス成長と雇用のアクションプラン」は,協力と調整がより良い経済的な成果をもたらすとの前提からスタートしている。我々は,以下のようなコミットメントを果たすための強固かつ断固たる行動をとるとの我々のコミットメントにおいて,結束している。

 最も重大なリスクであると認識されるものに照らし,我々の政策行動は以下の点に焦点を当てるべきであることに我々は合意した。

 我々がこれらのリスクに成功裏に対処する能力は,財政赤字を持つ国では公的部門から民間部門へ,経常黒字国では対外部門から国内部門への需要の移転を奨励すること等により,安定と成長を促進し,進行中の不均衡を減少させるためのより強固な行動をとる我々の能力に影響される。我々は,対内的及び対外的な不均衡の両方を減少させるための取組みを強化する必要があることに,完全に合意している。

 我々がカンヌで合意した通り,我々は,強固で持続可能かつ均衡ある成長という我々の共通の目標へ向けたコミットメントの実現の進捗を評価するための,「ロスカボス・アカウンタビリティ評価の枠組み」(付属文書A)を確立した。この枠組みは,3つの柱に基づいている。第一に,評価を確かなものとするための指針は,次の通りである:各国主導であること,「遵守,さもなくば説明」とのアプローチに基づくこと,具体的であること,メンバー国間で一貫していること,公平であること,オープンかつ透明であること。第二に,メンバー国の政策についてのレビューと議論を含むピア・レビューのプロセス,及び,国際機関からのより詳細な評価である。最後に,評価の成果を要約し,毎年首脳に報告することである。

 我々は,この枠組みの下での我々の最初の評価(付属文書B)を行った。我々は,カンヌ・アクションプランで示された,回復を促進し強固な成長と雇用創出の基盤を築くためのコミットメントは,引き続き概ね適切であることに合意した。しかしながら,最近のリスクの高まりにより,カンヌ・コミットメントを実施し,これを増強することの重要性は高まった。カンヌ・アクションプランのいくつかの要素において良い進展が見られたが,複数の分野において更なる進展が必要である。我々は,進行中のアカウンタビリティ評価を実施し,ロスカボス・アカウンタビリティ評価の枠組みに示されているように,進捗を評価するための指標の検証を向上させる。

 ロスカボス・アクションプランは,以下に示されている通り,短期的及び中期的な影響をもたらす政策措置の組み合わせを含む。これは,政策への信認の強化を確保し,特定の分野への対応における各国の異なる能力を反映するためである。

短期的なリスクの対処,コンフィデンスの回復,成長の促進

 この計画の中心には,リスクを最小化し成長を促進するための最も強固な行動は,財政政策と金融政策の行動に支えられた,我々の金融システムの安定と適切な機能を促進する行動であるとの共通の合意がある。

 短期的なリスクに対処し,コンフィデンスを促進し,経済と金融の安定を確保し,経済の回復を強化するため,我々は以下の行動に合意した。

1. G20のうちユーロ圏のメンバー国は,ユーロ圏の一体性及び安定性を守り,金融市場の機能を改善し,国家と銀行の間のフィードバックのつながりを断ち切るためのすべての必要な措置をとる。

2. 我々の全ての国における財政政策は,財政の持続可能性を促進し政策の信認を強化する方法で,回復の強化と維持に焦点を当てる。

3. 金融政策は,価格の安定の維持と世界経済の回復の持続に焦点を当てる。この文脈において,先進国の中央銀行がとる行動は,世界経済の成長と安定の促進に重要な役割を果たしてきた。中央銀行は引き続き警戒し,目的を達成するため適切に行動をとる。

4. 我々の中央銀行,金融市場監督当局,財務省は,引き続き緊密に対話し,不確実性が高まっているこの時期において,金融の安定を維持するためFSBを通じて協力する。我々は,信用チャネルを保護し世界的な支払・決済システムの健全性を保護するための適切な行動をとりつつ,中期的に我々の金融システムを守るために必要な金融セクターの制度改革のモメンタムを維持する。

5. 仮に経済状況が更に大幅に悪化した場合,アルゼンチン,オーストラリア,ブラジル,カナダ,中国,ドイツ,韓国,ロシア,米国は,各国の状況とコミットメントを考慮しつつ,内需を支えるための更なる措置を調整し,実施する用意がある。

6. 新興国は,価格の安定を確保しつつ,内需を支えるためにマクロ経済政策を調整する。適切な時期と場合には,マクロ健全性措置もまた,国内の信用の伸びと流動性を管理する助けとして用いられる。

7. 地政学的リスクが供給主導の石油価格の急騰をもたらしうることを認識しつつ,余剰生産能力が限られ,備蓄がそれほど多くないという環境において,メンバー国は,必要な場合,追加的な行動をとる用意がある。我々は,十分な供給を確保するとの産油国のコミットメントを歓迎する。特に,我々は,サウジアラビアが,必要な場合,1日当たり250万バレル以上の現在の余剰生産能力を動員する用意があることを歓迎する。

8. 全ての政策分野において,我々は,国内的な目的のために実施する政策が他国に与える負のスピルオーバーを最小化することにコミットする。我々は,強固で安定した国際金融システムが我々の共有する利益であること,及び,市場で決定される為替レートに対する我々の支持を再確認する。我々は,為替レートの過度の変動及び無秩序な動きは,経済及び金融の安定に対して悪影響を与えることを再確認する。

中期的な成長のための基盤の強化

 全てのメンバー国は,優先分野に焦点を当てつつ,コンフィデンスを高め,世界的な生産を引き上げ,雇用を創出するための,カンヌで策定された6点の計画に立脚することに合意する。

1. 先進国は,自国の財政が持続可能な道筋にあることを確保する。

2. 我々は,経常黒字国では内需を増加させ,財政赤字国では公的部門から民間部門へ需要を移転させ,経常赤字国では国民貯蓄を増加させることにより,世界的な需要をリバランスさせるための取組みを強化する。

3. カンヌにおいて,各国は,世界的な需要を拡大・維持し,雇用創出を促し,世界的なリバランスに貢献し,全てのG20諸国において潜在的な成長を増加させるための構造改革へのコミットメントを提唱した。これらは,今後とも中核的な優先事項であり続け,カンヌ以降に行われた追加的な改革やコミットメントにも反映されている。これらの改革は,以下を含む:

4. 我々は,金融セクターの規制と監督の強化に相当の進展をみた。足元の世界経済の課題は,金融セクターをより強じんで安定的なものとし,かつ,経済成長を後押しできるものとするために,合意された金融改革を効果的に実施するというわれわれのコミットメントを再確認する必要性を強調している。我々は,合意された規制改革が新興市場・途上国経済に意図せざる結果をもたらしうる程度を特定する,IMF及び世銀との共同によるFSBの作業を歓迎する。G20メンバーは,FSBが,基準設定主体と協力して,進捗を監視し,定期的に報告することを引き続き期待する。これは,金融包摂を増加させる取組みにより補完される。

5. 我々は,あらゆる形態の保護主義に対抗し,開かれた貿易を促進するとの我々のコミットメントを再確認するとともに,WTO 非整合的な貿易制限的措置の数を減少させ,金融保護主義に対抗するために,積極的な措置をとる。

6. メンバー国は,途上国における潜在的な成長力と経済の強じん性を最大化するための行動へのコミットメント,及び,先進国が援助のコミットメントを達成し,開発のニーズに応えるために国内,国外,及び新しい革新的な財源を動員することの重要性を再確認する。これらの行動は,多国間及び二国間ドナーや公的及び民間のパートナーによる,途上国のミレニアム開発目標の達成を支援する取組を補完する。新興市場国メンバーはまた,投資環境を向上させ,インフラ投資を強化することを含む,開発を促進する一連の改革を推進する。

 各国毎の改革コミットメントの詳細は,メキシコ議長国のウェブサイトに掲載されている。我々は,経済状況の進展に合わせて,将来にわたって政策の調整を継続する。我々は,我々の財務大臣に,脆弱性に対処し回復を持続させるために今後数ヶ月間緊密に協働することを求める。我々は,2013年のサンクトペテルブルク・サミットにおいて,我々の全てのコミットメントの進捗をレビューする。

付属文書A

ロスカボス・アカウンタビリティ評価の枠組み(概要)

アカウンタビリティ評価の枠組みは,以下の3つの柱に基づいており,過去のコミットメントの進捗報告を用意する際に用いられる。

1.指針

2. 第三者評価の提供を受けたピアレビュー・プロセス

 アカウンタビリティ評価の中心は,過去のG20におけるコミットメントの達成に関する進捗状況をメンバー国が評価するピアレビューのプロセスである。ピアレビューにおける議論は,次の要素を含む。

 我々は,過去のコミットメントの進捗を測定するための共通のアプローチに合意することにコミットしている。また,我々は,コミットメントは具体的かつ計測可能であり,強固で持続可能かつ均衡ある成長の達成に関連するものである必要があることに合意する。我々は,我々の財務大臣・中央銀行総裁に,2012年11月のメキシコシティでの彼らの会合までに進捗をレビューすることを求める。

3. 大臣・総裁・首脳への定期的な報告

 ピアレビューの議論の成果として,短い進捗報告が大臣会合のために用意され,定期的な年次アカウンタビリティ評価が大臣・総裁・首脳のために用意される。

付属文書B

ロスカボス・アカウンタビリティ評価(概要)

財政政策

 予想以上に弱い経済状況がいくつかの国における財政調整の道筋に影響を及ぼしているが,トロントの財政コミットメントの達成に向けてよい進展が見られている。いくつかの国においては,財政を中期的に持続可能な道筋に置くための行動を通じ,財政政策の信認を強化する必要がある。

 メンバー国は,財政構造改革の実施というコミットメントにおいて進展を見た。ユーロ圏は,財政協定の採択により財政枠組みを強化した。いくつかのメンバー国は年金制度を改革するとのコミットメントを果たし(イタリア),その他の国では年金改革が進展している(フランス,英国)。ブラジルは,公務員の年金制度の改革を承認した。スペインは,主要な労働市場改革を実施した。G20メンバー国の一連の財政行動には,更なる進展が必要であり,これにより持続可能な財政が促進されるとともに,世界的なリバランスが促進されるだろう。ユーロ圏は,財政ガバナンスの改革の完了が必要。米国と日本は,野心的な中期財政計画を完全に実施することが必要。インド,インドネシア,メキシコは,主要な補助金の改革の継続が必要。多くの新興国・先進国において,歪みを減少させるための税制改革の更なる進展が必要。

  1. メンバー国間で一貫性をもたせるために、ここでのトロント・コミットメントの評価は、一般政府債務ベースで、2010年の赤字の実績と2013年のIMF予測とを比較し、予測に0.5パーセント・ポイントの信頼区間を許容したものである。
  2. 2015年から2016年にかけての一般政府債務対GDP比のIMFによる予測を使用。

金融・為替政策

 ピッツバーグ・サミット以降,比較的柔軟でない為替レート制度を持つ新興市場国は,多くの重要な改革を実施した。特に,中国とロシアの両国は,為替レートの変動幅を拡大した。中国の為替レートは2005年以降大きく増価したが,カンヌ・サミット以降においては,特に中国の最近の改革が実施されてから短期間しか経ってないため,より柔軟な為替レートに向けた進捗は明確ではない。2011年の最後の四半期には,経常黒字の減少等により,中国の外貨準備は減少した。2012年の第1四半期には,外貨準備の蓄積が再開した。

 新興国は,先進国における金融緩和が,新興国への資本フローの水準・変動の増加やその他の金融指標の変動の増加に寄与し,マクロ経済政策の運営を複雑化させているとの懸念を表明している。メンバー国は,先進国の金融政策が負の波及効果を及ぼす可能性に引き続き警戒する必要があることを認識する一方,その政策は自国の目的を達成するために適切に方向付けられていることを総じて認識した。

構造政策

 OECDは,全ての構造改革のコミットメントのうち4分の3以上が実施中,約3分の1は完全に実施されたと見積もっている。

 複数の先進国は,製品市場改革に更なる進展が必要(ユーロ圏,日本)。世界的なリバランスを助けるため,米国は,民間貯蓄をより奨励することが必要であり,ドイツは内需を促進する措置をとるべきであり,また,いくつかの新興国は国内消費を増加させ投資の効率性を向上させる必要がある。

貿易,金融セクター,開発政策

 ほとんどのメンバー国は,アドホックな政策対応というよりはむしろ,WTOと整合的な貿易救済措置を通じて非公正な貿易慣行に対処すること等により,保護主義に対抗するとのコミットメントを維持してきた。しかしながら,いくつかの地域の政治環境は,新たな形の保護主義的措置をより受け入れつつあるようであり,これには対抗すべきだ。

 FSBは,合意されたG20・FSBの金融改革の実施に対する厳格な監視やG20への報告を,調整し促進する責任がある。

結論

 全体として,カンヌや過去のサミットでの改革のコミットメントの推進において進捗が見られるが,いくつかの重要な分野において更なる進展と新たな行動が必要。将来の評価を容易にするため,メンバー国はまた,政策コミットメントは,可能な限り明確で具体的である必要があり,強固で持続可能かつ均衡ある成長という全体の目標に向けて実質的に貢献する必要があることを認識した。我々はまた,すべての政策分野における過去のコミットメントの進捗を測定するための共通のアプローチの必要性に合意する。

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