経済

日本・インドネシア経済連携協定
共同検討グループ
報告

2005年5月

概要

第1章 背景

第2章 概観

第3章 議論の概要

1. 物品貿易

(1) 鉱工業品

(2) 農林水産品

(3) 原産地規則

2. 税関手続

3. 知的財産

4. 競争政策

5. 基準認証及び相互承認

6. 投資及びサービス貿易

7. 鉱物資源・エネルギー

8. 人の移動

9. 政府調達

10. ビジネス環境整備

11. 協力

第4章 共同検討グループの提言

第5章 日本・インドネシア経済連携協定交渉の範囲及びモダリティ(枠組み)


I. 背景

  1. 2004年11月APEC首脳会談の際にユドヨノ大統領から小泉首相に対し国の緊密な経済関係をさらに推進するために経済連携協定(以下「EPA」)は重要である」旨発言。
  2. 2004年12月16日、中川経済産業大臣とマリ商業大臣は、日本・インドネシア二国間の経済連携のあり方に関する共同検討グループを立ち上げることにつき意見の一致をみた。
  3. 2005年1月6日、町村外務大臣とカッラ副大統領は、日インドネシア経済連携に係る共同検討グループの会合を4月までに3回開催し、両国間のEPA交渉の立ち上げの是非等につき結論を出すことで意見の一致をみた。
  4. 以上を受け、第1回会合は1月31日及び2月1日にジャカルタで、第2回会合は3月4日及び5日にバリで、第3回会合は4月11日及び12日に東京で開催された。
  5. 会合は、両国政府関係者間で行われ、両国の産学関係者も参加した。会合を通じ、幅広い分野にわたり議論が行われた。

II. 概観

  1. 日インドネシア両国は、多岐にわたる分野において密接な経済関係を築いている。
  2. 物品貿易面においては、インドネシアにとり日本は輸出入両面において最大の貿易相手国となっており、2004年のインドネシア中央統計局(BPS)経済統計によれば、輸出シェアの19.06%、輸入シェアの13.07%を対日貿易が占めている。2004年の日本の財務省貿易統計によれば、日本にとりインドネシアは輸出シェアの1.60%、輸入シェアの4.11%を占めている。また、インドネシアが日本にとり重要なエネルギー供給国となっていることも注目される。
  3. 投資面においては、日本からインドネシアへの民間直接投資については、1997年のアジア経済危機以降のインドネシア経済の停滞を背景に減少し、未だ本格的な回復には至っていないものの、日本は対インドネシア投資国の中で常に上位を占めてきている。インドネシアの統計によれば、1967年から2004年までの累積直接投資額では、日本は全体の19.47%を占め、世界第1位の対インドネシア投資国となっている。インドネシアにおける日系企業は約1,000社に上り、またこれら日系企業によるインドネシア人雇用者数は20万人を超えている点も注目される。
  4. さらに、日本はインドネシアに対する最大の政府開発援助(ODA)供与国ともなっている。
  5. しかしながら、こうした両国の密接な経済関係は、両国の不断の努力なくして永続的に続くものではない。共同検討グループにおいても、両国の研究者より、日インドネシア二国間のEPAが両国にとり、大きな経済的利益を生み出すこととなるであろうという見解が示された。
  6. こうした点を踏まえつつ、二国間経済連携の一層の強化という視点にたち、共同検討グループにおいては、各分野につき以下のとおり詳細な議論が行われた。

III. 議論の概要

1.物品貿易

 両国は、関税撤廃及び関税削減を含む、物品の市場アクセスの改善が、日インドネシア両国の経済連携強化のための重要な要素であり、日インドネシアEPAには、GATT24条に整合的な自由貿易協定の要素を含むべきであることについて一致した。インドネシア側は、とりわけ双方の関心品目に関する関税削減や関税撤廃、特にタリフピーク、タリフエスカレーション及び非関税障壁に関心があることを表明した。

(1)鉱工業品

(イ) 両国は、日インドネシアEPAにおける主要な目的の一つは、インドネシアの投資環境の改善による日本からの投資拡大の追求である点を強調した。日本側は、市場アクセスの改善はインドネシアの投資環境の改善と一体として議論されるべき旨主張した。その上で、日インドネシア双方の産業構造が相互補完的であるとの認識の下、実質的に全ての品目について即時に関税を撤廃することを基本原則とし、AFTAスキームにおける関税撤廃スケジュールよりも早い自由化を目指したい旨要望した。また、インドネシアが比較的高関税を維持している自動車・同部品、電気・電子製品、鉄鋼製品、繊維製品といった品目の関税撤廃に関心があることを表明した。

(ロ) 日本の自動車・同部品業界は、投資を通じた現地パートナーとの事業提携や、部品の分業・補完体制を通じて協力を強化する為、原則関税即時撤廃が必要である旨を主張した。また、日本の鉄鋼業界は、日本からの鉄鋼輸出は、インドネシアの自動車業界、電気・電子業界等のユーザー産業に高品質の鉄鋼製品を供給しており、インドネシアの鉄鋼業界と補完関係にあることを強調した。さらに、日本の繊維業界は、業界同士の合意を通じて、全品目関税即時撤廃を目指すこと、ステージングは相互主義で進めていくこと、日ASEAN包括的経済連携(CEP)協定と整合的な統一原産地規則の策定(具体的には関税番号変更基準)を目指すことを要望した。

(ハ) インドネシア側は、日本側が一部品目に対する特定高課税を含む関税を維持している様々な有機化学製品、プラスチックバッグ、ガラス製品、繊維及び履物の関税撤廃に関心があることを表明した。日本側は、履物、皮革及び皮革製品は日本にとって歴史的及び社会的にセンシティブである旨を強調した。

(ニ) インドネシア側は、インドネシア国内には依然センシティブな品目も存在し、分野別の更なる検討が必要であるとしつつも、WTOに整合的な形での貿易自由化を目指すことに同意した。

(ホ) インドネシアの産業界は、産業保護ではなく、産業振興を基本的なポジションとし、インドネシア国内産業の競争力強化を目指したい旨主張した。これに関連し、インドネシア商工会議所(KADIN)は、インドネシアと日本の開発格差を考慮すれば、物品貿易の自由化のみならず、協力・円滑化が重要であるとし、1)科学技術移転、2)国内の裾野産業育成と日系メーカーとの産業連携強化、3)中小企業の競争力強化,4)人材育成、5)日インドネシアEPAに関連し、インドネシア政府へ提示されるインドネシア産業戦略立案のための協力を要望した。

(ヘ) インドネシアの自動車・同部品業界は、インドネシア自動車市場は成長のポテンシャルがあることを指摘しつつ、幅広い裾野産業への支援を日本側に要請した。また、インドネシアの電気・電子製品業界は、部品産業の振興に関心を表明し、技術移転や人材育成、基準認証分野における支援を日本側に要望した。さらに、インドネシア側は、労働集約的なインドネシアの繊維製品は日本からの輸入品とは競合関係にない旨指摘しつつ、日本の繊維業界より提案のあった業界同士の対話には応じる用意がある旨主張した。

(ト) 両国は、日インドネシア双方がWin-Winの関係を構築できるよう、インドネシアの裾野産業を育成するとともに、インドネシアに展開する日系企業との産業連携を強化することが重要である旨強調し、これらを達成するためにも、インドネシアがセクター別によく調整された産業戦略を持つ必要がある旨指摘し、昨年12月に立ち上げ、本年3月14日に第1回会合を行った「官民合同投資フォーラム」を積極的に活用しつつ、これまでの日インドネシア協力関係を更に強化する用意がある旨主張した。

(2)農林水産品

(イ) インドネシア側は、日インドネシアEPAが両国の農林水産分野の開発と貿易の促進に寄与するという見解を有し、これらの分野における市場アクセスの改善について引き続き議論したい旨述べた。

(ロ) 両国は、農林水産分野において、特別品目及び/又はセンシティブな品目があることを述べた。日本側はコメ・小麦・大麦及びその加工・調製品、食肉類、パインアップル、バナナ、でん粉、砂糖・砂糖調製品、酪農品、木質パネル類、かつお・まぐろ、IQ関連水産物、ある種の油脂・加工食品などをセンシティブな品目として例示した。インドネシア側はコメ、トウモロコシ、大豆、砂糖を特別品目として例示した。両国はこれらの特別品目及び/又はセンシティブな品目に配慮し、EPA交渉を柔軟に進める旨確認した。EPAにおける自由化の対象範囲から品目を除外する等の各品目における柔軟な対応は両国の品目のセンシティビティを考慮に入れることにより決定される。

(ハ) 日本側は、農林水産分野においてインドネシア政府が課している輸出補助金、輸出税及び輸出規制の撤廃を求めた。また、日本の農業団体は、EPAの利益は全ての経済セクターにより共有されるべきであること、食料安全保障や自給率向上のための取組みに沿ったものであること、農業の多面的機能にも配慮する必要があること等を主張した。インドネシア側は、地域開発と地域の生活水準の促進の観点から、これらの点について見解を共有した。

(ニ) インドネシア側は、検疫分野における技術協力の必要性を主張した。また、インドネシア側は、EPAが日本及びインドネシアの小規模農家に打撃を与えるものとならないようにすべきであることを指摘した。その関連で、インドネシア側は、農業協同組合および農業者団体の活動に関する日本側の協力を要望した。

(ホ) インドネシア側は、日本政府がインドネシアを口蹄疫清浄国として認定すること、口蹄疫を原因とするシュガーケイントップの輸入禁止措置を解除することを求めた。これに対して日本側は、個別のSPS案件は、貿易の自由化や特別の待遇の付与につき議論するEPA交渉で取り扱うのは適切ではなく、既存のチャンネルを通じ専門家同士で科学的根拠に基づいて議論されるべき事項である旨指摘した。インドネシア側はSPS案件はEPA交渉に含まれねばならない旨主張した。

(ヘ) 林業分野については、日本側は、木質パネル製造業のセンシティビティについて説明した。日本の合板、集成材、パーティクルボード及び繊維板の関税率の引き下げにより、これらの国内生産の競争力が低下しつづけているという状況について懸念を表明した。日本側は、インドネシア側に対して違法伐採に対する更なる措置を要望し、熱帯林保護の重要性について議論した。インドネシア側は違法伐採対策に関して真剣かつ継続的な取組みを行っている旨述べた。インドネシア側は、同分野における違法な国際貿易についても同時に対処しなければならないと指摘した。

(ト) インドネシア側は、当面の間、現行の日本の関税率構造を認めるものの、樹種によって合板の関税率が異なることを指摘し、関税分類の誤用の改善を求め関税率の正確な適用を求めた。これに対して日本側は、日本国内の主要な製品と競合すること、熱帯林の保護という観点から特定の樹種はより重要であることから差をつけていると説明した。日本側は、熱帯産木材に対する関税は、熱帯林の保護に寄与すると認識しており、さらに木質パネル類の関税はインドネシア政府が課している丸太に対する輸出税、輸出規制や違法伐採問題と合わせて議論すべき事項であることを主張した。インドネシア側は、違法伐採対策の重要性は認識するものの、市場アクセスと合わせて議論すべきではない旨主張した。インドネシア側は、本件に関する日本の技術支援の申し出を歓迎した。

(チ) 水産分野については、両国は、貿易自由化が水産資源の持続的利用を脅かし、水産資源管理に悪影響を及ぼしうるという懸念を示し、両国の経済連携においては、むしろ水産資源管理に係る既存の協力関係を一層強化していくことの方が有益である旨主張した。また、日本の水産業界は、かつお・まぐろ等の水産資源において両国の漁業が漁獲競合の関係にあることを指摘すると共に、両国は、秩序ある水産資源管理、とりわけインドネシア周辺海域での違法・無規制・無報告(IUU)漁船の根絶に向けた両国のより一層の取組みの重要性を認識した。また両国は、EPAにおいて水産物貿易の自由化のみに偏重するのではなく、水産業の幅広い分野における協力を推進する可能性を検討していくことが得策である旨主張した。

(リ) インドネシア側は、インドネシア周辺海域で活動するIUU漁船の根絶、並びにインドネシア原産エビ種苗の養殖開発に向けた技術協力を日本側に要望した。両国は、インドネシアにおける将来のビジネス機会として、インドネシア海域における水産資源調査のための協力の重要性を認識した。

(3)原産地規則

 両国は、日ASEAN・CEP協定における原産地規則と二国間協定の原産地規則は整合性がとれたものが好ましいという認識を共有した。

2. 税関手続

(1) 日本側は、税関手続について、貿易円滑化とセキュリティの確保の両立の重要性を指摘し、日本の産業界からは、税関手続における一層の透明性の向上や手続の迅速化、規則の統一的実施を図ること等を通じた、予見可能性の向上が求められた。これらの意見を踏まえ、日本側は、1)透明性の確保、2)税関手続の簡素化・調和化を通じた貿易円滑化及び不正な貿易に対する取締りの確保を目的とした、両国税関当局間での協力・情報交換、3)適切なフォローアップ・メカニズムの導入といった内容がEPAに盛り込まれるべきである旨主張した。インドネシア側は簡素化された税関手続に関する情報を提供すると共に、税関手続の改善に向け努力を継続的に行っている旨強調した。

(2) インドネシア側は、当該分野における両国税関当局間の協力の重要性につき見解を共有した。

3.知的財産

(1) 日本側は、我が国投資家は投資対象国を選定するための要素として、知的財産の保護を重要視しており、我が国企業からの投資を促進するためには、知的財産に関する環境整備が必要である旨主張した。特に、1)知的財産保護制度の整備、2)多国間条約への加盟、3)手続の簡素化・透明化、4)知的財産保護に関する公衆啓発、5)エンフォースメントの強化が重要である旨強調した。

(2) インドネシア側は、日インドネシアEPAにおける知的財産分野における取り組みは極めて重要であるとし、WTO・TRIPS協定等国際条約の遵守のため、新法の整備へ向けた準備を進めており、政府として確固たる行動を取る用意がある旨主張した。また、日本側から提案のあった5つの分野における取り組みの重要性を共有し、外国における周知商標の保護対象範囲の拡大やマドリッド・プロトコルへの加盟に向けた検討、エンフォースメント強化のためのナショナル・タスクフォースの立ち上げ等、インドネシア国内における取り組みについて説明した。さらに、知的財産分野におけるこれまでの日本の協力に感謝しつつ、更なる知的財産システムの強化のため、知的財産関係者に対するキャパシティ・ビルディングや情報交換など日本の支援の継続を要望した。

(3) 両国は、日インドネシアEPAにおいて、知的財産分野におけるこれまでの協力を強化するとともに、適切かつ効果的な知的財産保護システムの構築に向けた取り組みを推進していくことについて見解を共有した。

(4) 日本側はUPOV91年条約に従って農林水産分野における植物新品種の育成者権の適切な保護が実現されるよう要望した。

4.競争政策

(1) 両国は、日インドネシアEPAにおける競争政策に関する取り組みの重要性を共有した。

(2) 日本側は、競争政策分野の取り組みは日本の企業にとって投資のためのソフトインフラである旨主張しつつ、EPAにおいて競争政策を議論する目的は、貿易・投資の自由化の利益が両国における反競争行為によって阻害されることが無いようにすることである旨強調した。その上で、アセアン内で競争政策に関する取り組みが最も進んでいる国の一つであるインドネシアとのEPAにおいては、執行協力と技術協力の双方を包含した質の高い取り組みがなされるべき旨主張し、特に、執行協力については、通報、協力、調整、積極礼譲、消極礼譲について議論がなされるべき旨強調した。

(3) インドネシア側は、EPAにおける執行協力の重要性について認識を共有するものの、まずは両国の競争法を両国が効果的に適用できるようにすることが第1の取組である旨主張した。また、右分野における協力は、(イ)情報の交換、及び(ロ)キャパシティ・ビルディングに焦点をあてることを提案し、それらの取組は1)競争政策及び法の見直し、2)競争政策及び法手段の向上、3)執行当局に対するキャパシティ・ビルディング、4)多様な利害関係者の支持と理解の醸成、及び5)基盤的能力の向上が含まれることを強調した。

5.基準認証/相互承認(MRA)

(1) インドネシア側は、職業資格に係る相互承認等について関心を表明した。

(2) 日本側は、MRAについては、将来の交渉を予断するものではないが、基本的には製品安全性に係る検査・認証を対象とするものであり、インドネシア側から提起のあった職業資格の承認についてはMRAとは全く性格の異なるものである旨説明するとともに、MRAについて検討するためには、分野を特定した上で両国の制度的・技術的同等性が確保される必要がある旨強調した。

(3) 今後、両国は、製品安全性に係わるMRAの関心分野を具体的に特定し、専門家による更なる検討を行うとともに、MRAの必要性について予断することなく、当該分野に係る問題点の特定を行うこととした。

(4) インドネシア側は、日本の農林水産省、経済産業省がそれぞれ所管する製品に関し、自国の関係する適合性評価機関が日本の外国認定機関(RFCO)及び適合性評価機関(CAB)の資格を取得することに関心を示した。

6.投資・サービス貿易

(1) 日本側より、投資・サービス貿易分野は二国間EPAで日本側が最重要視する分野であり、特にインドネシアが今後外国からの投資を促しつつ経済発展を図っていくためには、内外無差別の自由で公正な競争条件のもと、外国企業が安定的に事業を継続できるような環境を整備していくことが極めて重要である旨強調した。

(2) 特に投資財産設立前(プレ)及び設立後(ポスト)の内国民待遇の付与、最恵国待遇の確保及びパフォーマンス要求の禁止及びマーケット・アクセス制限措置の禁止に関心があり、収用・補償、送金の自由、国対投資家の国際仲裁手続等を中心的な要素として協定に規定し、現状維持義務の導入、規制の透明性の確保が重要である旨表明した。

(3) インドネシア商工会議所(KADIN)の代表は、内国民待遇については累次自由化が図られており、現在改正中の新投資法を通じて更なる自由化も検討されていると説明した。更に、ポストの内国民待遇は基本的に付与しているが、プレについても外資規制を除く差別的な規制は存在しない、しかしながら新投資法は一般法であり、外資を制限する個別法はいくつかある、新投資法は許可制度から登録制度への移行を含む投資手続きの簡素化を目指しており、ワン・ルーフ・サービスの採用を含む他の措置も準備中である、また、収用・補償、送金の自由、国対投資家の国際仲裁手続きを協定に盛り込むことは問題ない旨表明があった。インドネシア側は投資に関する現行法及び規則に関する情報を提供した。(別添参照

(4) 個別分野については、日本側より、製造業関連サービスの他、建設、情報通信、運輸・観光、流通、金融、法務等の各分野のサービスの自由化について関心を表明した。日本側より、建設サービスについては、我が国建設業がインドネシアのインフラ整備に貢献できること、製造業関連サービスは、日本投資家がインドネシア経済への最大の貢献者となっている製造業にとって必要不可欠であることを説明した。インドネシア側もまた、観光、情報通信サービス、海運、建設、教育及び医療関連サービスを含むサービス分野の自由化に関心がある旨表明した。

(5) また、インドネシア側より、サービス貿易に関しては、建設及び金融分野におけるWTOで既に約束している水準を上回る自由化の進展について説明がなされた。流通サービスについては、インドネシア側より、外資参入に対して開放されている旨説明があった。

7.鉱物資源・エネルギー

(1) 日本側は、日本にとって枢要分野である鉱物資源・エネルギー分野について日インドネシアEPAの場で議論を行っていくべき旨主張し、特に、1)日系企業の参入規制の緩和、2)投資環境の整備、3)鉱物資源及びエネルギーの緊急時等における安定供給の確保等に関心を表明した。さらに、インドネシア側の投資環境整備の改善に向けた取り組みに触れ、中でも鉱物資源・エネルギー分野が特に重要である旨強調した。

(2) インドネシア側は、エネルギー分野は日インドネシアEPAの非常に重要な柱の1つであることから、今後も日インドネシアEPAの交渉の中で積極的に議論を行っていきたい旨の意向を表明した。

8.人の移動

(1) インドネシア側より、旅行・ホテル業、スパ・サービス、飲食関連業、介護士、船員、看護師の資格の相互承認について関心が示され、1)看護師、介護士、ホテル・旅行業等の技術的・専門的労働者の受け入れ、2)日本のまぐろ漁船へ乗船する資格を有する漁船員の承認及びインドネシア人上級船員が日本のまぐろ漁船の上級船員になることの許可を要望した。日本のかつお・まぐろ業界からは、インドネシア漁船員の更なる活用に期待する旨が表明された。

(2) 日本政府の方針として、専門的・技術的労働者については、積極的に受入れる一方、単純労働者の受入れは難しい旨述べた。また、日本側の労働組合関係者より、専門的・技術的労働者の受け入れに絞って議論すべきである旨指摘された。 更に、日本側より、看護師・介護福祉士については、日比間でのみ適用されるスキームであり、他の国から要望があれば改めて相手国ごとに十分検討する必要があること、また、船員については上記のような業界の声はあるが、入国・在留の観点からの『人の移動』の議論には馴染まない旨指摘した。

(3) 日本側より、短期滞在者の技能能力開発基金支払い免除、短期ビザのアセアン並の取り扱い、現地日系企業役員は現地JV企業役員の兼務、労働許可の手続き一元化、出国税(Fiscal Tax)の免除、日系企業における人事担当マネージャーの国籍要件の撤廃について関心が示された。日本側の要請に対し、インドネシア側は、1)いわゆる「出国税」の免除は、「出国税」が全ての海外渡航者が所得税を割賦する手段であり、税額控除の対象となっていることから受け入れられない、2)人事担当マネージャーの国籍要件は2003年法第13号に基づく旨説明した。

9.政府調達

(1) 日本側は、透明で競争的な環境の下で行われる政府調達は、予算の公正かつ効率的な執行、経済の競争力強化をもたらし、両国及びその国民の利益になるとの認識のもと、日インドネシアEPAにおいても、政府調達に関する国際的な枠組みに沿った、政府調達手続の透明性及び内外無差別の市場アクセスについて議論することが重要であることを強調した。

(2) インドネシア側は、政府調達制度の改革については、2003年に、一定基準額以上の調達について外国企業の参入も認めること等を内容とする大統領令第80号を制定し現在その着実な実施に取り組んでいる旨説明した。

10.ビジネス環境整備

(1) 日本側は、ビジネス環境整備はインドネシアにおける投資環境整備と深く関連しているとし、日本企業によるインドネシアへの投資促進のためにも、EPAの下での投資ルールや行政手続の整備のみならず、通関や課税、労働など日々のビジネスを行う上での諸課題について議論するため、日インドネシアEPAにおいて安定的なメカニズムを構築することが重要である旨強調した。

(2) 日本側産業界は、投資環境整備の観点から特に重要で緊急性が高いと考えられる項目として、1)通関、2)課税、3)労働、4)投資促進・裾野産業振興、5)インフラストラクチャーを挙げ、問題点の抽出や問題解決の方策について日インドネシア双方の官民が集まり議論するメカニズムが必要である旨強調するとともに、昨年12月に立ち上げが合意された「官民合同投資フォーラム」を積極的に活用することを提案した。

(3) インドネシア産業界は、ビジネス環境整備は日インドネシア双方にとって重要であり、租税関連法や労働関連法などの政府における準備作業と並行しつつ、官民で幅広い分野について議論していくことが重要である旨主張した。インドネシア側は、ビジネス環境向上に向けた取組みの一環として、1)透明性、予見可能性、簡便性及び平等性の向上を意図した租税法の改正、並びに2)税務実施規則の公布につき、すでに提案済みである旨述べた。

11.協力

(1) インドネシア側は、EPAの対象となる幅広い分野について日本側からの技術協力やキャパシティ・ビルディング等を要望した。これに対し、日本側は、協力分野に関するインドネシア側の関心事項の特定・優先順位付けを要望した。

(2) 農林水産分野では、インドネシア側より、IUU漁業の取り締まりを含む水産資源管理体制の改善に向けた技術支援及び人材育成、有機農業及び農業協同組合の育成、小規模農家の強化、ミバエの管理及びその設備に関する技術協力、特に木炭・沈香木といった特用林産品の開発、並びにマングローブ林の保護につき要望があった。

(3) 日本側は、農林水産分野については協力とマーケット・アクセスのバランスが重要であるとともに、日本の食料安全保障、国内農業の構造改革の努力及び国内の農林水産業に悪影響を及ぼす、または及ぼし得るような協力については、積極的に対応することが困難であり、可能なものとしては小規模な農林水産業従事者に直接裨益するような協力を行う用意があるとの見解を示した。

(4) 鉱工業分野では、インドネシア側より、鉄鋼・非鉄、造船、繊維、自動車、電機、眼鏡、貴金属を含む様々な産業における技術協力、人材育成、基準認証分野での支援、中小企業支援につき要望があった。

(5) 日本側は、鉱工業分野についてはインドネシアの裾野産業育成と日系企業とのビジネスマッチングが必要であり、また効率的な協力の実施のためにはインドネシアの明確な産業戦略が必要であるとの見解を示した。

(6) 研修・技能実習制度に関して、インドネシア側より、(a)労働環境の改善、(b)対象分野の拡大及び(c)実習後の就労について要望があった。これに対し日本側は、研修・技能実習制度は就労ではなく、第三国への技術移転を図るという明確な目的がある旨応じた。また、日本側は、本制度の実施における改善策について議論していく旨示唆した。この点について、日本側の労働組合関係者から、本制度に関する問題の存在が指摘された。

IV. 共同検討グループの提言

1. 日インドネシアEPAの両国研究者による経済分析を含む、上記の各分野についての詳細な議論を踏まえ、日インドネシアEPA共同検討グループは、幅広い分野をカバーする日インドネシア二国間の経済連携協定が、日インドネシア両国の緊密な経済関係を一層発展させることに寄与することを確信し、本年4月より開始される日ASEAN・CEP協定交渉と並行して、日インドネシア二国間EPA交渉を開始することを双方の首脳に提言することで一致した。

2. 右交渉は、以下の原則に基づき行われることを確認した。

(1) 両国の経済連携強化のためには、幅広い分野について議論を行い、両国の経済関係の特徴に合わせた自由化やルールの整備並びに協力の推進が必要である。その際、高いレベルの自由化・ルール整備を実現する上で有益である場合は、各分野における協力とあわせて議論を行い、できるだけ高いレベルの自由化・ルール整備を目指す。両国のセンシティブ分野の存在を認識しつつ、両国は建設的、積極的かつ柔軟性を持って交渉する。

(2) 両国は、日ASEAN・CEP協定交渉の進捗を考慮に入れる。

V. 日インドネシアEPA交渉の範囲とモダリティー(枠組み)

1. 両国は、共同検討グループの提言に基づき行われる二国間EPA交渉の範囲については、共同検討グループにおける議論を踏まえ、暫定的に以下のとおりとすべきことで一致した。

 (1)物品貿易
   - 関税及び非関税措置、原産地規則、貿易救済措置

 (2)税関手続

 (3)サービス貿易

 (4)投資

 (5)人の移動

 (6)政府調達

 (7)知的財産

 (8)競争政策

 (9)基準認証

 (10)ビジネス環境整備

 (11)協力

 (12)紛争の回避及び解決

2.エネルギー、鉱物資源の分野は日インドネシアEPAで議論される。

3.交渉のモダリティー(枠組み)は第1回会合で議論されるべきである。

4.両国は、本交渉をできるだけ早期に開始するとともに、合理的な期間内で交渉を終結すべきであるという認識で一致した。


別添

  1. インドネシアは外国直接投資が認められない事業分野の数を随時最小にすることができる、ネガティブ・リスト方式を採用している。現在、完全に投資が認められていない11の事業分野に加え、外国直接投資が認められない分野は8分野が存在する。
  2. インドネシアは投資財産設立後の内国民待遇及び投資財産全てについて最恵国待遇を適用している。内国民待遇については依然として完全に適用しない規制理由が存在する。
  3. インドネシアは、新規の投資及び投資の拡大に関する承認を10日間で完了させるための手続を適用している。
  4. インドネシアは、送金の自由、代位及び国対投資家の紛争解決等の直接投資保護を重視している。1967年法第1号は、送金の権利、国有化・補償及び本国への資金引き揚げ等いくつかの重要な問題について定めている。そのため、インドネシアは、国対投資家の投資に関する紛争解決に配慮している。インドネシアは、国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約(ICSID)の加盟国として、既に1968年法第5号によって本条約を批准した。
  5. インドネシアは依然として投資回収プログラムを採用している。100%外国資本の直接投資会社は、直接所有によるか、又は国内の株式取引所を通じて、事業活動開始後最長15年以内にインドネシア国民又はインドネシア法人企業に株式の一部を移転しなければならない。
  6. インドネシア政府は既存の投資法を改訂中である。新投資法は国際的に認められた投資に関する標準、慣例及び原則を盛りこむことが望まれる。新投資法は、例えば、(最恵国待遇原則に基づき)国籍に関係なく、投資家に対して公平な待遇が与えられることを保証する。さらに、インドネシア政府は、新投資法により、国営化・収用からの保護を確保することを重視している。国営化・収用が行われた場合、政府は補償を行う。従って、政府はまた、公認外貨による送金の権利及び本国への資金引き揚げも保証する。さらに、投資紛争の解決のための国際仲裁手続への付託も、新投資法の一部である。
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