平成20年3月13日
大橋洋治 日本経団連経済連携推進委員会共同委員長(全日空会長)
田中均 日本国際交流センターシニア・フェロー
(1)第1部 基調講演
田中日本国際交流センターシニア・フェローは、2000年に日本がEPA推進へと政策転換をした際の外務省経済局長として、(イ)なぜEPAを進めることが必要だと考えたか、(ロ)EPAの現状をどう捉えるか、(ハ)今後のEPA戦略はどうあるべきか、の三点を柱として講演をおこなった。概要以下のとおり。
(イ)について
2000年当時、日本経済は「失われた10年」と評される停滞の中にあって、外圧を使って国内改革を進められる時代ではなくなっていた。自ら市場を開放し国内の競争状況を作っていく必要性があり、EPAへの方針転換を行った。EPAを進めるにあたっての3原則としたのは、1)包括的であること、2)現状より深化した自由化を求めること、3)「小さくはじめて大きく終わる」を目指すことであった。
(ロ)について
EPAの現状を見ると、数を増やすことに注力しているようで戦略が見えてこない。今後東アジアの経済的重要性がさらに増していくという現状認識をはっきり持った上で、日本のまわりのマーケットをいかに活用するかという戦略をもってEPAを進めていく必要があり、そのためには東アジアを面として捉えることが必要である。
(ハ)について
今後のEPA戦略については、1)長期的目標を持つこと、すなわち東アジア経済共同体という目標にむかうこと、2)経済援助をツールとしながら、深掘りのEPAを目指すこと、3)アメリカとのリンケージをつくること、を原則として、政府が東アジアを中心とした経済統合を長期的な視点で促進していくことが必要である。
(2)第2部 パネル討論
東アジア諸国とのEPAに一定の道筋がつきはじめ、次なるステップとして今後どのようなEPA政策を実施していくべきかに大きな関心が寄せられているとの現状を踏まえ、これまでのEPA政策を振り返るとともに、今後のあるべきEPA戦略につき様々な視点から自由闊達な議論がなされた。各パネリストの論点は以下のとおり。
(イ)渡邉慶應大学教授は、これまでの日本のEPAを、包括性、WTO補完性、二国間関係の深化、生産ネットワークの事実上の固定化、EPA不在の不利益の解消という5つの観点から評価。また、広域連携構想については、広範な貿易自由化ほど便益が大きいとの理論を基本として実現可能性を加味し、ASEANとのバイのEPAをASEAN+3、+6と拡大していく手法を提示した。
(ロ)林外務省顧問は、GATTを経てWTOに至るまでの世界経済の変遷を踏まえ、「無差別」を最も重要な原則とする多角的自由貿易体制の重要性を指摘した上で、紛争解決等の機能を挙げて国際公共財としてのWTOを大切にしていくことの意義を説明。さらに、EPA/FTAの乱立がもたらす問題点も指摘し、あくまでWTOの第一義的な重要性を前提としながら、地域統合を目標とするEUにおいて見られたようなFTAや、より広いEPAを念頭におくべきであると指摘した。
(ハ)大川経団連アジア・大洋州地域委員会企画部会長は、日本産業界の視点から、EPAの推進を日本が自ら行う「第三の開国」と捉え、アジアを面としていく多国間EPAと二国間EPAの並行的かつ迅速な推進、包括的で質の高いEPAの重要性を指摘した。その上で、具体的な今後の課題として、米国及びEUとのEPAについて早急に共同研究を開始すべきとした。
(ニ)レイクACCJ会長は、日米双方がアジアの中でそれぞれ様々なビジネスを展開する中、民主主義など基本的な価値観を共有し、貿易摩擦等を通じて徹底的に議論を行いながら関係を強化してきた両国が、今後、成長していくアジア経済の活力をとりこみ、「相利共生」の関係で発展するために日米EPAの検討が重要である旨主張した。
(ホ)マリーEBC事務局長は、欧州経済界の視点から日本の経済政策ビジョンが不明確であることを指摘した上で、基準の相互認証、サービス貿易の自由化、人の移動の自由化における専門職の資格の相互受入れ等を含んだ、非関税障壁の撤廃を中心とする日・EU経済統合協定の構想とその効用について説明した。
(ヘ)鈴木東京大学教授は、努力で超えられぬ生産性格差の下で、日豪・日米EPAによる農業・農村の崩壊と極端な食の海外依存を受け入れるか否かは国民の選択如何だと指摘。他国の被る損失も大きい米、EUとのEPAを急ぐ戦略性は薄く、まず欧米に拮抗する足場を固めるべく、各国の共通基金から弱い産業への補填を行う等の現実的な利益配分システムの提示によるASEAN+3の連携の具体化がアジアの長期的繁栄に不可欠と説明した。
(1)今次シンポジウムは、東アジア諸国とのEPAに一定の道筋がつきはじめ、次なるステップとして今後どのようなEPA政策を実施していくべきかに大きな関心が寄せられるようになってきている中で開催された。
(2)第1部の基調講演及び第2部のパネル討論を通じ、多様な意見が出されるとともに活発な議論が行われ、今後のEPA政策を考えるにあたって大変参考となる様々な観点が提示された。
(3)今次セミナーには134名の聴衆が参加し、同時にEPAに対する参加者の関心と理解を更に深める有意義な機会となった。