平成21年3月31日
(1)3月30日(月曜日)東京にて外務省主催による「アジア太平洋地域におけるエネルギー貿易・投資・通過の法的枠組の促進」エネルギーワークショップを開催(本邦エネルギー企業関係者、法曹界関係者、学界関係者、在京大使館等約100名が参加)。
(2)冒頭、河村武和エネルギー憲章会議議長が開会の辞を行い、それに引き続きクープ・エネルギー憲章条約(ECT)事務局法律顧問、シュティルキンド露エネルギー省専門家、グリフィス豪州資源エネルギー観光省担当部長、小寺東京大学大学院教授及びラウトン・ハーバート・スミス法律事務所弁護士より、それぞれECTの変遷と投資保護、露から見たECTの意義と問題点、アジア太平洋地域におけるエネルギー貿易・投資の地域協力、ECTの国際投資法における位置づけ及び投資案件におけるECTの適用事例につき概要下記2.のとおり説明があった。
(1)第1セッション「ECTの意義」
(イ)グレアム・クープECT事務局法律顧問「ECTの変遷と投資保護(PDF)」
ECTの基本目的である投資保護(最恵国待遇の付与、対価を支払わない収用の禁止)、貿易自由化(GATTの基準に準じる)、通過の自由(内外無差別)を説明、特にエネルギー投資案件で紛争が生じた場合の仲裁手続きを通じ、実効性が担保されていること、及び実際の紛争処理例を紹介した。
(ロ)テオドール・シュティルキンド・ロシア・エネルギー省専門家「露から見たエネルギー憲章条約署名の意義と問題点(PDF)」
ECT未締結のロシアの立場からECTの長所及び問題点を説明し、その長所としてエネルギーの輸出国にとってはエネルギー投資促進に資する国内環境の整備、問題点として特にエネルギーの通過規定の不十分さとそれを改善するための通過議定書の未合意を指摘。
(2)第2セッション「アジア地域の経済統合の観点からのエネルギー分野における貿易・投資・通過に関する法的枠組の整備(PDF)」(ジョン・グリフィス豪州資源エネルギー観光省エネルギー安全保障担当部長)
アジア太平洋地域にとってエネルギー安全保障の確保は経済成長の基盤を構成するものであり、エネルギー貿易・投資促進のための多国間協力が重要となる旨述べ、APEC、EAS、国際エネルギー機関(IEA)やエネルギー憲章条約等異なる枠組間の連携強化の重要性を指摘。
(3)第3セッション「エネルギー憲章条約が役割を果たした投資事例」
(イ)小寺彰東京大学大学院教授「ECTの投資条項の重要性(PDF)」
投資家にとりエネルギー分野の投資を行う際のECTの重要性として投資保護及び現地における待遇を指摘しつつ、特にECTに基づく仲裁は拘束力を持つためその有効性を説明した。また、開発途上国の立場から海外投資誘致及び透明性の向上をアピールできる点などを指摘し、ECT参加のメリットを説明。
(ロ)ドミニク・ラウトン弁護士(ハーバート・スミス法律事務所パートナー)「ECTに関するエネルギー投資案件事例研究(PDF)」
日本が関与したECTによる投資案件が保護された実例(カザフスタン、サハリン)を紹介。また、最近のECTに関する仲裁案件の特色を分析、10例のうち2例は却下、2例は和解、4例は係争中であり、投資家が支払いを受けたのは2例のみであり、且つ支払い額も大幅に削減されている旨述べつつ、投資家及び投資受入国の双方にとって公平な結果が出ている点を指摘した。更に、日本企業におけるECTに対する認識の低さを指摘しつつ、実際はECTにより目に見えない形で権益が保護されていることを認識することが重要である旨述べた。
(1)今回のワークショップの目的は、ECTに対する国内の理解を深めるとともに、アジア太平洋地域へのECTの拡大することであった。前者については、我が国がECT条約体への最大拠出国であることを踏まえ、我が国がECTからどのように裨益しているかを示すため、実際に本邦企業が関わるエネルギー投資案件においてECTがどのような形で投資保護に役立っているかを解説し、参加者からは肯定的な評価が得られた。後者については、ECT加盟国が欧州地域に偏重している状況を是正し、グローバルなエネルギー貿易・投資のための枠組みに発展させていくため、APECにおけるエネルギー貿易・投資に関する活動とECTとの関係について解説。
(2)ECTはマルチの投資協定として国際法上重要な地位を占めており、その運用においても紛争処理事例の増加の形で着実に実績を上げている。特に投資家にとっては、投資案件に対する悪影響を抑止・撤回させる上で一定の効果をあげており、仲裁事例数としては20件程度に過ぎないが、仲裁は最後の手段であることに鑑みれば、むしろ少ないながらも仲裁事例が増えていること自体ECTの実効性の証左と評価できよう。一方、エネルギー生産国にとっては投資誘致のための環境整備の観点からECTへの参加は重要であり、NAFTAに参加したメキシコの例によれば、対メキシコ投資額に比しメキシコが仲裁の結果支払った額は圧倒的に少ない事実がある。また、多くの投資家・企業が投資保険の形でリスクヘッジをしているが、ECTは無コストであることに鑑みれば、リスクヘッジ手段としてのECTの価値は大きい。
(3)アジア太平洋地域のECT加盟国は日本とモンゴルのみであるが、今後のアジア地域の成長及びそれを支えるエネルギー需要を支える膨大なエネルギー投資ニーズを考えた場合、ECTによる法的枠組みは投資促進のための重要なインフラを提供するものであり、例えば、APECと連携する形でECTに対するアジア地域の理解及び参加を促進する方向性も検討に価しよう。