
2009年IEA閣僚理事会 コミュニケ(仮訳)
2009年10月15日
(英文はこちら)
- 現下の経済の不確実性、エネルギー価格の乱高下や地球環境に対する不安が高まる中、我々、国際エネルギー機関(IEA)に加盟する28か国及び欧州委員会(EC)は、可能な限り早期に低炭素経済への円滑な移行とより確実で持続可能かつクリーンなエネルギーの将来を確保するとの最大限の決意を確認する。
- IEA設立35周年を記念する今、新たな前進への道筋が必要であることは明白である。IEAによるシナリオは、産油国間の絆がより強固なものになる中で、化石燃料の世界的な需要が増大し続けると指摘している。これによって、加盟各国は、エネルギー供給途絶、エネルギー価格の上昇や変動及び繰り返される経済危機による影響を受けやすくなる可能性がある。さらに悪いことは、温室効果ガス排出量の増大や危険な気候変動の不安を高めることになる。加盟国市民や世界、特に貧困国や途上国に対する破壊的影響を回避しようとするなら、気候変動に対処するために今こそ行動する必要があることに合意する。そのような取組は、経済成長、技術の発展と革新、エネルギー安全保障、そして貧困層のエネルギー・アクセスにも貢献できる。
- この困難な時代にあって、我々は、共通の目標を達成するために国際的パートナーとの協力をさらに緊密化していかなければならない。中国、インド、ロシアの本会合への参加及びこれら3か国の代表が田中IEA事務局長と締結した共同声明を歓迎する。これらパートナー国との共同声明は、エネルギーの安全保障及びエネルギー効率の向上、経済発展の促進、気候変動への対処、開放的で透明性がありかつ効率的なエネルギー市場の確保に向けた協力における共通の関心事項を反映している。
よりクリーンなエネルギーの将来
- 本会合において示された世界エネルギー展望2009(WEO)の主要メッセージは、コペンハーゲンにおける重大な気候変動交渉に新しく有用な分析的洞察を与えるものである。これらのメッセージは、注意を喚起すると同時に大きな行動の可能性を提示する。WEOは、現在の世界的な傾向は持続可能ではないが、産業化以前の水準からの世界全体の平均気温の上昇が摂氏2度を超えないようなエネルギーの将来も存在することを示唆している。
- 我々は、危機的な気候変動問題に対処する国際的取組への決意を強調し、産業化以前の水準からの世界全体の平均気温の上昇が摂氏2度を超えないようにすべきとの科学的見解についてのエネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム(MEF)の認識を歓迎する。我々は、コペンハーゲンで開催される2009年国連気候変動枠組条約締約国会議(COP15)が、世界をクリーンで安定的なエネルギーの将来へと導く具体的な結果をもたらす、全ての国が参加した野心的な合意に達するよう呼びかける。
- 不作為のコストは行動のコストよりも高いこと、そして、排出量は今後10年から15年の間に大幅に削減し始めなければならないとIEAのシナリオが示していることに留意する。この点に関し、我々は、2050年までに世界全体の排出量を少なくとも50%削減するとの目標を全ての国と共有したいと考えており、このことが世界全体の排出量を可能な限り早くピークアウトさせ、その後減退させる必要があることを含意していることを認識する。この一環として、我々はまた、先進国全体で温室効果ガスの排出を、1990年又はより最近の複数の年と比して2050年までに80%またはそれ以上温室効果ガスの排出を削減するとのG8ラクイラ・サミット首脳宣言に示された目標を認める。
- 気候変動の緩和のための行動の大半は、世界全体の温室効果ガス排出量の60%以上を占めるエネルギー・セクターで実施されなければならない点に留意する。我々は、エネルギー担当大臣として、低炭素成長を生み出す努力を、あらゆる方法で導き、支援することにコミットする。我々は、IEA事務局が、気候変動交渉に関与する全ての当事者に客観的データや公平な分析を提供し続けるべきことに合意する。
- エネルギー効率を向上させ、広範な低炭素技術の研究・開発・普及を促進する国際的な努力が重要である。我々は、これらの分野におけるベスト・プラクティスと優先順位の特定に関するIEAの貢献を認める。低炭素でエネルギー安全保障が確保された経済への移行を支援するため、IEAはエネルギー効率及び再生可能エネルギーの統計・指標に関する作業を強化し、エネルギー効率、再生可能エネルギー及びその他低炭素技術のロードマップ作成を継続すべきである。我々はまた、IEAに対し、加盟国がそのような技術の開発と普及を加速するための取組を主導し、支援できるように、低炭素エネルギー技術プラットフォーム構築に向けた提案を、他国や関連国際機関と協力し策定することを要請する。同じく、我々は、これらの技術の研究、開発、及び実証における公的セクターの投資を顕著に増加させ、2015年までに倍増させることを目指し、より多くの努力を行うべきことに合意する。我々は、民間セクターに対し、これらの分野における投資を増大することを呼びかける。
- 各国がそれぞれのエネルギーミックスを決定しなければならないと認識しつつも、化石燃料は今後も長年にわたって、世界中で使用されるエネルギーの非常に大きな割合を占め続けるだろう。このような状況下で、各国は、化石燃料を使用する際の効率を向上し、可能な場合には天然ガスのような排出のより少ない燃料へ切り替え、炭素回収貯留(CCS)技術を開発する努力を加速させるべきである。先進国及び新興国において可能な限り、2020年までに大規模なCCSを実証するには、より大きな努力が必要であることを示す、最近発表されたIEAのCCSロードマップを歓迎する。多くの国にとって、再生可能エネルギーや原子力は他の重要な選択肢となる。我々の政府は、民間セクターの投資に対して明確なシグナルを送るためにエネルギー効率や再生可能エネルギーの野心的な目標設定に向けて努力する。
より確実なエネルギーの将来
- エネルギー安全保障は依然として我々の最重要目標であり、よく機能し、透明性の高いエネルギー市場と多様なエネルギー源への適切な投資が、それを確実とする最良の方法である。エネルギー効率を向上させ、低炭素技術を促進する政策が、エネルギー安全保障を強化するとともに排出を削減することに留意する。
- 我々は、輸入に大きく依存する国々における、それが実行可能な場合の備蓄利用の拡大を含む、広範な緊急時対策が、突然の深刻な供給途絶に耐えるために必要であることを認識する。我々は、必要不可欠な石油緊急時対応能力を維持するためのIEAの活動を称賛するとともに、IEA事務局に対し、備蓄を有する非加盟国を、将来、戦略的石油備蓄の協調放出に参加させる更なる方法を探求するようIEAに要請する。天然ガス及び電力供給が、我々の経済に不可欠なものであることに留意しつつ、我々は、ガス安全保障を強化するため、行動計画のパラグラフ14に列記されている提言を実施することを決意する。IEAは、ガス供給途絶に対する加盟国の備えを向上させる上で大きな役割を果たし、適切な場合には、緊急時に、加盟国の協調行動を提案する能力がある。
- 我々は、石油データ共同イニシアティブ(JODI)においてパートナーと協力し、更なるデータ交換や、JODIに天然ガスを含め、石油及びガス投資計画や埋蔵量に関するデータまで拡大する可能性を追求することを通じて透明性向上に努めるとのコミットメントを再確認する。
- 極端な価格変動が経済に与える悪影響を認識しつつ、我々は、実際の需給面、金融面、政策面の要因が石油価格に与える影響を理解するための取組の継続をIEA事務局に促す。この点に関し、我々は、エネルギー補助金の規模と効果に関する調査の継続をIEAに要請する。我々は、G20が関係監督機関にも石油の店頭市場に関するデータの収集と過剰な価格変動に繋がる市場操作に対抗するための手段をとることを求めたことに留意する。我々は、市場の歪みがどのように価格の変動性を増大させるのかを調査するようIEA事務局に要請する。石油市場における現在及び将来の傾向について、より明確な全体像を描くことで不確実性が軽減される。我々は、IEAに、他のエネルギー関連機関及びプロセスに関与して情報を交換し、より正確な将来の需給見通しを作成するようさらなる努力を要請する。また、IEA事務局に対し、あり得べき石油市場の発展によってもたらされるリスクをより完全に理解するため、国際機関との協力強化及び市場監督機関への一層の関与を要請する。
投資の重大な必要性
- 世界のエネルギー・セクターの変革には、新たな資本ストック、特に、低炭素技術、あらゆる種類の最新式発電所、送電設備、スマートグリッド、省エネ設備機器への膨大な投資が必要である。我々は、経済危機がエネルギー・セクターの投資、特に再生可能エネルギー源を含む低炭素技術への投資に与える影響を懸念する。これを避けるため、現在の経済危機を、よりクリーンで、より安心していられるエネルギーの将来に投資する機会として活用すべきである。
- 投資の不足は、エネルギー安全保障、長期的な経済成長及び気候変動対策に深刻な結果をもたらす可能性があることを認識しつつ、我々政府は経済刺激策に着手しており、それは合計すると1.8兆ドルに上り、2008年GDPの4.5%に相当する。また、この支出の平均10%は、低炭素エネルギー技術の開発及び普及とエネルギー効率の改善に向けられている。WEOの450ppmシナリオによると、この投資は、グリーン成長へのIEAの提案に沿って、我々のエネルギーシステムを変革するために必要とされる膨大な投資に対する重要な頭金に当たるものである。
- 民間セクターは伝統的にエネルギー投資の大半を占めるため、強固な官民パートナーシップは、我々が直面する世界のエネルギー問題を克服する上で不可欠である。我々は、エネルギー・ビジネス諮問会(EBC)の設置を歓迎し、この幹部レベルのグループに対し、IEAと緊密に連携するよう要請する。我々は、自由市場に基づく長期的枠組みと明確で透明性のある規則を策定し、複雑な承認プロセスを含む非金融面の障害を除くことをコミットする。政府は、適切な場合は、エネルギー及び気候変動課題に対処するプロジェクト、特にエネルギー効率及び低炭素技術へ緊急対策費を充てるべきである。非効率な化石燃料補助金を中期にわたり段階的に廃止するとのG20ピッツバーグ・サミットの結論を歓迎する。非効率な化石燃料補助金は無駄な消費を助長し、エネルギー安全保障に悪影響を与え、低炭素エネルギー源への投資を妨げ、気候変動問題の脅威に対処する取組の効果を弱める。コペンハーゲンでの野心的な合意も、目標や将来の政策を明らかにする点で、低炭素エネルギー技術への投資に弾みをつけることになるだろう。
世界規模での集団的努力
- 気候変動問題及びエネルギー需要増大という急を要する世界的課題に対処し、より豊かで持続可能なエネルギーの将来を確保するために、IEAとその加盟国は国際協力の強化に努めている。IEA加盟国とそのパートナー国は、本閣僚理事会で議論された急を要するエネルギー課題の多くに、既に対処している。
- 我々は、これを念頭に置き、IEAがパートナー国に提供している、適切なエネルギー政策を策定する能力を高めるための訓練及びワークショップを拡大するようIEAに要請する。これは、特にアフリカやアジアにおいて、エネルギーへのアクセスを向上させ、エネルギー貧困を緩和する上で役立つはずである。IEAは世界的なエネルギー分野における既存の技能、知識や経験を蓄積しながら、途上国におけるエネルギー貧困に引き続き対処する。IEAの新たなトレーニング及び人材育成プログラムは、IEAがパートナー国との関与を切望していることや彼らにとって身近な存在であることを示している。さらに、我々は、本会合へのゲストも含め、加盟国、その他厳選された国々や国際機関からの高官を集めて2010年中に会合を開催し、国際的なエネルギー及び持続可能性に関するパートナーシップを議論することをIEAに要請する。これに関し、地域組織、例えばAPECやアフリカ連合などとの協力を強化することは有益であろう。
- 我々は、共通のエネルギー目標の推進に向け、様々な新しい国際エネルギー機関が最近創設されていることに留意する。IEAがまもなく国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)の事務局を設置すること、IPEECが世界のエネルギー効率及びエネルギー管理に関するIEAの活動から恩恵を受けるであろうことを喜ばしく思う。我々は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)やグローバルCCSインスティテュート(GCCSI)の創設を歓迎し、新設された両機関に対し、相乗効果を追求するためにIEAと緊密に連携するよう要請する。ジェッダ及びロンドン・エネルギー会合の後に設置された国際エネルギーフォーラム(IEF)専門家グループへのIEAの関与を歓迎し、支持する。また、炭素隔離リーダーシップ・フォーラム(CSLF)のCCS推進における貢献についても、最近の閣僚会合の成果も含めて歓迎し、IEAとの有益な協力を奨励する。
結論
- IEA加盟国のエネルギー大臣である我々は、低炭素経済への移行と、より安心でクリーンかつ持続可能なエネルギーの将来を確保するために、緊急行動が必要であると考える。我々はこの移行を可能な限り迅速に行なうべく協力し、各自の責任領域において、コペンハーゲンで開催されるCOP15の成果を全面的且つ迅速に実施することをコミットする。IEA非加盟国との協力強化と、より広範な対話は、より安心でクリーンかつ持続可能なエネルギーの将来に大きく貢献するだろう。我々は、国民の支持がなければ、これらの大望を実現することは益々困難であることを認識している。我々は、環境に優しいエネルギーの将来の重要性を国民に伝え、支持を得ることをコミットする。
- 我々は、この声明に添えられた行動計画を承認し、中国、インド、ロシアとの共同声明を支持する。