平成17年10月
(1)9月13日(火曜日)~9月23日(金曜日)
(2)トルコ(アンカラ、イスタンブール)、サウジアラビア(リヤド)、チュニジア(チュニス)
(1)本件ミッションは、平成15年5月の小泉総理のサウジアラビア及びエジプト訪問の際、イスラム世界との相互理解を増進し、安定した関係を構築・維持していくことで各国首脳との間に合意がなされたことを受け、実施が決定されたものである。第1回ミッションは、同年9~10月にサウジアラビア、イラン、シリア及びエジプトに派遣され、「伝統と近代化」というテーマの下、各地でシンポジウム・対話を行った。さらに、平成16年9月には第2回ミッションがヨルダン及びイランに派遣され、第1回ミッションが端緒を開いた対話を継続した。
(2)本件ミッションは、各地における公開シンポジウムの開催や政府要人・学識者・文化人等との意見交換を通じて、伝統的価値と近代化の相克に係る我が国の経験に対する理解を促進し、中東諸国が現在直面する問題の克服、ひいては地域の平和と繁栄に寄与することを目的とする。かかる対話の継続は、我が国と中東諸国との間の幅広い層における相互理解を深め、我が国の対中東外交の基盤を強化する上でより大きな効果が期待できることから、第3回ミッションの派遣が決定されたものである。
(1)アンカラにおけるシンポジウム「サムライ精神と社会発展」(15日、於:土日基金文化センター)
(イ)出席者及び講演テーマ
(a)日本側(冒頭挨拶:阿部在トルコ大使)
山内教授:「After Empire-戦後日本の政治外交60年の教訓」
田波副総裁:「開発と文化」(以上、第1セッション)
今井主幹:「社会の発展とメディアの役割」
山下教授:「柔道を通じた国際交流」(以上、第2セッション)
(b)トルコ側(日本側講演へのコメントという形で発言)
メテ・トゥンジョク チャナッカレ・オンセキズマルト大学教授
スビデイ・トガン ビルケント大学経済学部教授
ナージー・ボスタンジュ ガーズィー大学コミュニケーション学部教授
アフメット・イナム 中東工科大学哲学学部教授
(ロ)内容
(a)平日の午前中の開催であったにも拘わらず、在留邦人を含む約150名が参加して和やかな雰囲気の下で意見交換がなされ、多数の現地プレスによる取材も行われた。
(b)アタライ国務大臣が一部出席し、本件シンポジウムの重要性、親密な二国間関係、日本からトルコが学ぶべき教訓等につき熱のこもったスピーチを行ったほか、サドゥクラル土日基金理事長が自らの「日本村構想」を提唱する等、トルコの日本に対する熱烈な好意が感じられるシンポジウムとなった。そして、今後も両国間で対話を継続し相互理解を深めていくとともに、両国がイスラム社会等との文化交流において中心的な役割を果たしていくことが重要という点で双方の意見は一致した。
(2)イスタンブールにおける講演(17日、於マルマラ・ホテル)
(イ)出席者及び講演テーマ
(a)日本側(冒頭挨拶:山内教授)
田波副総裁による「開発と文化」 というテーマでの講演。また、今井主幹、中西教授、山下教授が自己紹介を兼ねたプレゼンテーションを行った。
(b)トルコ側 (冒頭挨拶及び田波副総裁講演へのコメント)
セルジュク・エセンベル ボアジチ大学文理学部歴史学科長兼日本研究会会長
(ロ)内容
トルコでは人が一番集まりにくいという土曜日の午前中であったにも拘わらず、約120名の一般参加者で会場はほぼ満席となり、和やかな雰囲気の下で意見交換が行われた。質疑応答においては、日本人にトルコについてより深く知って欲しいという意見や、両国の共通性に注目して、国際問題における二国間協力を進めていきたいという意見が聞かれた。また、シンポジウムの終了後、出席していた現地プレスによる山内団長へのインタビューが行われた。
(3)山下教授による柔道指導
アンカラ(15日)及びイスタンブール(17日)に、山下東海大学教授による柔道指導を実施した(それぞれ、70名程度の老若男女の柔道家が参加)。山下教授より、柔道の背景にある精神性や、柔道を通じた国際交流の意義について、自らの経験を交えつつ講演を行った後、実技指導を実施した。会場には約120名の観衆のほか、多くのプレス関係者も取材に訪れ、活気溢れる指導となった。特に、山下教授がロサンゼルス五輪での挿話(同五輪の決勝戦(山下選手対ラシュワン選手。山下選手は、足に怪我をしていた)にて敗れたラシュワン選手が、報道陣からなぜ山下選手の怪我の部位を攻めなかったのか詰め寄られたのに対し、ラシュワン選手は「私はムスリムだ。アンフェアなことはできない」と答えたというもの)を紹介した際には、期せずして会場から拍手が起きた。
(4)要人表敬・有識者との意見交換等
(イ)ベシル・アタライ国務大臣(14日、於:首相府)
同大臣は、アタテュルク大学助教授就任時に19世紀の我が国とトルコの近代化の過程を比較する著書を執筆する等日本への造詣が深く、今次ミッションの趣旨に共感を示したほか、山内団長とトルコ語で談笑する等、終始和やかな雰囲気で行われた。
(ロ)ギュンドゥズ・アクタン ユーラシア戦略研究所長(15日、於:同研究所)
山内団長より本件ミッションの趣旨を紹介した後、各メンバーとの間で放送メディアの役割についての質疑応答や、同所長が「トルコ・アルメニア和解委員会」の委員であったことに関連して、右二国間関係に関する意見交換を行った。(同所長は、元駐日大使。)
(ハ)ヌリ・チョラックオール ドアン・グループ幹部(17日)
同グループは、トルコにおける代表的なメディア・グループ。イスタンブールが2010年のEU文化首都に立候補していることが紹介され、日本からの諸行事への参加につき協力依頼がなされた。当方よりは、同年が、偶然両国の友好親善関係発展の契機となったエルトゥールル号事件の120周年にもあたることを指摘した。
(ニ)デブレット・ナーディル イェディテペ大学教授(17日)
中央アジア情勢を巡って意見交換を実施した。
(5)メディアによるインタビュー等
トゥルケル・アルカン ラディカル紙論説委員(14日)、エルグン・ババハン・サバフ紙編集主幹(16日)といった新聞記者からのインタビューの他、CNBC-eによる今井NHK主幹へのTVインタビュー(16日)、CNN-Turkによる田波JBIC副総裁へのTVインタビュー(16日)が行われた。
(1)シンポジウム「伝統と近代化」(15日、於:キングファイサル財団キングファイサル・イスラム研究センター)
(イ)出席者及び講演テーマ
(a)日本側(冒頭挨拶:齋藤在サウジアラビア大使)
山内教授:「After Empire-戦後日本の政治外交60年の教訓」
今井主幹:「社会の発展とメディアの役割」
中西教授:「伝統と近代化-政治の役割」
(b)サウジアラビア側
マーゼン・ムタッバカーニ キングサウード大学教授/同センター研究員(司会)
アブドッラッザーク・ザハラーニー イマーム大学社会学部教授(コメンテイター)
(ヤヒヤ・ビンジュナイド 同センター事務局長:冒頭挨拶)
(ロ)内容
(a)サウジの有識者層を中心とする一般参加者約110名が参加した。外交団からの出席も見られた。
(b)今次ミッションでは、日本の近代化の文化的背景、伝統と近代化の両立を成功させた経験に関心がサウジ側から寄せられたため、日本の経済協力にサウジ側の関心が集中した第1回のミッションよりも議論が噛み合い、かつ問題の核心に迫る対話が出来た。特に、サウジ側からは、イスラム教が近代化に果たす役割や政教分離の問題といった、中東社会の根幹に係わる質問も寄せられた。さらに、日本の武士道の精神とイスラムの「寛容、勇敢、歓待」の精神には、類似点があるといった発言もあった。
(2)シンポジウム・女性セッション(19日、於:ナフダ女性慈善協会)
(イ)出席者及び講演テーマ
(a)日本側
遠山理事長: 「女性の生き方-過去と未来-」
(b)サウジアラビア側(冒頭挨拶:ムーディ・ビント・ハーリド妃殿下)
ソアード・マーニア キングサウード大学アラビア語・アラブ文学部教授(遠山理事長の講演に対するコメント)
(ロ)内容
(a)セッションにはサウジ知識人層を中心とした110人近い女性が参加した。遠山理事長より日本の女性史や未来の女性のあり方等について自身の経験を交えた講演がなされた。スタッフも含め会場全員が女性であったため、大半がスカーフ、アバーヤ(外套)を脱いだ状態で遠山理事長の講演に耳を傾け、メモを取ったり、大きく頷いたりする場面もあった。
(b)その後の質疑応答及び懇親会においては、質の高い質問や話題が飛び交い、終始大変和やかながらも活気ある雰囲気に包まれた。なお、セッションの前後には同協会の理事長でもあるサーラ・アルファイサル妃殿下及び事務局長のムーディー妃殿下との意見交換を行う懇談の機会があり、セッション後の懇親の後には現地プレスによる遠山理事長へのインタビューも行われ、総じてサウジアラビアにおける本件セッションへの関心・期待の高さが窺えた。
(3)主な要人表敬
(イ)ワリード・ビン・タラール殿下(19日、於:キングダム・ホールディング社)
ミッション一行の自己紹介の後、日・サウジ関係、今次シンポジウムのテーマでもある伝統と近代化、イスラム社会における女性の地位、原油価格の高騰が世界経済に与える影響等につき意見交換が行われた。殿下は、文明間対話を推進する観点から、自らが会長を務める投資会社であるキングダム・ホールディング社の文化交流部門を通じて日・サウジ間の文化交流に協力していきたいとの意向を表明された。同社では多くの女性が勤務しており、一般に女性の活動に制約があるサウジ社会における殿下の進取性が看取された。
(4)メディアによるインタビュー等
19日、サウジアラビア国営第1チャンネルによる山内団長に対するインタビューが行われ、 先方より、今次ミッションの目的、日本における女性の地位、グローバル化の中で伝統を保持するための方策、サウジアラビアの印象等につき質問がなされた。
(1)シンポジウム「伝統と近代化」(21日、於:「ベイト・エル・ヒクマ」(知恵の館))
(イ)出席者及び講演テーマ
(a)日本側(冒頭挨拶:小野在チュニジア大使)
第一セッション:
山内団長:「After Empire-戦後日本の政治外交60年の教訓」
中西教授:「伝統と近代化-政治の役割」
第二セッション:
今井主幹:「社会の発展とメディアの役割」
遠山理事長:「伝統と近代化」(特に、近代化における教育と文化の役割に関する講演)
(b)チュニジア側(冒頭挨拶:アブデルワッハーブ・ブフディバ「ベイト・エル・ヒクマ」所長)
ハリーファ・シャーティル チュニス大学人文社会科学部名誉教授
(山内団長の講演へのコメント)
アハメッド・ラウーフ・ウナイエス チュニス大学政治社会科学部教授
(中西教授の講演へのコメント)
リダ・ナッジャール チュニス・ジャーナリズム・報道科学研究所所長兼教授
(今井主幹の講演へのコメント)
ファーティマ・ハッダード・チュニス大学人文社会科学部教授
(遠山理事長の講演へのコメント)
(ロ)概要
(a)午前と午後のセッションにまたがる長時間のシンポジウムであったにも拘わらず、有識者層を中心とする約100名の一般参加者が出席した。また、常時複数のメディア関係者が取材を行っていた。
(b)ミッションとして初めての訪問であったのにも拘わらず、歴史、政治、メディア、教育、文化といった多面に亘って、日本とチュニジアが「伝統と近代化」の相克から発生する諸問題にどう対処したか、その類似性・相違点は何か、日本が相対的に成功した理由はどこに求められるのか、といった点について、非常に噛み合った、高度な議論が行われた。総括セッションには、モハメッド・アズィーズ・ベン・アシュール 文化・遺産保存大臣が挨拶をする等、チュニジアの知識層の高い関心を集め、同時代に近代化を目指した国として日本を多面に亘って具体的に紹介できたことは、大きな成果であったと思われる。
(c)また、チュニジアでは、教育の充実や性差の解消が政策として重視されているが、女性として文部科学大臣を務めた遠山理事長は、日本がこうした問題に対処してきた成果を象徴する存在として、メディアを含めたチュニジア側から高い関心を集めていた。
(2)主な要人表敬
(イ)モンジ・ブスニーナ アラブ連盟教育科学文化機関(ALECSO)総裁(22日、於:同事務所)
山内教授及び遠山理事長との間で、アラブ版ユネスコともいえるALECSOの事業や、アラブ世界のみならず世界的な文化協力関係の推進について意見交換を行った。
(ロ)ムスタファ・カマリ チュニジア国営放送局(ERTT)総裁(20日、於:同局)
今井主幹との間で、チュニジアのメディアとNHKとの間の協力関係の構築、国営放送のあり方、対話による相互理解促進の重要性等につき意見交換を行った。
(ハ)オサマ・ラマダーニー チュニジア対外情報庁(ATCE)長官(20日、於:同庁)
今井主幹との間で、二国間関係、文化交流を通じた対日理解の促進、メディアの影響力等につき意見交換を行った。
(1)トルコ
ラディカル紙においてアルカン論説委員による記事が掲載された他、アンカラにおけるシンポジウムの様子が当地テレビ各局にて放映された。また、今井NHK解説主幹のCNBC-eによるインタビューが放映された。
(2)サウジアラビア
主要現地紙である「ジャジーラ」紙、「リヤド」紙、「アラブ・ニュース」紙(英語)にシンポジウムの関連記事が掲載されたほか、ロンドン発行の汎アラブ紙である「シャルクルアウサト」紙にも、遠山理事長の顔写真入りで女性セッションの様子が報じられた。
(3)チュニジア
シンポジウム開催前後にわたって「アッシュルーク」紙、「アッサバーハ」紙、「アル・ホッリーヤ」紙、「ル・ルヌーボー」紙(仏語)、「ラ・プレス」紙(仏語)、「ル・クォティディアン」紙(仏語)にシンポジウムでの議論の内容のほか、随行した谷口外務副報道官(参事官)への外交問題に関するインタビューが掲載された。また、遠山理事長及び今井NHK編集主幹に対する個別のテレビ・インタビューが放映されたほか、当地ラジオ局もシンポジウムを取り上げるなど、今次シンポジウムに関する報道は幅広くカバーされた。