今、世界は歴史の転換期にあります。ポスト冷戦時代に平和と繁栄を支えた法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は、パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化に伴い、重大な挑戦にさらされています。国際秩序の根幹を揺るがしているロシアによるウクライナ侵略のみならず、力による一方的な現状変更の試みは日本の周辺でも続いています。また、サプライチェーンの脆(ぜい)弱性や経済的威圧、知的財産の窃取などの経済安全保障上の課題や、サイバー攻撃、偽情報の拡散を始めとする新興技術の悪用など、世界の平和と安定に対する新たな課題も生じています。
こうした中で、気候変動問題や感染症危機を始め、国境を越えて各国が協力して対応すべき諸課題も同時に生じており、国際関係は、対立と協力の様相が複雑に絡み合う時代になっています。20世紀においては、多国間主義への不信や自国中心の考えに基づく経済のブロック化により、先の大戦に至りました。この人類の失敗からの教訓を決して忘れてはなりません。今こそ、国際社会は、国家間の対立や利害の対立を乗り越え、対話と協調によって共通の課題に取り組み、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に取り組まなければならないと考えます。
そうした取組を主導するため、私は、引き続き、普遍的価値を守り抜く覚悟、日本の平和と安全を守り抜く覚悟、地球規模課題に向き合い国際社会を主導する覚悟、これら三つの「覚悟」を持って、対応力の高い、「低重心の姿勢」で日本外交を展開していきます。
令和5年版外交青書(外交青書2023)は、主として2022年の国際情勢と日本の外交活動を概観したものです。まず巻頭において、読者の皆様に、この1年の世界の動きを振り返っていただけるよう、主な出来事を時系列でまとめ、導入としました。続いて第1章において、近年の国際情勢認識とこの1年で顕在化した主要課題、さらにはそれを受けた今後の日本外交の展望について概観し、外交青書の要旨としました。その上で、第2章以降では、地域別に見た外交、国益と世界の利益を増進する外交、国民と共にある外交と題してこの1年の日本外交の取組について記載しています。また、ポスト冷戦期の終焉(えん)を象徴することにもなったロシアによるウクライナ侵略については、主に日本の対応に焦点を置き、特集として大きく取り上げました。
この外交青書を通じ、転換期にある国際社会が直面する諸課題に対してリーダーシップを発揮して取り組む日本外交の姿について、国内外の皆様が理解を深めていただければ幸いです。

