第1節 外交実施体制の強化
1. 外交実施体制の強化の必要性
冷戦後の流動的な国際情勢の中で外交業務は増加の一途をたどっている。外務省本省と在外公館を結ぶ主要な通信手段である電信の総数は、91年の時点で16年前(75年)と比較して7倍以上になった。この期間に経済協力額は9倍以上、条約そのほか国際約束の締結数は6倍以上、査証発給数は4倍以上となっている。また、海外の在留邦人数、海外旅行者数の増加に伴う事務も増えており、この状況に適切に対処する必要がある。
このように通常業務の爆発的な増大に加え、日本が一層積極的な国際貢献を求められている状況下では、定員の抜本的拡充は言うまでもなく、受け身でない能動的な外交を展開するために外交機能の強化へ向けて組織改革を含む具体的な政策の実施が急務である。第3次行革審第1次答申(91年7月)はこのような状況の下で「外交実施体制の見直し」と「人員面を含めた体制の整備拡充」を提言した。この答申を受けて、外務省の体制、機能の改善及び強化の具体的方途を探るために外務大臣の下に各界の有識者を集めて外交強化懇談会が開催され、91年12月に報告を提出した。
外交強化懇談会は、世界が歴史的変革期にある現在、外交は国の命運を左右する状況にあるとの認識に立って、「内外から信頼される外務省、活力ある外務省」を目指すべきであるとの観点から以下の5つを柱とする提言を行っている。
外務省関係業務の推移
(1) |
外務省の組織や体制の改革(総合的、中長期的な外交政策の企画立案機能並びに調整機能の強化のための総合政策局の新設、外交政策の基盤となる国際情報諸機能の強化のための国際情報局の新設、邦人保護や危機管理体制の強化、及び国際協力推進体制の整備。) |
(2) |
外務省と内閣及び関係省庁との連携強化 |
(3) |
在外公館の整備 |
(4) |
速やかな定員の増強(1,000人程度を速やかに増員。) |
(5) |
外交基盤の強化(調査・研究機能の拡充強化、国内各方面との交流強化等。) |
2. 機構、定員、予算面での努力
機構、定員、予算の面で外交実施体制の強化に向けて過去一年間に行ってきた外務省の努力は次のとおりである。
(1) 機構、定員
国際社会への人的貢献を一層拡充することを目的とした国際緊急援助室が設置されたほか、湾岸危機等の大規模な事件における邦人保護体制の強化を目的とした邦人援護官、湾岸地域における日本の外交努力の強化を目的とした湾岸地域担当地域調整官、地域紛争に対する分析体制の強化を目的とした情報分析官が新設された。また、ソ連崩壊に伴う旧ソ連諸国をめぐる急激な情勢変化に適切に対応するため、ウクライナ、カザフスタン、ウズベキスタンに新たに大使館を設置するとともに、ヴィエトナムのホーチミン及び米国のデトロイトに総領事館を新設した。これにより92年度末における日本政府の在外公館(実館)の数は大使館110、総領事館62、領事館2及び政府代表部6の合計180となる。
外交実施体制の基本となる人員の増加については、情報収集や分析機能の強化、邦人保護を含む危機管理体制の整備、国際貢献策の充実と強化、外国人問題への対応等を重点として取り組んできた。この結果厳しい予算、定員事情ではあるが、92年度には外務本省42人、在外公館88人の合計130人の増員(注)となる。
外務省としては、既に定員の増加に限らず人材の採用や育成等の分野で、外交強化懇談会の報告を受けて必要な改革を実施してきている。今後とも国際情勢の新たな動きに適切に対応できる、活力ある外務省を目指して報告の内容の実現、ひいては外交実施体制の一層の拡充へ向けて更に努力を重ねる必要がある。
(2)予算
厳しい財政事情の中ではあるが、92年度予算においては、(あ)外交実施体制の強化(危機管理体制の強化を含む在外公館の機能強化、情報機能の強化等)、(い)国際貢献策の充実と強化(政府開発援助(ODA)の拡充、平和のための協力、国際文化交流の強化及び地球的規模の問題の解決等)という2本柱を中心に着実な予算拡充に努め、対前年度比7.8%増(452億円増)の6,215億円を計上した。
増員される130人から定員削減計画等による減員52人を差引き、アタッシェ受入れ等による他省庁からの振替え28人を加えると、前年度比実質106人の増加。 |