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日本海呼称問題(米議会図書館所蔵の地図に関する調査)

平成17年7月
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  1. 外務省は、平成16年12月から平成17年3月にかけて、米議会図書館が所蔵する14世紀から19世紀の間に発行された地図において、日本海海域の名称がどのように表記されているのかについて調査を行った。これは、「『日本海』という呼称は、我が国が鎖国下にあって国際的影響力を行使できなかった19世紀から、ヨーロッパにおいて定着してきたものである」という我が国の主張を改めて確認するためのものであった。
  2. 一方、韓国側は従来より、「『日本海』の名称が支配的になったのは20世紀前半の日本の帝国主義、植民地主義の結果である」及び「19世紀の中期から末期までは『東海』と『日本海』の双方の名称が世界地図の中で普通に使われていた」と主張し、その根拠として独自に行った米議会図書館所蔵古地図調査をあげている。同調査によれば、1800年以前に作成された古地図228枚を調査した結果、103枚が日本海周辺を含むものであり、このうち66%に当たる68枚が、「朝鮮海」又は「東海」と表記しており、「日本海」と表記した古地図は14%に当たる14枚にすぎないとなっていた。
  3. 外務省が今回実施した米議会図書館所蔵地図に関する調査結果は以下のとおりである。

1.調査目的

(1)我が国は、「日本海」という呼称が正当なものであることを一貫して主張しており、その主要な論拠として以下の3点を挙げている。

(イ)「日本海」という呼称が、現在、国際的に確立していること。

(ロ)歴史的に見ても、「日本海」という名称は19世紀初頭からヨーロッパの地図において定着してきたものであること。

(ハ)地理的命名法からも、「日本海」という名称は妥当であること。

(2)このうち、上記(ロ)の歴史的観点については、国土地理院の研究者2名がヨーロッパで発行された200枚以上の古地図を調査した結果、18世紀末頃まで、この海域には「中国海」、「東洋海」、「朝鮮海」、「日本海」など多様な名称が使われていたが、19世紀初頭から、ヨーロッパの地図を中心に、「日本海」の名称が他を圧倒して使われるようになった事実が確認されている(注1)。また、外務省が行った、大英図書館及びケンブリッジ大学所蔵古地図調査や仏国立図書館所蔵地図調査においても同様の事実が確認されている(注2)。ヨーロッパで発行された地図において、19世紀初頭から「日本海」という名称が使われ始めたのは、18世紀末から19世紀初頭にかけて、仏、英、露等の探検家が日本海周辺を探検し、日本海が日本列島によって太平洋から切り離されているという地理的形状が明らかとなったためであると考えられており、この考え方は多くの研究者によって支持されている。

注1外務省作成の「日本海」パンフレット参照

注2:外務省ホームページ「大英図書館及びケンブリッジ大学所蔵の地図に関する調査」及び「仏国立図書館所蔵地図に関する調査」参照

(3)外務省は、この主張の正当性を更に検証するため、豊富な地図資料を所蔵する米議会図書館において、特に19世紀に発行された地図の中で「日本海」という呼称が定着しているかどうかについて調査を行うこととした。

(4)なお、この調査の背景には、韓国側が「『日本海』の名称が支配的になったのは20世紀前半の日本の帝国主義、植民地主義の結果である」及び「19世紀の中期から末期までは『東海』と『日本海』の双方の名称が世界地図の中で普通に使われていた」と主張していることがある。韓国側は、その根拠として独自に行った米議会図書館所蔵古地図調査をあげており、その調査によれば、1800年以前に作成された古地図228枚を調査した結果、103枚が日本海周辺を含むものであり、このうち66%に当たる68枚が、「朝鮮海」又は「東海」と表記しており、「日本海」と表記した古地図は14%に当たる14枚にすぎないとなっていた。

2.調査概要及び結果

(1)調査概要

 外務省は、米議会図書館が所蔵する地図について、平成16年12月から平成17年3月にかけて日本海海域の名称がどのように表記されているのか調査した。調査の概要は以下のとおりである。

(イ)本調査は、在米日本大使館を通じて米議会図書館の地理・地図部に調査員を派遣する形で行われた。

(ロ)調査対象は、同図書館が所蔵する地図のうち、日本海海域を取り扱っている全ての地図・地図帳とした。地図をモチーフにした絵はがき等、地域判別以外の目的で発行されたことが明らかな所蔵物については、調査対象から除外した。

(ハ)調査対象となる地図(注1)・地図帳(注2)の発行時期は、同図書館が所蔵する最古の地図が発行された1300年(注3)から1900年までの期間とした。

(ニ)調査対象の選出方法には、調査員が実際に地図原物及びマイクロフィルム化された地図帳を閲覧する方法を主として用い、一部の地図についてのみ、図書整理番号(注4)を用いた電子データベースによる検索を行った。その理由は、同図書館は1968年より以前から所蔵している地図・地図帳には、原則として図書整理番号を付与し電子データベースで管理しておらず、調査対象を電子データベースを用いて抽出することは不可能な状態にあったからである(注5)。

(ホ)(ニ)を通じ調査対象に選択された地図・地図帳については、調査員複数名が実際に閲覧し、呼称の記載状況、発行年、発行者及び発行者の所属する国名を記録するとともに、デジタルカメラもしくはコピー機で複写した。

注1:本調査における「地図」とは、同図書館で「single sheet」または「sheet map」と分類されている単一の地図を指すこととする。

注2:本調査における「地図帳」とは、同図書館で「World Atlas」と分類されている複数の地図から成る地図集を指すこととする。同図書館は、この「World Atlas」という分類の中に、世界全般を扱う地図帳から一部地域のみを扱う地図帳まで広範な地図を含めている。

注3:同図書館地理・地図部が所蔵する最古の地図は、「Empire de Mongols」と題するフランス発行の地図で、発行年は「1300-1400」と記載されていたため、正確な発行年は不明であった。

注4:詳細はhttp://catalog.loc.gov/他のサイトヘ参照。

注5:したがって、同図書館所蔵の古地図調査に電子データによる無作為抽出法を用いることは不可能であり、最も客観的に古地図を調査する方法は、本調査で行ったように、同図書館の所蔵する地図全てを一点ずつ検証する方法以外にない。しかし、韓国政府は同図書館における同様の調査で、同図書館が所蔵する地図の一部を何らかの方法で抜粋し結論を導いている。

(2)結論

 調査結果は、以下のとおりである。

(イ)1300年から1900年の間に発行された地図・地図帳のうち、日本海海域を示しているものは総計1728枚あった。それらのうちの同海域に何らかの呼称を記載している地図は1435枚あり、これらの地図の77.4%に当たる1110枚の地図が「日本海」という表記を用いていた。

(ロ)これら1435枚の地図・地図帳のうち、日本海海域を「朝鮮海」と記載したものは188枚(13.1%)、「中国海」が22枚(全体の1.5%)、「東洋海」が20枚(全体の1.4%)であり、「東海」と記載された地図はわずか2枚(0.1%)にすぎなかった。

(ハ)呼称が並記された地図のうち、日本海と朝鮮海が並記された地図は14枚(0.9%)、「日本海・東洋海」は7枚(0.5%)、「東洋海・朝鮮海」は4枚(0.3%)、「日本海・中国海」は1枚(0.07%)であった。また、上記いずれの呼称にも当てはまらない地図は8枚(0.6%)であった。

(ニ)地図・地図帳の発行年代に着目してみると、18世紀までに発行された世界各国の地図は、日本海海域の名称として「日本海」、「東洋海」、「朝鮮海」等、様々な名称を用いていた。しかし、発行時期が19世紀になると、この時期に発行された地図・地図帳全体の82.4%にあたる1059枚が「日本海」との呼称を用いていた。特に、19世紀の中でも、日本が鎖国下であった時代(便宜的に1860年を境とした)に作成された地図563枚のうち、74%に当たる417枚において日本海という表記を用いていた。このことから、「日本海」という名称は、我が国が鎖国下にあって国際的影響力を行使できなかった19世紀から、欧米において定着してきたものであることが確認された。

(表)米議会図書館所蔵地図調査結果
1600年まで 1601年~1700年 1701年~1800年 1801年~1860年 1861年~1900年 割合
Japan 1 3 47 417 642 1110 77.352
Korea Sea 0 2 94 82 10 188 13.101
China Sea 3 11 8 0 0 22 1.533
Eastern Sea 0 0 1 0 1 2 0.139
Oriental Sea 0 4 14 1 1 20 1.394
Tartar Sea 0 0 0 3 0 3 0.209
Tessot Sea 0 0 2 2 1 5 0.348
Japan/Korea 0 0 3 11 0 14 0.976
Japan/Oriental 0 0 7 0 0 7 0.488
Japan/China 0 0 1 0 0 1 0.070
Eastern/Corea 0 0 4 0 0 4 0.279
N.D. 0 3 7 18 19 47 3.275
No Entry 32 80 109 29 43 293  
Others 0 3 4 0 5 12  
36 106 301 563 722 1728  

(3)韓国側の調査に対する批判的検討

 本調査結果を踏まえ、韓国政府が2002年に同図書館で行った同様の調査の調査結果を検討してみると、以下のような疑問点が指摘できよう(注1)。

(イ)韓国側の調査は、調査対象の選定基準が明らかでない。韓国政府が米議会図書館で行った調査は、1800年以前に発行された228枚の地図を対象としたとしているが、同図書館には同時期に発行された地図445枚が所蔵されており、韓国側が調査したのはそのうちの僅か51%にすぎない。また、この時期に発行された地図の情報のほとんどは電子データベース化されていないため、電子データを用い、調査対象を無作為に抽出することは不可能である。さらに、同図書館員に確認したところ、2002年から本調査が行われた2003年までの間に、同図書館の地図・地図帳所蔵数が急増したとの事実もなかった。

(ロ)韓国側の調査は、調査結果の客観性に疑問がある。韓国政府は17~19世紀発行の地図で「もっとも頻繁に使われたのは、朝鮮海、東海といった、まさに韓国と関係のあるものであった」と結論づけている。しかし、本調査では、17~19世紀に発行された地図・地図帳は全部で1694枚あり、それらの中で実際に「朝鮮海、東海」といった韓国と関係のある名称を用いた地図は、「日本海・朝鮮海」と併記したものを含めても235枚、即ち全体の13.9%にすぎなかった。また、本調査によると、この時期に発行された地図の62.5%に当たる1058枚は「日本海」という名称を用いており、韓国関連の呼称が「もっとも頻繁に使われた」とはいい難い結果が導かれた。

(ハ)さらに、韓国側は「『日本海』の名称が支配的になったのは20世紀前半の日本の帝国主義、植民地主義の結果である」とするが、韓国側の調査は、韓国側の主張の要となる20世紀前半の地図を調査していない。

注1:韓国政府(The Society for East Sea: The Korean Overseas Information Services)発行の「East Sea in Old Western Maps with Emphasis on the 17-18th Centuries」及び「2000年の歴史を持つ名称「東海」」参照。

(4)付録データの見方

(イ)整理番号(最左側の列に記載):

 同図書館では、古地図がアジア、ロシア(アジア・シベリア地域)、ロシア中央部、中国、東アジア、日本、朝鮮、大洋州、太平洋、世界と分類され保存されていた。同調査では、調査対象となる地図・地図帳に対し各分類に所属する地図に年代順に番号を振った。

(ロ)地図名、出版者、出版社

1)「N. D」(not determined):その地図名や地図帳の目次等から、該当箇所に何らかの記載があることが明らかであるが、地図原物が破損・紛失している等の理由で判読不可能なもの。

2)「(空欄)」:記載がないもの。

3)「?」:調査官の判読が確実ではないもの。

(ハ)出版国

出版国は、出版社が所属する国とした。例えば、著者が英国籍であっても、フランスの出版社が発行した地図であれば、出版国はフランスと分類した。

(ニ)出版年の判別法

調査対象となった地図・地図帳は年代順に所蔵されていたため、例えば「18--」と記載のある地図が「1800」と記載のある地図と「1801」と記載のある地図の間に保管されていた場合、その地図は1800年以降1801年以前に発行された地図とみなし統計処理を行った。

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