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日本海呼称問題(ロシアにおける調査)

平成20年7月

:「East Sea in Old Western Maps with Emphasis on the 17~18th CenturiesThe Society for East Sea, The Korean Overseas Information Service出版(2004年)より

1.調査目的

(1)我が国は、日本海という呼称が当該海域に国際的に確立した唯一のものであることを一貫して主張しており、その主要な論拠として以下の3点を挙げている。

(イ)日本海という呼称が、現在、国際的に確立していること。

(ロ)歴史的に見ても、日本海という名称は19世紀初頭からヨーロッパの地図において定着してきたものであること。

(ハ)地理的命名法からも、日本海という名称は妥当であること。

(2)このうち、上記(ロ)の歴史的観点については、国土地理院の研究者2名がヨーロッパで発行された200枚以上の古地図を調査した結果、18世紀末頃まで、この海域には「中国海」、「東洋海」、「朝鮮海」、日本海など多様な名称が使われていたが、19世紀初頭から、ヨーロッパの地図を中心に、日本海の名称が他を圧倒して使われるようになった事実が確認されている(注1)。また、外務省が行った、大英図書館及びケンブリッジ大学所蔵古地図調査や仏国立図書館所蔵地図調査においても同様の事実が確認されている(注2)。ヨーロッパで発行された地図において、19世紀初頭から日本海の名称が使われ始めたのは、18世紀末から19世紀初頭にかけて、フランス、英国、ロシア等の探検家が日本海周辺を探検し、日本海が日本列島によって太平洋から切り離されているという地理的形状が明らかとなったためであると考えられており、この考え方は多くの研究者によって支持されている。また、日本の主張の正当性を更に検証するため、豊富な地図資料を所蔵する米議会図書館において、1300年から1900年に発行された地図の中で日本海の呼称が定着しているかどうかについて調査を行い、同海域に何かしらの呼称を記載している地図1435枚中77.4%に当たる1110枚の地図が日本海の表記を用いていたことが確認され、ヨーロッパのみならず、米国においても前述した英国、フランスの結果と同様の事実が確認されている(注3)

注1外務省作成の「日本海」パンフレット参照

注2:外務省ホームページ「大英図書館及びケンブリッジ大学所蔵の地図に関する調査」及び「仏国立図書館所蔵地図に関する調査」参照

注3:外務省ホームページ「米議会図書館所蔵の地図に関する調査」参照

(3)外務省は、この主張の正当性を更に検証するため、前述した米、英、仏の調査に引き続き、今回ロシアでの調査を行い、特に19世紀に発行された地図の中で日本海の呼称が定着しているかどうかについて改めて確認することとした。

(4)なお、この調査の背景には、「日本海の名称が支配的になったのは20世紀前半の日本の帝国主義、植民地主義の結果である」及び「19世紀の中期から末期までは『東海』と『日本海』の双方の名称が世界地図の中で普通に使われていた」との韓国側の主張がある。韓国は、上記の主張の根拠の一つとして、韓国側の独自の調査によれば、ロシア国立図書館、ロシア国立古文書保管所及びロシア国立海軍省文書保管所に所蔵されている18世紀から19世紀に作製された古地図19枚を調査した結果として、52.6%に当たる10枚で、「韓国海」や「東海」等、韓国と関連する名称が表記されており、日本海と表記した古地図は15.8%に当たる3枚に過ぎないと主張している。

2.調査概要

(1)本件調査は在ロシア日本大使館を通じて実施した。同大使館はロシア及びサンクトペテルブルクにある以下の4つのロシア図書館及び古文書保管所にて地図の研究を行った。

(2)まず始めに、ロシア国立図書館にて、日本海海域が記載されている地図300枚の中から19世紀以前に出版された92枚の地図リストを作成した。

(3)上記リストに基づき、調査許可の下りた上記4つの図書館及び保管所に保管されている地図のうち、撮影・コピー等許可の下りた地図の中から無作為に選んだ51枚を今回の調査対象とした(定められた期間内での調査であったことからすべてを調査することはできなかったため。)。

3.調査結果

(1)調査した総地図数:51枚

 (他の図書館又は古文書で重複している地図は同枚数に含まない)

(2)年代別(1630年から1899年まで)

 (イ)16世紀:0枚

 (ロ)17世紀:2枚(3.92%)

 (ハ)18世紀:13枚(25.49%)

 (ニ)19世紀:36枚(70.59%)

(3)呼称別

調査した地図の呼称別一覧
当該海域の名称 1601~1700 1701~1800 1801~1867 1868~1900 地図数 割合
日本海   2 15 12 29 72.5%
朝鮮海   5 2 1 8 20.0%
朝鮮海峡     1   1 2.5%
東海   1     1 2.5%
中国海   1     1 2.5%
(表記なし) 2 4 5   11  
(合計) 2 13 23 13 51  

各公文書館に保管されている地図の重複分を除いたもの

(4)調査機関別

調査機関別調査した地図一覧
N 機関名 日本海海域が入った地図数 コピーが撮れた地図数
1 ロシア国立図書館
モスクワ
42 37
2 シドリン国立図書館
サンクトペテルブルグ
41 11
3 ロシア国立海軍省文書保管所
サンクトペテルブルグ
45 1
4 ロシア国立古文書保管所
モスクワ
14 2
5 ロシア帝国外交古文書保管所
モスクワ
調査不許可 -
6 国立地理学協会古文書保管所
サンクトペテルブルグ
調査不許可 -

:4カ所の保管所において、日本海海域が示された17世紀~19世紀までの地図142点を確認。その後、各保管所で重複している地図を除外しつつ、定められた期間内で調査可能であった地図(無作為に抽出)は全部で51点。

4.分析

(1)1630年から1899年の間にロシアにて発行され、今回調査できた地図51枚中日本海海域に何らかの呼称を記載しているものは全部で40枚あった。そのうち72.5%に当たる29枚において日本海と表記されていた。

(2)また、これら40枚の地図のうち日本海海域を「朝鮮海」と記載した地図は8枚(20.0%)、「中国海」、「朝鮮海峡」、「東海」と記載された地図はそれぞれわずか1枚(2.5%)にすぎなかった。

(3)また、地図の発行年代に着目すると、18世紀までに発行された地図では、日本海海域に何らかの呼称が表記された9枚の地図中5枚で「朝鮮海」の名称が使用され、その他に日本海(2枚)、「中国海」(1枚)、「東海」(1枚)の名称がそれぞれ使用されていたが、19世紀に入ると、日本海海域に何らかの呼称が表記された31枚の地図中27枚(87%)において日本海の名称が使用されていた。

5.結論

 今回の調査により、日本海の名称が、19世紀に入ると他の名称を圧倒して使用されるにいたったことが判明し、これまでの古地図調査同様、我が国が鎖国下にあって国際的影響力を行使できなかった19世紀初頭から日本海の表記が定着してきたことが、ロシアにおける古地図調査によっても確認された。

6.韓国側の調査に対する批判的検討

 本調査を踏まえ、韓国政府が2002年に同図書館で行った同様の調査の結果を検討してみると、以下の疑問点を指摘することができる。

(1)調査対象の選定基準が明らかでない。

 韓国側は、我が国が行った調査場所であるロシア国立図書館、ロシア国立古文書保管所(モスクワ)、ロシア国立海軍省文書保管所(サンクトペテルブルク)の3か所に保管されている18世紀から19世紀かけての合計19枚の古地図を用いて調査しているが、この19枚の選定基準については言及されていない。図書館等の調査許可の問題があるにしても、日韓の調査結果にこれだけの開き(特に日本海と表記された地図の枚数の違い)があるなか、韓国側がその選定基準を公表していないことにかんがみると、韓国側の調査結果に疑問が残る。

(2)韓国側は20世紀前半の古地図についてほとんど調査結果を公表していない。

 韓国側は、「日本海の名称が支配的になったのは20世紀前半の日本の帝国主義、植民地主義の結果である。」としているにもかかわらず、20世紀前半の地図についてはほとんど調査結果を公表していない。

(3)韓国側は「東海」を主張しているにもかかわらず、それ以外の名称もその主張の根拠としている。

 韓国側は「東海」を主張しているにもかかわらず、「朝鮮海」や「朝鮮湾」まで「韓国と関係のある名称」として「東海」と同一視し、これらの合計数と日本海表記の地図数とを比較して調査結果を公表している。これは、韓国の主張する「東海」が、韓国側の調査においてすら、ほとんど古地図に登場していないことを裏付けている。

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