12月15日(木曜日)及び16日(金曜日)の2日間,中東・北アフリカ諸国駐箚大使等が参加し,外務省において平成23年度中東・北アフリカ大使会議が開催されたところ,議論の概要以下のとおり。
- 総論
●本年度の中東・北アフリカ大使会議では,1)「アラブの春」の影響と日本の対応,2)中東北アフリカ経済外交,3)域内パワーバランス・中東和平,について議論を行った。各大使は,同地域の平和と安定は,我が国の繁栄にも大きな影響を及ぼしうるものであるとの認識を再確認し,各国の改革はこれからが正念場であり,我が国の知見や経験を活かしつつ,できる限りの貢献をしていくことを確認した。
●それぞれのセッションでは,各大使から任国事情の報告とともに,我が国の中東・北アフリカ外交について,本省への提言を含め活発な議論がなされた。
●議論を通じ,各大使からは,特に中東・北アフリカ地域における外交は,政治的関係はもとより,経済外交を進める上でも政府ハイレベルで行われることが多く,我が国としてもより頻繁な,首脳・閣僚レベルの訪問が重要であることについて一致した見解が示された。また,我が国として,激動する中東・北アフリカ情勢を的確に把握した上で,平和と安定のために役割を果たして行くべきとの考えを共有した。 - 各論
(1)いわゆる「アラブの春」の影響と日本の対応
●エジプト,チュニジア,リビア,イエメン等政変を経験した国における邦人保護,大使館のあるべき体制等について知見の共有があった。また,これらの体制移行国において,引き続き邦人保護に万全を期すこと,官民合同の取組及びG8・国連等との連携の下で,これらの国の今後の国造りへ積極的に関与していく方針を確認した。
●シリア等,今後体制移行が起こり得る国において,市井の声の情報収集に一層努めるとともに,これまで体制に批判的であったイスラム系勢力との接触を拡大させることが必要ではないかとの認識が示された。(2)対中東・北アフリカ経済外交
●中東・北アフリカ地域は,イランの核問題,中東和平,アフガニスタン等様々な問題を抱えており,同地域から原油の9割を輸入している我が国にとり,同地域の情勢が不安定となった場合のエネルギーの安定確保,緊急確保は引き続き重要な課題であるとの認識が示された。
●インフラ輸出を始めとする経済外交は東日本大震災後,日本国内にて電力・エネルギー供給の不足が懸念される中,中東・北アフリカ地域からの資源・エネルギーの安定供給の確保と重層的関係構築は一層重要との認識を共有した。
●我が国の高い技術力には,従来より変わらぬ期待が寄せられており,政府として支援していくことは重要との認識で一致。特に,いくつかの国においては,震災後もなお,我が国の原子力技術への期待は高いとの認識が示された。日本企業の海外市場進出を後押しするための,パッケージ型インフラ海外展開の実施に向け,政府による後押しの重要性などで一致した。(3)域内パワーバランス・中東和平
●中東・北アフリカ地域では,いわゆる「アラブの春」以降,民意の反映の結果としてイスラム主義が伸張している現状が報告された。また今後イスラム教と国内少数宗教との対立や,イスラム教内の宗派対立(スンニ派とシーア派)の動向を注視する必要があるとの認識が示された。一方,イスラミストを即原理主義者と断じるのは間違いであり,イスラム勢力との対話の重要性も強調された。
●イラクでは年内に米軍が撤退を完了させる予定だが,米軍のプレゼンスの低下が域内のパワーバランスに変化を与えるのではないかという点について議論があった。
●また米国による対イラン制裁が我が国にどのような影響を与えるか注視していく必要があるとの認識を共有した。
●積極的な外交を展開するトルコの動向が地域情勢に与える影響は大きいとして,注視していくべきとの見解が示された。
●中東和平は本年,パレスチナによる国連加盟申請及びパレスチナのユネスコ加盟実現と大きな動きを見せた年となったが,和平プロセス停滞への懸念が示されるとともに,我が国としても信頼醸成等の分野を含め引き続き積極的に取り組んでいく必要があるとの認識で一致した。