まず、年末の御多忙のところ御参集いただきました日メコン各国政府代表、民間セクター代表、産業界の各位に御礼申し上げます。
日本商工会議所の大メコン圏ビジネス研究会会長に就任後、私はこの3年間でメコン地域を計9回訪問しました。メコン各国を訪問するたびに、国ごとの諸事情、諸問題等はあるものの、総じて経済発展のスピードの速さには常に驚かされています。また、日本とメコン地域との間で、政治、経済、文化、観光等幅広い分野での関係が急速に深まっていることも同地域を訪問する度に肌で感じます。本日は、これまでの自分の経験に基づき、メコン地域の魅力、メコン地域における日本企業の取組等について私なりの考えを述べさせて頂ければと思います。
総論・メコン諸国とのつながり
メコン地域は、成長著しいアジアの中でも、とりわけ将来の発展の可能性に富んだ地域です。同地域は、経済発展の著しい中国とインドに挟まれ、成長を続けるASEANの中心地という非常に戦略的に有利な場所に位置しています。北はベトナム、ラオス、ミャンマーが中国と国境を接し、南はタイの南部がASEAN島嶼部で経済発展の著しいマレーシア、シンガポールへと通じています。さらに、ミャンマーは西のインドと国境を接し、ベトナムの長い海岸は中国大陸につながっています。
このような地理的特性に魅力を感じ、現在、多くの日本企業がメコン5カ国に生産工場を設置し、その多くは日本から部品を輸入し、メコンの工場で製 品を完成させ、アジア域内の内需及び欧米等に輸出する生産拠点として活用しています。実際、本日会合に出席している各企業は、メコン地域の潜在能力に着目して積極的な進出を図っています。
我々は、メコン地域においては、インフラ整備、資源開発、自動車関連、食品加工、小売業(リテール)、新エネルギー(バイオエタノール、太陽光発電)、エコシティー等の環境(エコ)ビジネス、ライフサイエンス等、多くの分野でビジネスが拡大することを期待しています。高い技術を持つ日本が同分野への開発支援を行っていくことで、同地域の経済発展に寄与する機会が多くあると信じています。
一方、同地域への中国をはじめとするアジア先進国(中国、韓国、シンガポール、タイ、マレーシア等)の進出・投資の勢いはすさまじく、日本勢が足踏みしているとすべて占有されてしまうのではないかと危機感も感じています。そのような事態を招かないためにも、日本の民間と政府が一丸となってメコン地域での事業を展開していく必要があります。
そのような観点から、本年、メコン地域における官民協力・連携促進フォーラムが設置されたことを、民間セクター(経済・産業界)を代表して歓迎します。日本とメコン各国の官民が一体となって協業することで、同地域の発展に寄与するとともに、日本の経済発展にも資するであろうと確信しています。
メコン域内と日本企業
メコン5カ国は2億人を超える人口を擁し、購買力のある中間層が拡大を続ける魅力的な市場でもあります。成長著しいアジア諸国の中心であるメコン5カ国とともに成長するために、日本企業は積極的にメコン地域で事業展開を行っています。
私が所属している商工会議所でも大メコン圏ビジネス研究会を設置し、現在、活発な活動を行っています。特に昨年は、私が団長となりメコン地域経済ミッションとして、タイ・ラオス・ミャンマーを訪問しました。ミャンマーでは、第7回日本・ミャンマー商工会議所ビジネス協議会を開催するなど、民間交流の促進にも努めています。
同年11月下旬には、カンボジア・タイ・ベトナムへの食品産業投資の可能性を調査するために、ミッションを派遣しました。さらに、今年に入ってから、カンボジアやベトナムなどメコン諸国の投資・貿易セミナー等を東京で開催していますが、毎回、多数の参加者が集まる盛況なものとなっており、日本企業のメコン諸国に対する関心の高さには驚かされています。また、商工会議所はアジア諸国とともに成長していくために日本企業の海外展開を後押しする必要があるとの考えの下、今年を「国際化元年」と位置付けて日本企業の国際化支援に取り組んでいます。
日本からは、長年、電機、自動車、加工食品等の様々な製品を作る企業がメコン5カ国に投資を行ってきました。メコン地域に進出してきた日本の民間企業関係者は、メコン地域の産業が発展し、自らのビジネスも成功させるには、何よりもその原動力となる人材の育成が欠かせないと考え、メコン地域の産業人材育成に長年貢献してきました。例えば、タイではタイの中で日本の生産管理技術を導入し、成果を上げてきた民間の研修団体が「日本型ものつくり大学」とも呼ばれる泰日工業大学を設立、自動車工学や情報技術、生産技術等のコースを設け、産業人材の育成に貢献しております。創設に際しては、バンコクの日本人商工会議所が全面的な協力を行っており、会員日本企業から募った資金により優秀な学生に奨学金を提供しております。
また、ベトナムやカンボジアにおいても日本政府からの支援により「日本センター」を建設し、ビジネスコースを開講してビジネス人材の育成を行っていると聞いています。このような日本の官民の支援による大学、研修センターで勉強された方々の活躍によってメコン地域の製造業の競争力が更に高まっていることと思います。メコン地域で事業展開をしている日本企業は、「技術力の日本」として、日本企業自身の発展から得られた知見を日々メコン地域の方々と共有し、メコン地域のニーズに合った、ビジネス人材の育成を今後とも支援し、共に成長を遂げていくことを望んでいます。
今後メコン地域諸国及び日本に取り組んでもらいたいこと
ここで、メコン地域の持つ市場としての魅力及び地理的な魅力をさらに伸ばしていくためにメコン諸国及び日本政府に優先的に取り組んでもらいたいこととして、次の3つの分野を挙げたいと思います。
- 1)(一つ目)は、日本とメコン地域での事業展開の架け橋となるような人材の確保です。
- 2)(二つ目)は、安心してビジネスをできる環境を構築するための知的財産権の保護、
- 3)(そして三つ目)に何といってもハード・インフラの一層の充実です。
まず、日本とメコン地域で活躍できる人材については、アジアから優秀で意欲的な若者が多数留学生として来日することを促進する施策の実行を日メコン双方の政府に望みます。アジアからの留学生は、語学力と高度な知識を備えた人材として日本企業の国際展開に資するとともに、メコン地域の発展に貢献するでしょう。同時に、日本の側でも大局的バランス感、語学力をそなえた人材の拡大が不可欠です。
次に、知的財産権の保護は、模造品・海賊版の拡散を防止し、メコン地域で安心して製品を生産し、ビジネスを行うために欠かすことのできない要素です。また、知的財産の保護は、新たな製品やサービスの開発により需要の創出を後押しすることにもなります。したがって、単なる法制度の整備のみならず、その着実な執行など知的財産保護体制の構築が鍵になるため、メコン諸国には、知的財産の保護を目的とする国際的枠組に積極的にご参加いただくことを望みます。
最後はハード・インフラの整備です。企業の活動は人や制度だけではやはり動かず、インフラ整備は不可欠です。タイは既に相当成熟したインフラ環境を有していますが、ベトナムは現在インフラ拡充真っ最中ですし、ミャンマー・カンボジア・ラオスは、今後インフラを整えていくことで飛躍的な企業活動の拡大が見込まれるであろうと考えます。是非日メコン双方の官民一体となって努力を行っていきたいと思います。
日メコン産業界(日本26社+2団体、メコン諸国約60社)の提言取り纏めについて
最後に、私が日本側議長を務めた「日メコン産業政府対話」の産業界提言書の取り纏めについてご報告致します。まず、昨年の2009年は「日メコン交流年」として定められ、その年の11月には東京にて初の日本メコン首脳会議が開催されました。 首脳会議では、総合的なメコン地域の発展に向けた「日メコン行動計画63」が発表されるなど、日メコン協力における象徴的な年となりました。「日メコン産業政府対話」は、「日メコン行動計画63」でその設置が謳われたものでございますが、
1)ハード・インフラ整備、2)貿易円滑化、3)中小企業育成、4)サービス分野・新産業の振興を柱とし、メコン地域におけるハード及びソフト両面でのインフラ整備を進めることにより、メコン地域の企業活動を促進し、地域の格差を縮小させるための取組です。今年に入ってから、日本とメコンの政府と産業界メンバーで構成する「日メコン産業政府対話」がスタートし、2010年5月に第1回の会合をハノイで開催しました。その後、実務者会合(シェルパ会議)を含め3回の会合を開催し、8月のベトナム・ダナンでのASEAN経済大臣会合にて、日メコン産業界からの提言書を提出しました。 また、その提言書を踏まえた「日メコン産業政府対話行動計画」が本年10月の第2回日メコン首脳会議で採択されました。
議長として、提言書をまとめるために掲げた原則は、
- 1)長すぎない提案リスト及び優先順位を明示すること、
- 2)より具体的な事項を取上げること、
- 3)各国案件ではなく、地域的な案件を優先することです。
提言書の内容、進捗状況は、半年ごとにレビューが行われる予定です。本日の第2セッションで経産省より詳しい発表がある予定ですが、本対話は、日メコン官民がメコン地域の発展に向けた課題を共に洗い出すことにより、双方の発展につなげていく活動のひとつと考えております。