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第4回バリ民主主義フォーラムにおける
岡田克也総理特使スピーチ

平成23年12月8日

ユドヨノ・インドネシア大統領閣下,
共同議長を務めるシェイク・ハシナ・バングラデシュ首相閣下,
並びに,御列席の皆様

 本日,アジアの多様性を象徴するバリ島において,日本政府を代表して,第4回バリ民主主義フォーラムに参加できることをうれしく思います。

 まず,今般,洪水や台風などの自然災害の被害を受けたタイ,カンボジア,ミャンマー,ベトナム,ラオス及びフィリピンの各国に対し,心よりお見舞い申し上げるとともに,被災地の早期復旧を祈念いたします。

 日本においても,東日本大震災から9か月が過ぎようとしています。日本は,世界中からの温かい励ましと多大なる支援に支えられながら,復興を力強く進めています。この震災による絶望と困難の中で日本国民が痛感したもの,それは,世界の人々との強い「絆」でした。皆様からの御支援に対し,改めて心から感謝します。

 「21世紀はアジアの時代である。」私は一貫してそう申し上げてきました。世界の成長センターであるここアジアにおいて,経済成長の結果として各国の中間層が厚みを増し,政治的にも民主主義が深まっていくことは,自然の流れです。 そのような流れの中で,インドネシア自身が自らの経験を国際社会に共有しようとイニシアティブを発揮していることを,大変意義深く感じます。ASEANの中核であり,世界最多のイスラム教徒を擁するインドネシアの取組は,アジア地域のみならず,アラブ諸国の民主化においても多大な貢献をし得るものと考えます。
 この地域に民主主義的価値に支えられた豊かで安定した秩序を構築していくことが,地域の発展のために不可欠です。このため,日本としても,インドネシアのかかる取組を,ひいてはアジアにおける民主化の流れを,力強く後押ししてまいります。

御列席の皆様,

 アジアの民主化の流れは,それぞれの状況こそ違えども,ブータン,東ティモール,キルギス,モルディブ,ミャンマー,ネパール,パキスタン,スリランカといった国に拡がりを見せています。民主化への歴史的な流れはもはや止めることはできず,また同時に,我々はこの流れを着実に進める努力を怠ってはなりません。

 ミャンマーにおける最近の変化は前向きなものであり,昨年の総選挙実施以降の民政移管と民主化・国民和解に向けた一連の措置を日本政府として評価します。特に,アウン・サン・スー・チー女史が率いる国民民主連盟(NLD)が政党として再登録されることは,国民和解に向けた具体的な進展です。日本政府としても,今後,更なる政治犯の釈放を含め,ミャンマー政府による民主化・国民和解に向けた流れが着実に進むよう,国際社会と共に力強く後押ししていく考えです。

 中東・北アフリカ地域においても大きな変化が表れています。その過程で重要なことは,インドネシアを始めとするアジア諸国の民主化の経験がアラブ諸国に共有されることです。バリ民主主義フォーラムの枠組みでエジプト民主化支援の取組が実施されていることは特筆すべきことです。いわゆる「アラブの春」と呼ばれる大変革を経験しているこの地域の民主化努力を,アジアの民主主義国家と共に支援していく考えです。

御列席の皆様,

 日本は,戦後60年以上にわたり一貫して平和を維持し,民主主義国家として歩みを継続してきた結果,経済的繁栄と豊かな社会を実現し,国際の平和と安定のために持てる国力を最大限に投入してまいりました。しかし,現在に至るまでの道のりは必ずしも平坦ではなく,戦前の民主主義の挫折と先の大戦という苦い経験の上に,多くの挑戦と試行錯誤を繰り返されたものであります。

 このような日本の経験を踏まえ,民主主義を実現させるために何が必要となるか,私の考えを申し上げます。

 第一に必要なことは,表現の自由,言論の自由,思想・良心の自由といった民主的な権利が,個人に幅広く認められることです。民主主義社会とは,自立した個人が他人の価値観をそれぞれ認め合うこと,すなわち,多様性を尊重する社会でなければなりません。国家も,国民である個人の権利の行使やその背景にある多様な価値観に対して,寛容でなければなりません。

 第ニに必要なことは,民主化を制度面で担保することです。国民による意思決定プロセスへの参加こそ民主主義の根本です。政治参加を求める国民の声を公正に反映させるためには,民主的な諸制度の構築が欠かせません。公正な選挙制度,民意を反映した議会制度,法の支配,軍のシビリアン・コントロール,効果的・効率的な行政制度の構築といったグッドガバナンスの実現こそ,民主化を着実に進めるための第一歩と言えるでしょう。

御列席の皆様,

 このように,民主的権利の確立と民主的諸制度の構築の両方があいまって,真の意味での民主化の流れを確実なものとすることができると確信します。しかし,ここであえて強調したいことがあります。これまでのアジアにおける民主化の進展は,貴重な教訓を残してくれました。すなわち,民主化の態様は決して一様である必要はなく,互いの経験に学びつつ,各国が自発的に進展させていくことが重要であるということです。

 もう一つ忘れてはならないことは,民主化のスピードです。大事なことは,着実に民主化に向けた環境整備を進めることです。民主化の遅れが望ましくないことは言うまでもありません。しかし,急ぎすぎると良い結果をもたらさないことがあるということも,我々は知っています。

 21世紀はアジアの時代であると,冒頭申し上げました。アジアにおいて,今,生活の豊かさが急速に実現しつつあります。豊かになったアジアにとって,次に重要なことは,着実かつアジア的な民主化の進展です。そのためには,我々民主主義を実現した国々が自らの経験に基づき貢献することが大切なのです。

 日本としても,このアジア地域における民主主義の更なる進展を目指すべく,皆様と共に尽力していきたいと思います。

 御静聴ありがとうございました。

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