省庁共通公開情報

II.事前評価

政府開発援助(ODA)

(2)有償資金協力案件

ニンビン火力発電所増設計画(第二期)

評価年月日:平成18年3月28日
評価責任者:有償資金協力課長 相星孝一

1.案件名

1-1.供与国名
 ベトナム社会主義共和国
1-2.案件名
 「ニンビン火力発電所増設計画(第二期)」

2.有償資金協力の必要性

2-1.二国間関係等
(1)政治的・外交的重要性
(イ)ベトナムは、東南アジアにおいてインドネシアに次ぐ第2の人口規模を有している(インドネシア2億人、ベトナム8千万人)他、地政学的にも重要な位置を占めており、その政治的安定と経済的発展の達成は、我が国を含むアジア全体の安定と発展にとって極めて重要。
(ロ)また同国は、1995年のASEAN加盟後、ASEAN内における相対的な地位を高めつつあり、同国との関係の緊密化は、我が国の対ASEAN外交にとっても極めて重要。また、ASEANの中の後発加盟国であるベトナムへの支援は、ASEANにとっても重要な課題となっているASEAN内の格差是正に資する。
(2)経済関係
(イ)我が国による対ベトナム投資は、1990年代後半にはアジア通貨危機の影響等の要因によって大幅に減少したものの(1995年約11.3億ドル、1999年約0.62億ドル)、2001年の米越通商協定の発効、2003年12月から2005年11月までの2年間に渡る「日越共同イニシアティブ」における行動計画の着実な進展、2004年12月の日越投資協定の発効等、投資環境の改善を含めたベトナム経済の開放・改革が今後益々進んでいくことが見込まれていることから、投資先としてのベトナムに対する我が国企業の期待は高まりつつある。実際、2004年の我が国の投資額(新規)は2.5億ドルと2003年の1.0億ドルから大幅に増加した。
(ロ)我が国による対ベトナム投資累積額は、2005年4月までで約57億ドルで国・地域別の認可額でシンガポール、台湾に次いで第3位である(実行ベースでは第1位)。また、貿易面についても近年着実に拡大傾向にあり、我が国はベトナムにとって第2位の貿易相手国となっている(2004年)。

2-2.対象国の経済状況
(1)1986年のドイモイ政策導入以降、輸出・外国投資の伸びを原動力に経済発展が軌道に乗り、1992年から1997年にかけてベトナムは年間8~9%の経済成長を続けた。1997年のアジア通貨危機の影響により、一時期外国直接投資が急減し経済成長も鈍化したが、1999年半ば以降、経済は回復基調となっている。2004年は、前年7.24%を上回る実質7.69%の成長率を達成し、5カ年計画期間の2001年以来、4年連続で前年を上回る成長率を達成した。貧困率は2002年14.3%から2003年12.5%へと低下し、経済成長が着実に貧困削減効果を及ぼしていることを伺わせた。しかし産業基盤の乏しい農村部での失業対策、都市と農村の貧富の差の解消が依然課題となっている。
 外国直接投資(新規)は、2001年の25億ドルのレベルには依然届かないものの、2003年の19億ドルから2004年は23億ドルへと増加する等、再び堅調な伸びを示している。
 貿易については、輸出は対欧米市場への繊維製品などの輸出増加、原油価格の高騰を背景に対前年比31%増の260億ドルとなった。しかし、国内経済拡大に伴う輸入需要を反映して、輸入が対前年比26%増の315億ドルとなったため、貿易赤字は2003年年の51億ドルから2004年の55億ドルに拡大した。
 この他、近年安定していた物価が、2004年には鳥インフルエンザによる食料品の高騰や、世界的な石油製品の高騰により、同年12月には9.5%の高インフレ率となったが、その後、上昇幅は減少し2005年7月には7.5%まで下がっている。
 財政赤字は、2003年度2.0%から2004年度1.4%に減少した。開発支援基金(DAF)への貸付やオフバジェット支出部分を含めた包括的な財政赤字も2003年度7.2%から2004年度4.5%まで減少している。ただし、現在策定中の経済社会五ヶ年計画の中で多額の公共投資が計画されており、DAFを経由した貸付の増加、教育債・インフラ債発行によるオフバジェット支出の増加が見込まれることから、中期的にはオフバジェット支出部分を含めた財政全体の慎重な運営が重要である。
 また、2004年半ば以降金融引き締め策が採られているものの、2004年、銀行部門の与信が前年比42%拡大しており、特に国営商業銀行による国営企業への貸出増による資産の質の低下が懸念される。国営商業銀行の不良債権処理や株式化による経営健全化など金融セクター改革が課題である。
 ベトナムは、世界経済への統合のため、WTO早期加盟を対外経済政策の最重要課題と位置づけ、また、ASEAN自由貿易協定(AFTA)の共通有効特恵関税(CEPT)協定の実施目標年を2006年から2005年に一年繰り上げる旨表明するなど地域経済への統合にも努力している。このため、ベトナムは、WTO加盟を国家的威信もかけた目標とする一方で、厳しい国際競争に対応するため、経済構造の転換と国内産業の競争力強化を迫られている。この過程で、依然GDPの4割弱を占める国営企業の株式化等による効率化、中小規模で脆弱な私企業セクターの強化・育成が大きな課題となっている。
(2)ベトナムの援助吸収能力について、2000年9月に露との間で旧ソ連債権の約85%削減を含む合意が締結されたことにより、ベトナムの債務状況は相当程度改善された。ベトナムはHIPCs(重債務貧困国)に分類されているも、IMFはベトナムのマクロ経済に対しては総じて好評価を与え、債務負担能力は「持続可能」と分析しており、世銀も債務救済措置を必要としない国に位置付けている。また、世銀によれば、対外債務対GDP比は、2003年の40.6%から38.5%に減少、ここ数年間はほぼ同水準で安定しており、DSRは、輸出の急増に伴って、6.0%(2002年)、3.4%(2003年)、2.6%(2004年)と減少している。我が国円借款との関係では、2002年度に円借款再開後の元本返済が始まったが、元本返済額(2002年度19億円、2003年度42億円、2004年度54億円)及び利息入金(2002年度57億円、2003年度60億円、2004年度70億円)は期日どおりに支払われる等、これまでのところ債務負担能力に特段問題は見受けられない。また、ベトナムにおけるプロジェクト型円借款執行率(期首パイプラインベース)は、2002年度には7.2%であったのが2003年度には11.5%、2004年度には13.2%と年々改善しているが、引き続きベトナム側の改善努力が必要である(全借入国の平均値は15.2%)。

2-3.対象国の開発ニーズ
(1)ベトナムはドイモイ政策導入後に急速な経済発展を遂げており、近年のGDP成長率は6~7%となっている。このため、電力需要も2000年から2004年まで全国で年平均14.8%の割合で増加しており、今後も引き続き2010年まで年平均13%超で増加する見込である。
(2)に北部では2004年(乾季)時点で発電設備容量(2,830メガワット)をピーク需要(3,704メガワット)が上回る状況となっている。また、2005年5月には北部で大規模な停電が発生している。これらに象徴されるように、同国電力セクターにおける喫緊の課題は、電力需要の急伸への対応であり、今後同国が経済成長を持続するためには、こうした旺盛な需要の伸びに応じた供給力の確保が不可欠である。
(3)本計画は、第5次電力マスタープランの中で位置づけられており、北部で産出される石炭を燃料として、最も経済的に北部の電力需要増に対応するものである。一方石炭火力発電は、煤塵や硫黄酸化物の排出等により、他の発電形態に比して環境負荷が高くなるため、環境管理体制の構築に対して支援が求められている。

2-4.わが国の基本政策との関係
 対ベトナム国別援助計画における以下の3つの重点分野全てに該当する。
(1)成長促進(投資環境整備、中小企業・民間セクター振興、経済インフラ整備(運輸交通、電力、情報通信)、成長を支える人材育成、国営企業改革などの経済分野の諸改革)
(2)生活・社会面での改善(教育、保健・医療、農業農村開発/地方開発、都市開発、環境)
(3)制度整備(法制度整備、行政改革(公務員制度改革、財政改革))

2-5.有償資金協力を実施する理由
(1)
(a)社会主義体制を標榜しつつも経済の改革・開放を進めるベトナムの安定的発展の確保(今後のソフトランディングの実現)は地域の平和と安定上不可欠。ASEAN後発国たるベトナムの発展はASEAN内格差是正を通じてASEAN全体の安定化に資する。メコン地域開発においても重要な位置を占める。
(b)また、中国の急速な経済発展、日ASEAN包括的経済連携構想等を背景に、我が国の製造拠点、輸出市場、エネルギー供給拠点としての将来性大。
(c)さらに、ベトナムは開発援助の新戦略の実験場として注目されており、日本にとっても新しい援助手法への取組を進める格好の場を提供。
(2)我が国は、上記(1)の基本的な考え方を踏まえ、2004年4月に改訂された国別援助計画の三つの柱である「成長促進」「生活・社会面での改善」「制度整備」に基づき、円借款供与を検討する。具体的には、「成長促進」においては、経済活動の基盤強化、成長の牽引役である民間セクター及び外国投資の活発化の観点から、引き続き経済インフラ整備(主に運輸・電力セクター)への支援を行うとともに、かかる支援の中で、投資環境整備にもつながる制度・政策改善への支援・提言を行う。また、我が国としてバランスのとれた援助を行うとの観点から、「生活・社会面での改善」についても、無償資金協力・技術協力との役割分担に配慮しつつ引き続き円借款で支援し、「制度整備」についても、ベトナム側の関連分野の動向をみつつ、効果的な支援の方途につき検討する。本案件は、このように三つの柱に有効であると考えられる。

3.案件概要

3-1.目的(アウトプット)
 ハノイの南方105キロメートルに位置する既設ニンビン石炭火力発電所(既設:25メガワット×4基、1976年運転開始)の隣接地へ330メガワットの石炭火力発電所を新設するもの。

3-2.実施内容
 供与限度額:294億2,100万円
 金利:年1.3%
 償還期間(据置期間):30(10)年
 調達条件:一般アンタイド
 借入人:ベトナム社会主義共和国
 実施機関:ベトナム電力公社

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
(1)EIA:2004年10月に天然資源環境省(MONRE)の承認済み。
(2)工事中、供用時の影響につき、モニタリング実施予定。

3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
 人口・産業が集積する北部4省における安定的電力供給を実現し、もって同国の産業競争力強化と民生の向上を図る。また、日越経済関係が強化され、二国間関係の増進、さらには我が国の安全と繁栄の確保に資することになる。

4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用

 要請書、F/S、環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン(http://www.jbic.go.jp/japanese/environ/guide/kankyou/index.php他のサイトヘ)、その他国際協力銀行から提出された資料等。

(注)本件プロジェクトに関する事後評価は実施機関が行う予定。
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