
II.事前評価
政府開発援助(ODA)
(2)有償資金協力案件
イグアス水力発電所建設計画
評価年月日:平成17年12月22日
評価責任者:有償資金協力課長 相星孝一
1.案件名等
1-1.供与国名
パラグアイ共和国
1-2.案件名
「イグアス水力発電所建設計画」
2.有償資金協力の必要性
2-1.二国間関係等
パラグアイは南米大陸の中央部に位置する人口約600万人の内陸国で、主要産業は農林畜産業。ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイとともにメルコスールを構成する。同国においては、長期軍事独裁政権(ストロエスネル政権:1954年-1989年)、その後の不安定な政治情勢を経て、2003年8月、同国史上実質的に初めて公正且つ民主的なプロセスにより選ばれたドゥアルテ大統領率いる現政権が発足した。
かかる不安定な政治情勢への対応や、長い軍事独裁政治の負の遺産である汚職腐敗の一掃、また近隣の大国であるブラジル、アルゼンチンの経済危機の影響を受けたパラグアイ経済の立て直しという困難な諸課題を抱えて国の舵取りを開始した同政権は、発足早々より、漸く同国で緒についた民主化の動きを強化しつつ、政治・経済の諸改革を粘り強く推進。効率的且つ透明性の高い行政・司法システムの導入と馴れ合い政治からの脱却(最高裁判事・内相等不正の疑いのある国の要職者の刷新はその好例)に力を注ぐ傍ら、IMFとのスタンドバイ・クレジット合意に基づき政治・経済改革に積極的に取り組んでいる。
かかる改革推進の姿勢及びこれまでに出された成果は内外の広い支持を得ており、わが国としてもこれを高く評価するところである。また、同国で事実上初の民主的基盤を持つ現政権の改革・発展努力を支援することは、わが国ODA大綱の基本方針の一つである「良い統治(グッド・ガバナンス)に基づく発展途上国の自助努力支援」に沿うものである。特に、イグアス水力発電所建設計画は、本案件を国策の最重要事項の一つに位置付けるドゥアルテ政権に対し強い外交上のインパクトを有する。
わが国は、1919年の外交関係樹立以来、同国とは友好関係を維持している。パラグアイとわが国との関係において特筆されるのが、移住者・日系人の存在である。わが国からパラグアイへの移住は1936年に開始され、現在約7千人が同国に居住。その多くが従事する農業分野を中心に同国社会に大きく貢献してきた。現政権下では駐日大使や三軍総司令官等の要職も日系社会から輩出されている。かかる日系社会に対する高い評価に、わが国経済協力(1976年以降わが国は対パラグアイODAのトップドナー)の実績も相俟って、パラグアイは南米随一の親日国と言われる。国連等国際場裡における協力の諸場面でも、パラグアイはわが国に極めて好意的。国際機関における諸選挙等に際しほぼ一貫してわが国を支持している。
経済関係については、貿易額としては、対日輸出1,780万ドル、対日輸入4,610万ドル(2004年貿易統計値)で、日本からの主な輸入品は自動車、一般機械、タイヤ・チューブ等、日本への輸出品は大豆、胡麻、植物性原材料等となっており、本邦企業の進出も徐々に進んでいる。
2-2.対象国の経済状況
(1)所得水準(一人あたりGNI)は、1,100ドル(2003年:世銀)であり、パラグアイは円借款供与対象国の低所得開発途上国に位置付けられる。
(2)パラグアイは農業国であり、綿花及び大豆の輸出が総輸出額の約40%を占める。2000年以降、ブラジル、アルゼンチンの経済不況の影響を受けパラグアイ経済も低迷した。2003年8月に発足した新政権は、発足早々の2003年12月に喫緊の課題となっていた国際通貨基金(IMF)とのスタンドバイ合意を達成し、同合意に基づき経済改革関連法案を次々に成立させ、外貨準備高の増加、インフレの抑制、税収拡大、財政黒字の達成等の成果を上げている。なお、本年8月、IMF理事会は右協定の第5次レビューを承認。マクロ経済の数値目標に関し何らの問題も見られない点が確認された。
(3)実質経済成長率は近隣諸国の経済危機の影響により2002年に2.3%のマイナス成長となったが、新政権による経済・財政改革の進展や近隣諸国の景気回復から2003年、2004年はそれぞれ2.6%、2.1%となり、IMFの分析では今後も3%台の安定的な成長が見込まれている。
(4)中央政府財政収支(対GDP比)は、2001年の-4.4%から2002年-2.3%、2003年-0.3%、2004年0.2%と改善している。また、公的部門収支(対GDP比)は2001年の-3.3%から2002年-3.1%、2003年0.0%、2004年1.5%と改善している。
(5)DSR(債務返済比率)は2002年10.0%、2003年10.3%、2004年15.4%となっている。公的債務(対GDP比)は2002年49.7%、2003年49.4%、2004年43.3%となり、IMFの分析では今後も減少傾向が続く見込みとなっている(対外公的債務は2002年42.9%、2003年44.9%、2004年39.6%)。また、外貨準備高(輸入月数)は2002年2.9ヶ月、2003年4.3ヶ月、2004年4.5ヶ月となり増加している。こうしたことから、債務負担能力に大きな問題はない。
2-3.対象国の開発ニーズ
パラグアイでは、電力需要の8割以上をイタイプ水力発電所(ブラジルとの共同経営)からの買電で賄っているが、同国がかかる買電支出を抑制した結果、ピーク需要に一部対応しきれず停電が行われる等、電力供給体制の安定性に大きな不安を抱えており、電力セクターの開発ニーズは極めて高い。
このような事情を背景に、同国では「開発基本方針」(2003年-2008年 政権プログラム)に沿って安定的な電力供給を目指しており、電力セクター開発計画(1998年-2007年 電力セクター開発プログラム)で国内の発電設備拡充に高い優先度を付している。
2-4.わが国の基本政策との関係
本案件は、ODA大綱の重点課題である「持続的成長」に一致するものである。わが国は、開発途上国の持続的成長を支援するため、経済活動上重要となる経済社会基盤の整備を重視している。
2-5.パラグアイに対して有償資金協力を実施する理由
パラグアイの電力需要は2004年の最大負荷が1,241メガワットであるが、同国内の発電設備は216メガワットに過ぎず、自国の電力需要の8割以上をイタイプ水力発電所(ブラジルとの共同経営)からの買電で賄っている。この買電単価は電力負荷を基準(キロワット)としているため負荷率が落ちると割高になるほか、ドル建てであるため為替変動の影響を受けやすい状況にある。同国がかかる買電支出を抑制した結果、ピーク需要に一部対応しきれず停電が行われる等、電力供給体制の安定性に大きな不安を抱えている。
本計画の実施によって電力供給体制の安定化、国内発電能力の拡充、イタイプ公団に対する買電支出節約による国際収支の改善等が見込まれる。
また、本計画はパラグアイ国内における電力供給体制の安定化を通じて、南米地域全体の電力供給体制の安定化にも資するとの観点から、IIRSA(南米地域インフラ統合イニシアティブ)の一環として位置づけられている。
以上から本計画を有償資金協力で支援する意義は大きい。
3.案件概要
3-1.目的(アウトプット)
パラグアイ共和国カアグアス県及びアルト・パラナ県においてピーク対応の水力発電所(出力200メガワット)を建設するもの(同国の電力需要は2004年の最大負荷は1,241メガワットであり、同国内の既存の発電設備は216メガワットに過ぎず、自国の電力需要の80%以上をイタイプ水力発電所からの買電で賄っている。本計画により、ピーク需要200メガワット分の買電を節約することが可能となる)。
3-2.実施内容
供与限度額:214億2,000万円
(円借款を供与する対象は、既存のイグアス貯水池を活用した水力発電施設(出力200メガワット)及び同発電所を系統に連結するための送変電施設の建設:(1)水力発電施設建設、(2)送電線敷設、(3)変電所接続、(4)コンサルティングサービス(詳細設計、入札補助、施工監理等))
〔供与条件〕
金利:年0.75%(優先条件)
償還(据置)期間:40(10)年
調達条件:一般アンタイド
〔実施機関〕
国営電力公社(ANDE: Administracion Nacional de Electricidad)
3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
(1)環境社会配慮
EIA承認済。社会環境面で、用地補償の対象面積は約1.6平方キロメートル、住民移転は見込まれていない。なお、本件計画の周辺地域に文化遺産、少数民族は存在しない。実施機関が大気質、水質等につきモニタリングを行う予定。
(2)外部要因リスク
自然災害による工事の遅延等。
3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
パラグアイ共和国カアグアス県及びアルト・パラナ県においてピーク対応の水力発電所を建設することにより、同国における安定的な電力供給の実現(停電リスクの減少等)を図り、もって同国の持続的な経済成長に寄与し、同国との関係緊密化に貢献することが期待される。
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用