
II.事前評価
政府開発援助(ODA)
(2)有償資金協力案件
マラケシュ‐アガディール間高速道路建設計画
評価年月日:平成18年3月31日
評価責任者:有償資金協力課長 相星孝一
1.案件名
1-1.供与国名
モロッコ王国
1-2.案件名
「マラケシュ‐アガディール間高速道路建設計画」(Marrakech-Agadir Motorway Construction Project)」
2.有償資金協力の必要性
2-1.二国間関係等
(1)我が国とモロッコの関係は1956年の外交関係樹立以来、皇室王室間の親交もあり、良好に推移しており、経済・経済協力関係を含め両国関係にとって取り立てて大きな懸案はない。今後は一層の相互理解と交流によって率直な政治対話関係を構築し、経済協力・交流関係の促進を目指す。なお、2006年は、我が国との外交関係樹立50周年の慶節を迎える。
(2)EUとの連合協定が実施段階(2010年までにEUとの自由貿易圏設立を目指す)にあり、国内産業の競争力向上や外資誘致をねらった国内市場整備等が早急な課題となっている。その一環として、我が国からの投資拡大を狙った投資セミナーの開催(2004年6月)のほか、在京モロッコ大使館主催による対モロッコ投資セミナーを開催(2005年7月)したり、日本企業代表者をモロッコに招待する等の誘致活動を活発化し始めている。
(3)また、2004年のシーアイランド・サミットにおいて、G8により中東地域における改革努力を具体的に支援していくとの立場が確認される一方で、モロッコは、人間の能力開発を国の重要課題として取り組んでおり、女性の社会進出などの面において、一定の成果を挙げつつある。人間開発を通じた国の発展は、中東における最優先課題の一つであると同時に、テロとの闘いの重要な処方箋の一つともなることから、こうした課題に取り組んでいるモロッコを支援し成功に導くことは、我が国が中東地域の平和と安定のためになし得る貴重な貢献となる。
(4)また、ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けた世界的な取組が注目を集め、更には、2005年のグレン・イーグルスサミットを受けてアフリカ支援の重要性が再認識される中で、これまで円借款を有効に活用してきているモロッコに対し、引き続き可能な支援を行うことは重要である。更に、同国は、統合欧州市場の後背地であると同時に、我が国の推進する南南協力のアフリカでの拠点でもあることからも、二国間関係をより緊密にしていくことは重要である。
(5)これらを踏まえ、外交手段の一つとして我が国の政府開発援助、特に有償資金協力を有効に活用し、穏健アラブであるモロッコと更に緊密な関係を構築していくことは、我が国とモロッコの双方にとって有益であるのみならず、我が国が対中東外交を進めていく上でも重要・有益かつ欠くべからざるものである。
2-2.対象国の経済状況
(1)モロッコの所得水準(一人当たりGNI)は、1,520ドル(2004年)、1,320ドル(2003年)であり、円借款供与対象国の低所得開発途上国に位置付けられる。
(2)モロッコは基本的に農業国であり、農業を重視し、工業化については漸進的に進めていくという基本政策をとっている。また、自由市場経済を原則として採用している。2005年は、前半の干ばつによる穀物の収穫減、原油価格の高騰及び繊維輸出の低調により、経済成長率は低下する見込みだが、翌年以降は概ね5%台に回復、また、インフレ率は1~2%台と低い水準で推移する見込み。
(3)財政赤字は4~5%台とやや高いが、短期的にはマクロ経済の安定を脅かすレベルではない。しかし、現在の財政拡大政策の継続は中期的には困難。モロッコ政府は、税制改革、公務員給料の抑制、食料補助金システムの撤廃と打撃を受ける層への代替支援、石油価格調整システムの実施などに取り組むとしており、2009年までに財政赤字を対GDP比率の3%まで削減することをコミットしている。
(4)対外債務は、慎重な債務管理政策により、中期的には対GDP比、DSR(債務返済比率)共に低下、債務輸出比率は100%を割る見込みである。また、外貨準備高は十分な水準(輸入月数で10ヶ月程度)が維持される見込みである。
(5)米国と締結した自由貿易協定(FTA)が2005年2月に発効し、さらに将来的にはEUの自由貿易圏に参加することとなっており、世界経済への統合に向けた競争力の強化と経済の多様化に取り組んでいる。
(6)2005年5月にモハメッド6世国王により「人間開発国家イニシアティブ(INDH)」が打ち出され、貧困の撲滅と地域間格差の是正に対し、政府・民間一体となった取り組みが始まっている。
2-3.対象国の開発ニーズ
モロッコでは全国高速道路の年平均日交通量が約5百万台に上り、道路が主要な輸送・移動手段であり、移動時間短縮・走行安全性を目的とした高速道路の需要は高い。更に近年の経済発展に伴い、交通需要が増加しており、自動車保有台数が、2000年から2003年(1.8百万台)にかけて約20万台増加、新規自動車免許取得者数も2000年から2003年(25万人)にかけて約5万人増加している。観光需要も近年増加傾向にあり、同国観光省では、2010年に1千万人の観光客誘致等を目標とする計画を定めており、マラケシュやアガディール等主要観光都市の観光施設の整備を急いでいる。こうした交通及び観光需要の増加への対応に加え、既存国道の改良遅延から交通事故が多発しており、安全面においても高速道路網整備の必要性が高い。更に、今後控えている欧州との市場統合、アフリカとの交易促進及び米国との自由貿易化により物流の活発化も予想されることから、観光振興や貿易促進のための運輸ネットワークとしての高速道路網の拡大・整備が同国の優先課題となっている。
現在同国にはラバトを中心として計612キロメートル(2005年)の高速道路網が存在し、2005年から2010年にかけて年間約150キロメートル、既存部分との合計1,417キロメートルの高速道路網が建設予定である。また、高速道路建設は、2004年までの同国開発計画および現在策定中の「経済・社会開発計画(五ヵ年計画)」(2007年~2011年)においても引き続き重点分野とされる見込みである。
2-4.我が国の基本政策との関係
我が国は、これまでモロッコの主要産業である農業・水産業の開発・振興、農業用水・飲料用水確保のための水資源開発、基礎インフラ整備、都市部と地方部との地域格差是正のための地方開発及び環境分野において、円借款、無償資金協力及び技術協力を実施している。
本案件は、これら重点支援分野のうち、「基礎インフラ整備」に該当する。
2-5.有償資金協力を実施する理由
本案件は、同国高速道路網の南北ルートの終点に位置するものである。本高速道路の完成により、同国の交通需要増加に対応するといった直接的な効果にとどまらず、ジブラルタル海峡を隔てて、ヨーロッパ大陸とモロッコ有数の生産・観光拠点であるマラケシュとアガディールが結合されることにより、観光需要の増加、国内物流のみならず欧州・アフリカ諸国等との交易の促進等の波及効果が期待される。
本案件は、マラケシュ~アガディール間全長234キロメートルの高速道路を建設する大規模なプロジェクトであり、我が国はアルガナ~アムスクルッド間46キロメートル分を担当し、他の区間及び全区間の標識設置等を担当するアフリカ開発銀行、イスラム開発銀行、アラブ経済社会開発基金、及びアラブ経済開発クウェート基金からなる他のドナーと協調しながら支援を行うことになっている。
3.案件の概要
3-1.目的(アウトプット)
下記区間において、片側2車線の高速道路を建設するもの。
- 対象地域名:マラケシュ~アガディール(全長234キロメートル)
第1区間:マラケシュ~シシャワ(84キロメートル)
第2区間:シシャワ~アルガナ(92キロメートル)
第3区間:アルガナ~アムスクルッド(46キロメートル)※本案件対象候補区間
第4区間:アムスクルッド~アガディール(12キロメートル)
3-2.実施内容
一般条件(低所得開発途上国)
供与限度額:17,726百万円
[供与条件]
金利:年1.5%(一般条件/基準)
償還期間(据置期間):30(10)年(一般条件/基準)
調達条件:一般アンタイド
[借入人]
高速道路公団(ADM)
[実施機関]
高速道路公団(ADM)
3-3.環境社会配慮・外部要因リスクなど留意すべき点
(1)EIA(環境影響評価)
EIA作成済み。大気汚染・騒音については、影響は重大ではないと予見されるが、モニタリングにより問題が発見された場合、ADMが適切な緩和策をとることとしている。また、本案件対象地域には、モロッコ固有種であるアルガンが多く植生しているが、ADMは本案件により伐採する面積の2倍の面積分のアルガンを植樹する予定である。
(2)用地取得・住民移転
本案件対象区間では、概算で460ヘクタールの用地取得等を伴い、同国国内手続きに沿って手続きが進められる。
(3)外部要因リスク
特になし。
3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
モロッコの経済・観光の中心都市であるマラケシュとアガディールを高速道路で結ぶことによって、増加する交通需要への対応を図るとともに、国内及び欧州やアフリカ諸国等との交易の促進、観光の振興を通じた同国経済の活性化に寄与することになる。また、道路周辺地域へのアクセス向上により、地域間格差の是正が期待でき、INDHにも適ったプロジェクトであるといえる。
本プロジェクトへの協力を通じ、日・モロッコ経済関係が強化され、二国間関係の増進が期待される。
4.事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
(注)本件プロジェクトに関する事後評価は実施機関が行う予定である。