
II.事前評価
政府開発援助(ODA)
(2)有償資金協力案件
バンガロール・メトロ建設計画
評価年月日:平成18年3月31日
評価責任者:有償資金協力課長 相星孝一
1.案件名等
1-1.供与国名
インド
1-2.案件名
「バンガロール・メトロ建設計画」
2.有償資金協力の必要性
2-1.二国間関係等
世界最大の民主主義国家・資本主義国家であり、かつ、世界の貧困人口の約3分の1を占めるインドの社会及び経済の発展及び安定のために円借款によって支援を行うことは、次のように(イ)日印二国間関係の緊密化、(ロ)日印経済関係での利益増進、(ハ)日本の安全保障環境の改善、(ニ)貧困削減への貢献等による国際社会からの共感・信頼確保といった点において、国際社会の平和と発展、ひいては日本の安全・繁栄の確保というODA大綱の確保に資するものであり、我が国外交政策上の必要性が非常に高い。
(イ)日印二国間関係の緊密化
インドは、国際社会での存在感を高め、日米・ASEAN諸国等と連携してテロとの闘いにも参画している。昨年小泉総理訪印時にマンモハン・シン首相との間で合意した共同声明においても、両国が協力関係を更に強化し、二国間関係の全面において包括的な発展に取り組み、特に経済関係の強化に喫緊の焦点を当てることによって、グローバル・パートナーシップを戦略的に強化することが確認されている。
(ロ)対外経済関係での利益増進
インドは我が国からの投資先・生産拠点・市場としての将来性が期待され、日印経済関係は、日印貿易は2002年以降増加しており、インドへの進出を狙う日本企業も増加している。しかしながら、現在の両国の経済関係は、両国の経済規模を勘案すると十分とは言えず(日本への輸出はインドの輸出総額の2.5%、インドへの輸出は日本の輸出総額の2.8%、日本からインドへのFDIは日本の全FDIの0.5%(2004年度))、今後更に潜在性を実現することが必要である。このため、2005年7月から日印共同研究会(Joint Study Group)を開始し、日印EPA/FTAの可能性を含め、日印経済関係が有する潜在性、補完性を発揮するための具体的方途を採る包括的な協議が行われている。円借款による支援を通じてインドの電力、運輸等のインフラ整備を行い、インドの投資環境を整備することは、日本企業のインド市場進出を含めた日印経済関係の強化、ひいてはグローバル・パートナーシップの強化につながる。
(ハ)日本の安全保障環境の改善
インド沿岸域は我が国シーレーンを確保する上で重要な地域であり、親日的な大国であるインドが南アジアで安定的な発展を確保することは我が国の安定した安全保障環境を維持するためにも重要である。
(ニ)貧困削減への貢献等による国際社会からの共感・信頼確保
我が国がその経済規模と国際的地位に見合った形で世界最大の貧困層を有するインドの貧困削減に貢献し、ひいてはMDGs(ミレニアム開発目標)達成に寄与することは、インドのみならず広く国際社会からの共感と信頼確保にも資する。
2-2.対象国の経済状況
インドの一人当たりGNIは620ドルであり、円借款供与対象国区分のうち、貧困開発途上国として位置付けられる。人口は11億人、GDPは6,910.9億ドル、経済成長率は6.9%を達成している(2004年(世銀資料))。外貨準備高は1993年度末の193億ドルから2004年度末の1,409億ドルと順調に増加している(印側資料)。経常収支は、2001年度以来黒字を記録していたが、2004年度には石油価格の上昇に伴う石油輸入額の増加及び非石油輸入の需要増加等により、赤字となった。長期債務残高は、1,117億ドル、対GDP比17.8%、債務支払対輸出比率(DSR)は16.2%である(2003年度末:印側資料)。
2005年度は、不安定なモンスーン、原油価格の高騰、津波による被害等があったものの、農業生産高への影響は見られず、産業部門では製造業の成長(9.0%、2005年4~10月)、サービス部門の成長(10%、2005年度第一四半期)等により、経済成長率は7.6%と見込まれている(IMF)。IMFは、ここ3年間のインド経済成長(7-8%程度)を1990年代初頭に着手された経済改革の成果と評価し、今後5年間の経済成長率が6.5%以上を持続すると予想している。こうした好調な経済状況を背景に、IMFは今後の対外債務持続性に係る各種指標が以下のとおり改善すると見込んでいる。
- 対外債務対GDP比:2005年度17.9% → 2010年度15.3%
- 対外債務対輸出比:2005年度78.8% → 2010年度45.6%
- DSR:2005年度 6.9% → 2010年度 4.0%
2-3.対象国の開発ニーズ
インド南部カルナタカ州の州都バンガロール市は、インドにおけるIT、電子機器、機械部品等の産業拠点として急速な成長を遂げ、バンガロール市への人口と産業の集中が進んでいる(人口 300万人(1981年)→570万人(2001年))。一方、バンガロール市内の交通手段は、バス又は車であり(人の移動の49%がバス、51%が車(2003年))、バス・車・オートリキシャー等の登録台数も急増している(33万台(1986年)→256万台(2004年))なかで、既存の鉄道(国鉄)は都市間の長距離輸送のみを行っていることから、市内道路は交通渋滞を来たしている(車の旅行速度は平均時速10~12キロメートル)。今後、人の移動回数は2011年には2003年の約4割増となることが予想されており、交通渋滞及びこれによって引き起こされる自動車公害の深刻化が懸念される。
2-4.我が国の基本政策との関係
インドの人口の約3割が貧困状態にあること、電力、運輸等の経済インフラが依然として絶対的に不足していること等の開発ニーズを踏まえて、我が国は、円借款による支援において、「電力・運輸等を中心としたインフラ整備」、「農業・農村開発を始めとする貧困対策」及び「植林、水質改善等の環境対策」を「重点分野」として掲げ、これらの重点分野を支援する上では、日印経済の増進に資するための投資環境整備の視点が重要であるとしてきた。
現在策定中の国別援助計画(案)においても、今後の対インドODAの重点目標として、(イ)インドの約3割を占める貧困人口を削減することは、MDGsを達成する上で極めて重要な課題であると認識した上で、経済成長を通じた貧困削減を追及するため、最大のボトルネックの一つとしてインフラの整備を掲げている。この場合、インドの莫大なニーズにかんがみ、我が国によるインフラ整備の支援は、その他のインフラ整備事業のモデル的事業となり得るような、また、我が国が有する優れた技術、知見、人材及び制度を活用するような、大きな外部経済効果が見込まれるものとし、中長期的な視点から、インドの投資環境整備を通じて民間投資主導の経済成長に資するインフラ整備を支援することとしている(「経済成長の促進」)。
また、同計画(案)は、(ロ)インドの経済成長が社会的弱者に十分配慮し、その利益を貧困層にまで及ばせるため、(ロ-1)保健・衛生分野、地方開発、防災、雇用創出に資する観光開発の分野等への支援を通じた貧困問題の解決や、(ロ-2)上下水道、森林、再生可能・省エネルギー、都市環境の改善、河川・湖沼の環境保全への支援を通じた環境問題への対処を重点目標としている(「貧困・環境問題の改善」)。
さらに、同計画(案)は、(ハ)人材育成・交流拡大を重点目標として掲げている。
なお、インドが1998年5月に行った核実験に対して我が国は「経済措置」を採っていたが、核実験モラトリアムの継続等を踏まえて2001年10月に同措置を停止している。
2-5.インドに対して有償資金協力を実施する理由
本計画は、上記2-3.に示すとおり開発ニーズが高く、対インドODAの重点目標である上記2-4.(イ)及び(ロ)に該当し、経済成長の促進と貧困・環境問題の改善に有効であると考えられる。
3.案件概要
3-1.目的(アウトプット)
カルナタカ州バンガロールにおいて、地下鉄及び地上・高架によるバンガロール・メトロ(約33キロメートル)を建設する。
3-2.実施内容
供与限度額:447億400万円
金利:年1.3%
償還(据置)期間:30(10)年
調達条件:国際・国内競争入札
実施機関:バンガロール交通公社
3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
(1)EIA(環境影響評価):実施済み
(2)用地取得:用地取得が必要な土地は、約85.92ヘクタールであり、2006年3月中に取得する見込み。
住民移転:移転が必要な住居は313戸であり、2006年12月中に移転する見込み。
(3)外部要因リスク:交通需要の変化
3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
本計画を通じ、産業の活性化、都市環境の改善等が期待される。また、日印経済関係が強化され、二国間関係の増進、さらには我が国の安全と繁栄の確保に資することになる。
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用
(注)本プロジェクトに関する事後評価は、実施機関が行う予定。