省庁共通公開情報

II.事前評価

政府開発援助(ODA)

(2)有償資金協力案件

第二バンコク国際空港建設事業(VII)

評価年月日:平成17年5月10日
評価責任者:有償資金協力課長 相星孝一

1.案件名

1-1.供与国名
 タイ王国
1-2.案件名
 第二バンコク国際空港建設事業(VII)

2.有償資金協力の必要性

2-1.二国間関係等
(1)緊密で友好協力的な二国間関係
 タイとの間では伝統的に政治・経済・文化等の各分野において緊密な友好協力関係が維持されている。特に民間経済交流は極めて深く、タイにとって日本は第2の輸出先(2003年のタイの輸出の14.2%)かつ最大の輸入相手国(2003年のタイの輸入の24.1%)であり、輸出入を合わせた貿易額では最大の相手国(2003年のタイの貿易額の19.0%)である(Bank of Thailandホームページより)。
 投資においても、在バンコクの日本人商工会議所の加盟企業数は1200社を超え、日本の対タイ直接投資は対タイ外国直接投資総額の約40%を占める。また、タイは対外民間債務の約半分を邦銀から借り入れるなど、両国の経済は緊密な相互依存関係を形成している。現在、緊密な経済関係を更に強固なものにすべく、日タイ経済連携協定(JTEPA)の締結に向け、2003年12月の両首脳による正式交渉開始の合意を受けて政府間交渉が行われており、今後も両国間の経済関係は更に深化することが期待される。
(2)タイの戦略的重要性
 タイは、人口約6,200万人、GNI1,233億ドル、1人当たりGNI2,000ドルであり、ASEAN諸国中第2位の経済規模を誇る地域の経済大国である(世銀「World Development Indicators」)。
 政治的には、タイは、1980年代以降、国内の政治的安定性を背景にASEAN内でイニシアティブを発揮しており、特に、近隣諸国との格差是正という観点から、経済協力戦略会議(ACMECS: イラワジ-チャオプラヤー-メコン経済協力戦略会議)に積極的に取り組んでおり、我が国の重視するメコン地域開発と協調・連携していくことが想定される。また、アジア諸国の潜在力を引き出し、域内の競争力を強化することにより、アジアの発言力を高めていくとの観点から、アジア協力対話(ACD: Asia Cooperation Dialogue)を推進しており、2002年6月及び2003年6月にタイにおいてACD会合が開催された。南アジアとの関係においても、従来経済関係の比較的弱かった東南アジア及び南アジアとの間で、貿易・投資・技術協力等の分野におけるサブリージョナルな協力を推進するためのベンガル湾多分野技術経済協力構想(BIMSTEC: Bangladesh-India -Myanmar-Sri Lanka-Thailand Economic Cooperation)を主導し、協力関係を強めている。更には、対アフリカ協力の基本戦略策定を予定するなど、アフリカ協力にも強い関心を示してきている。
 このように、タイは東南アジア地域において大きな政治的・経済的影響力を有するとともに国際社会においても一定の役割を果たしてきており、今後共通の課題に「パートナー」として取り組む上でも、我が国の対東南アジア外交にとって極めて重要な国となっている。

2-2.対象国の経済状況
(1)経済成長に伴う「歪み」の是正
(イ)タイ経済は大きな成長を遂げており、現在の1人当たりのGNI(2,190ドル:2003年)はASEAN諸国の中ではシンガポール、ブルネイ、マレーシアに次ぐ水準に達している。
(ロ)2001年には、米国経済の減速、米国テロ事件の影響、日本経済の先行き不透明感、金融セクター再建の遅れ等から経済成長は鈍化し、経済成長率は2.2%となったが、タクシン政権のボトムアップ政策の奏功と見られる個人消費の活性化等により経済の回復傾向が見られ、2002年には5.3%の成長を記録した。2003年は一時SARSの影響があり、経済成長が観光業等を中心に鈍化したが、6.9%の成長を果たしている(Bank of Thailandホームページより)。
(ハ)一方、成長に伴い、所得格差・地域間格差の拡大や都市・環境問題の深刻化といった問題も生じている。このような成長に伴う「歪み」の問題はタイ国内で強く認識されるようになっており、第9次国家経済社会開発計画(2002年~2006年)においても、プーミポン国王の提唱する「足るを知る経済」を基本哲学として採用し、貧困削減、所得分配が経済回復の加速化とともに重点分野としてあげられている。さらに、タクシン政権は低所得層・農民を支援する農民債務モラトリアム、農村基金、一村一品運動等の政策を実施に移してきている。
(2)タイの債務返済能力
 2003年のタイの対外債務残高は約517億ドル(対前年比約78億ドル減)であり、GDPに対する比率は1999年の77.6%から2003年の36.2%まで低下した。また、DSR(債務返済比率)は2001年の21.1%から2003年には16.1%に減少している。(IMF「4条協議」)
 また、タイは、対外借入計画を毎年度閣議決定し(2005年度の対外借入上限は約10億ドル)、同計画に基づいた厳格な債務管理を行っている。これは、財政状況、開発上の必要性、プロジェクトの準備状況を勘案し、中長期のDSRを一定範囲内にすべく毎年の借入限度額を設定しているものである。なお、過去においてタイが円借款の返済について、繰延が必要となったり延滞を引き起こしたりしたことはない。以上にかんがみ、タイは十分な債務返済能力を有していると考えられる。

2-3.対象国の開発ニーズ
 タイは、堅調な経済成長を背景に、これまでの経済インフラ基盤の拡張整備・高度化を図りつつあるとともに、次第に地域における経済・社会開発の機関車的役割を担いつつある。加えて、援助ニーズも従来のベーシック・ヒューマン・ニーズ(BHN)的なものから次第に高度なソフト的分野や地域協力・南南協力の重視等に移行しつつあり、経済・技術協力の実施に際しては共同で業務に取り組もうとするパートナーシップが強調されるに至っている。なかでも、2003年11月にタクシン首相によって提唱された地域経済協力戦略(ACMECS)は、タイと直接国境を接するカンボジア、ラオス、ミャンマー3ヶ国及びベトナムとの経済格差の是正を主要な目標としており、その中では、運輸インフラの整備、人と物の移動の自由化を積極的に図ること等が重要な開発課題とされている。

2-4.わが国の基本政策との関係
 対タイ国別援助計画では、5分野((i)社会セクター、(ii)環境保全、(iii)地方・農村開発、(iv)経済基盤整備、(v)地域協力支援)を重点分野として位置付け、さらに、各分野における人材育成を強化していくこととしている。「第2バンコク国際空港建設計画(VII)」は上記の経済基盤整備に資するものである。

2-5.タイに対して有償資金協力を実施する理由
(1)タイ経済の回復傾向及び好調さを確実なものとするため中・長期的な支援を行っていく必要がある。そのためには、成長に伴う歪みや成長の阻害要因の解消のためのタイ側の自助努力を支援していくことが適切であり、経済基盤整備等に有償資金協力を活用していくことが重要である。
(2)近年のタイの経済発展を反映して、バンコクの航空需要は堅調に推移(年間旅客数(2003年):3,018万人)。今後も、東南アジアにおける国際ハブ空港としての役割の増大から旅客数の増加が予想されており、タイ空港公社(AOT)は2010年の旅客数は5,000万人を超えると予測している(既存のドンムアン国際空港の年間対応旅客数は3,600万人程度であり、立地条件上拡張工事にも限界がある。
(3)本事業は、増大するタイの航空需要を満たし円滑な輸送を確保するために、バンコク地区に新空港を建設するものである。空港セクターのインフラ整備は通貨危機後も第9次国家経済社会開発計画(2002年~2006年)の中で「国家の競争力強化に対する戦略」の一つとして位置付けられており、本事業はタイの中長期的な開発に資するものである。

3.案件概要

3-1.目的(アウトプット)
 バンコク都心部から東方約30キロメートルに位置するノングーハオ(サムットプラカン県)に、第2バンコク国際空港を建設する事業。

3-2.実施内容
 供与限度額:354億5,300万円
 金利:年0.9%
 償還期間(据置期間):15(5)年
 調達条件:一般アンタイド
 借入人:新バンコク国際空港公社(NBIA)(タイ王国政府保証)
 実施機関:新バンコク国際空港公社(NBIA)

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
 本事業スコープに関するEIA及び事業スコープ変更に伴う追加EIAの承認を取得済。タイの航空需要の伸び悩み、同等の空港が周辺国に新たに建設されるおそれ等の外部要因リスクが考えられるが、現時点においてこれらの問題は認められない。

3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
 空港セクターのインフラ整備を行うことで増大する航空需要を満たし、円滑な輸送の確保がなされ、タイの中長期的な経済発展に貢献する。また、本事業への協力を通じ、日・タイ間の経済関係が強化され、二国間関係が増進されることとなる。

4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用

 要請書、国際協力銀行から提出された資料等(環境社会配慮に関する情報は http://www.jbic.go.jp/japanese/environ/joho/project.php他のサイトヘを参照。)。
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