
II.事前評価
政府開発援助(ODA)
(1)無償資金協力案件
ベイラ港浚渫能力増強計画
評価年月日:平成17年4月22日
評価責任者:無償資金協力課長 鈴木秀生
1.案件名
1-1.供与国名
モザンビーク共和国
1-2.案件名
「ベイラ港浚渫能力増強計画」
2.無償資金協力の必要性
2-1.二国間関係
我が国は、モザンビークを1975年の独立と共に承認。1977年に外交関係が開設された。1993年5月~1995年1月にかけて国連モザンビーク活動(ONUMOZ)に要員を派遣していたこともあり、1998年10月には東京で開催された第2回アフリカ開発会議(TICAD II)にチサノ大統領(当時)が出席するため訪日して以来、活発な要人往来が行われている。貿易においては、モザンビークの対日輸出の約9割がエビであり、同国の大きな外貨獲得源となっている。
1994年のチサノ政権発足以降、基本的には野党とも協調した議会運営がなされ、政情も安定している。2003年7月から1年間チサノ大統領(当時)がAU議長を務めた他、ブルンジ内戦後の平和維持活動にも治安部隊として参加するなど外交面にも力を入れており、南部アフリカ地域の安定に貢献している。2005年2月にはゲブーザ新大統領が就任した。
我が国は、モザンビークの和平プロセスと民主化を積極的に支援している。1972年から2003年までの我が国無償資金協力の支援累計は約692.96億円であり、2002年のODA実績はドナー国中第5位である。
2-2.対象国の経済状況
(1)所得水準(1人当たりGNI)は、210ドル(2002年)。
(2)モザンビーク政府は、貧困削減戦略として「絶対貧困削減行動計画」(2001年-2005年)を策定した。同計画においては、人口の約70%が絶対的貧困という現状を2005年までに総人口の60%以下、2010年までに50%以下にまで削減することを目標としている。重点分野は、教育、保健、農業及び農村開発、基礎インフラ、グッド・ガバナンス、マクロ経済及び公共財政管理の6分野である。
(3)モザンビークは、肥沃な土地に恵まれた農業国であり、漁業を含む第1次産業が国内総生産の3分の1を占める。輸出用換金作物(カシューナッツ、綿花、砂糖等)の生産が多いのが特徴である。また、豊かな水資源、鉱物・エネルギー資源を有していること、また、インド洋に面した長い海岸線にはベイラ、マプト、ナカラ、ケリマネなどの良港を有し、ジンバブエ、マラウイ等周辺内陸国の海洋への出口になっていることから、南部アフリカにおける重要性は高く、潜在的に発展の可能性も大きい。
(4)モザンビークの経済は、国内和平の実現、民主的な選挙を通じた内政の安定、更には1995年以降の良好な天候による農作物の収穫等により、1990年代半ばには、年10%程度の成長を遂げていたが、2000年、2001年と連続した洪水災害により、2000年度推計で、2.1%まで落ち込んだ(国立統計院)。しかし、2001年後半、復興のためのインフラ修復事業や、好調な外国直接投資を背景に、2001年は13.9%、2002年は7.7%の高成長を達成した。
2-3.対象国の開発ニーズ
(1)ベイラ港は、モザンビークの中部に位置し、南部のマプト、北部のナカラ港と並んでモザンビークにおける重要な港の一つである。また、その地理的な位置からジンバブエ、マラウイ、ザンビア等の内陸諸国のインド洋への玄関口となっており、特に、ザンビア~ジンバブエ~ベイラを結ぶベイラ回廊は、南部アフリカ地域の最も重要な国際ルートの一つである。一方、同港は、土砂の堆積が非常に多く、船の航路の維持のため、常時浚渫が必要となっている。
(2)このため、モザンビーク公社は、わが国の無償資金協力によって調達した浚渫船(平成10年-平成11年)により、浚渫作業を行い、航路の維持に努めてきた。しかし、最近、入港する船舶の大型化が進み、出入港時の喫水が在来船より深くなったことに加えて、航路に砂礫が多く含まれるようになり既存の浚渫船では十分な浚渫作業が行えない状況にあることから、入出港船舶の待ち時間や座礁の増加、大型船の入港の制限等が問題となっている。
(3)このような状況のもと、モザンビーク政府は、ベイラ港について、現在の大型船の入港に対応するため、出入港時の航路を変更し水深8メートルを維持する計画を策定したが、その実施のためにはベイラ港で稼働する浚渫船の能力を増強することが必要であることから、我が国政府に対し無償資金協力を要請してきたものである。
2-4.我が国の基本政策との関係
我が国は対アフリカ支援の3本柱の1つとして、「経済成長を通じた貧困削減」を掲げている。また、「絶対貧困削減行動計画」(2001年-2005年)において「基礎インフラ」を重点分野の一つとして規定しており、本案件は我が国の対アフリカ支援、対モザンビーク支援の基本政策に合致している。
2-5.無償資金協力を実施する理由
モザンビークは後発開発途上国であり、本案件の実施についてモザンビーク政府から高い優先順位を付して要請が行われている。大型船の入港制限等によりベイラ港が十分に機能していないことは、モザンビークにおける流通が停滞し、同国経済の発展の足かせとなっており、本案件を実施する効果は大きい。
3.案件概要
3-1.目的
モザンビークにおける重要な港の一つであるともに、その地理的な位置からジンバブエ、マラウイ、ザンビア等の内陸諸国のインド洋への玄関口となっているベイラ港は、出入港時の航路の水深において、近年の船舶の大型化に対応していないことから、入出港船舶の待ち時間や座礁の増加、大型船の入港の制限等が問題となっている。このような状況を改善するため、ベイラ港の出入航路の水深を8メートルに維持する必要があることから、同港で稼働する浚渫船の能力を増強し、ベイラ港における船舶の出入港の状況の改善を目的としている。
3-2.案件内容
供与限度額は、21億6,600万円(国庫債務負担行為案件。平成17年度:5億7,200万円、平成18年度:10億6,300万円、平成19年度:5億3,100万円)。ベイラ港の浚渫作業のために浚渫船1隻(ホッパー容量1000立方メートル、全長70メートル、全幅14メートル)の調達。
3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
次の事項がモザンビーク政府によって確保される必要がある。
(1)調達された浚渫船の維持管理が継続的に行われること。
(2)浚渫作業に係る人員、予算および体制が確保されること。
(3)維持管理の必要経費を確保すること。
3-4.無償資金協力の成果の目標(アウトカム)
(1)浚渫船の増強により、大型船舶の出入港時に必要な水深8メートルの維持が可能となり、船舶の出入港時間(潮待ち時間)が短縮され、座礁などが減少する。
(2)ベイラ港に寄港する船舶の大型化、船舶数及び取扱貨物の増加により、モザンビークの物流及び経済の活性化をもたらすことが期待される。
(3)ベイラ港は、南部アフリカの重要路線の一つであるベイラ回廊の玄関口であることから、同回廊の物流が増大し、ジンバブエ、マラウイ、ザンビア等の内陸諸国の活性化が期待される。
(4)上記の貢献によって、二国間関係が増進される。
4.事前評価に用いた資料、有識者の知見等
(1)先方政府からの要請書
(2)JICA基本設計調査報告書
(3)第19回無償資金協力適正会議にて検討