
II.事前評価
政府開発援助(ODA)
(1)無償資金協力案件
環境監視システム整備計画
評価年月日:平成17年7月20日
評価責任者:無償資金協力課長 鈴木 秀生
1.案件名
1-1.被供与国名
パキスタン・イスラム共和国
1-2.案件名
「環境監視システム整備計画」
2.無償資金協力の必要性
2-1.二国間関係
(1)我が国とパキスタンは、1952年の国交樹立以降、政治・経済・文化など様々な分野において、積極的に人物交流を展開してきており、両国の関係は1998年の核実験時以外、極めて良好である。
(2)同国は、2001年の9.11以降、テロとの闘い及び「穏健かつ近代的イスラム国家」建設を目指した努力を行っている。
(3)我が国としてもこうしたパキスタンの努力を支えるべく積極的な支援を行ってきている。本年4月の小泉総理の訪「パ」の際には、我が国が引き続き経済協力を通じた支援を行うこと及び円借款の再開を発表した。
2-2.対象国の経済状況
(1)所得水準(一人当たりGNI)は、652ドル(2003年/2004年パキスタン経済白書)。
(2)1990年代後半、財政の破綻、輸出の停滞等により、財政赤字と経常赤字が深刻化するとともに対内・対外債務が激増したが、1999年のムシャラフ政権の発足以降、税収増加と慎重な支出管理により財政赤字の大幅な低減(2003年GDP比4.5%)に成功しているほか、貿易収支の改善、移転収支の増加等により、経常収支も黒字に転換した。
(3)外貨準備高の急増(2004年4月末現在約125億ドル超(輸入の約11か月分相当))に、財務省債務局の設置、財政安定化と公的債務削減を義務付けた財政責任・債務管理令の制定、高利子対外債務の期限前償還等の債務管理能力強化のための努力があいまって、累積債務残高及び債務管理能力は急速に持続可能なレベルに改善している。これら財政構造の改善に伴う開発予算の増加にもかかわらず、依然として貧困率は高く、継続して貧困削減のための取り組みが必要な状況にある。
2-3.対象国の開発ニーズ
(1)パキスタンにおいては、自動車の排ガスや工場からの汚染物質により大量の浮遊粒子物質を含む排ガスの放出が問題となっているとともに、下水排水の放出による水質汚濁が深刻化していることから、国民の健康被害が懸念されている。このため、パキスタン政府は従来より「国家環境行動計画支援プログラム」等を通じて環境対策を行っているところであるが、近年の急速な都市化に伴い大気汚染・水質汚濁は深刻な状況となっていることから、「国家環境政策2005年-2015年」および「中期発展フレームワーク2005年-2015年」を発表しより重点的に環境改善に取り組む予定としている。
(2)パキスタン政府は、従来より連邦環境保護局及び各州政府に所属する環境保護局を通じて大気汚染状況、水質汚濁状況等の環境モニタリングを行って来ているところであるが、所有するモニタリング用機材の数、能力不足を始めとした実施体制の未整備により、全国的かつ定時的な環境モニタリングが行われておらず、有効な環境対策を行うために必要な分析も行えない状況にある。
(3)このような状況を受けて、パキスタン政府は、パキスタンの環境対策の基盤となる環境監視網を整備するとともに、観測された汚染状況データを科学的に分析する中央環境分析ラボラトリーセンターを設立することによって、環境汚染の現状把握・分析、環境基準の整備、効果的な環境対策を推進させる計画を策定し、我が国の無償資金協力を要請してきたものである。
2-4.我が国の基本政策との関係
対パキスタン国別援助計画では、(1)社会セクター、(2)農業/灌漑、(3)投資/産業、(4)経済インフラ、(5)総合的地域開発を重点分野としているが、本計画は、上記(1)のうちの一項目である「環境衛生の整備改善」に合致している。
2-5.無償資金協力を実施する理由
パキスタンは、高い人口増加率、低い識字率、失業の増大、エネルギーの不足等困難な経済社会問題に直面しながら積極的に国内開発・貧困削減に取り組んでおり、無償資金協力の必要性が高い。
3.案件概要
3-1.目的
本計画は、大気汚染・水質汚濁測定により得られる環境データが適切に分析されることにより、パキスタンの現状にあった環境基準が策定されるとともに効果的な環境対策がとられることを目的としている。
3-2.案件内容
供与限度額は12億3,800万円。中央環境分析ラボラトリーセンターの建設、固定環境大気測定局(7局)、移動式環境大気測定局(3局)、データ処理・管理システム(5台)の調達を行うもの。
3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
以下の事項がパキスタン政府により実施される必要がある。
- 本計画により整備される施設・機材の維持管理を適切かつ継続的に実施すること
- 活動に必要な運営経費(人件費、事務費等)について必要な予算措置を行うこと
3-4.無償資金協力の成果の目標(アウトカム)
(1)大気汚染・水質汚濁測定が実施されることにより、パキスタンの環境の実態が把握できる。
(2)測定された環境データが分析されることにより、パキスタンの現状にあった環境基準が策定され、効果的な環境対策が採られる。
(3)本件の実施でパキスタンの環境が改善されることにより、我が国とパキスタンとの友好的な二国間関係を増進させる。
4.事前評価に用いた資料、有識者の知見等
(1)先方政府からの要請書。
(2)JICAの基本設計調査報告書。(JICAを通じて入手可能)。
(3)無償資金協力実施適正会議(同会議の概要については外務省のODAホームページ参照。