省庁共通公開情報

II.事前評価

政府開発援助(ODA)

(1)無償資金協力案件

ヨルダン渓谷北・中部給水網改善・拡張計画

評価年月日:平成17年4月22日
評価責任者:無償資金協力課長 鈴木秀生

1.案件名

1-1.供与国名
 ヨルダン・ハシェミット王国
1-2.案件名
 「ヨルダン渓谷北・中部給水網改善・拡張計画」

2.無償資金協力の必要性

2-1.二国間関係
(1)1954年国交樹立。皇室・王室のつながりもあり、極めて友好的な二国間関係を維持してきた。中東和平プロセスの中での多国間協議における両国の協力、活発な要人往来等もあり、二国間関係は、近年、順調な発展を続けている。
(2)1991年6月には、立憲君主国家として民主化を目指すことを謳った国民憲章が採択され、翌年8月には、1967年以来続いた戒厳令が撤廃。1993年11月に行われた1956年以来初めての複数政党制下の総選挙では穏健中道派が多数派を占めた。1999年2月、1953年以来ヨルダンを治めたフセイン国王が逝去、アブドッラー皇太子が国王に即位した。新国王は、国民の生活レベル向上を最優先課題と位置づけ、自ら経済政策の決定過程に深く関与し、行財政、教育、メディア、司法等の各方面での改革を推進してきている。2001年に見送られた下院選挙は2003年6月に実施され、政党政治の確立に向けた政治改革も着手されつつある。
(3)我が国は、アブドッラー国王の国賓訪日時(1999年12月)に、3年間(1999年?2001年)で総額4億ドルの経済支援パッケージを表明した。また、イラク攻撃開始直後の2003年3月23日、我が国は、ヨルダンの中東地域における安定勢力としての重要な地位に鑑み、多大な経済的影響を受けることが見込まれる同国に対し1億ドルの無償資金援助(60億円のノン・プロジェクト無償及び約60億円の一般プロジェクト無償等)の実施を表明した。ヨルダンは、1997年度より無償適格水準を超えているが、中東地域の安定化を図る観点から引き続き支援を行っている。1993年度から2004年度までの無償支援実績は約494億円。
(4)日・ヨルダン間では、ハイレベルにおける交流が盛んに行われている。アブドッラー国王は過去6回の訪日歴を有する親日家である。
 2003年4月には、川口外務大臣がヨルダンを訪問し、ファイサル王子(摂政)及びアブ・ラーギブ首相と中東和平問題及びイラク問題を中心に会談を行った。2003年12月には、逢沢副大臣が総理特使としてヨルダンを訪問。アブドッラー国王(ムアッシャル外相同席)との会談では、二国間関係、イラク復興支援や中東和平について意見交換を行った。イラク邦人人質事件に際しては、現地緊急対策本部をヨルダンに設置し、ヨルダンからの協力を得た。
 2004年には外交関係樹立50周年を迎え、良好に推移した両国関係を一層発展させるため、文化・広報等の分野にかかる記念事業が行われた。

2-2.対象国の経済状況
(1)所得水準(一人当たりGNI)は、1,850ドル(2003年)。
(2)2003年12月に、2004年から2006年までの「新社会開発計画」を発表。これは、2002年6月から2004年6月までの予定で行われているIMFの経済構造調整計画が終わりに近づいたことを受けて明らかにされたものであり、人材開発、行政サービスの改善、貧困・失業対策の軽減のための行政管理の向上、行政・財政・司法の構造改革に焦点を当てたものとなっている。
(3)2000年9月よりのイスラエル・パレスチナ間の衝突の影響並びに2001年9月11日の米国における連続テロ事件、更にはイラク戦争の影響を受け、ヨルダンの基幹産業である観光業やパレスチナ自治区との貿易が伸び悩んでいる。また、ヨルダン経済はイラク市場に大きく依存(特に石油輸入に関しては全面的にイラクに依存)していたところ、イラク戦争のヨルダン経済に及ぼした影響は大きい。
(4)ヨルダンは、非産油国であり、めぼしい外貨獲得手段のない脆弱な経済構造であるため、恒常的な国際収支の赤字が続いている。この結果、対外累積債務は74.7億ドル(2002年、GDP比80.4%)に達している。実質GDP成長率は3.3%(2003年)。主要産業は鉱工業(燐鉱石、化学工業、衣料品、医薬品)、農業(野菜、果物)。総貿易額は輸出30.9億ドル、輸入57.5億ドル(2003年)。失業率は15.0%(2003年)。

2-3.対象国の開発ニーズ
(1)ヨルダンの地勢は大別して、西部の南北に走る山岳地帯と東部の平坦な砂漠地帯に分かれ、国土の80%以上が砂漠または荒地である。本計画対象地域であるヨルダン渓谷は、山岳部の西部に位置し、その底部をヨルダン川が流れ、流域は肥沃な農業地帯になっている。一方で同地域における失業率は極めて高く、同国における最貧困地域とされている。
(2)ヨルダンにおける年間平均降雨量は山岳部で400ミリメートル、本計画対象地域を含むヨルダン渓谷部は200ミリメートル、また砂漠部では降雨は雨季に限られる。このように利用可能な水資源が絶対的に不足する中、本計画対象地域においては、25年以上前に敷設されたアスベスト管を含む配水管網の老朽化により、50%を越える不明水が発生している。また、アスベスト管については健康面への影響も問題視されており、早急な交換が求められている。さらに、水源である深井戸についても、揚水量が限られる中、ブースターポンプ及び配水池の老朽化、容量の不足による非効率な供給が行われ、機材・施設の改修及び拡張による効率化が必要とされている。
(3)このような状況を踏まえ、計画省が策定した「新社会経済開発計画」においても、水供給は最重要課題に位置づけられているほか、ヨルダン水灌漑省は2002年に「水分野開発・投資計画(2002年-2011年)」を策定し、配水管のリハビリ事業を最重要分野としている。我が国はヨルダンの水供給分野を重点分野とし、これまでにもザルカ市を含む首都圏での給水分野における無償資金協力を実施しているほか、不明水対策の技術協力も行っており、こうした経緯をふまえヨルダン政府は我が国に対し無償資金協力を要請してきたものである。

2-4.我が国の基本政策との関係
 1996年に実施した経済協力総合調査及びその後の政策対話を踏まえ、(1)基礎生活の向上(水供給、食糧、基礎的保健・医療、基礎教育)、(2)産業振興(輸出産業発展を目的とした人的協力及び資金協力、観光及び中継貿易のためのインフラ整備)、(3)環境保全を重点分野としてきたが、2003年にヨルダン計画省と現地ODAタスクフォースとの間で実施された政策協議では、特に水資源管理、家族計画及び環境保全を重視していくことが合意されている。本案件は我が国の対ヨルダン支援の基本政策に合致している。

2-5.無償資金協力を実施する理由
 ヨルダンは深刻な水供給問題を抱える低中所得国であり、本案件の実施につき、同国政府より高い優先順位を付して要請がなされている。本案件の実施により、ヨルダンの希少な水資源の効率活用が可能になり、同国貧困地域での生活環境の改善が図られる。

3.案件概要

3-1.目的
 本計画は、ヨルダン国内の最貧困地域であるヨルダン渓谷北・中部地域の上水道施設を改善することで、(1)一人あたりの給水量の増量(114リットル/人/日から129リットル/人/日へ)を通じ、地域住民(対象区域の人口は約10万人)の生活環境が改善すること、(2)対象地域の送配水システムが適正に運営維持管理され、ヨルダンの希少な水資源の効率活用を可能することを目的としている。

3-2.案件内容
 本計画の供与限度額は20億1,100万円(国庫債務負担行為。平成17年度 2億6900万円、平成18年度 9億3100万円、平成19年度 8億1100万円)。
 ヨルダン渓谷北・中部地区における配水本管・送水管の建設、配水枝管の調達、ポンプ場の改修、配水地の拡張及び流量管理システムの構築を行う。

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
 次の事項がヨルダン政府によって確保されること。
(1)ヨルダン側の負担部分の予算の確保・工事の進捗
(2)ヨルダン側上水道運営組織の財政体質の改善
(3)完成後の維持管理のための人員及び予算の確保

3-4.無償資金協力の成果の目標(アウトカム)
(1)対象区域における上水道施設が改善され、一人あたりの給水量の増量(114リットル/人/日から129リットル/人/日へ)を通じ、地域住民(対象区域の人口は約10万人)の生活環境が改善される。
(2)送配水システムが適正に運営維持管理され、ヨルダンの希少な水資源の効率活用が可能になる。
(3)アスベスト管が使用されなくなることから、住民の健康への不安が解消する。
(4)本件の実施でヨルダン国民の民生環境が向上することにより、我が国とヨルダンとの友好的な二国間関係を増進させる。

4.事前評価に用いた資料等及び有識者等の知見の活用

(1)先方政府からの要請書。
(2)平成11年度~平成17年度派遣の長期専門家(無収水対策計画、無収水対策技術)の知見を活用。
(3)JICA開発調査「水資源管理計画調査」報告書、及び基本設計調査報告書。
(4)第19回無償資金協力実施適正会議にて検討。
このページのトップへ戻る
目次へ戻る