
II.事前評価
政府開発援助(ODA)
(1)無償資金協力案件
シンズリ道路建設計画(第二工区)(3分の3)
評価年月日:平成17年4月22日
評価責任者:無償資金協力課長 鈴木秀生
1.案件名
1-1.被供与国名
ネパール王国
1-2.案件名
「シンズリ道路建設計画(第二工区)(3分の3)」
2.無償資金協力の必要性
2-1.二国間関係
(1)1956年に国交樹立して以降、我が国皇室とネパール王室との間の往来は盛んであり、両国関係は伝統的に極めて 友好裡に推移。2006年には日・ネパール国交樹立50周年を迎えることとなっている。また、要人往来も活発。文化関係では、青年の相互交流等を実施している。
(2)1990年代に民主化を実現。治安問題(マオイストの活動に対する治安維持)と不安定な政局が課題となっている。2002年5月に下院が解散された後、首相の解任、辞任が続き、2005年2月に国王が内閣を解散し、自らを議長とする内閣を発足させるなど、内政が不安定になっている。
(3)我が国は、農業(食糧援助、食糧増産援助を含む)、保健・医療、上水道等の基礎生活分野に加え、運輸・交通、電力等の基礎インフラを中心に援助の対象とし、1970年から2004年までの支援累計は約1,654億円とドナー国の中で最大である。
(4)なお、現下のネパールの政治情勢(国王の閣僚逮捕及び国連人権委員会における非難決議の採択)に鑑み、本件のE/N締結や実施のタイミングは、右政治情勢を見極めつつ、ネパール政府に誤ったシグナルを与えぬよう、また、国際社会に誤解を与えぬよう配慮する配慮する必要がある。
2-2.対象国の経済状況
(1)所得水準(1人当たりGNI)は、230ドル(2002年)。
(2)1956年以来、9次にわたる5カ年計画により経済開発を推進してきた。2003年2月に貧困削減戦略文書として第10次5カ年計画が策定し、5年間で貧困層人口を38%から30%まで削減する等を目標としている。
(3)1996年に始まったマオイストの武装闘争により、特に、2001年以降の治安情勢悪化に伴い、ネパールの主幹産業である観光産業が低迷、投資や輸出も停滞するなど、依然として危機的状況が続いている。
(4)経済面では、農業のほか、観光業と繊維加工業を主たる産業としており、農業部門がGDPの約4割、就業人口の約7割を占めているため、農作物収穫高にその年の経済成長率が左右される構造を有している。国家財政は慢性的な赤字状態を呈しており、赤字を外国援助が補う構造となっている。加えて最近は治安維持活動費の増加が財政悪化要因となっている。
また、貿易赤字は財政赤字と並びネパール経済の最大の懸案で、2003年度の貿易赤字額は11億ドルとなり、対GDP比17%となっている。主要な貿易産品としては、輸出は既製服、カーペット、銀器、宝石類、パシュミナなど、輸入は石油製品、金、糸、化学肥料、輸送用機械及び部品等が挙げられる。
2-3.対象国の開発ニーズ
(1)ネパールの主要な産業である農業の主な地帯はインドとの国境沿いに広がるテライ平原であるが、主要農業産地である東部テライ平原から首都カトマンズへの現在の主要ルートは大きな回り道であり、また、雨期には地滑り等により度々閉鎖される状況にある。こうした道路の遮断による経済活動への影響を低減することが必要となっている。
(2)このためネパール政府は、東部テライ平原~カトマンズの区間について、シンズリ県を経由して結ぶシンズリ道路の建設に関する実行可能性の調査をわが国に要請し、これに応えわが国政府は昭和61年度から昭和63年度にかけて開発調査「シンズリ道路建設計画調査」を実施した。
(3)この調査結果に基づきネパール政府は、カトマンズへの物資の安定供給・確保とテライ地域の開発を促進し、沿線地域の社会・経済活動を活性化することによる地域住民の生活環境向上を目的とした「シンズリ道路建設計画」を策定し、この計画の実施に必要な資金につき、わが国政府に対し無償資金協力を要請してきたものである。
2-4.わが国の基本政策との関係
我が国の対ネパール経済協力は、「貧困削減に資する経済成長」のアプローチを基本として、ネパール側との政策協議等を踏まえ、社会セクター改善、農業開発、経済基盤整備、人的資源開発及び環境保全を重点分野としている。当該分野はODA大綱にも規定している「貧困削減」という我が国ODAの重点課題と合致している。本案件は、対ネパール支援の基本政策に合致している。
2-5.当該案件に無償資金協力を供与する理由
ネパールは後発開発途上国であり、本案件の実施についてネパール政府から最優先案件として要請が行われている。主要農業産地である東部テライ平原から首都カトマンズへの現在の主要ルートは大きな回り道であり、本案件により、農業生産地と市場の間のアクセス改善となることから、実施することによる効果は大きい。
3.案件概要
3-1.本プロジェクトの目的
本計画は、東部テライ平原からカトマンズへの物質の安定供給・確保とテライ地域の開発を促進し、沿線地域の社会・経済活動を活性化することによる地域住民の生活環境向上を目的としたものである。既に第一工区及び第四工区の工事を終了している。
3-2.実施内容
本計画の供与限度額は、25億8,800万円(国庫債務負担行為。平成17年度 3億8,000万円、平成18年度 11億5,200万円、平成19年度 10億5,600万円)。第二工区として位置づけられているシンズリバザール~クルコット間39キロメートルのうち13.7キロメートルの道路建設。
3-3.環境社会配慮など留意すべき点
- 用地売買・家屋補償、施工サイトの送・配電線の移設等相手国政府負担部分の確保
- ネパール政府による本計画により整備された道路の適切な維持管理。
- 脆弱な地質と急峻な地形のなかで持続性のある道路とする環境社会配慮。
3-4.無償資金協力供与の成果の目標(アウトカム)
(1)テライ平原側と首都カトマンズとの間の走行距離の短縮(約200キロメートル減)が可能となり、これまで往復2日間を要したカトマンズと中部テライ地域を1日で往復可能となる。
(2)農業生産地と市場の間のアクセス改善により地域の経済開発が促進される。
(3)現地資材及び現地建設業者の採用により雇用機会が創出されるとともに、道路橋梁建設の技術移転がなされる。
(4)上記の貢献によって、二国間関係が増進される。
4.事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
(1)先方政府からの要請書を参照。
(2)JICAの基本設計調査報告書及びシンズリ道路建設開発調査報告書を参照。
(3)第19回無償資金協力実施適正会議にて検討。