
II.事前評価
政府開発援助(ODA)
(1)無償資金協力案件
「タウンサ堰水門改修計画」
評価年月日:平成17年4月22日
評価責任者:無償資金協力課長 鈴木 秀生
1.案件名
1-1.被供与国名
パキスタン・イスラム共和国
1-2.案件名
「タウンサ堰水門改修計画」
2.無償資金協力の必要性
2-1.二国間関係
(1)我が国とパキスタンは、1952年の国交樹立以降、政治・経済・文化など様々な分野において、積極的に人物交流を展開してきており、両国の関係は1998年の核実験時以外、極めて良好である。
(2)同国は、2001年の9.11以降は、テロとの闘い及び「穏健かつ近代的イスラム国家」建設を目指した努力を行っている。
(3)我が国としてもこうしたパキスタンの努力を支えるべく積極的な支援を行ってきており、同年11月、我が国は、パキスタン政府の貧困削減の努力を支援するため2年程度に亘り3億ドルの無償資金協力を行う旨発表した。さらに、2004年8月には、円借款再開の検討を表明した。
2-2.対象国の経済状況
(1)所得水準(一人当たりGNI)は、652ドル(2003/2004パキスタン経済白書)。
(2)1990年代後半、財政の破綻、輸出の停滞等により、財政赤字と経常赤字が深刻化するとともに対内・対外債務が激増したが、1999年のムシャラフ政権の発足以降、税収増加と慎重な支出管理により財政赤字の大幅な低減(2003年GDP比4.5%)に成功しているほか、貿易収支の改善、移転収支の増加等により、経常収支も黒字に転換した。
(3)農業は、パキスタンの経済の基幹産業であり、2000年度/2001年度において、GDPの24.6%、雇用の48.42%、輸出の73%を占めている。また、農業生産の90%を灌漑農業が占めるている。
(4)外貨準備高の急増(2004年4月末現在約125ドル超(輸入の約11か月分相当))に、財務省債務局の設置、財政安定化と公的債務削減を義務付けた財政責任・債務管理令の制定、高利子対外債務の期限前償還等の債務管理能力強化のための努力があいまって、累積債務残高及び債務管理能力は急速に持続可能なレベルに改善している。これら財政構造の改善に伴う開発予算の増加にもかかわらず、依然として貧困率は高く、継続して貧困削減のための取り組みが必要な状況にある。
2-3.対象国の開発ニーズ
(1)パキスタンでは農業生産の90%を灌漑農業が占めるなど、灌漑施設は極めて重要なインフラであるが、人口増加に伴う水資源の不足、灌漑システムの老朽化による灌漑効率の低下等、灌漑セクターにおける問題を多く抱えている。こうした状況を踏まえ、パキスタン政府は国家10カ年計画において、灌漑設備の改善等を通じた農地利用効率の改善を目標として掲げている。
(2)タウンサ堰は、パンジャブ州南西部に位置し、インダス川両岸約110万ヘクタール(主に綿花、小麦、水稲、果樹を作付け)を灌漑するために1958年に英国の協力のもと建設されたインダス川本流を全面的にせき止める全幅約1,300メートルの超大規模の堰である。しかしながら、建設後50年近く経過していることから、ゲート及び付帯施設の老朽化により、著しい漏水(灌漑水路流量の約50%相当)のほか、ゲート操作装置の不具合により増水時の円滑な放水操作ができずに堤防決壊を招く事態(集落や農地への被害)を発生させている。さらに、今後現在の状態で放置した場合には、堰自体崩壊を招く危険性も指摘されている。このため、同堰のゲート及びゲート開閉装置等の緊急的な改修及び維持管理体制の整備が必要不可欠な状況である。
(3)このような状況の下、パキスタン政府は、1997年に我が国により実施された開発調査の結果を踏まえて、「タウンサ堰改修計画」を策定し、ゲート、ゲート開閉器等の改修及び今後の維持管理に必要な機材整備に必要な資金につき、我が国に対し無償資金協力の要請があったものである。
2-4.我が国の基本政策との関係
対パキスタン国別援助計画の重点分野の一つである「灌漑の水資源の確保・施設のリハビリと持続的な水利用・管理」に合致している。
2-5.無償資金協力を実施する理由
パキスタンは、高い人口増加率、低い識字率、失業の増大、エネルギーの不足、財政赤字等困難な経済社会問題に直面しながら積極的に国内開発・貧困削減に取り組んでおり、無償資金協力の必要性が高い。
3.案件概要
3-1.目的
本計画は、ゲート開閉がスムーズとなり増水時の周辺堤防の崩壊・堰自体の崩壊の危険性が軽減されるとともに、堰による取水量が確保されることにより、周辺地域により安定した灌漑用水が供給されること等を目的としている。
3-2.案件内容
供与限度額は51億6,500万円(国庫債務負担行為。平成17年度2億1,200万円、平成18年度29億1,300万円、平成19年度13億6,200万円、平成20年度6億7,800万円。)。土砂吐ゲート・洪水吐ゲートの改修・交換やバルクヘッドゲートの調達を行うもの。
3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
以下の事項がパキスタン政府により実施される必要がある。
- 本計画により整備される施設・機材の維持管理を適切かつ継続的に実施すること
- 活動に必要な運営経費(人件費、事務費等)について必要な予算措置を行うこと
3-4.無償資金協力の成果の目標(アウトカム)
(1)ゲート開閉がスムーズとなり増水時の周辺堤防の崩壊・堰自体の崩壊の危険性が軽減される。
(2)堰による取水量が確保されることにより、周辺地域により安定した灌漑用水が供給される。
(3)バルクヘッドゲート等の供与により必要に応じた維持管理が行うことができるようになり、堰の安全性が向上する。
(4)本件の実施でパキスタン国民の経済環境が向上することにより、我が国とパキスタンとの友好的な二国間関係を増進させる。
4.事前評価に用いた資料、有識者の知見等
(1)先方政府からの要請書を参照。
(2)JICAの基本設計調査報告書を参照。
(3)第19回無償資金協力実施適正会議にて検討。