I.実施計画に基づく事後評価
2. 政府開発援助(ODA)
(1)政府開発援助における政策
平和の構築に向けた我が国の取組の評価―アフガニスタンを事例としてー
経済協力局開発計画課長 岡庭健
平成18年5月
目標
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紛争下の緊急人道支援、紛争の終結を促進するための支援、紛争終結後の平和の定着や国づくりへの支援等、紛争サイクルのあらゆる段階で被害の緩和に貢献する。
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施策の背景・概要及び必要性
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(1)冷戦終結後多発するようになった紛争は、大量の難民・避難民を発生させる「人間の安全保障」への重大な脅威であり、長年の開発努力を瞬時に失わせるものである。そのため、紛争の予防、難民・避難民に対する緊急人道支援、復旧・復興支援、平和の構築は国際社会が一丸となって取り組むべき問題となっている。こうした中、従来の国連平和維持活動(PKO)等の軍事・政治的手段に加え、ODAを活用した包括的な支援が重要視されるようになってきている。我が国は2000年に「紛争と開発に関する日本からの行動」を発表し、紛争防止、緊急人道支援、復旧・復興支援、紛争再発防止と本格的な開発支援という一連のサイクルのあらゆる段階でODAによる包括的支援を行っていくことを表明した。
(2)かかる背景を踏まえ、2003年に改定されたODA大綱では「平和の構築」を新たな重点課題と位置づけている。2005年に策定された中期政策においては、平和と安定を開発の前提条件と捉え、具体的に以下を掲げている。
(イ)紛争の予防・再発防止、紛争直後の段階から復興・再建段階、そして中長期的な開発といった段階に応じた支援を行う。
(ロ)紛争前後の段階に応じて必要な支援を継ぎ目なく一貫性を持って行う。
(ハ)紛争という危機的状況下に迅速に対応するため、他支援機関との連携や専門家の育成及び要員の迅速な派遣を目指す。
(ニ)紛争後の状況においては、中央政府がしばしば機能不全に陥るため、政府に対する支援と地域社会に対する支援を組み合わせて実施する。
(ホ)国内の安定と治安の確保のための支援を実施する。
(ヘ)健康等を害している人や女性・子ども等紛争により特に深刻な影響を受ける社会的弱者へ配慮する。
(ト)紛争国に隣接する国への難民流入、貿易、投資等への悪影響や、隣接国と紛争国の政治的関係等を視野に入れた支援をする。
(3)アフガニスタンにおいては1)和平プロセス、2)国内の治安、3)復興・人道支援を3つの柱とする「平和の定着」構想が2002年4月に発表され、その後の対アフガニスタン支援は「平和の定着」構想の3本柱に沿って実施された。
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投入資源
(コスト)
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アフガニスタンにおける平和構築支援
10億3千万ドル(2006年4月までの累計)
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施策の効果の把握方法
(枠組み)
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(1)目標の妥当性
(イ)日本の平和構築援助政策全般の目的
(ロ)日本の対アフガニスタン平和構築援助政策の目的
(2)成果の有効性・インパクト(アフガニスタンを中心に)
(イ)武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)に対する貢献
(ロ)緒方イニシアティブの目標達成度
(ハ)幹線道路支援の目標達成度
(3)プロセスの適切性
(イ)日本の平和構築援助プロセスの適切性・効率性
(ロ)日本の平和構築援助プロセスの発展性
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評価の結果
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(1)目標の妥当性
日本の平和構築援助政策全般の目標及び対アフガニスタン平和構築援助政策はともに国際協調・平和主義に立つ我が国外交の基本方針及びODA基本方針に合致するものであり妥当である。また、対アフガニスタン政策の目標は現地のニーズに合致しており妥当である。
(2)成果の有効性
以下によりアフガニスタンにおける平和の構築に向けた我が国の取組は有効である。
(イ)アフガニスタンにおけるDDRは、和平プロセスと足並みを揃えて実施されることにより、和平プロセスの進展を助けるとともに、中央政府の求心力を高めることに貢献した。
アフガニスタンのDDRに対する我が国の最大の貢献は、同分野における主導国として、資金的な側面においても、政治的な取組の側面においても、ドナーの中で最も積極的な貢献をし、DDRプロセスの進展に総合的に貢献したことである。資金面での貢献や専門性があり意欲のある人材の登用が我が国の貢献に寄与した。
(ロ)緒方イニシアティブの理念やアプローチは当時の我が国の取組としては斬新であり、アフガニスタンの実情に対応する支援の形として国連関係機関等からも賛同を得ていた。一方で、右イニシアティブの目標を達成するためには、よりしっかりとした枠組みやツールが必要である。
(ハ)幹線道路支援では、カブール・カンダハール間道路整備支援は順調に実施され、利便性の向上、経済活性化等の効果が見られた。アフガニスタンにおける我が国の道路セクター支援は、異なる支援スキームを活用することで、幹線道路整備支援だけでなく、主要都市の道路や地方の道路を含めて整備することで、我が国援助による平和の配当を幅広く感じてもらえるよう工夫がなされていた。
(3)プロセスの適切性
我が国政府は、紛争国・地域に対する取り組みが重視されるようになる中で、柔軟な人材配置・体制構築を行い、既存のスキームの運用改善・拡充に努めてきたが、更に迅速な支援を目指すための改善が望まれる。
被援助国政府、他ドナーとの協議・調整は概ね問題なく行われていたが、他方で平和構築政策全般を総合的に調整・遂行する体制が外務省内に存在せず、調整のための局課の人員や援助実施のための現地大使館の人員・体制が必ずしも十分でなかった。
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評価結果を踏まえた今後の取組
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(1)平和構築支援全般の総合調整を可能とするような外務省内の体制を整えることが望ましい。
(2)平和構築支援においては変化の激しい現地のニーズへ対応するための迅速性が重要であることから、現地大使館の能力強化及び現地判断の重視を目指すことが望ましい。
(3)紛争後の自立的かつ持続的な平和国家・社会の構築を支援するためには、現地政府・社会の能力形成を重視した援助が必要である。
(4)現地大使館等に専門知識と経験を有する十分な数の担当官が必要であるため、そのような人材の育成と人材の適時な派遣を可能とするメカニズムの強化を目指すことが望ましい。
(5)平和構築援助は多くの場合、危険地での活動を前提としているため、活動従事者の安全を確保しつつ、援助の円滑・効率/効果的な遂行を促すため、政府として安全対策体制を整備しておく必要がある。
*概算要求、機構・定員要求への反映方針
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概算要求
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機構要求
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定員要求
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反映方針
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○
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―
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―
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政策評価を行う過程において使用した資料等
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- 「平和の構築に向けた我が国の取り組みの評価-アフガニスタンを事例として-報告書」(平成18年3月)
- (要約のみ別添。全文については外務省ホームページにて公表)
- 〔http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/shiryo/hyouka.html〕
- 政府開発援助大綱 2003年
- 政府開発援助に関する中期政策 2005年
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備考・特記事項
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平和の構築に向けた我が国の取り組みの評価:要約
第1章 評価の実施方針
1.1 評価の背景と目的
我が国は、2000年7月に発表した「『紛争と開発』に関する日本からの行動-アクション・フロム・ジャパン(以下、「アクション・フロム・ジャパン」)」に示されているように、紛争下の緊急人道支援、紛争の終結を促進するための支援、紛争終結後の平和の定着や国づくりのための支援まで、一連の紛争サイクルのあらゆる段階で被害の緩和に貢献するため、政府開発援助(ODA)による包括的な支援を行っている。2003年に改定された新ODA大綱及び2005年に策定された新ODA中期政策には、「平和の構築」が重点課題の一つとして盛り込まれている。そして今、世界各地における平和の促進を効果的かつ効率的に実施するため、これまでの取り組み及び実績をレビューすることが求められている。
このような背景の下、本評価は、平和の構築に向けた我が国のODAによる取り組みを総合的に評価し、今後のより効果的・効率的な支援実施の参考とするための教訓・提言を得るとともに、評価結果を公表することで国民に対する説明責任を果たすことを目的として実施された。
1.2 評価の対象
本評価は、外務省を中心とした日本政府のODAによる平和構築支援を主たる評価対象とした。その際、必要な限りにおいてODA以外の取り組みも含めて検討した。なお、本評価報告書では、ODA及びODA以外の取り組みを含む支援全体を平和構築"支援"と呼び、ODAによる支援のみを指す場合には平和構築"援助"という用語を用いることとした。
また、平和構築という対象について、本評価では、武力紛争にかかる平和構築を主たる対象とした。武力紛争の段階については、紛争前から紛争中、紛争後までの一連の流れを重視しつつ、紛争直後の段階に焦点を当てて評価を行った。
本評価では、ケース・スタディ国としてアフガニスタンを取り上げ、現地調査を含む詳細な調査を行った。ただし、アフガニスタンのみをもって我が国の平和構築政策の評価を行うことは妥当ではなく、国内調査で可能な範囲で他の紛争国・地域の事例についても検討を行うこととした。
1.3 評価の方法
本評価では、外務省が実施する政策レベル評価の基本方針にならい、目的、結果、プロセスの3つの視点から評価の枠組みを作成して、評価を実施した。本評価は、国内文献調査、国内インタビュー、アフガニスタン現地調査によって進められた。本評価においては、(1)評価スコープの広範性・多様性と照らして、現地調査を含む詳細調査が限定的にしか行うことができなかった、(2)現地調査を行ったアフガニスタンの治安情勢が不安定であったため訪問範囲が限定的にならざるをえなかった、(3)平和構築支援は、政治的側面、軍事的側面等を含む総合的取り組みであるが、ODA評価という制約から基本的に開発援助が評価対象とされた、(4)平和構築援助を必要とするアフガニスタン等の国では基礎的な統計やデータが整備されていない、(5)平和構築の達成度を測定することは困難である、といった制約があった。
第2章 平和構築に向けた国際社会及び我が国の取り組み
2.1 平和構築に向けた国際社会の取り組みの概要
平和構築(Peacebuilding)という言葉が国際社会で一般的に用いられるようになったのは、1992年にブトロス・ガリ国連事務総長(当時)が、『平和への課題(Agenda for Peace)』を発表し、その中で、平和構築という概念を提起してからである。その後、平和構築は開発援助の分野でも主要な取り組み課題として扱われるようになった。経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD/DAC)は1997年に紛争予防・平和構築のための開発援助のあり方を示すガイドラインを発表し、さらに2001年にはこのガイドラインを補完するガイドラインを発表した。二国間ドナーも平和構築を援助政策の概念として打ち出すようになった。例えばカナダは、1996年に「平和構築イニシアティブ(Peacebuilding Initiative)」を発表し、平和構築をいち早く政策目標に掲げた。
平和構築概念をめぐるこれまでの国連その他国際機関、主要ドナーによる議論を総合すると次のようになる。
- 平和構築は、最も広義では、時系列的には紛争にかかる全ての段階をカバーし、活動分野も様々な分野をカバーする。一方、狭義では、平和構築は紛争後に行われる活動のみを指し、平和創造、平和維持といった政治的・軍事的活動とは峻別される。
- ただし、仮に、平和構築と、平和創造、平和維持といった他の平和活動が異なる活動を指すと捉える場合であっても、これらの活動は相互に密接に関連し、時として相互に重なりあうという点については広くコンセンサスがある。
- 紛争予防と平和構築は全ての場合において同じことを意味するわけではないにしても、紛争再発の危険性のある紛争経験国ではほぼ同義のこととして捉えられ、紛争予防として行われる活動と平和構築として行われる活動は大きく重なりあうと捉えられている。
平和構築に取り組む諸外国は、明示的に平和構築を援助政策目的に掲げている国々とそうでない国々に分けられるが、いずれにせよ、今日では、主要ドナーである諸外国のほとんどが紛争と開発の問題を開発援助分野における重要課題と位置づけて開発援助に取り組んでいる。
平和構築を政策目標に掲げている国としては、カナダが代表的である。一方、平和構築という言葉を用いない英国、米国等の国々は、紛争削減、紛争予防、紛争解決等の概念を政策目標に掲げて援助に取り組んでいる。また、国際機関は、それぞれの機関の活動分野において紛争地域に対する取り組みを強化している。
2.2 平和構築に向けた我が国の取り組みの概要
我が国政府が政策文書や要人発言等で公式に平和構築という言葉を頻繁に用いるようになったのは1999年以降のことであるが、我が国政府はそれ以前より、紛争を抱える国・地域に平和を実現するために積極的に努力してきた。我が国政府が紛争解決から紛争後の復興・開発、国造りにいたる一連のプロセスにおいて積極的な役割を果たした初期の例は、カンボジアに対する支援であり、和平交渉過程へ積極的に参画するとともに、和平成立後は、ODAによる支援や国際平和協力法の下での人的貢献など積極的な貢献を行った。その後も、アジア太平洋、ヨーロッパ、アフリカ、中南米といった地域において、和平交渉やその後の復興支援等に積極的に取り組んできている。
このような中、我が国政府は、2000年のG8宮崎外相会合の際、「アクション・フロム・ジャパン」を発表した。この文書は、紛争国・地域に対する我が国支援のあり方について全体的な方針を示した政策文書としては初めてのものであった。
このように我が国政府は当初、紛争国・地域に対する支援を総括する概念として紛争予防を掲げていたが、その後、2002年4月に対アフガニスタン支援を打ち出して以降は、平和の定着ないしは平和構築という概念を主に用いるようになった。2002年4月、川口外務大臣(当時)はアフガニスタンに対する支援構想として1)和平プロセス、2)国内の治安、3)復興・人道支援の3つの要素からなる「平和の定着」構想を打ち出した。また、2002年5月1日には、小泉総理大臣がシドニーにおける政策演説において、アフガニスタンに限らずより一般的な文脈で、「平和の定着と国造り」のための協力を強化する旨表明した。つづいて、この政策演説を受けて発足した「国際平和協力懇談会」は、「平和構築=平和の定着+国造り」と定義した。
さらに、2003年8月に改定された政府開発援助(ODA)大綱では、紛争国・地域に対する取り組みを重点課題の一つとして位置づけるにあたり、「平和の構築」という概念を採用し、「平和の構築」を紛争予防から紛争時の緊急対応、紛争直後の支援から中長期開発に至るまで幅広い期間・活動を包含する概念として定義し、これらの目的にODAを活用する旨表明した。
本報告書における平和構築の定義は、現行ODA大綱及びODA中期政策の定義に従うこととする。まず、平和構築の目的は、ODA中期政策によれば「紛争の発生と再発を予防し、紛争時とその直後に人々が直面する様々な困難を緩和し、そして、その後長期にわたって安定的な発展を達成する」ことである。また、ODA大綱によれば、平和構築の活動内容には、例えば、和平プロセス促進のための支援、難民支援や基礎生活基盤の復旧などの人道・復旧支援、元兵士の武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)や地雷除去を含む武器の回収及び廃棄などの国内の安定と治安の確保のための支援、さらに経済社会開発に加え、政府の行政能力向上も含めた復興支援が含まれる。
第3章 アフガニスタンの平和構築に向けた国際社会及び我が国の取り組み
3.1 アフガニスタン略史
アフガニスタンは、国外勢力による支配・介入や内戦の歴史をたどってきた。1979年にはアフガニスタン政権内部での対立に乗じてソビエト連邦による軍事侵攻が行われた。その後、1989年にはソ連軍が撤退したが、その後もアフガニスタンでは内戦が継続した。そのような中、1994年秋には突如としてタリバン(the Taliban)が登場し、アフガニスタンに実効支配を及ぼした。タリバンは、国際テロ組織アルカーイダを率いるウサマ・ビン・ラーディンと繋がりがあること等から国際社会の非難の的となった。
2001年9月11日、米国において同時多発テロが発生すると、米国は同時多発テロがウサマ・ビン・ラーディンを指導者とする国際テロ組織アルカーイダによって計画・実行されたものと判断し、同人を保護していると考えられていたタリバンに対して引渡しを求めたが、タリバンがこれを拒否したために、国連安全保障理事会決議によって認められた自衛権の行使として、米英軍による武力攻撃が開始された。11月中旬には米英軍の支援を受けた北部同盟と呼ばれるアフガニスタン武装勢力によって首都カブールが制圧され、タリバンは南へ敗走した。これらの動きと並行して、国連主導によって、アフガニスタンにおけるその後のプロセスに関する議論も始められた。北部同盟をはじめとするアフガニスタン各派及び関係諸外国・機関は交渉を進め、2001年12月5日にはボン合意が成立した。同合意の下で、アフガニスタンにおける政治プロセスが始動することとなった。
2001年12月末、アフガニスタン暫定政府が発足し、翌2002年6月には緊急ロヤ・ジルガが開催され、これを受けてアフガニスタン移行政府が発足した。2003年12月には憲法制定ロヤ・ジルガにおいて憲法が採択された。2004年10月には大統領選挙、2005年9月には議会選挙が実施され、同年12月にはアフガニスタン国会が開会した。
3.2 アフガニスタンの平和構築に向けた国際社会の取り組み
2001年10月以降、米英軍及びこれらの支援を受けた北部同盟軍の武力攻撃が行われる中、国連主導の下、関係諸外国・国際機関はボン合意の成立に向けて尽力した。ボン合意成立後は、暫定政府の設立、緊急ロヤ・ジルガの開催と移行政府の設立、憲法制定ロヤ・ジルガの開催、大統領及び議会選挙の実施に至るボン・プロセスを国際社会が政治的支援、開発援助、軍事的支援その他必要な手段を用いて支援していくこととなった。
開発援助の側面においては、同時多発テロ以前よりアフガニスタンに対する国際的な支援枠組みが存在したが、2001年秋には、日本、米国、EU、サウディ・アラビアが共同議長をつとめるアフガニスタン復興支援運営グループ(ARSG)が主要な援助調整枠組みとなった。その後、国際社会は2002年1月の東京におけるアフガニスタン復興支援国際会議以降、2年毎に援助プレッジ会合を開催するとともに、援助調整については、アフガニスタン政府が主導する形を取る諮問グループ(CG)体制に移行している。
治安分野では、ボン合意及び同合意を受けた国連安全保障理事会決議に基づいて、治安維持及びアフガニスタン独自の治安部隊の創設・訓練を目的としたNATO軍を中心とする国際治安支援部隊(ISAF)が展開した。また、治安部門改革(SSR)として、1)新国軍創設、2)警察改革、3)司法改革、4)麻薬対策、5)武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)の5つの分野が特定され、主要国がそれぞれの分野の主導国(lead nation)をつとめることとなった。我が国はDDRの主導国となることとなった。
なお、アフガニスタンに対する国際社会の支援実績のうち、開発援助実績については、次のとおりである。国際社会は、2002年の東京会議及び2004年のベルリン会議で合計144億5,000万ドルの援助プレッジを行い、2005年11月までに100億3,100万ドルの援助を実施した。ドナー別に見ると、米国が援助プレッジ額及び実施実績額とも最大であり、プレッジ額でつづくのがEU、日本である。実施実績では日本がEU他を上回り、米国についで第二位となっている。
3.3 アフガニスタンの平和構築に向けた我が国の取り組み
アフガニスタンの平和構築に向けた我が国の取り組みは少なくとも1989年のソ連軍撤退の時期にまでさかのぼり、1990年代にかけて、国際機関経由の援助や国連ミッションへの要員派遣を通じてアフガニスタンの平和と安定に向けた国際社会の取り組みに貢献してきた。2001年9月11日の米国同時多発テロ以降は、国際社会のアフガニスタンに対する取り組みが急速に変化する中で、国際社会の動向を見極めながら我が国としての外交方針を検討し、実施に移していった。
我が国は、米国等による対アフガニスタン攻撃が10月初旬に開始されると、この攻撃をテロという国際の平和と安全への脅威を除去するために国連安全保障理事会決議に基づいて行われる活動であると捉え、この活動を支援するためテロ対策特別措置法を成立させ自衛隊による支援活動を開始した。一方、国連を中心としてタリバン後を見据えた外交交渉が始まると、我が国は、この動きに積極的に参画するとともに、特に開発援助の側面から主導的な役割を果たしていくこととなった。我が国は、アフガニスタン復興支援運営グループ(ARSG)の共同議長となり、2002年1月に東京でアフガニスタン復興支援国際会議を開催する等国際社会の援助調整・協調において主導的な役割を果たした。
さらに2002年4月には、川口外務大臣(当時)がアフガニスタンに対する我が国の支援構想として、1)和平プロセス、2)国内の治安、3)復興・人道支援を3つの柱とする「平和の定着」構想を発表した。我が国としては、「平和の定着」構想の推進のためにあらゆる可能な手段を用いる方針を示し、その中で開発援助が最も活用されることとなった。
我が国は、「平和の定着」構想の下で、2005年9月までの時点で約9億5,100万ドルの援助を実施または決定済みであり、その内訳は、和平プロセスに対する支援が約1億2,700万ドル、国内の治安に対する支援が約1億4,400万ドル、復興・人道支援が約6億8,000万ドルとなっている。
第4章 評価結果
4.1 「目的」の評価
4.1.1 我が国の平和構築援助政策全般の「目的」の評価
(1)我が国の平和構築援助政策とその「目的」
我が国政府が紛争予防、紛争と開発といった問題を明確に政策課題として打ち出すようになったのは1999年以降のことである。我が国政府は、1999年にODA中期政策を策定し、その中で「紛争・災害と開発」を重点課題の一つに位置づけ、2000年7月のG8外相会合で「アクション・フロム・ジャパン」を発表した。「アクション・フロム・ジャパン」は、開発分野における紛争予防強化のための我が国の取り組み目標として、1)紛争予防の各段階における援助の強化、2)紛争予防の主体への協力の強化を二つの柱とする目標を打ち出した。
これに対して、そもそも我が国がどういう目的で紛争地域に対する支援・援助を行うのかという点については、従来、明確で一貫した目的が掲げられてきたわけではない。しかしながら、我が国政府が各紛争国・地域に対して支援を実施するにあたって表明してきた各々の「目的」を見てみると、そこには以下のような一定の共通した方針が存在していたことが分かった。
- 日本にとり重要なアジア太平洋地域の平和と安定を促す
- 国際社会の一員としての(主要な)役割を果たす
- 我が国及び国民の利益と安全を確保する
- 「人間の安全保障」を実現する
(2)我が国外交の基本方針と照らした平和構築援助政策の「目的」の妥当性
我が国の外交政策は、国際協調・国際貢献を重視し、一国平和主義ではなく、積極的に国際社会の平和に貢献することを旨としており、これは日本国憲法の基本原理の一つである「平和主義」に基づくものである。上記(1)にまとめた我が国の平和構築支援・援助政策の「目的」は、国際協調を重視しつつ、積極的に他国の平和に貢献しようとするものであり、日本国憲法の理念と照らして妥当である。
(3)ODA大綱・中期政策と照らした平和構築援助政策の「目的」の妥当性
平成4年策定の旧ODA大綱は、「平和国家」である我が国が世界平和と国際社会の繁栄のために相応しい役割を果たすことを重要な使命であると定めており、平和構築援助は、このような旧ODA大綱の理念と合致する。平成11年策定のODA中期政策は、「紛争と開発」を重点課題の一つに位置づけた。平成15年に改定された新ODA大綱及び平成17年に策定された新ODA中期政策は、重点課題として「平和の構築」を掲げ、紛争国・地域に対する援助に我が国として今後とも積極的に取り組んでいく方針を明確に示した。
(4)国際社会の取り組み・援助潮流と照らした平和構築援助政策の「目的」の妥当性
紛争国・地域の問題に積極的に取り組むという目標を掲げることは、1990年代以降今日に至る時期において国際社会の潮流となっており、我が国の取り組みはこのような流れに合致したものである。
4.1.2 我が国の対アフガニスタン平和構築援助政策の「目的」の評価
(1)我が国の対アフガニスタン平和構築援助政策の「目的」
我が国は、アフガニスタンに対する平和構築支援に取り組むにあたり、開発援助部分に関する独自の方針を定めておらず、我が国の対アフガニスタン平和構築援助政策の「目的」は、対アフガニスタン平和構築支援政策の「目的」と同義である。我が国政府の対アフガニスタン平和構築支援政策の「目的」は以下のとおりである。
- アフガニスタンの平和と安定を促す。
- アフガニスタンの平和と安定を促すことにより、日本が原油輸入の8割以上を依存する中東地域の平和と安定に寄与し、日本の石油の安定供給と安全保障上の利益を確保する。
- アフガニスタンの平和と安定を促すことにより、同国が再びテロの温床となることを防ぎ、我が国及び国際社会全体にとっての脅威であるテロの根絶・防止を図る。
- 国際社会全体の取り組みであるアフガニスタン支援に積極的に取り組むことにより、国際社会の一員としての責務を果たすとともに、国際社会における我が国のプレゼンスや信頼を高める。
また、我が国は、対アフガニスタン平和構築支援について「平和の定着」構想を掲げており、我が国の対アフガニスタン平和構築支援政策は、同構想の下で1)和平プロセス、2)国内の治安、3)復興人道支援を3つの柱とする目的体系を有していた。
(2)我が国外交の基本方針と照らした対アフガニスタン平和構築援助政策の「目的」の妥当性
我が国は、日本国憲法の理念に基づき、国際社会の平和の実現のために国際社会と協調して積極的・能動的に取り組んでいくことを外交の基本方針としている。上記(1)に掲げた我が国の対アフガニスタン平和構築援助の「目的」は、右に述べた我が国外交の基本方針に合致していると考えられる。また、我が国の対アフガニスタン平和構築援助の「目的」としては、我が国をテロの脅威から守る、我が国への安定的な石油供給を確保する、という「目的」も掲げられている。自国及び国民の利益と安全の確保は、国家の外交政策の基本となるものであり、このような「目的」設定は、我が国の外交政策上の判断として妥当であった。
(3)ODA大綱及びODA中期政策と照らした対アフガニスタン平和構築援助政策の「目的」の妥当性
我が国が「平和の定着」構想を発表した2002年4月当時に我が国ODA政策の指針となっていたのは、旧ODA大綱と旧ODA中期政策であった。我が国の対アフガニスタン援助は、国際社会と協力し、同国の平和と安定ひいては地域及び国際社会の平和と安定に貢献することを目的としており、旧ODA大綱の理念に合致していた。また、対アフガニスタン援助は、「紛争と開発」を重点課題の一つに掲げた旧ODA中期政策の方針と合致していた。
新ODA大綱及び新ODA中期政策は、重点課題として「平和の構築」を掲げた。これは、アフガニスタンに対する援助を含め我が国が紛争国・地域に対する援助に積極的に取り組んできた経緯を踏まえたものである。新ODA大綱及び新ODA中期政策策定後も、我が国はその方針に沿って対アフガニスタン平和構築援助に積極的に取り組んできている。
なお、本評価においては、国会の場等で、ODA大綱とDDRの関係を再整理する必要があるとの問題提起がなされていることが確認された。
(4)国際社会の取り組み及びアフガニスタンのニーズと照らした我が国政策「目的」の妥当性
我が国が「平和の定着」構想を掲げて対アフガニスタン平和構築支援に取り組むこととなったのは、国際社会及びアフガニスタン自身による取り組みの流れを踏まえたものであり、我が国援助の「目的」設定は国際社会の取り組み及びアフガニスタンのニーズと合致するものである。また、我が国が「平和の定着」構想の下で1)和平プロセス、2)国内の治安、3)復興・人道支援という3つの柱を掲げたことも、国際社会の取り組みの全体像及びアフガニスタン自身のニーズに合致したものであったということがアフガニスタン政府、他国、国際機関、NGO等に対するインタビューによって確認された。対アフガニスタン援助の取り組みにおける「目的」の共有のために我が国が主導的な役割を果たしてきたことも高く評価できる。
(5)諸外国・国際機関の取り組みと比較した我が国の対アフガニスタン平和構築援助政策の類似点・相違点
我が国の対アフガニスタン平和構築支援政策の「目的」は、国際社会及びアフガニスタン自身との間で合意されたアフガニスタンにおける平和構築の枠組みにしたがって設定されたものであり、諸外国・国際機関の考える「目的」と共通するものである。しかし、同じ「目的」体系の中でどの分野に重点を置くかは、国家間で違いが見られた。そのような違いは、支援ツールとして開発援助に重点を置くか、軍事的な貢献に重点を置くかといった違いとして現れるとともに、開発援助分野においても、どの分野に重点を置くかで違いが見られた。
4.2 「結果」の評価
4.2.1 我が国の平和構築援助政策全般の「結果」の評価
紛争国・地域の平和と安定は、我が国の取り組みだけで実現されるものではない。また、紛争国・地域に平和と安定をもたらすためには、開発援助活動だけでなく、政治的、軍事的な取り組みを含む総合的な取り組みが必要である。したがって、我が国の平和構築援助の貢献度を見るためには、個別の国・地域毎に我が国のあらゆる取り組みと諸外国・国際機関の取り組み、さらに当該国・地域自身の取り組みを全て明らかにし、当該国が現在置かれている状況との関係をつぶさに比較検討する必要がある。しかし、そのような評価を行うことは、本評価に与えられた使命ではなく、時間的・人的制約にも鑑みれば困難であった。このため、本評価では、我が国が平和構築援助を実施してきた主要な国・地域の現在の状況を、「平和の定着」構想の1)和平プロセス、2)国内の治安、3)復興・人道支援の3本柱に即して政治面、治安面、経済面から概観するにとどめた。
我が国が積極的な平和構築支援・援助を実施してきた国・地域の状況を概観して分かったことは、我が国及び国際社会が目指す平和の実現が決して容易ではなく、短期間で実現されるものではないという現実であった。紛争国・地域に平和を実現するという目標に向けて我が国及び国際社会はまだまだ道半ばにいる。
4.2.2 我が国の対アフガニスタン平和構築援助政策の「結果」の評価
本評価においては、アフガニスタンに対する援助全体を同じウエイトで調査・評価していくのではなく、平和構築援助としての意義が強いと認められ、かつ、我が国政府が重視してきた分野を選び、重点的な調査・評価を行うという方針を取った。我が国政府関係者の認識を把握しつつ、我が国政府の援助規模や平和構築援助としての意義を考慮して検討を進めた結果、1)武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)、2)緒方イニシアティブ、3)幹線道路支援の3つの援助を重点評価対象とすることとした。また、右重点3分野では直接にはカバーされていない「平和の定着」構想の3本柱の一つである「和平プロセス」の柱の下で実施された主要な援助である行政支援について評価を行った。さらに、アフガニスタンにおいて草の根・人間の安全保障無償資金協力が平和構築へのインパクトに配慮して実施されていたということが確認されたため、同協力についても評価を行った。
(1)我が国の対アフガニスタン平和構築援助のインプットの全体像
我が国は、2005年9月までの時点で9億5,100万ドルの援助を実施・決定した。我が国が実施・決定済みの援助額を「平和の定着」構想の3本柱に沿って整理すると、全体の約71.5%にあたる約6億8,000万ドルが復興・人道支援分野に向けられ、和平プロセスに対する援助は1億2,700万ドルで全体の約13.35%、国内の治安に対する援助は1億4,400万ドルで全体の約15.14%であった。すなわち、我が国政府は「平和の定着」構想で掲げた3つの柱全てにおいて開発援助を用いた支援を行っている。
また、我が国は、人的投入として、2001年12月の暫定政府時から2002年6月の移行政府成立を経た2005年11月までの期間において、短期専門家、個別専門家、技術協力プロジェクトの下で派遣された専門家を含めて総計で195名のJICA専門家をアフガニスタンに派遣した。
(2)我が国の対アフガニスタン平和構築援助の「結果」の評価:重点3分野の評価
(イ)武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)
アフガニスタンにおいてDDRが実施された主要な目的は、同国内の各地に群雄割拠していた旧国軍部隊(軍閥勢力)を解体することによって治安を改善し、中央集権による国家の建設を進めることにあった。同時に、DDRを中央政府の主導の下で進めることで、中央政府の求心力を高めることも狙いとされていた。また、中央政府の求心力を高めるという意味においては、ボン合意に基づく政治プロセスと足並みを揃えて進められることが目標とされた。DDR分野において我が国は、DDR実施機関であるANBPに対する資金拠出、JICAによる元兵士社会復帰支援、草の根・人間の安全保障無償資金協力による元兵士社会復帰支援等を実施した。
アフガニスタンにおける武装解除は、試行段階から本格段階にかけて段階的に実施された。武装解除は、当初の予定どおり順調に進んだわけではないが、2005年6月末までには目標であった6万人の武装解除が完了し、2006年1月現在時点で武装解除された元兵士数は63,380人となっている。これらの元兵士に対する社会復帰支援も実施されている。DDRの成果を数字だけで判断することはできないが、右目標値を達成できたことはアフガニスタンのDDR活動が成果をあげていることの一定の目安と捉えることができる。
アフガニスタンにおけるDDRは、和平プロセスと足並みを揃えて実施されることにより、和平プロセスの進展を助けるとともに、中央政府の求心力を高めることに貢献した。一方で、DDRがアフガニスタンの治安改善に与えたインパクトは限定的であった。この背景には、DDRプロセスに参加した武装勢力が限定的であったこと、タリバンの残党と見られる勢力やこれを支持する勢力が活発にテロ活動等を繰り広げていることなどがある。
アフガニスタンのDDRに対する我が国の最大の貢献は、同分野における主導国として、資金的な側面においても、政治的な取り組みの側面においても、ドナーの中で最も積極的な貢献をし、DDRプロセスの進展に総合的に貢献したことである。資金的には、ANBPに対するこれまでの援助資金総額の65%以上を我が国が拠出した。資金面で大きな貢献をしたことは、資金面以外で我が国が高いプレゼンスを示す上でも重要であった。また、専門性があり意欲のある人材をすばやく配置することができたことは、我が国のDDR援助効果を上げる上で重要な役割を果たした。さらに、我が国は、元兵士の社会復帰支援の分野で様々な援助を実施し、貢献をしてきている。このように一定の成果をあげてきた我が国の社会復帰支援であるが、例えば、JICAによる技術協力については、援助プロセスの改善によってより高い成果があげられたのではないかという反省の声も聞かれている。
(ロ)緒方イニシアティブ
緒方イニシアティブは、緒方貞子アフガニスタン支援総理特別代表が2002年6月のアフガニスタン訪問を踏まえて示した考えをもとに、我が国政府が同代表の名を冠して緒方イニシアティブと呼ぶこととした援助政策イニシアティブである。緒方イニシアティブは、1)人道から復旧・復興への継ぎ目の無い支援を行うこと、2)優先地域を対象とする総合的な開発計画を推進すること、の2点を主たる目標とし、この目標を達成するために、UNAMAを調整機関として我が国政府が主体的に関与しつつ、国連実施機関の取り組みを推進していくことが目指された。緒方イニシアティブは、フェーズ1からフェーズ4までの4段階にわたって実施され、我が国は、全フェーズ合計で98,493,491ドル(約120億1,620万円)を拠出した。
緒方イニシアティブの成果は、個別のプロジェクトの成果があがったかどうかではなく、同イニシアティブが目指した、人道から復旧・復興への継ぎ目の無い支援を行う、優先地域を対象とする総合的な開発計画を推進する、そして、そのために国際機関や他ドナーと協力・協調して援助に取り組むといった目標が達成されたかどうかという観点から評価することが妥当である。
このような視点に立つとき、緒方イニシアティブの目標達成度は残念ながら限定的であった。緒方イニシアティブが目標とした成果をあげた側面もある。例えば、マザリシャリフでは、徐々にではあるが、関係する国連実施機関が緊密に協力していく雰囲気が醸成され、これらの機関が共同して緒方イニシアティブ関連のプロジェクトのモニタリングを行ったり、将来の支援計画を共同で立案したりする段階にまで進んでいた。しかし、同様の成果は、緒方イニシアティブの下での取り組み全般に見られるものではなかった。特に、首都カブールでは、緒方イニシアティブの考えを共有し、関係機関が連携して援助を進めるような状況は存在しなかった。国連関係機関等に対するインタビューでは、緒方イニシアティブの理念やアプローチには賛同できるもの、極めて野心的なものであり、その実現のためにはよりしっかりとした枠組みやツールが必要であったという問題点が指摘された。
我が国としては、緒方イニシアティブの理念及びアプローチの十分な理解とその効果的な実施を促すためにより積極的な努力が必要であった。そのために、同イニシアティブに専念できる専門性の高い担当官を配置することが望ましかったとも考えられる。また、現地調査の際、国連関係者より、緒方イニシアティブの問題点として、同イニシアティブが人道支援から復興支援まで継ぎ目の無い支援を目指していたにもかかわらず、フェーズ4に至って日本の援助が不足し、復興活動に取り組む国連実施機関に対する援助が十分に行われなかったという点が指摘された。
なお、緒方イニシアティブの下での地域総合開発の取り組みは、平和構築の観点から予期されていなかった正のインパクトをもたらした。マザリシャリフにおいて、普段は全く口を聞かない異なる派閥と強い繋がりを持つ各省庁の代表が緒方イニシアティブの下で同じテーブルを囲んで議論する機会を持つようになったという事例が報告されている。
(ハ)幹線道路整備支援
アフガニスタンの幹線道路は長年の紛争もあって劣悪な状態にあり、社会・経済活動の大きな障害となっていた。特に、アフガニスタンは内陸国であるために、陸路の整備は交通網整備の中でも最も重要な課題と認識されていた。幹線道路整備支援は、幹線道路の整備とそれによる交通の便の向上に加え、アフガニスタンの復旧・復興促進、難民・避難民帰還促進、異なる民族間の往来が増加することによる国民和解促進をもたらすことを目指していた。また、アフガニスタンの幹線道路整備支援は、日米両国が共同で取り組むことに両国首脳が合意しており、良好な日米関係の維持・促進という点からも重視された。アフガニスタンの道路整備のための我が国の資金貢献はこれまでの合計で約165億3,240万円となっている。
我が国が実施した幹線道路支援のうち、カブール・カンダハール間道路整備支援は順調に実施された。この道路整備支援は、カブール・カンダハール間の移動時間の短縮をもたらした。また、定量的に確認できたわけではないが、道路沿線地域の経済活動が活発化したことや治安状況が改善したことといった効果が現地関係者より指摘された。
一方、カンダハール・ヘラート間道路整備支援については、本評価現地調査の時点で、安全問題をめぐって半年以上工事が中断されている状況にあり、まだ当初期待されたとおりの成果があがっていなかった。工事が中断されていることについては、我が国政府関係者及び民間関係者との間で協議が行われてはきていたものの、2005年11月の現地調査実施時点において有効な解決策がまだ見出されていない状況であった。
アフガニスタンにおける我が国の道路セクター支援は、異なる支援スキームを活用することにより、幹線道路だけでなく、主要都市の道路や地方の道路を含めて整備することで、我が国援助による平和の配当を幅広く感じてもらえるよう工夫がなされていた。
(3)我が国の対アフガニスタン平和構築援助の「結果」の評価:その他分野の評価
(イ)行政支援
我が国は「平和の定着」の3本柱の一つに和平プロセスを掲げ、その下での主要な支援として行政支援を行った。行政支援の目的は、中央政府に必要な財源を手当てすることでガバナンスを強化し、アフガニスタン国内の政治的安定を促進することであった。我が国は外貨支援としてこれまで合計で72億円(約7,100万ドル)のノン・プロジェクト無償資金協力を実施した。これらの援助は、アフガニスタン政府が経済構造改善のために必要とする原材料の輸入決済にあてられることとなった。輸入した原材料の売却資金は「見返り資金」として積み上げられ、積み上げられた資金はアフガニスタン復興信託基金(ARTF)に編入され、我が国政府とアフガニスタン政府との間で合意する開発プログラム/プロジェクトに用いられることとなった。
ノン・プロジェクト無償資金協力のうち、実際に「見返り資金」として積み上がった金額は、2005年12月末時点で計33,498,436.07ドルであった。「見返り資金」については、実際に同資金が積み上がった段階で日本政府とアフガニスタン政府との間で使途協議を行い、アフガニスタン予算に反映されることとなっており、アフガニスタン政府SY1382会計年度(2004年3月-2005年3月)の予算に合計1,100万ドルが予算として計上された。一方、計上された予算が実際に予定どおりに執行されているかどうかは、今次評価において確認することはできなかった。このため、我が国の行政支援の成果及びインパクトについて確認することはできなかった。
我が国のノン・プロジェクト無償資金協力は、ARTFやアフガニスタン法秩序支援信託基金(LOTFA)といったアフガニスタン政府の財政支援を目的とした基金に直接資金を拠出するものではなく、これらの基金に直接多額の資金貢献をしている英蘭等の欧州諸国の支援とは対照的である。ただし、アフガニスタン政府は、直接の財政支援が困難であるという我が国の方針を理解しており、制約がある中でノン・プロジェクト無償資金協力という手段を用いてARTFに対する支援を行ってくれることについては高く評価していた。
財政支援については、外務本省及び在アフガニスタン日本国大使館関係者より、現地のニーズや治安情勢と照らして、我が国の平和構築援助のスキームの一つとしてより積極的に検討されるべきであるという意見が聞かれた。他方、財政支援については、アフガニスタン政府のような脆弱な政府の予算に対して直接資金供与をすることの財政リスク等も考慮する必要がある。
(ロ)草の根・人間の安全保障無償資金協力
アフガニスタンにおいては、平和構築へのインパクトに配慮して、以下の方針で草の根・人間の安全保障無償資金協力が活用されていたことが確認された。
- 地方のレベルで草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施することで、広く平和の配当を実感させて地域の不満を解消し、地域の安定化を促す。
- 重点分野の援助を円滑に進めるために、周辺住民の支持を得たり、周辺地域の安定化を促したりするために草の根・人間の安全保障無償資金協力を柔軟に活用する。特に、これら重点分野の大規模プロジェクトに従事する邦人関係者の安全状況改善に対する効果を重視する。
- 我が国のアフガニスタンにおける平和構築援助活動全般を円滑に行うことができるよう、地方の有力者や住民との関係を構築するとともに、地方の情報をより良く得られるようにする。
アフガニスタンにおける草の根・人間の安全保障無償資金協力実施件数は、2001年度から2004年度までの累計では410件となっている。
現地調査の際に草の根・人間の安全保障無償資金協力のプロジェクト現場を実際に視察したり、現地政府関係者、他ドナー関係者、現地ジャーナリスト等にインタビューを行ったりした結果、草の根・人間の安全保障無償資金協力による援助は、現地で目に見える成果をあげ、国際援助関係者及びアフガニスタン人双方から広く認知され高く評価されていることが分かった。
このような成果は、在アフガニスタン日本国大使館関係者をはじめとする我が国援助関係者が、成果をあげられるような仕組みを考え、それを実行に移す努力をしていたことに負うところが大きかった。例えば、在アフガニスタン日本国大使館の大使や経済協力担当官は、草の根・人間の安全保障無償資金協力の案件発掘・形成、完成式典等のために自ら積極的に地方出張を行った。日本人が直接に足を運ぶことによって、現地有力者や一般住民との緊密な関係を築くことができ、現地ニーズを的確に把握することができるとともに、このように築きあげられた関係は、治安情報の入手など邦人保護の観点からも重要な役割を果たした。
しかし、このように在アフガニスタン日本国大使館の大使や担当者が広く地方を飛び回ることは、援助の途中段階から困難となった。これは、主としてアフガニスタンの治安情勢の悪化によるものであった。アフガニスタンのように治安情勢が不安定な中で地方出張を頻繁に行うことは確かにリスクを伴うことであるが、アフガニスタンにおける従来の取り組みを見る限り、我が国政府関係者が一定のリスクを取りながらも地方に足を運び、現地の有力者や住民との関係を結び、情報入手ルートを確立することで、邦人の安全に貢献するという側面もあった。この事例は、現地においては、危険な中にあっても、できる限りの事前準備と安全対策をした上で現地有力者や住民との関係構築のために一定程度の広範囲の活動が必要とされる場合があるということを示していると言える。
4.3 「プロセス」の評価
4.3.1 我が国の平和構築援助「プロセス」の適切性・効率性の評価
(1)我が国平和構築援助政策の策定プロセスの適切性・効率性
我が国は、平和構築支援政策または平和構築援助政策という一般的な政策体系を持ってこなかった。このため、これまである国・地域の紛争への対応については、外務省の中で当該国・地域を担当する地域局が中心となり、我が国の外交政策の総合調整や安全保障分野における対国連政策を担当する総合外交政策局、そして経済協力を担当する経済協力局の主として3つの局が関わってある国・地域に対する平和構築支援政策(援助および援助以外を含む全体的な支援策)が立案されてきた。本評価において、我が国が平和構築支援政策または平和構築援助政策という一般体系を持っておらず、外務省の中に平和構築支援政策または平和構築援助政策一般を担当する担当局課が存在しないことが、政策遂行上特段の障害となっていたという事実は確認されなかった。しかし、我が国政府が平和構築支援を外交政策の一つの軸に据え、国際社会において積極的な貢献を行おうとするのであれば、平和構築支援政策及び平和構築援助政策を所管する担当局課が存在することが望ましいであろう。
(2)我が国平和構築援助の遂行プロセスの適切性・効率性
(イ)我が国平和構築援助の遂行体制・プロセス
アフガニスタンにおける我が国の平和構築援助は、様々な関係機関が関与し、様々な援助スキームを用いて実施されている。紛争国・地域では現地政府が存在しないか脆弱であり、通常のODAのように政府を主な受け手として援助を実施することができないため、平和構築援助の多くは、開発調査や専門家派遣等の技術協力や、国連実施機関やNGOに対する資金拠出の形で実施される。我が国の平和構築援助には、様々な我が国政府機関が関与している。アフガニスタンの場合には、外務省、JICA、財務省が主な関係機関となっている。また、外務省内部で平和構築援助に関わる関係局課も複数にまたがっている。このような中、外務省の地域局課がそれぞれの国・地域に対する我が国平和構築支援政策の総合調整の機能を果たしてきた。一方、現地レベルにおいては、アフガニスタンに対する支援の場合、在アフガニスタン日本国大使館が中心となり在アフガニスタンJICA事務所をはじめとする我が国の援助関係機関と協力して我が国平和構築支援の遂行にあたってきている。アフガニスタンに対する我が国援助体制は概ね以上のとおりだが、アフガニスタンの場合は、平和構築援助のうち紛争中から紛争直後のフェーズだけしか見られないという制約がある。より中長期的な開発フェーズにおける支援では、長期的な安定と紛争再発予防のための支援が必要であり、同目的のためには円借款を通じた支援も有効である。
(ロ)我が国平和構築援助の遂行プロセスの適切性・効率性
右に述べたような体制下で実施される我が国平和構築援助プロセスについて、本評価を通じた全体的な評価として、著しく適切性・効率性を欠いていた点は発見されなかった。しかし一方で、次のような状況が存在することも明らかになった。
まず、外務省をはじめとする日本政府内において、平和構築政策を総合的に調整・遂行する体制は存在しないことが分かった。個々特有に見える国・地域や問題領域であっても、それらの地域や問題領域を横断するような共通性が見られるはずであり、それらの共通性を見出し、今後の取り組みに生かしていくことは有意義であると考えられる。今後は、過去の援助経験をしっかりと分析し、その反省を蓄積して、より良い援助につなげていくための体制作りが望まれる。
第二に、外務省における現行の平和構築援助遂行体制においては、援助の総合調整にあたる担当局課の人員体制が実際のニーズと比較して不十分であることが分かった。
第三として、在アフガニスタン日本国大使館の人員・体制が効率的・効果的な援助実施のためには必ずしも十分ではないことが明らかになった。アフガニスタンにおいて、必要な人員の不足によって我が国の平和構築援助が期待されただけの効果が挙げられない事例があった。
第四に、在アフガニスタン日本国大使館における安全対策にかかる体制・人員配置及び資機材に対する予算措置が必ずしも十分でないことが確認された。
(3)被援助国政府・社会との協議・調整プロセスの適切性・効率性
被援助国政府・社会との協議・調整プロセスについては、アフガニスタンのケースを中心に評価を行った。まず、全般として、長年の内戦等の影響によりアフガニスタン政府機関は脆弱であることから、同国政府との協議・調整はこれまで必ずしも円滑ではないようであった。ただし、協議・調整プロセスが円滑であるとはいえないまでも、少なくとも、我が国援助関係者は、アフガニスタン政府側でカウンターパートとなる政府機関を常に関与させ協議の機会を持つことを重視してきたことが今次調査によって確認された。
個別分野毎の現地政府・社会との協議・調整プロセスについては次のように評価された。まず、DDRについては、アフガニスタン政府が主体的な役割を果たせる状況になかったため、主導国である我が国、UNAMAやANBPといった国際社会側の関係機関が主導する形で実施計画立案・遂行が進められた。この際、国際社会側がDDRを押し付けている形にならないようアフガニスタン政府の理解と協力を得ながら進められるよう配慮がなされていた。
次に、緒方イニシアティブについては、全体として現地政府・社会との間で十分な協議・調整が行われる形では進められてこなかったことが分かった。このような結果となった要因については、アフガニスタン政府側のカウンターパートの実施能力にも問題があったが、我が国及び国際社会の側としても、現地政府のより主体的な関与を得るための更なる努力が必要であった。
幹線道路整備については、我が国が道路セクターの主導国として重要な役割を果たした。アフガニスタンでの援助調整プロセスであるCG体制は全般として十分に機能していないと言われているが、道路セクターのCGについては、最も機能しているCGの一つであるという高い評価が聞かれた。
最後に、現地社会との協議・調整の点においては、草の根・人間の安全保障無償資金協力にかかる我が国の取り組みが、現地社会のニーズの汲み上げ、現地社会の主体的関与の確保、現地社会と我が国政府及び邦人との関係構築といった観点から成果をあげており、今後の取り組みの参考にできる。
(4)他ドナー、国際機関との協議・調整プロセスの適切性・効率性
紛争が発生し、収束に向っているような国に対して、国際社会は近年、紛争終結の見通しができた早い段階から国際会議を開催し、紛争後の復興ニーズの評価を開始し、その評価結果をもとに国際会議を開催し、当事国関係者とともに今後の復興計画について議論するとともに、ドナーより資金プレッジがなされ、本格的な復興プロセスが開始するという流れができている。アフガニスタンについても、米軍等によるアフガニスタン攻撃によってタリバン「政権」の崩壊の見通しが立ちその後の和平プロセスに向けた交渉が行われるようになる中で、復興面における国際社会の取り組みが進んだ。そのような流れの中で、2002年1月、我が国は東京においてアフガニスタン復興支援国際会議を主催したり、2003年2月にはアフガニスタン「平和の定着」東京会議を開催したりするなど、国際社会の協議・調整プロセスを実際にリードする側に立ってきている。このように大きな流れで見た場合、我が国は国際社会の援助協調・調整のために、他の二国間ドナーや国際機関との協議・調整に積極的に取り組んできていると評価することができる。
一方、アフガニスタンでの個別具体的な取り組みのレベルにおける援助協調・調整は次のとおり評価された。まず、DDRについては、我が国とともにDDRをリードしたUNAMAとDDRの実施機関であるANBPとの間で緊密な協議・連絡が行われていたことが確認された。一方で、緒方イニシアティブについては、同イニシアティブの下で期待されていた我が国と国際機関及び国際機関同士の緊密な連携・調整が必ずしも実現していなかったことが明らかになった。
(5)平和構築援助の事後評価プロセスの適切性・効率性
外務省が平和構築という観点からODA評価を行うのは本評価が最初である。一方、国際機関を通じて行われた平和構築援助については、当該案件の実施状況及び結果について国際機関から我が国政府に対して中間報告及び完了報告が提出されることになっている。外務省としては、国際機関経由で実施した全ての案件について、中間報告書及び完了報告書を提出するよう現地大使館や国際機関代表部等を通じて依頼・督促しているが、報告書の提出が遅延したり、結局提出されなかったりいうことが少なからず生じており、報告書が提出されている場合であっても、我が国の拠出金の出納状況について確認できるような情報が不足している場合も多いようである。このような中で、緒方イニシアティブ関連プロジェクトについては、外務省が在アフガニスタン日本国大使館を通じて各国際機関に対して、報告書の提出を強く義務付け、督促する等の措置を取ったことによって、全ての報告書の提出が励行されているとのことであった。
また、アフガニスタンにおいては、草の根・人間の安全保障無償資金協力のモニタリング・フォローアップについて興味深い取り組みが行われていることが分かった。草の根・人間の安全保障無償資金協力のモニタリング・フォローアップについては、実施機関による報告書の提出を受けたり、大使館員や現地職員が現地調査を実施したりという形で行われていることが多いが、アフガニスタンにおいては、現地のNGO等に対して在アフガニスタン日本国大使館がモニタリング・フォローアップを委託しており、このような評価は現地NGOからも高く評価されていることが分かった。
4.3.2 我が国の平和構築援助プロセスの発展性
(1)我が国政府の平和構築援助実施体制の発展性
紛争国・地域に対して支援が行われる場合、紛争が終結に向かい始めてから国際社会による支援が開始されるまでの時期においては、外交案件としての重要度が高く、外務本省においても当該地域を主管する地域局課や関係課に重点的に人員が配置される。特に、地域課においては他課からの増員が図られるだけでなく、当該課において全課体制が取られるなど体制の大幅な拡充が図られることが多いことが分かった。このように外務省が柔軟に人員を配置して迅速な対応にあたってきたことは評価されるべきである。
一方、緊急時の手厚い人員配置とは対照的に、当該問題に対する国内外の関心が薄れるにつれ人員配置が手薄くなり、その後の効率的・効果的な平和構築支援の実施において支障が生じているという傾向があることも明らかになった。
平和構築支援の前線基地となる現地側の体制は、国や地域の状況によって異なっている。アフガニスタンの場合、以前より在アフガニスタン大使館が法律上設置されていたため、大使館及び大使館員の派遣が比較的迅速に行えた。また、アフガニスタンでは、適材適所の人材を派遣することができたことが我が国援助の効果的・効率的な実施に貢献したことが分かった。
(2)我が国政府の平和構築援助スキームの発展性
我が国政府は、平和構築援助を行うにあたり、既存のスキームを活用するとともに、より効率的・効果的な援助を行うためにスキームの拡充・新設を進めてきた。
(イ)平和構築援助における援助スキームの新設・拡充
まず、我が国政府は、緊急無償資金協力を紛争国・地域に対して活用できるようその活用範囲を拡大してきた。緊急無償資金協力はかつては災害緊急援助を主たる目的としていたが、1990年代には、民主化支援や紛争後の復興開発支援に積極的に活用されるようになった。
第二に、我が国政府は、従来行われてきた無償資金協力による平和構築援助を強化する一方で、紛争を経験しまたは紛争の緊張が高まっている開発途上国における紛争予防・平和構築プログラムへの資金協力という、これまでの我が国援助スキームでは十分な対応が行えなかった事項についても対応することを目的として、2002年度に紛争予防・平和構築無償資金協力を導入した。同協力はアフガニスタンにおけるDDR支援にも活用されている。
第三に、1999年12月の小渕総理大臣(当時)の提唱を受けて、1999年3月に設置された国連人間の安全保障基金は、我が国の平和構築援助に積極的に活用されている。
第四に、我が国政府は、JICAが実施する開発調査事業の一形態として1999年度より緊急支援調査(緊急開発調査)を実施してきている。緊急支援調査は、大規模な自然災害や内戦により被害を受けた国に対する復興支援のため、緊急復興計画を策定するとともに、緊急な事業実施を特に必要とする場合、あわせて緊急復旧リハビリ事業を実施するものであり、アフガニスタンに対する支援でも積極的に活用されている。
第五として、我が国は、アフガニスタンの幹線道路整備支援に際して、道路セクター・プログラム無償資金協力という新たな援助スキームを導入した。道路セクター・プログラム無償資金協力は、プログラム無償でありながら道路整備プロジェクトの支援を目的としているとともに、プロジェクト支援でありながら一般プロジェクト無償資金協力とは異なる手続きを経て実施されるという点等で従来の援助スキームと異なっている。
(ロ)現在の平和構築援助スキームの評価
我が国政府は、より迅速、効率的かつ効果的な平和構築援助を行うために援助スキームの拡充・新設を図ってきており、援助スキーム発展のためのこれまでの努力は評価されるべきである。しかし一方で、平和構築援助をより迅速、効率的かつ効果的に行っていくために援助スキームの運用改善・拡充が必要であると思われる点がいくつか発見された。
第一に、改善が望まれる点として発見されたのは、草の根・人間の安全保障無償資金協力及び日本NGO無償資金協力で認められる費目の範囲設定である。これらのNGO支援スキームで認められる費目の中には、安全対策費が認められていない。平和構築援助は危険地で行われる場合が多く、そのような場所で援助を行う際、安全対策費は援助活動の必要不可欠な経費であるが、我が国政府のNGO支援スキームではこれら経費の計上が認められていない。
第二に、これら二つのNGO支援スキームについて、援助申請時に必要とされる見積もりがあまりに細かく厳格に要求されるために申請までに時間がかかり、タイムリーな支援活動が実施できないという指摘がなされた。
第三に改善が望まれると思われたのは、我が国の技術協力の実施スピードである。アフガニスタンにおける支援では、外部要因による影響も大きかったが、JICA内部での協議・調整手続きに時間を要しために事業が円滑に遂行されなかった側面もあった。この点、JICAとしてもアフガニスタンにおける反省を踏まえ、ファスト・トラックの導入等改善に向けた取り組みを進めているとのことであるが、今後は、現在の改善努力が十分であるか然るべくフォローアップをしていくことが必要である。
第5章 総合評価と提言
5.1 総合評価
本評価を通じて、我が国がより効率的・効果的な平和構築援助を行っていくためには、多くの課題が残されていることが分かった。ただ、それは我が国としてのこれまでの取り組みが不十分であったことを意味するのではない。むしろ、平和構築という取り組みはまだ歴史が浅いものであり、我が国が平和構築援助に取り組むための制度整備・人材育成がまだまだ発展途上にあると考えるのが妥当である。特に、平和構築援助が必要とされる紛争国・地域においては、緊急執行の必要性や相手国政府の不備といった状況が存在しており、そのような状況で効率的・効果的援助を行っていけるような制度整備・人材育成の取り組みが必要となる。
5.2 提言
(1)平和構築支援政策立案・遂行のための体制構築
平和構築政策の立案・遂行のための外務省内の体制を構築すべきである。具体的には、平和構築支援政策全般を担当する局・課室の特定と強化、迅速かつ柔軟な政治的判断が可能な意思決定メカニズムの構築を提案する。まず、援助政策のみでなく、政治的、軍事的その他あらゆる側面から平和構築の取り組みを全般的に担当し、知識・経験の制度的蓄積を図るための外務省担当局・課室を設定しておくことが必要である。次に、平和構築支援政策の立案・遂行にあたり、迅速かつ柔軟な意思判断ができるよう、外務省内の総合調整が可能なハイレベルのポストを長とする意思決定メカニズムを必要に応じて設置することを提案する。その際、平和構築支援について高度に政治的な判断が必要となり、通常のプロセスとは異なる柔軟な判断を行う際に従うべき原則も定めておくべきである。
(2)現地大使館の能力強化と現地判断の重視
平和構築援助においては、迅速かつ的確に現地情勢の変化に対応しニーズに合った援助を実施するために、現地大使館を前線基地として位置づけ、その能力を強化し、大使館への権限委譲を目指す必要がある。その際、アフガニスタンのように大使館の体制構築と平和構築援助の実施を同時平行的に進めていかなくてはならない状況においては、優先順位を置きつつ現地機能強化を進めていく必要がある。まず優先順位が置かれるべきなのは、平和構築への高い意欲を持ち現地の事情に精通し、強いリーダーシップと行動力を持った大使の起用である。次に優先順位が置かれるべきなのは、重点分野に沿った適材適所の専門人材の配置である。また、大使館の能力強化を現地職員の登用・活用によって進めることも検討されるべきである。さらに、大使館の能力強化とともに、現場の判断を重視していくことは、特に迅速性が必要とされる平和構築援助を効果的・効率的に実施していくために重要である。
(3)国際的に合意された平和構築の政治プロセスを強く意識した援助の実施
我が国がある国・地域の平和構築に取り組むにあたっては、その国・地域における平和構築の基礎となっている国際社会に支持された紛争当事者間の合意に基づくプロセスを強く意識し、そのプロセスの発展を促すような援助を実施していくべきである。また、平和構築という取り組みは、紛争国の人々の合意が形成された時点から開始されるわけではなくこのような合意を作り出すために我が国は今後さらに努力していくべきである。
(4)現地政府・社会の能力形成を重視した継続的援助の実施
平和構築においては、自立的かつ持続的に平和な国家・社会の構築を促すために、現地政府・社会の能力形成を重視した援助が継続的に実施されるべきである。人材育成・制度構築のための援助は、アフガニスタンのように全てが不足している環境では、社会のあらゆる層にニーズがあると言っても過言ではないが、実際には国際社会によって援助できる規模は限られていることから、その国・地域の状況を踏まえて、その国の平和と安定を促すために特に重要と思われるターゲット集団を絞り、重点的な援助を行っていくことが望ましい。また、中央政府の能力強化という観点からは、現地政府に対する財政支援を検討することも可能である。財政支援については、その是非を一律に判断することはできないが、現地における財政支援に対するニーズの高さ、財政リスクを軽減するモニタリング・メカニズムの有無、現地の危険度及び我が国の支援体制と照らした我が国にとっての財政支援のメリット等を考慮しつつ、メリットが上回ると判断される場合には積極的に財政支援が検討されても良いであろう。さらに、援助の継続性という観点からは、我が国は、無償資金協力、技術協力、有償資金協力といった異なるスキームを活用して継ぎ目の無い支援を行うことができるという比較優位を有することを改めて認識すべきである。
(5)平和構築分野で活躍できる人材の育成と確保のための取り組みの推進
平和構築援助の実施にあたっては、現地大使館などに十分な数の専門的知識・経験を持つ担当官を置くことが必要である。このためには、専門知識と経験を持つ人材の育成と人材の適時な派遣が可能となるようなメカニズムの強化が必要である。国内における平和構築援助人材の育成については、政府内外の人材に対する国内の研修をさらに充実させるとともに、平和構築援助の現場経験を促すための政府の継続的な取り組みが期待される。国外における平和構築援助人材の育成としては、国連PKOへの派遣や我が国援助関係者としての現地派遣が継続されるべきである。また、平和構築援助人材を育成し、確保するためには、平和構築援助に従事することを魅力的なものにする制度整備も必要である。例えば、政府機関職員の派遣については、平和構築援助の現場に赴任すること自体に対して人事考課上高い評価を与えることとしたり、企業、教育機関、病院等の民間機関の人材に対しては、平和構築援助従事者に対する国家表彰制度を整備するなど平和構築に取り組むことの社会的評価を上げていくための取り組みを行うことが考えられよう。さらに、有能な人材を確保し適時に派遣できるようにするためのネットワーク及びデータベースの強化が望まれる。
(6)平和構築援助の実状とニーズに対応した援助スキームの運用改善・拡充
我が国政府は、平和構築援助が必要とするニーズに対応するために、引き続き援助スキームの運用改善・拡充に努めるべきである。第一に、草の根・人間の安全保障無償資金協力及び日本NGO無償資金協力という二つのNGO支援スキームについて、平和構築援助の現場の状況と照らして必要な場合には安全対策費が支援対象となる経費の一部として認められるべきである。第二に、これら二つのNGOスキームについて、プロジェクト総額の一定経費を緊急経費として計上することを認めるべきである。第三に、我が国技術協力の迅速な実施のために現在実施されている改善取り組みについて適切なフォローアップが望まれる。
(7)草の根・人間の安全保障無償資金協力の柔軟かつ戦略的活用
草の根・人間の安全保障無償資金協力は、平和構築援助という文脈において独自の効果を発揮させることができるよう、アフガニスタンにおける例を参考としつつ、柔軟かつ戦略的に活用されるべきである。まず、草の根・人間の安全保障無償資金協力は、住民に「平和の配当」を感じさせることで草の根レベルから平和を醸成していけるよう、小規模であっても迅速かつ直接に地域住民を裨益するような案件に対して広く実施されるべきである。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力は、我が国政府関係者をはじめとする邦人と現地住民との関係強化・信頼醸成に貢献するよう戦略的に実施されるべきである。我が国政府としては、今後の平和構築援助実施においても、こうした側面を強く意識し、我が国援助をさらに一層戦略的に実施していく方法について研究をしておくべきである。
(8)十分に整備されかつ柔軟な安全対策体制の構築
平和構築援助は、多くの場合、危険地での活動を前提としている。そのため、平和構築活動従事者の安全を確保しつつ、援助の円滑・効率的かつ効果的な遂行を促すため、我が国政府として十分に整備されかつ柔軟な安全体制を構築しておくことが必要である。第一に、平和構築援助にかかる安全対策の指針が策定されるべきである。平和構築援助にあたる日本国大使館が備えておくべき安全対策にかかる人員体制、設備にかかる指針、我が国援助関係者が不測の事態に直面した場合の大使館及び外務本省の対応指針、安全対策のためのNGOや国際機関とのネットワーク構築にかかる指針等、平和構築援助に関わる我が国政府援助関係者及び民間援助関係者が参照できるような安全対策の指針が策定されるべきである。第二に、安全対策に必要な現地大使館の人員体制及び設備の増強が図られるべきである。まず、大使館職員のみならず在留邦人全員の安全状況を把握し、必要な情報収集と安全措置の実施を行いうる人材を必要数大使館に配置すべきである。第三に、現地職員の更なる活用が検討されるべきである。現地職員は、現地事情に精通しているとともに、現地住民であることにより安全リスクを低下させることができる可能性がある。第四に、万が一を想定した制度を整備しておくことが必要である。もちろん、既に行われているとおり、平和構築援助に従事する政府職員、民間専門家等については強制的に業務に従事させるような側面があってはならず、インフォームド・コンセントが極めて重要であることは言うまでもない。さらに、我が国政府による平和構築援助に従事する邦人に対しては、万が一の事態が生じて生命が失われたり、高度な障害を負うような事態になった場合、国として当該被害者やその家族の生活を補償したり、援助したりする制度を整えておくべきである。
(9)武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)に対する効果的支援のための具体策の検討
我が国政府は、ODA大綱の下で平和構築のためにODAを活用すべきとされている武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)支援に今後とも積極的に取り組んでいくための方策を再検討すべきである。アフガニスタンにおいてDDRが一連の流れを持った取り組みとして実施される中で、我が国はそれらの一連のプロセスをODAによって一体的に支援することはできなかった。確かに、平和構築の現場では、常にDDRが一体として実施されるわけではなく、国々の状況によっては動員解除及び/または社会復帰のみを援助する場合もあるであろう。しかし、アフガニスタンの場合のように、将来再びDDRを一体として支援する必要がある場合に我が国が遭遇することは十分に考えられる。このような場合、我が国としては、ODA大綱でDDRを支援するという方針を打ち出す中で、ODA大綱の諸原則と矛盾しない形で、効果的な援助を行っていく必要があり、そのための具体策を検討しておく必要がある。
おわりに
ここでは、外務省から委託を受けたODA評価であるという性質に鑑み、提言にはあえて含めなかったが、我が国の今後の平和構築に向けた取り組みを考える上で重要であると思われる点について二点触れておきたい。
一点目は、我が国政府の平和構築支援体制についてである。平和構築支援をODAという枠に限定せずに考えた場合に重要なのは、外務省に加え内閣府、防衛庁といった他の機関を含む我が国政府内での連携強化である。これらの関係省庁はこれまでも緊密に協力し合って国際貢献に取り組んできたが、閣僚レベルでの協議・調整プロセスの強化等、更なる連携強化のための措置が検討されても良いであろう。
二点目は、提言の最後に触れた武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)に対する支援とODA大綱との関係についてである。現在の解釈では、ODA大綱の「軍事的用途への使用回避」原則と照らして、軍が実施する部分や武器再利用を前提とする部分等を含む武装解除が含まれるDDRに対するODAによる支援は行えないこととなっている。これに対し、我が国政府が今後取りうる方策については、例えば、ODA大綱の文言や解釈を変更するという方法、現在のODA大綱の文言、解釈を堅持してDDR支援もその範囲内のみで行うという方法、ODA大綱は尊重しつつ、ODA大綱と抵触する武装解除支援についてはODA以外の予算を用いた政治支援として実施するといった選択肢がある。我が国政府としては、効果的なDDR支援のために、ODA以外の資金を活用する可能性も含めて、今後の支援方針を検討すべきであろう。