I.実施計画に基づく事後評価
2. 政府開発援助(ODA)
(1)政府開発援助における政策
対タンザニア国別援助計画(2000年6月~)
経済協力局開発計画課長 岡庭健
平成18年5月
目標
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我が国の対東アフリカ援助の拠点国の一つとして、その発展を支援し、良好な二国間関係の更なる強化を図る。
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施策の背景・概要及び必要性
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(1)タンザニア援助においては1995年頃から「援助協調」に係る議論が本格化し、タンザニア国別援助計画が策定された2000年6月以降、第1次貧困削減戦略(PRS)、タンザニア支援戦略書(TAS)、成長と貧困削減のための国家戦略(NSGRP: National Strategy for Growth and Reduction of Poverty)等が策定され、さらに現在共同援助戦略(JAS: Joint Assistance Strategy)を策定中であるなど、状況が急速に進展している。こうした状況下、特定セクター支援のための各ドナー拠出の共通基金(セクターコモンバスケット)、あるいは一般財政支援といったスキームも徐々に進展中である。
(2)日本は「アフリカ問題の解決なくして、21世紀の世界の安定と繁栄はない」との考えから、1993年開始のアフリカ開発会議(TICAD)等により、国際社会において、対アフリカ協力のリーダーシップをとり、1990年代に入り、対タンザニア援助において最大支援国の一つとなった。タンザニアに対する日本の協力実績は、2003年度までの累計で無償資金協力1,261.94億円、技術協力 539.79億円等の合計 2,008億円となっている。
(3)評価対象である対タンザニア国別援助計画(2000年6月策定)は、援助の基本的方向性を、1)無償資金協力・技術協力を中心とする支援、2)費用対効果等、援助の質の向上、3)社会的弱者に直接的に裨益する案件の優先的採択、4)貧困層にも配慮しつつ経済成長に資する基礎インフラの継続的支援、として、タンザニアの開発課題に沿う以下の5つの重点分野に焦点を当てて支援を行うこととしており、タンザニアの開発上、必要性の高いものである。
(イ)「農業・零細企業の振興のための支援」
(ロ)「基礎教育支援」
(ハ)「人口・エイズ及び子供の健康問題への対応」
(ニ)「都市部等における基礎的インフラ整備等による生活環境改善」
(ホ)「森林保全」
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投入資源
(コスト)
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平成12年度:無償4.73億円、技術協力5.42億円
平成13年度:無償9.58億円、技術協力5.47億円
平成14年度:無償11.81億円、技術協力7.22億円
平成15年度:無償10.32億円、技術協力8.34億円
平成16年度:無償8.86億円、技術協力10.70億円(但しJICA実績のみ)
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施策の効果の把握方法
(枠組み)
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(1)目標の妥当性
(イ)日本のODA政策との整合性
(ロ)タンザニア国家開発計画との整合性
(ハ)主要ドナーの対タンザニア援助政策への配慮
(2)成果の有効性・インパクト
(イ)援助重点分野での活動の有効性
(ロ)日本の援助に対するタンザニア政府/ドナーの見方
(ハ)「援助計画」の「支援の意義」に関する有効性
(3)プロセスの適切性
(イ)国別援助計画の策定過程の適切性
(ロ)国別援助計画の実施過程の適切性
(ハ)検証システムの適切性
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評価の結果
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(1)目標の妥当性
当該政策は、ODAの上位政策(ODA大綱、ODA中期政策など)と基本的に整合している。タンザニアにおいて貧困削減戦略(PRS)等が策定され、援助環境は大きく進展したものの、同国の開発ニーズと基本的に整合的していると判断され、目標は妥当であった。
(2)成果の有効性
日本の支援は全体としてタンザニア側(及び他ドナー)から重視されており、農業、保健、道路、水、PRS対応等で有効性が大きかった。特に農業セクターでは、日本はセクタープログラム推進のリード役を担い、同国の農業開発政策策定に貢献するとともに、無償による灌漑分野や食糧援助等の見返り資金を通じた農村開発への貢献が大きかった。
他方で、タンザニア国別援助計画には明確な指標が設定されていないため効果の測定に限界があった。
また、我が国の個別の援助案件はそれぞれ十分な効果を生んだと思われるが、全体としてみると相互の連携は必ずしも十分とは言えず、全体的な相乗効果はやや弱かった。
(3)プロセスの適切性
「援助計画」の策定過程については、当時、タンザニアで進展中の援助協調に関する情報を必ずしも十分取り込めなかった。
実施過程においては、タンザニア側で展開する援助協調など新たな援助環境に対して実務上ではかなり積極的に対応できた。
検証システムについては、2000年以降、1回実施体制評価調査が行われたのみであった。定期的なフィードバック体制の確立が望まれる。
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評価結果を踏まえた今後の取組
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(1)限られた援助資源を有効に活用するためには、「国別援助計画」を戦略的に策定することが重要である。日本の優位性を踏まえ、選択と集中を図った援助内容とする。具体的には、日本が注力する分野・課題を明らかにし、ODA大綱や中期政策にも示されているように、より横断的な課題別の視点で臨むとともに、さらに各注力分野・課題間でも優先順位を確認しておくことが重要である。
(2)タンザニア次期「国別援助計画」の策定に当たっては、一般的な理念や方向性に加えて、先方政府が設定する戦略目標を十分に考慮した上で、定量的もしくは定性的に測定可能な戦略目標を設定し、その上で、可能な範囲で、設定時間内で目標を達成するために必要な投入(インプット)、具体的な達成方法、見込まれる結果(アウトプット)、及び成果(アウトカム)を明らかにできるようにすることが望ましい。
(3)現在進行中の援助協調の流れは、それ自体が目的ではなく援助の目的・目標を達成するための手段の一つとしてとらえることが重要である。その上で、日本がどのようにこの流れに対応するのかを示す基本方針を明らかにすることが求められよう。具体的には、「政策」、「資金利用」、「手続き」の各側面で日本の基本的認識を明らかにし、それらを基に、重点分野・課題との関連で、それらをどう組み合わせていくのかを明らかにする必要がある。実施において、日本がリードをとる分野・課題かどうか、一般財政支援、セクターコモンバスケット支援、プロジェクト型支援のいずれを選択するのか、が明確にされなければならない。また、スキームの拡大やスキーム間の有効活用、コモンバスケットへの投入も可能な費目の整備等の検討も必要と思われる。
(4)援助協調も含め援助の効果的実施の点から、組織力の強化と職員の能力開発を体系的計画的に行うことが重要である。企業や大学との提携、青年海外協力隊員やインターンの活用、教育訓練による知識・スキルの向上等、従来のやり方にとらわれない柔軟な発想をもって問題に対処することが重要である。
*概算要求、機構・定員要求への反映方針
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概算要求
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機構要求
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定員要求
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反映方針
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○
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―
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―
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政策評価を行う過程において使用した資料等
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- 「タンザニア国別評価報告書」(平成18年3月)
- (要約のみ別添。全文については外務省ホームページにて公表)
- 〔http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/shiryo/hyouka.html〕
- ODA白書(2005年)
- 国別データブック(外務省ホームページにて公表)
- 〔http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/05_databook/index.html〕
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備考・特記事項
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タンザニア国別評価報告書:要約
1.評価調査の背景・目的・対象・方法
(1)本件調査の背景・目的
タンザニアに対する日本の基本的な援助政策は「タンザニア国別援助計画(以下、「援助計画」と略称)である。2000年6月に「援助計画」が策定されて以来、タンザニアに対する日本の援助はこの「援助計画」に基づき実施されてきた。しかし「援助計画」策定後すでに5年が経過し、国内においては新ODA大綱の策定(2003年8月)、またタンザニアにおいても貧困削減戦略(PRS: Poverty Reduction Strategy)の進展・援助協調への動き等、援助環境を巡る諸情勢が大きく変化しつつある。
このような状況を踏まえ、本評価調査はタンザニアに対する日本の援助政策全般を「援助計画」を中心に据えて評価し、今後のより効果的・効率的な援助の実施の参考とするための教訓を得、提言を行うとともに、評価結果を公表することで説明責任を果たすことを目的として実施されたものである。
(2)本件評価の対象
本評価調査の対象は、「援助計画」をはじめとするタンザニア国別援助政策全般である。外務省発行の「ODA評価ガイドライン第2版(2005年5月)(以下、「ガイドライン」と略称)では、「国別評価」を「政策レベル評価」の一つとして位置付けており、個別のプロジェクト、あるいはプログラムでなく、それらの総体を評価対象としている。すなわち、具体的な活動を踏まえつつ、それらの活動の基本となった「政策」の妥当性・有効性を評価するものである。具体的には、「援助計画」に基づき実施されたすべての援助事業(2000年6月?2005年5月の期間の技術協力プロジェクト、無償資金協力、開発調査等)を概括しつつ、2005年8月に現地調査にて収集した情報、及びその後の進捗を適宜盛り込みながら、それらのセクター別・全体での有効性を検証する。さらに、援助事業そのものの効果とともに、「援助計画」を実施に移すための体制・プロセス等も評価の対象とした。なお、本評価調査と並行してタンザニア・ベトナムの一般財政支援に関する評価調査が実施されているが、本件では、それとの関係で、具体的評価対象をタンザニア援助政策の分野別援助活動ならびに援助協調のレベルに留める。
(3)本件評価の方法
本件評価は、基本的には「ガイドライン」にもとづき、「目的の妥当性」「結果の有効性」「プロセスの適切性」の3つの視点から評価を行った。本評価の対象であるタンザニアは、近年の新たな援助動向である政府、ドナー、及びドナー間での援助協調に関し、世界的に見ても最先端の状況にあり、日本の援助もこれに対し様々な対応を試みてきたことを踏まえて、本評価調査では「援助協調」の視点に特に焦点を当てた検証も試みた。
2.タンザニアの近年の開発動向
タンザニア援助においては、「援助協調」の議論が盛んであり、実体的にもかなり進展している。援助の調和化という考え方自体は、1995年以前、既に世銀によって「セクターワイドアプローチ」として提唱されていたが、タンザニアでは、1995年作成のヘライナレポート以降本格化した1。同レポートは、援助効率の向上・当該国自主(オーナーシップ)の醸成のために、政府主導によるセクタープログラムの策定、政府財政体系に則った援助資金の投入等への移行が重要、と指摘している。現在のところ、セクタープログラムは(初等)教育、保健医療、農業、地方行政改革、道路等で実現している。農業セクターにおいては、日本がリードドナーとしてプログラムをまとめている。セクターコモンバスケット、あるいは一般財政支援への参加も徐々に進展中である。タンザニア政府は、2000年6月以降、第1次PRS、タンザニア支援戦略書(TAS)、成長と貧困削減のための国家戦略(NSGRP(MKUKUTA):National Strategy for Growth and Reduction of Poverty)等が策定された。現在は、共同援助戦略(JAS: Joint Assistance Strategy)を策定中で、「援助協調」の一層の深化を構想している。
1 へライナレポートは、1990年代中期、タンザニア政府の改革への取り組みに対し懸念を表明したドナー側と支援を減じるドナーに対し不信感を強める政府側との間で対立が深まったことを受け、両者から独立した立場で政府-ドナー間の関係を検証し改善を提案した報告書である。なお本報告書の略称は調査団の団長を務めたトロント大学のヘライナ氏の名にちなむ。
3.日本の対タンザニア援助の評価
(1)目的の妥当性に関する総括評価
1)日本のODA政策との整合性
「援助計画」で取り上げる重点課題については、同文書がタンザニアに対する全体的な援助政策を示すという目的から、かなり包括的なものとなっている。それらの項目は、ODA大綱、中期政策、アフリカ政策等の重点事項と比べると、僅かにばらつきは見られるものの、総合的にどの政策にも十分対応している。また上位政策が目指す方向性についても概ね整合性があることから、「援助計画」は日本の上位政策の枠組みを十分踏まえて策定されていると判断できる。
2)タンザニア国家開発計画との整合性
1980年代、世銀・IMFによる構造調整政策の導入後、アフリカを取り巻く援助環境は著しい変化を遂げてきた。タンザニアでも1995年に発表されたヘライナレポートを始め、現在の援助環境に至るまでに様々な変遷を経てきた。「援助計画」が策定された当時には、まだ第1次PRSも策定されていなかったため、「援助計画」策定時におけるタンザニアの国家開発計画との整合性については、2000年6月前に策定された国家貧困撲滅戦略(NPES)やタンザニア開発ビジョン2025(Vision2025)と比較する必要がある。
「援助計画」は、基本的には1997年2月にタンザニアに派遣された経済協力総合調査団とタンザニア政府との合意に基づく援助重点分野を基にしている。従って、当時すでに策定されていたNPES及びVision2025等とは基本的には整合性がとれているものと判断できる。
しかし、援助環境の変化に伴い、その後5年間でタンザニアの開発計画は大きな進展を見せ、援助関係者が重視すべき各種政策文書が次々と発表されている。この一連の流れと比較して、「援助計画」が整合性を維持してきたかという点についても論じることも重要である。2000年6月以降に策定された第1次PRS、TAS、NSGRP(MKUKUTA)、JASと比較すると整合性が必ずしも十分でないものが徐々に散見されるようになってきた。これは「援助計画」策定当時の予想を超えて、援助協調の状況が速くまた大きく変化したためと思われる。しかし、全般的には「援助計画」の重点分野が十分包括的であったことから、結果的に多様な分野に対応でき、タンザニア側の様々な政策にもある程度柔軟に対応できることとなった。
また、「援助計画」においても、複数あるタンザニア国家開発計画においても、貧困削減/撲滅に向けた社会経済発展計画という目指すべき方向性については基本的に同様であり、この基本線においては「援助計画」は妥当性を保っていたと判断される。
3)主要ドナーの対タンザニア援助政策への配慮
タンザニアにおける援助が、「援助協調」を中心に動いていることから、主要ドナーの援助動向を把握することも重要である。
多くのドナーは、特定分野への専門的支援というよりは、援助の主要政策目的を、貧困削減/撲滅や貧困モニタリングと位置づけ、タンザニアのオーナーシップや援助受入体制の強化、グッドガバナンスやアカウンタビリティ(説明責任)、パートナーシップ等、分野横断的な課題に焦点を当て、持続可能な経済・社会・環境開発の支援を目指している。日本の援助は、これらの視点の一部を、「援助計画」の「援助実施上の留意点」で補う形として対応しているが、必ずしも十分とは言えない。
しかし、日本は援助協調に関して、近年、積極的に参画する方向にあり、その中で関連する他ドナーのタンザニア援助政策にも配慮を深めつつある。
(2)結果の有効性・インパクトに関する総括評価
「援助計画」に基づいて実施された援助活動を重点分野毎に捉え、各分野での有効性の評価を試みる。しかし、個別案件の評価と異なり、分野での有効性においては、相手国の政策・制度、経済状況、他ドナーの政策・援助活動等、関係する外的要因が多いこと、また成果として何を測定するかが必ずしも「援助計画」のなかで明確になっていないこと等から、指標に基づいた客観的な評価は現実問題として困難である。したがって、ここでは、直接的な成果を示す指標ではないが、有効な成果をもたらすための必要条件と見なせる下記の4項目を検証し、有効性の程度を評価する。なお、専門家派遣、研修員受け入れ等に関する個別の検証は行っていない。
- 資金的貢献度
- タンザニア側ニーズの反映度
- プロジェクト間の相乗効果・波及効果
- セクター/地域・マクロ的指標の改善度
2000年6月から2005年3月の間に完了、開始または継続中の実施案件について、重点分野ごとにまとめた「重点分野毎の実施案件リスト」を以下に示す。
タンザニアは、日本の「援助計画」が策定・執行された5年間で、かなりの制度改革を成し遂げ、現在もそのプロセスを続行中である。経済状況は安定しており、また拡大傾向にある。貧困削減に関する達成度はまだ確定的なことを述べる段階には至っていないが、少なくとも教育等の一部セクターでは大きな改善が見られている。総体的に言えば、タンザニアの開発は比較的順調に進んでいると言える。もちろん、このようなタンザニアの順調な開発は、日本の支援だけで実現したものではない。援助資金的にみれば、日本は主要ドナーの一つには数えられるものの、東南アジア地域のような突出した資金額を拠出してはいない。むしろ、多数のドナーの一国として政府・ドナーと協調しつつ援助を実施してきたといえよう。
このような支援形態の中で日本だけの援助効果(有効性)を特定することは困難であるが、上述の検証項目に従って検証した結果を踏まえ、「援助計画」の政策的有効性に関する評価をまとめると、おおよそ以下の通りである。なお、援助協調への対応についての評価は「4.タンザニアの援助協調への日本の対応に関する評価」で論ずる。
- 日本の支援は全体として、タンザニア側(及びドナー)から重要と認識されている、すなわち日本の支援のプラスの効果が認識されている。全体的評価としては、農業、保健、道路、水、PRS対応等で有効性が大きかったと考えられる。
- 日本の援助が有効とされた分野は「農業」、「道路」等のインフラ関係の分野であった。農業セクターでは、日本はセクタープログラム推進のリード役を担い、タンザニア農業の開発政策策定に貢献するとともに、無償資金協力による灌漑分野及び食料援助等の見返り資金を通じた農村開発への貢献も比較的大きかった。また道路分野では、無償資金協力により、整備計画に含まれていた重要道路の新設・改修を実施し、資金的貢献も比較的大きく、また対象プロジェクトの選定等も概ね適切であった。
- 「教育」、「保健」セクターでは、例えば教育セクターでは、セクターバスケット資金には参加しておらず資金的貢献は限定的だが、同セクタープログラムを補完する地方レベルの教育計画策定能力の強化支援プロジェクトを実施し、学校建設等直接的に就学率向上に貢献する活動も実施した。また保健セクターでも、セクターバスケットには不参加で、資金的には必ずしも大きな貢献ではないが、感染症対策への支援、地方の保健医療行政能力の強化支援、政策アドバイザー(援助調整)の投入等、タンザニアの政策に沿った重要な部分を支援してきた。このようにこれらのセクターではある程度の貢献が確認されたが、教育及び保健セクター全体に占める資金的割合からみると、日本だけの貢献が特記されるほどであったとは言い難い。ただし、量的貢献とは別に、日本の自らの政策目標達成の観点では、これらのセクターに他ドナーと共に政策レベルにおいて積極的に参加することはそれなりに意義があったと言える。これらのセクターはMDGsや社会開発、貧困削減等との関連で、いずれもその重要性は認識されるが、タンザニアへの支援において日本がどう効果的にそれを行うかという戦略的な観点からなお検討が必要なように思われる。
- 「援助計画」には含まれず、その後の現地の実情への対応として開始された「その他(PRS対応等)」は、資金的な貢献は小さいが、2000年6月以降に策定された第1次PRSを始めとするタンザニア側の政策によく対応しており妥当性があった。またタンザニア側からも評価されている。
- 「水産業」への日本の支援は、水産業におけるタンザニア政府公共支出額と比較すると、資金的には比較的大きく、漁場確保の点でも重視されている。また、水産物がタンザニア国民の貴重なタンパク質源で重要な栄養源となっていることから、水産業の活性化は貧困削減の観点からも重要な貢献であったと思われる。しかし、本評価調査の主たる対象である「援助計画」では日本の水産業、並びにタンザニアの水産業に関する記述は見られず、またタンザニア政府の開発計画においても重要分野とは認識されていない。以上から、日本の支援は重要な貢献であったとは考えられるものの、タンザニア政府の政策に沿った支援という観点からは必ずしも有効なものであったとは言い切れない。
- 「電力」、「森林保全」、また「零細企業振興」では、援助活動自体が少なく、「援助計画」という政策には含まれていながらも、十分な対応は取られてこなかった。「電力」に関しては、開発調査が1件実施され、先方政府から高い評価を得られたものの、カウンターパートであるタンザニア電力公社(TANESCO)が民営化される可能性もあったことから、効果は限定的であったと判断せざるを得ない。
次いで、重点分野毎でなく、援助の全体に関する有効性については以下の通りである。
- 各分野の案件形成・採択は、その分野のニーズを背景に考慮されているが、さらに深く戦略性を検討して、相乗効果が期待できるように案件を採択・実施することが期待される。ここでの戦略的案件形成では以下のような一連の活動が行われることが想定されている。
- 限られた援助資源を有効活用する観点から、援助の結果としてタンザニアにどのような変化を期待するのか全体目標を明らかにすること。
- その全体目標達成のために、個別の援助分野/課題の中でどのような面を特に支援するのか明らかにすること。
- また、個別の支援活動(プロジェクト)の選択に際して、それらが全体として効果的に日本の支援目標達成に役立つように相互連携を考慮すること(例えば、農村開発を目標にする場合には、潅漑プロジェクト・農村道路プロジェクト・農業技術指導・農産品市場活性化プロジェクト、等を連携させて支援する、等)
- さらに、人材育成・政策策定支援・体制整備支援、等ソフト分野の支援も有機的に連携させること。
- 今回対象の「援助計画」には明確な指標が設定されていない。今後の効果的な援助実施のためには何らかの指標の導入が有効と思われる。あくまでも参考例ではあるが、第6章「提言3.「援助計画」への指標の導入」において、具体的な指標の参考例を記した。
- 「援助計画」による外交関係への貢献についての分析は困難だが、両国間の要人往来は密になっており、これを見る限りでは関係の緊密化が見られる。タンザニア支援は日本のアフリカ支援政策の中で重要な位置を占めていることが確認された。
世銀と並んで日本は16のセクター協議に参加している。留意点としては、「援助協調」への対応は重要ではあるが、その一方で、援助協調に参加する分野/課題の選択、参加の方法等を慎重に選択する必要があり、そうした「戦略的」な対応が必要であると思われる。
以上から、政策としての「援助計画」の有効性は、概ね妥当なものであったと判断される。しかし一部支援分野では有効性はかなり小さなものであった。また戦略的支援の観点では今後一層の改善が期待される。
(3)プロセスの適切性に関する総括評価
1)策定過程の適切性
「援助計画」の策定にあたっては、当時、外務省本省の審議官又は参事官を監督者、局内各課課長、評価室長、及び有償資金協力課・技術協力課・政策課企画官をヘッドとし、当該国を担当する各課担当官、及び地域局担当官を構成員とするタスクフォースを設置していた。政策課が中心となり(但し、タンザニア国別援助計画については国際機構課(当時)課長が国別援助計画策定タスクフォースのヘッドとして事務作業を実施)、関係各課及び数名の有識者からの情報・コメントを得て作成し、それに対し現地大使館が現場の情報をインプットするという、どちらかというと東京中心で策定されたものであった。策定プロセスが5-7年前であったことから、本省に重心を置いた政策決定が通例であった時期でもあり、現地における最新の援助動向を十分に反映できる体制にはまだ至っていなかった。
「援助計画」の策定開始は1997年頃と想定されるが、プロセスを進めていくうちに、結果的に策定開始から2年が経過してしまい、第1次貧困削減戦略(2000年10月完成)の策定時期に重なってしまった、というのが実情のようである。タンザニアのPRS・援助協調の動きは1999年当時より始まっており、現地大使館やJICA現地事務所からは積極的に情報を発信していたが、外務省本部では当時それらの新しい動きに対する認識はまだ十分広がっておらず、万全の対応はなお困難であったと思われる。しかし、タンザニアでのPRSの完成等の情報は「援助計画」策定のほぼ最終過程で、追加的に記述された。このように現地からの情報が発信されていたにも関わらず、「援助計画」の内容が変更されなかった理由は、「援助計画」の策定過程が、様々な関係者の承認を経て進められるものであり、変更が極めて困難であるという点にあったと考えられる。対外経済協力関係閣僚会議の決定による「援助計画」承認プロセスは現在も変わっておらず、策定プロセスの改善が望まれるところである。
「援助計画」の5重点分野は、1997年の経済協力総合調査団とタンザニア政府との合意に基づくものとされている。また、5重点分野はいずれも一般的な課題で、前述したように包括的な内容となっている。その一方、その包含性のため、現在でも「5重点分野は概ね妥当」とのコメントがタンザニア側も含め、大半の関係者から得られており、タンザニアの援助環境の変化に対しても大枠として適応が可能であった。また、5重点分野と共に記されている「援助実施における留意点」は、どちらかというと日本側関係者に対する注意事項という傾向が窺え、タンザニア側の状況を反映するという面は比較的少なかったように判断される。
したがって、策定過程の適切性についてまとめれば、当時の状況ではタンザニアで発生しつつあった新たな援助環境に関し、まだ十分に対応できる状況になく、そのため「援助計画」策定において現地からの情報と分析を十分適切・柔軟に取り入れ、タンザニア側の状況に沿う形でまとめることはやや困難であったと思われる。しかし一方、当時すでに一部とは言え、現地の最新情報が本省に届いており、また「援助計画」策定のわずか後に本省要人の現地訪問により援助の方針がかなり変更されたことなどを考えると「援助計画」策定においても何らかの柔軟な対応があってしかるべきであったと考えられる。
2)実施過程の適切性
JICAは国別援助計画の下に、毎年「JICA国別事業実施計画」を作成しており、案件の発掘・形成・選定は、「援助計画」の重点分野、留意点を踏まえた上で実施されている。「援助計画」の5重点分野は包括的に作成されているため、実施上大きな混乱は発生しなかったようである。しかし、タンザニアの「援助協調」の動きや、それに関わる制度・体制支援等新しい援助ニーズに関しては、「援助計画」では対応が困難であった。そのため、現地の新たな展開には、実務プロセス上で対応することとなった。従って、援助実施機関であるJICAの「国別事業実施計画」において「援助計画」の重点分野・留意点を適切に反映させつつ、現状に即した事業展開がなされてきたと言えよう。
日本の援助実施プロセスに関して、タンザニア側(政府及び他ドナー)からのコメントとして、重要な意思決定に時間がかかり柔軟性が失われており、現場への権限委譲が進んでいない点、援助内容が制限的であること等から、現在のタンザニアにおける援助環境の大きな変化に十分対応できていない等が挙げられている。その一方で、日本の援助プロセスの良さとしては、いったん合意されればプロジェクトは確実かつ円滑に実施される点、日本が援助協調への理解を深め現在は積極的に参加している点、タンザニア側関係者とパートナーシップが構築されている点を挙げた。日本の援助協調への対応の変化は、2000年6月に当時の経済協力局長のタンザニア訪問に伴い、進展していた援助協調の動きが確認され、現地大使館及びJICA現地事務所にその方向での対処が指示されたことによるものである。こうした援助環境を巡る新たな展開は、日本の援助の方向性に大きな影響を与え、それ故に、日本の政策を示す「援助計画」においても、盛り込まれるべき重要な変化であったと言える。このような重要な変化が「援助計画」に取り込まれず、実務上においてのみ対応が試みられたことは、「援助計画」が重要な政策文書ではありながらその改訂が容易でなく柔軟性の点において課題があることを示していると考えられる。しかし一方、こうした環境の変化に応じて様々な協議や文書等で方向性を示し、また実務上で対応してきた点は評価すべき点である。
タンザニア側(政府及びドナー)は、「援助計画」の存在については比較的よく認識しているように思われるが、これは、先方政府やドナーに対して説明するというよりは、むしろ関係者への聞き取り調査や、ドナー会合への積極的参加を通じて結果的に関係者に認識が広がったというのが現状のようである。近年、多くの援助機関がホームページ等を利用して積極的に政策の公表・宣伝を行っていることから、日本も同様にタンザニア援助の政策を先方(ドナーも含め)に強く説明・周知することが重要と思われる。
以上から、実施過程の適切性については、タンザニアの援助環境の変化に応じて、実務上では、より現状に即した事業が展開されるようになった。しかし援助実施の大前提である「援助計画」が5年間を目処に作成されるものではあったとは言え、タンザニアおける援助環境の急激な変化を適切に反映できずにきたことは、同政策の柔軟性の点において課題があることを示していると思われる。当該国の環境変化に応じて柔軟に対応できるようにするためには「援助計画」策定自体もさることながら、実施過程に関しても当該国の状況に応じて柔軟に対応できるよう運用規則の一層の改善なども重要であると考えられる。
3)タンザニア受け入れ体制の適切性
タンザニア政府では、貧困削減戦略の策定以降、マクロレベルでの開発戦略・政策の策定を自ら積極的に進めており、この点から、財務省・大統領府等、中央の一部政府機関は、非常に高いオーナーシップを発揮していると見られる。しかし、タンザニア政府のライン省庁やドナーへの聴取調査で得た情報、さらにセクターの政策文書の内容、それらの外部評価結果等によると、事業実施の実務レベルでのオーナーシップはまだ必ずしも十分とは言えないと考えられる。税収拡大等オーナーシップ向上に向けて努力は見られるが、政府全体でのオーナーシップ確立には、まだ時間がかかると思われる。
4)検証システムの適切性
「援助計画」策定後、継続的見直しプロセスや中間評価を実施することが重要である。これまでの検証作業としては、2001年度「援助実施体制評価調査」が確認されたのみであり、上記調査以外には、現在に至るまで、「援助計画」の実効性についての確認作業は行われてこなかったようである。現在は国別援助計画の取りまとめ課である国別二課を中心に「援助計画」の策定、チェック、フォローアップを行う体制が構築されつつあることから、「援助計画」の実効性についての確認作業をはじめ、今後さらなる検証システムの持続的な導入が期待される。
このような状況から「援助計画」に関する有効なフィードバック体制、及び検証システムはこれまで十分ではなかったと考えられる。しかし今後は現在のフォローアップ体制の一層の整備とともにより効果的なフィードバック機能が確保されるものと期待される。
4.タンザニアの援助協調への日本の対応に関する評価
援助協調への対応に関しては、当時は援助協調とその議論や考え方が進んでいなかったこともあり、「援助計画」では具体的な方針が示されていない。そのため、2000年以降、急激に展開されてきたタンザニアの援助協調の実態に対して、前述したように日本は現地大使館、及びJICA事務所が中心となって実務レベルで対応してきたのが実情である。一方、援助協調に対する全般的方針については、現在、本省から必要に応じて、対処方針やマニュアルが在外公館に送付されており、これらに基づいて現地大使館が具体的な方向性を決めるという体制が取られている。しかしながら、「援助計画」という援助政策文書の中に援助協調の明確な方針がなかったことは、少なくとも策定当時は、本省と現地の間でその重要性に関し、共通理解がまだ十分醸成されていなかったことを示しているものと思われる。しかしその後のタンザニアでの展開スピードが速く、対処方針やマニュアルだけでは十分意図したように共有できない事態も発生した。したがって、タンザニアに関しては、今後の援助協調の展開を的確に見通し、本省と現地との間の意思疎通・共通認識が一層促進されるよう、次期「援助計画」では、援助協調に関する何らかの方針を盛り込むことが望ましい。
(1)援助協調への対応・方針
現行の「援助計画」には援助協調への対応・方針が明示されておらず、タンザニアへの援助政策として十分であるとは言い難い。
(2)日本のタンザニア援助協調への内容的対応
1)協議への参加の点では22セクター/課題中16に参加しており十分対応している。
2)資金的な対応としてはコモンバスケットへの参加は現状3バスケット(貧困モニタリング、公共財政管理及び農業ASDP事務局のバスケット)である。なお、2006年3月現在の情報によると、2006年度より農業(ASDP)バスケットが新たに始まり、農業(ASDP)事務局バスケットは、それに統合される予定である。しかし金額的に非常に限定的で、タンザニアへの援助総額、及び協議への参加程度と比較して不釣り合いに小さい。これは、日本の援助のなかで、コモンバスケットへの参加に対する優先度が低く、援助資金スキームの制限もあったこと等が理由であると思われる。
(3)日本のタンザニア援助協調への体制的対応
1)人員の増加は比較的わずかである(大使館1名、JICA事務所は純増で3名だが企画調査員、専門調整員を増やし分野毎に対応)。援助協調の協議への参加が拡大する中(現在の参加会合数;大使館17会合、JICA30会合)、大使館とJICAは実務レベルで工夫し、相互に連携し共同して柔軟な対応を可能としてきている。
2)大使館職員の増員は「専門調査員」という職位の増員のため、業務権限等の面で援助協調への本格的な対応には限界がある。
3)人材的な面では現在も優秀な人材がそろっているが、援助協調で今後さらに積極的な役割(協議の発言・リーダシップ等)を担うためにはなお不十分な人員の配置である。
4)現地(大使館、JICA)での柔軟・迅速な対応を可能とする一層弾力的な決定権限が制限的であり、業務の運用規則が求められている。ドナー、及び政府との協議の場で、例えば覚書(Memorandum Of Understanding等)の内容について、あるいはセクタープログラムでの活動に柔軟に利用可能な(バスケットでない)資金の上限等に関して、現地の裁量の範囲が限定的なため日本だけが決定に遅れる状況が生じる場合もある。迅速な対応が求められる協議の場で、詳細を東京に説明・確認する余裕はない。
5)援助協調に対して日本の現行の実施スキーム、及び資金スキームは必ずしも十分適応的な構造とはなっておらず、またアカウンタビリティ確保の点からも困難である。援助協調への参加はその実際の効果につき慎重な検討を踏まえて決められるべきではあるが、その一方、プロセス支援的な技術協力スキームやコモンファンドへの投入を目的とした柔軟な援助枠組みについても今後検討を進めることが必要と考えられる。
(4)援助協調への戦略的対応
援助協調とは基本的に事業実施のプロセスを示すものであって、政府・ドナーが政策レベルで常に協議をしつつ、具体的な開発事業を進めて行くというものである。協議を通じて事業を進めることのメリットは、(1) 政策策定能力が十分でない途上国に対して、政策策定の段階から関与することができる、(2) 行政・統治能力(ガバナンス)が不十分な途上国に対しては、能力強化を推進することができる、(3)ドナーが一体となって政府と協議をするため、政府側の対応が簡略化される(取引コストの軽減)、(4)相手国の政策に直接影響を与えられるため、従来のコンディショナリティーと類似の効果を期待できる、等が考えられる。
このような効果が期待される援助協調に日本がどのように関わるか、その戦略については、慎重な検討が必要である。戦略を検討する際には、次項「(5)援助協調への関与の度合い」で述べる3つの側面からの考察が有効であるが、本項ではまず現状をまとめた。
1)援助協調に関する戦略としては、以下を想定するものとする。
- 援助協調に対する全般的基本姿勢を明らかにし、それを関係者で共有すること。
- 日本の優位性(技術的あるいは知見上)・日本がリードを取りやすいかどうかの点を考慮して協調に参加する分野・課題を選択すること。
- 協調に参加する場合でもその関与の度合いを選択すること(具体的には政策的協調のレベル、資金的協調のレベル、手続き的協調のレベル等)。
- 協調への参画レベルをどのレベルにするか(セクターレベルあるいは財政レベル等)も検討すること
- 測定可能な目標を設定し、その達成のための具体的な方法を見通して参加分野/課題を選択すること。
2)関係者で共有される明確な援助協調戦略は存在しておらず、現在も政策として打ち出されているものはない。
3)積極的に対応している分野のうち、「農業」ならびに「貧困モニタリング」については、「農業」ではすでに20年以上にわたる経験の蓄積、「貧困モニタリング」では貧困削減という基本戦略の中で最も根本的な活動への支援という点で、日本の優位性、及びタンザニアの開発戦略における重要性等を適切に踏まえた妥当な分野と判断される。
4)「教育」、及び「保健」セクターについては、日本のMDGsへのコミットメントならびにタンザニア開発戦略における重要性から参画の意義は認められるが、非常に多数のドナーが参加していることから多くのドナーの一つにしかすぎず、日本のプレゼンスを示しにくいこと、資金的に日本はバスケットに参加しておらずまたプロジェクト(無償、技プロ等)による支援も少なくとも資金的には必ずしも大きなインパクトをもつものではないこと(バスケットを含む政府資金がすでに大きい)等から、日本の戦略的関わりに関して再考の余地の可能性がある。
5)「公共財政管理」については、現在徐々に関わりを深くしている状況のようである。しかし、今後この分野にどう戦略的に関わっていくのか明確な方針が必要である。
6)その他の参加分野で、地方行政改革については、地方分権化政策で戦略的に事業を実施しているが、公共サービス改革については現状なお情報収集的なレベルでの参加と思われる。これらについても今後の関わり方について方針が必要である。
7)コモンファンドへの参加は、結局多くのドナーの一つにならざるを得ず、単独のインパクトは必ずしも大きいものではなくなってしまう。それでもなぜ援助協調に参加することが必要なのか、日本の援助政策の方針として「援助協調の扱い」を検討することが重要である。
(5)援助協調が目指す成果と多様な関与の仕方
援助協調を具体的な関与の面で見ると、ドナーがどこまで共同で政府の方針・政策に歩み寄るか、つまり相手国政府の政策・方法に沿った形で援助を実施するか(オーナーシップを尊重できるか)という点が重要となる。援助協調の関与を具体的に見ると、大きく以下の3点に集約される。すなわち、
A. 政策への合意
B. 資金利用に関する合意
C. 手続きに関する合意
「政策への合意」とは、ドナーが援助事業・案件を実施するに際しどこまで政府の開発政策に準じているかの点である。例えばタンザニアの農業セクターへの支援であれば、タンザニア政府が作成した農業セクター開発戦略、同プログラムにどの程度沿った支援を行っているかという点である。
第2の「資金利用に関する合意」は、いわゆる援助事業をプロジェクト型で行うか、セクターバスケットに投入して行うか、さらに一般財政に投入するか、等の問題である。基本的に投入レベルが財政的に高いレベルになればなるほど、相手国が自ら決定できる決定範囲が広がることになり、その分、相手国の方針に沿ったものになると考えられる。なお、その場合には、日本の援助資金の使途につき、日本国民へのアカウンタビリティの確保が困難となる。
さらに第3番目の「手続きに関する合意」は、調達・会計報告等、事業を実施する上で、相手国の規則・方法に則って実施することである。相手国の規則・法則に全て従う場合には、相手国の調達手続、会計手続に則って事業は実行され、ドナーは相手国政府の提出する調達結果、報告を検証するレベルに留まる。
以上の分類を踏まえて現状を見ると、現在の日本の援助協調への関与はほとんど協議参加のレベル、または「政策への合意」のレベルに留まっている。また、「資金利用に関する合意」、及び「手続きに関する合意」のレベルでは関与の程度は限定的であると言わざるを得ない。
(6)セクター/課題別での援助協調成果への貢献度
本項では、援助協調が目指している、ドナー間、あるいは政府-ドナー間の協調で期待される援助協調の本来の成果(政府側の能力向上に見合った自主管理の拡大、政府の自主的な効果的政策策定、政府側の取引コストの低減、援助資金の効率的利用等)のために、日本はどの程度貢献したかを検証する。重要な点は、多数の協議に参加し、またバスケットファンド・一般財政支援に多額の資金を投入するだけでは、援助協調の本来の成果の実現に貢献することにはならない。政府側能力強化と政府の自主的政策策定・実施・管理のレベル向上をバランスさせながら進めていくことが重要である。
セクター別/課題別での日本の貢献度は概ね以下のように考えられる。
1)農業、貧困モニタリングでは、政府・ドナー間の協議の場に積極的に参加し中心的役割を担い、また政策策定・政府側能力強化にも深く関わる等、比較的大きな貢献があった。
2)教育、保健セクターでは、協議への参加は積極的で、また地方政府能力強化等行政の強化に貢献している。しかし、援助協調の中で中心的役割は果たしてはおらず、政策への関与・体制能力強化等において必ずしも大きな貢献をなしているとは言い難い。
3)公共財政管理では、協議への参加、財務省への積極的人材派遣等で貢献は拡大中。
4)その他のセクター/課題(地方行政改革、公共サービス改革等)では貢献は少ない。
(7)タンザニア全体の援助協調への貢献度
日本の参加は、政策協議の場で議論に幅を持たせ議論を活性化させたといわれている。また、日本の参加はタンザニアの援助協調のサークルの拡大につながり、比較的無関心であったUSAIDも近年情報収集レベルではあるが、徐々に参加の兆しを見せる等、協議への参加者の範囲を広げることに貢献した。
5.援助協調への対応と試案
今後のタンザニアの援助協調にどのように参加するのかを考える際、様々な点に留意する必要がある。これまで分析・提言してきた内容を念頭に、新たに策定される「援助計画」の骨子について、以下、3つの試案を例示することにしたい。次期「援助計画」には多様な選択肢が考えられるので、3案に限られるものではないし、これらの例が、妥当であるとか適切であるという主張ではないことを確認しておきたい。あくまで新「援助計画」の構成・内容の概要をイメージしやすくするためのガイドという程度のものに過ぎない。
例1.【現行計画の踏襲・延長型】
基本方針:
(1) 被援助国の自助努力を最大限尊重
(2) 当該国の貧困削減を支援
(3) タンザニアとの従来からの関係(二国間関係)に基づく支援
援助協調への対応:
(1) 政府・ドナーとの対話に積極的に参加
(2) 資金的投入、手続きの調和化については可能な範囲で対応
重点分野/セクター:
(1) 農業、教育、保健セクターを支援
(2) PRS支援として貧困モニタリング、財政管理支援として公共財政管理支援を推進
(3) 人材育成、体制・組織強化を推進(研修生受け入れ、専門家派遣)
(4) インフラ投資を推進(道路、水供給等)
達成目標:
(1) PRS指標(農村所得、就学率、マラリア罹患率、等)
(2) 道路舗装延長、農村部飲料水アクセス率、等
(3) 研修生人数、専門家派遣人数、等
留意点:
(1) 汚職撲滅等グッドガバナンスの進展を注視
(2) 債務管理能力の改善を注視
例2.【援助焦点転換型:焦点を重点セクターから重点課題に転換】
基本方針:
(1) 被援助国の自助努力を最大限尊重
(2) 成長を通じた貧困削減を支援
(3) アジアでの開発経験の共有
援助協調への対応:
(1) 政府・ドナーとの対話に積極的に参加
(2) 資金的投入、手続きの調和化については可能な範囲で対応
重点課題:
(1) 雇用の拡大、及び所得増大
(2) 産業の育成
具体的支援分野:
- 人材育成(農業、中小企業、貿易振興)
- インフラ投資(道路、地方電化、港湾整備等)
- 経済特区・貿易特区設置支援
- 南南協力の推進
達成目標:
(1) 失業率低下、所得上昇
(2) 中小企業数の増大
(3) 貿易の拡大
留意点:
(1) 域内協力の促進
(2) 日本あるいはアジア諸国との情報交流拡大
例3.【援助協調対応型】
基本方針:
(1) 被援助国の自助努力を最大限尊重
(2) 当該国の貧困削減を支援
(3) 多国間協調の一層の推進
援助協調への対応:
(1) 政府・ドナーとの対話に積極的に参加
(2) プール資金への投入拡大
(3) 事業実施にかかる手続きに関し現地手続きの最大限の尊重
重点分野/セクター:
(1) 農業、公共財政管理、貧困モニタリング、道路、水セクターを支援
(2) 農業、水セクターでは、政府・ドナー間協議を積極的にリードし、効果的なセクター開発の策定・実施を支援する。
(3) 公共財政管理においては主要なアクターとなり、政策策定・人材育成の面で最大限の支援を行う。
(4) 貧困モニタリングではデータ収集・分析・整理・公開の各面で組織・人材強化を積極的に支援する。
(5) 道路セクターでは体制整備・人材育成とともに幹線道路・地方道路の整備に積極的に関わる。
達成目標:
(1) PRS指標(農村所得、就学率、マラリア罹患率、等)
(2) 農業、道路、水セクターではそれぞれの主要指標の改善
(3) 政府公共財政管理における改善(予算作成、資金配布、監査報告の質・タイミング等)
(4) プール資金への投入金額(予定投入額あるいは比率を事前に明記)
留意点:
(1) 政府の財政管理能力を注視
(2) タンザニアの実例を通じて援助協調に関する国際間の議論に日本の視点を積極発信
6.提言(重要10項目の提言)
【援助計画の基本方針・戦略の明確化】
提言1.タンザニアの開発戦略との整合性の確保
援助を真に有効で効率的なものとするためには、被援助国のオーナーシップの尊重、自助努力の醸成が不可欠である。この観点から、次期「援助計画」においてはタンザニア側開発戦略(MKUKUTA、JAS等)との整合性をとることが重要となる。また、タンザニアのオーナーシップを尊重しつつ、タンザニア側の援助受入体制・組織・人的能力の実態を把握し、その強化策も「援助計画」に含めることが重要である。
提言2.戦略性の向上
限られた援助資源を有効に活用するためには、「援助計画」を戦略的に策定することが重要である。日本の優位性(例えば、これまでの経験、援助体制の実態、タンザニア側の期待、他ドナーの動向、等)を踏まえ、選択と集中を図った援助内容とする。具体的には、日本が注力する分野・課題を明らかにし、ODA大綱や中期政策にも示されているように、より横断的な課題別の視点で臨むとともに、さらに各注力分野・課題間でも優先順位を確認しておくことが重要である。
【援助計画の構成、策定・見直しプロセスの改善】
提言3.「援助計画」へ指標の導入
他のドナー国の援助計画には定性的な指標として目標体系図を導入する等、配慮されつつあるが、タンザニアにおける次期「援助計画」の策定に当たっては、一般的な理念や方向性に加えて、先方政府が設定する戦略目標を十分に考慮した上で、定量的もしくは定性的に測定可能な戦略目標を、時間軸を伴って設定し、その上で、可能な範囲で、設定時間内で目標を達成するために必要な投入(インプット)、具体的な達成方法、見込まれる結果(アウトプット)、及び成果(アウトカム)を明らかにできるようにすることが望ましい。以下はあくまでも参考例である。
(例)援助計画全体目標:「成長を通じた貧困削減」
戦略目標1「農業の生産・利潤性向上」
指標:主要農産物の生産性、農産物小売価格し占める生産者費用比率、等
戦略目標2「中小企業育成」
指標:中小企業数、GDPに占めるサービス業・製造業比率、等
戦略目標3「貿易の拡大」
指標:輸出入量(金額及び数量、輸出品目別)
戦略目標4「生活の質の向上」
指標:初等教育普及率、乳幼児死亡率、妊産婦死亡率等、MDGs関連の指標
提言4.「援助計画」策定の迅速化と継続的見直しプロセスや中間評価の導入
昨今の急激な援助環境の変化に鑑み、次期「援助計画」は1年間程度の期間で策定することが望ましい。また、策定後は日常業務的に計画の適合性を検証し(例えば半年に1回)、状況の変化に迅速に対応できるようにする。さらに、3年2を時期的な枠組みとして設定し、抜本的見直し(評価、あるいは改訂)を実施する。仮に現行5年を継続する場合にも、「援助計画」実施2年後には、中間評価を実施する等、定期的に「援助計画」をレビューする仕組みづくりが必要である。
【援助協調への対応の明確化】
提言5.援助協調に対する日本の対応・方向性の明確化
一般財政支援やセクター別財政支援等の現在進行中の援助協調の流れは、それ自体が目的ではなく援助の目的・目標を達成するための手段の一つとしてとらえられるべきである。その上で、日本がどのようにこの流れに対応するのかを示す基本方針を明らかにすることが重要である。具体的には、「政策」、「資金利用」、「手続き」の各側面で日本の基本的認識を明らかにし、それらを基に、重点分野・課題との関連で、それらをどう組み合わせていくのかを明らかにする必要がある。実施において、日本がリードをとる分野・課題かどうか、一般財政支援、セクターバスケット支援、プロジェクト型支援のいずれを選択するのか、が明確にされなければならない。また、タンザニアを始め、援助協調が進んでいる国の「援助計画」では、プロセス支援的援助にも対応できるよう、スキームの拡大やスキーム間の有効活用、コモンファンドへの投入も可能な費目の整備等の検討も必要と思われる。これは、調達、事業管理報告、会計報告についてどの程度タンザニア側の方法に則って実施するか等、手続きの面の検討も含まれる。
2 3年とする理由について:現行のPRSは2005年7月?2010年6月を対象としている。JASも2006年には策定が終了するものと考え、次期「援助計画」が2006年度中に策定され、2007年4月から有効となった場合、現行のPRSが終了する2010年までの3年間を有効期間とすれば、タンザニア開発戦略との整合化の観点から適切なサイクルである思われる。
【援助実施体制の改善】
提言6.体制・組織・人材の強化
援助協調も含め援助の効果的実施の点から、組織力の強化と職員の能力開発を体系的計画的に行うことが重要である。少なくとも、現地タスクフォースのメンバーと、本省の国別二課のタンザニア担当官の双方での強化が必要である。次期国別援助計画に示される選択と集中を受けて、強化されるべき課題は、できるだけタスクフォース内の一人が一つの課題を担当し、国別二課ではタンザニア担当官が兼務せずに一人で1か国だけを担当するような人事配置が必要である。昨今の公務員削減の流れの中、人員拡充は容易ではないことから、単に正規職員数の増加だけによるものではなく、企業や大学との提携、青年海外協力隊員やインターンの活用、教育訓練による知識・スキルの向上等、従来のやり方にとらわれない柔軟な発想をもって問題に対処することが重要である。
提言7.業務実施体制の効率化・迅速化
タンザニアの援助環境の変化やタンザニア側の要望をすばやく事業活動に取り込めるような業務の流れや仕組みを作ることが重要である。迅速な対応を可能とするためには、現地大使館・JICA等現地関係者にある程度権限を移譲し、現地タスクフォースによる意思決定可能範囲を拡大するとともに、運用規定の柔軟化を図り、現地主導型体制を構築することが望まれる。具体的には、成果志向型の管理を積極的に導入し、現地中心の活動計画や期待される達成内容を事前に明らかにし、東京の本省はその成果の達成に関してチェックを行う方向に進むことが望まれる。例えば、ある一定範囲の金額であれば、案件採択の権限を現地ODAタスクフォースに持たせる等、結果としてある成果を達成していれば、その達成のプロセスの選択は現場に任せ、現場の自主的対応がより容易になることにより、実施の迅速化と効率化が図れるというものである。また、タンザニアの産業・経済動向等に関する情報収集・分析についてはローカルコンサルタントの活用を一層強化する等、作業のアウトソーシングも効率的業務の観点から検討するべきではないかと考える。
提言8.体系的定期的な事業の説明責任の遂行
援助事業の説明責任は、5年に1度の政策評価だけで果たされるのものではない。また一部の「成功例」のみを取り上げて広報するだけで果たされるわけでもない。タンザニアの援助状況は現在の国際的援助潮流において先端を行っているので、これを積極的に情報発信することは、日本の新たな取り組みの紹介、ODA広報の観点からも有意義と考えられる。
提言9.情報管理の強化と改善
タンザニア援助事業において測定可能な目標と戦略を定めた上で、その達成のために収集・分析された情報を関係者間で容易に共有出来るための情報管理システムの構築は重要であり、これは現地タスクフォースの機能強化に資することにもつながる。このシステムは、他の援助国や国際機関とも比較可能な指標を定めて定期的かつ体系的に情報収集しておくことが重要である。
【評価の枠組み】
提言10.援助事業の評価の枠組みの見直し
現在の「ODA評価ガイドライン」には、まだまだ改善の余地が残されているように思われる。例えば、ニューパブリックマネジメントの普及が公共プログラムの評価やマネジメントの枠組みを大きく転換させたことに鑑み、今後、評価の専門家グループによって検討が重ねられ、評価の枠組みの更なる改善がなされることを期待する。
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