省庁共通公開情報

I.実施計画に基づく事後評価

2. 政府開発援助(ODA)

(1)政府開発援助における政策

対セネガル国別援助政策(1995年3月~)

経済協力局開発計画課長 岡庭健
平成18年5月
目標
 我が国の対西アフリカ援助の中心国として、セネガルの発展を支援し、良好な二国間関係の更なる強化を図る。
施策の背景・概要及び必要性
(1)セネガルは西アフリカの中心国の一つであるとともに、アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD: New Partnership for Africa's Development)を牽引する国の一つである。1976年以来複数政党制をとってきているなど政情も安定しており、世銀・IMFの支援の下、構造調整や経済改革にも積極的に取り組んでいる。
(2)他方、同国は高い人口増加率、砂漠化など多くの開発課題を抱えているところ、こうした問題に対する同国の取組をODAにより支援することは、ODA大綱の重点課題である「貧困削減」・「持続的成長」支援の観点からも、西アフリカ地域の安定と繁栄に貢献する観点からも意義が大きい。
(3)我が国は、セネガルに対して、基礎生活分野等を中心に幅広く無償資金協力及び技術協力を実施してきているほか、その構造調整努力を支援するため、2004年度までに合計121億円の円借款及び合計144億円のノンプロジェクト無償資金協力を供与している。
(4)我が国のセネガルに対する基本方針としては、現地ODAタスクフォースでの議論等を通じて、以下の8分野を対セネガル重点分野と位置づけており、右重点分野を中心に裨益効果の高い案件を実施していくとともに、様々な経済協力スキームの効率的かつ効果的な組みあわせによる支援を目指している。
 (イ)水供給、(ロ)教育、(ハ)人的資源開発、(ニ)保健医療、
 (ホ)環境(砂漠化防止)、(ヘ)農業、(ト)水産業、(チ)基礎インフラ
投入資源
(コスト)
平成12年度:無償27.73億円、技術協力14.40億円
平成13年度:無償32.25億円、技術協力18.05億円
平成14年度:無償22.31億円、技術協力15.82億円
平成15年度:無償34.39億円、技術協力18.56億円
平成16年度:無償15.81億円、技術協力17.34億円
(無償資金協力年度E/Nベース、技術協力年度経費ベース)
施策の効果の把握方法
(枠組み)
(1)目標の妥当性
(イ)日本の上位政策(ODA大綱およびODA中期政策)との整合性
(ロ)日本の対アフリカ支援方針やODA戦略における対セネガル援助政策との整合性
(ハ)セネガルの開発ニーズとの整合性
(ニ)主要ドナーの対セネガル援助戦略との比較
(2)成果の有効性
(イ)援助の重点分野に於ける有効性
(ロ)援助のインパクト
(ハ)被援助国の自立発展性
(3)プロセスの適切性
(イ)援助政策策定過程の適切性
(ロ)援助政策実施過程の適切性
評価の結果
(1)目標の妥当性
 日本の対セネガル援助政策は、1995年に策定され、2000年まで部分的に更新されてきた「対セネガル国別援助方針」を基本としている。当該援助政策は、ODAの上位政策(ODA大綱、ODA中期政策等)と基本的に合致しており妥当である。また、セネガルの開発ニーズとの整合性に関しては、同国の第9次経済社会開発計画や完全版PRSP(貧困削減戦略文書)の重点分野にも概ね整合的であり、妥当である。
(2)成果の有効性
 重点分野別の成果では、水供給、人的資源開発(職業訓練)、水産分野が、有効性が高かった分野と言える。右3分野に関しては、技術協力を通じたカウンターパート・地方政府・地域コミュニティの能力向上支援、適切な知見を有した専門家の長期に亘る派遣等により、政策面への好影響等成果につながっている。
 また、日本は、ソフト面の支援において特に、中央から住民レベルまでセネガル側のオーナーシップや能力を高め、開発の持続性や自立発展性向上に貢献してきたといえる。他方、セクター間連携、市民社会との連携、他ドナーとの援助協調に関する取組は限定的であり、更なる援助効果向上に向けて改善の余地があるといえる。
(3)プロセスの適切性
 対セネガル国別援助政策の実施プロセスは概ね妥当といえる。
 1990年代の政策協議は内容・レベル・インパクトともに妥当であったが、2000年代に入ってからは、完全版PRSPの策定(2002年)を受けての政策協議が2004年になる等、必ずしも機動的な政策協議の実施に至らなかった側面も見受けられる。
 重点8分野中、水供給、教育、環境、農業分野ではほぼ重点サブセクターに沿った案件選定が行われてきているが、援助政策実施に伴う成果のモニタリングに関しては、開発目標達成度を測る為の指標設定等、必ずしも体系的な実施には至っていない。
評価結果を踏まえた今後の取組
(1)今後対セネガル国別援助計画が策定される際には、援助の一貫性、透明性、予測可能性、効果を高めるために上位目標を明示するとともに、セネガル自身の開発目標に沿って、定性的又は可能な場合は定量的な目標を明確に設定する。
(2)セネガルにおける日本の援助効果を高めていくために、セネガルの開発ニーズ、日本の実績及び比較優位性、他ドナーとの援助協調の余地等を勘案した、重点分野の絞り込みを検討する。
(3)効果的・効率的な援助実施の為に、他ドナー及びNGOとの連携等各種連携を強化していくことが望まれる。また、西アフリカ及び仏語圏アフリカの中心国というセネガルの優位性を活かし、地域内の南南協力を一層推進していくことを検討する必要がある。
(4)セネガルのオーナーシップを高め、両国間のパートナーシップを強化すべく、セネガル側と開発協力に関する中期的枠組み合意の実施、枠組み合意に準拠した国別援助計画の策定を検討する。
(5)上記枠組み合意や国別援助計画の策定・見直しに際し、ハイレベルの政策協議を開催することを検討する。ハイレベル協議では、現地ODAタスクフォースの主体性を尊重しつつ、必要に応じて外務本省やJICA本部からもハイレベル参加が行えることが望ましい。
 
*概算要求、機構・定員要求への反映方針
 
概算要求
機構要求
定員要求
反映方針
政策評価を行う過程において使用した資料等
  • 第三者による評価結果
「セネガル国別評価報告書」(平成18年3月)
(要約のみ別添。全文については外務省ホームページにて公表)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/shiryo/hyouka.html
  • ODA白書(2004年)
  • 国別データブック(外務省ホームページにて公表)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/05_databook/index.html
備考・特記事項
 

平成17年度外務省第三者評価 セネガル国別評価報告書

要約

第1章 評価の概要

1-1 評価の目的

 本評価は、日本の対セネガル援助政策および援助実績を総合的にレビューし、今後予定されているセネガル国別援助計画の策定に資する教訓・提言を得ることを目的とする。また、評価結果を広く国民に開示することによって、政府の説明責任を果たすことも目的とする。

1-2 評価の対象

 評価の対象は、1995年~2004年度における日本の対セネガル援助政策全般および援助実績である。セネガルについてはまだ国別援助計画が策定されていないため、1995年の政策協議結果を受けて1995年から2000年にかけて毎年更新され発表された「対セネガル国別援助方針」を基本的に評価の対象とする。また、国別援助方針が公表されなくなった2001年以降については、両国間の各種協議や国別データブック、JICA国別事業実施計画も適宜参照する。

1-3 評価方法

 本評価は、以下の視点および評価項目に基づいて実施した。
視点
評価項目
目的
1)日本の上位政策(旧ODA 大綱および旧ODA 中期政策)
2)日本の対アフリカ支援方針やODA戦略における対セネガル援助政策
3)セネガルの開発ニーズとの整合性
4)主要ドナーの対セネガル援助戦略との比較
プロセス
1)援助政策策定過程
2)援助政策実施過程
結果
1)有効性
2)インパクト
3)自立発展性

第2章 セネガルの開発に関わる概況

2-1 セネガルの開発概況

 セネガルはアフリカの中でも最も民主化の進んだ国の一つである。1994年のCFAフランの切り下げによってマクロ経済は好転し、構造調整も進んでいる。ただし、人口増加率が高いこともあって一人当たりのGDPの成長は鈍く、都市と農村の格差は広がっている。UNDPの人間開発指標(2004年)では177ヵ国中157位にとどまっている。商業を中心とした第三次産業がGDPの62%を占める一方、国民の半数が就労する農業はGDPの9%を占めるに過ぎず、その生産性の低さが課題となっている。また第二次産業の開発、特に地方における産業の振興が課題である。セネガルの過去10年の主な開発課題には、貧困削減、地方分権化、地域格差・ジェンダー格差の解消、人材・能力開発、民間セクターの育成、債務軽減等がある。

2-2 セネガルの国家開発戦略

 こうした開発課題に対して、セネガル政府は1995年に「第9次経済社会開発計画(1996年-2001年)」を策定し、1)生産セクター強化による経済成長、2)投資拡大と生産性向上、3)人的資源開発、4)農業水利事業の拡大、5)貧困問題への対応、を主要戦略として掲げた。また2002年には、完全版PRSP(2002年-2005年)を発表し、1)富の創出、2)基礎的社会サービスに関するキャパシティ・ビルディングの推進、3)社会的弱者グループの生活改善、4)運営・執行の分権化に基づいた参加型のM&E(モニタリング・評価)アプローチ、の4つを柱とした開発を進める方針を打ち出した。なお、2005年11月現在、第二次PRSP(2006年-2008年)を策定中である。

第3章 セネガルにおける援助動向

3-1 日本の対セネガル援助

 日本政府は1995年の政策協議に基づいて国別援助方針を策定し、その後の1998年、2000年、2004年の政策協議を踏まえ、概ね以下のような対セネガル援助政策を取ってきた。

日本の対セネガル援助政策
1)目的
 上位目標:(持続可能な経済成長)
 中期目標:1)貧困問題の解決、経済社会発展の基礎造り、社会サービスの充実
      2)環境の保全
      3)食糧作物の生産拡大(生産性向上)
2)重点分野
1)生活用水     :地下水開発
2)教育       :基礎教育
3)基礎的保健・医療 :プライマリー・ヘルス・ケア、公衆衛生、エイズ(1997年から追加)
4)環境(砂漠化防止):苗木供給、植林運動
5)農業       :食糧増産援助、灌漑施設整備
6)水産業      :零細漁業の振興
ただし2004年に以下の2分野が追加。
7)人的資源開発
8)(経済)インフラ
3)分野横断的課題/留意点
1)南部の武装独立運動の動向、2)キャパシティ・ビルディング、3)ジェンダー主流化、4)貧困削減、5)対外債務問題
4)援助形態
無償資金協力と技術協力
5)援助手法
1)他ドナーとの協調、2)スキーム間連携、3)南南協力
 評価対象期間の日本のODA総額(1995年~2003年度、支出純額)は、3億8624万USドルで、全ドナーの9%を占める。一方、セネガルにとって日本は二国間援助国の中で第4位(2003年)に位置する。援助形態別に見ると、無償資金協力が全体の75%、技術協力が全体の25%を占める。有償資金協力は1991年以降実施されていない。分野別では、教育、水・衛生、農業、水産業、保健の順に多くなっている。

3-2 他ドナーの援助動向

 1995年~2003年を見ると、マルチ・バイを含めて、フランスが最大のドナーで、次いでIDA(世界銀行)、EC、日本、アメリカ、ドイツの順となっている。分野別では教育、保健、水・衛生、グッドガバナンスの分野への投入が大きい。また近年、フランス、IDA、ドイツ、アメリカなどが地方分権化に力を入れているのが特徴である。

 セネガルにおいてNGOは重要な開発パートナーである。比較的潤沢な財政力を背景に、優秀な人材が集まっており、アメリカ、カナダ、フランスなど各ドナーも国際的・国内NGOを積極的に活用している。NGOの各種ネットワークも存在し情報量も豊富で、地方での活動拠点も整備されつつあることから、政府やドナーに対して発言力を増している。

第4章 目的に関する評価

4-1 対セネガル援助政策の妥当性

 過去10年間の日本の対セネガル援助政策は、1995年に策定され、2000年まで部分的に更新されてきた国別援助方針を基本としていた。国別援助方針が作られ始めたばかりの1990年代に策定されたということもあって、目的(上位目標と中期目標)や達成目標を明示しておらず、開発課題ないしニーズの記述が羅列的など、不十分な面があった。

 セネガルへの援助の一貫性を確保し、効果・効率を高めるには、中期的に何を達成しようとするのか、目的を明確にするとともに、できる限り具体的な達成目標を設ける必要がある。また、政策のタイムスパン(有効期間)や見直しの時期も定めておくことが望ましい。

 重点6分野、およびその中で優先的に取り組む重点サブセクターを国別援助方針が明示していたのは妥当だった。ただし、セネガルへの援助規模に照らせば、重点分野を整理し、絞り込む必要があったと思われるのに対して、2004年に8分野へと拡大したのは妥当性に欠けていた。その一方で、セネガルにとって重要課題である民間セクター開発への支援をセネガル側が要望し、日本も上位政策(特に旧ODA中期政策のアフリカ部分)で民間セクター支援を打ち出していながら、重点分野に含めてこなかったことは妥当性の面で疑問が残る。

 分野横断的課題について国別援助方針が明記していたのは南部の武装独立運動への留意だけだった。「TICADII東京行動計画の推進に資する協力」という表現で、間接的にジェンダー主流化やキャパシティ・ビルディング、対外債務、貧困削減に取り組もうとしていたと言えなくもないが、明記していないため判断できない。一方で、セネガルにとって重要課題だった地方分権化には政策的な対応が見られなかった。

 国別援助計画を策定するにあたっては、取り組むべき分野横断的課題を絞り込んだ上で明記するとともに、「留意する」という曖昧な表現ではなく、援助の一貫性(援助実施担当者間)、透明性(対国民)、予測可能性(対被援助国)を高めるためにも、課題にどのように取り組むかを明確にしておく必要がある。

 援助形態に関しては、セネガルが累積債務問題を抱え、債務削減対象国だったことから円借款を供与せず、無償基金協力と技術協力で対応してきたことは妥当性が高かった。援助手法として他ドナーとの協調やスキーム間連携を明示し、TICADII東京行動計画の推進という表現で間接的に南南協力に取り組もうとしてきたと思われるのは、不明確な点は残るものの概ね妥当と言える。その一方で、NGOセクターが成熟し活発なセネガルでNGOとの連携を政策的に採用しなかったことは妥当性の面で疑問が残る。

4-2 日本のODA上位政策との整合性

 ODA政策として最上位にあった旧ODA大綱に照らすと、旧大綱の4原則および重点事項には概ね整合していた。また、新ODA大綱とも概ね整合しており、妥当と言える。

 旧ODA中期政策との比較では、同政策が掲げた重点分野のうちジェンダーへの取組みを除いてはほぼ対応しており、概ね整合していた。その一方で、同政策が掲げたアフリカ地域への支援策のうちの民間セクター支援、および援助手法のうちのNGOとの連携など一部に対応していない部分があったが、全体としては概ね整合していた。

 対アフリカ支援イニシアチブ(2003年)とは、民間セクター支援を除いてほぼ整合していた。

4-3 国際イニシアチブとの整合性

 国際イニシアチブであるTICADIIに対しては、国別援助方針が「東京行動計画」の推進に資する協力をするとしているので、総体として整合性は取れていることになる。しかし、同計画の重点分野のうち貧困層支援、民間セクター開発など個別の分野・課題では対応していない部分があった。TICADIIIとは、重点分野では概ね整合しているものの、民間セクター開発や市民社会との対話など一部整合していない部分もあった。

4-4 セネガルの国家開発計画との整合性

 セネガルの国家開発計画との整合性では、第9次経済社会開発計画とは地方分権化を除いて重要分野が整合していた。完全版PRSPとも、地方分権化と社会的弱者への支援を除いては全体として整合性は高い。

 以上のように、全体として過去10年の対セネガル援助政策は、ODA上位政策、国際イニシアチブ、セネガルの国家開発計画と概ね整合していた。整合性が弱いないし取れていない分野・課題としては民間セクター支援、貧困層/社会的弱者層への支援、地方分権化、ジェンダー、NGOとの連携ないし市民社会との対話があった。

第5章 プロセスに関する評価

5-1 援助政策策定過程の適切性

 まず、政策協議(2000年の準政策協議を含む)を行なったタイミングを見ると、1995年、1998年、2000年の協議は日本国内やセネガル国内の動きに照らして開催時期が適切だったが、2004年の協議は、セネガルの開発計画として最重要の完全版PRSPが2002年に完成していたこと等に鑑みると遅きに失していたと言える。

 政策策定の準備過程としては、セネガルの開発ニーズを体系的に把握するメカニズムが弱いという指摘がセネガル側からあった。現地タスクフォース主導となった2004年以降は開発ニーズの把握が向上し、適切性が高まっているように思われる。準備過程へのステークホルダーの参加、特に市民社会・NGOが体系的に参加する仕組みが日本およびセネガル国内で整っていなかった。そうした中で、2000年の準政策協議の際に現地NGOや他ドナーを招いてODAセミナー的な会合を開き、ステークホルダーとの意見交換を行なったことは適切だった。

 政策協議の内容・レベルとインパクトを見ると、1995年と1998年はハイレベルによる内容の濃い政策協議が行なわれた模様で、協議結果は国別援助方針の策定やその手直しという形で政策に反映された。2000年は実質的には政策協議に近い協議だったが、プロジェクト確認調査という性格上、日本側らの参加はJICAのみで、協議結果がその後の政策に目に見える形で反映された形跡は乏しい。2004年の現地政策協議も実務者によるわずか半日の会議で、政策レベルの協議はほとんど行なわれなかったものの、協議の結果、援助重点分野を2分野追加することになった。

 以上のように、1990年代の政策協議は内容・レベル・インパクトともに適切だった。最初に策定された国別援助方針の有効期限が切れた2000年以降は、本来であれば外務本省・JICA本部も参加したハイレベルの政策協議を定期的に行なって、新たな援助方針の策定ないし見直しをすべきだったと言える。

 国別援助方針ないし政策は通常5年前後のスパンで策定/更新するもので、策定・更新と中間レビューの時期に合わせてハイレベルの政策協議を行なうのが適切である。今後は、セネガル側が他ドナーの例を引いて提案しているように、1)3~5年に一度ハイレベルの政策協議の場を設けて開発協力の中期的な枠組みを合意すること、2)枠組み合意のもとに開発協力の計画策定、実施、モニタリング・評価という一連のプロセスを共同で行なう仕組みを作ること、3)日本として中期的な援助額の概算を提示すること、が望ましい。

 また、政策協議にあたっては現地タスクフォースのイニシアチブを最大限尊重し、ハイレベル協議を行なわない年は現地TFによる年次政策協議を行なうようにするとともに、開発ニーズのより良い把握や正統性確保のためにも市民社会・NGOなどのステークホルダーが政策協議に体系的に参加できる仕組みを作ることが望ましい。

5-2 政策実施過程の適切性

 対セネガル援助政策の中核をなす重点分野および重点サブセクターに沿って援助案件が選定されたか否かという点では、水供給、教育、環境、農業分野では、はほぼ重点サブセクターに絞って案件が選定されてきた。ただし、環境分野では村落レベルでの苗畑整備というニーズに対して州レベルの対応だったり、農業分野ではセネガル側のニーズが高かったソフト支援ではなくモノ(農薬・肥料)の支援が中心だったりした。保健衛生分野では、重点サブセクターであるプライマリー・ヘルス・ケアや基礎保健医療分野への取り組みが遅れ、国・州レベルの医療施設案件が中心だった。水産分野は重点サブセクターの零細漁業の振興に直結しない案件が少なくなかった。

 一部不適切な面があったのは、一つには当時の援助キャパシティに見合わない重点サブセクターを選んだこと(例えば教育分野でのソフト支援、保険医療分野でのプライマリー・ヘルス・ケアや基礎保健医療)や、一つには水産分野のように、過去には重点サブセクター(零細漁業の振興)に直結した援助を十分に実施してきたために、評価対象期間中は間接的な環境整備に重点を移しながらも重点サブセクターの表現を変えなかったことに起因していた。したがって今後は、援助キャパシティや現実に即した重点サブセクターの選択と記述が必要である。

 分野横断的課題に関して国別援助方針が取り上げたのは南部武装独立運動への留意だけだった。評価対象期間中に南部を対象とした援助を行なわなかったことをもって方針の適切な実施と言えなくもないが、「留意」の具体的意味が明確でないため、適切な実施だったかどうか判断できない。その他の課題は、国別援助方針がTICADII東京行動計画の推進という間接的な取り上げ方しかしていないため、適切に政策を実施しているかどうかの評価は困難である。実態として見ると、キャパシティ・ビルディングと対外債務には対応していたが、ジェンダー主流化や貧困削減、地方分権化への対応は不十分だった。

 援助形態に関しては、評価対象期間中は無償資金協力と技術協力だけで、新規の有償資金協力は供与されず、政策は適切に実施されたと言える。

 援助手法のうち、ドナー協調は政策レベルの情報交換とプロジェクトレベルの個別対応が中心だったが、国別援助方針がドナー協調の具体的内容を示していないため、適切な実施かどうかの評価は困難である。スキーム間連携は、無償資金協力と技術協力の連携が常時考慮され、コンスタントに連携案件が形成されており、適切と言える。南南協力は間接的な表明でしかないため、適切性の評価が難しい。セクター間連携、NGOとの連携は限定的に実施されてきたにとどまる。

 最後に、援助政策を体系的にモニタリング・評価する仕組みが弱かったことも政策実施の適切性確保を難しくしていると言える。国別援助計画を策定するにあたっては、達成目標や達成度を測る指標を国別援助計画に作り込むとともに、モニタリング・評価の時期、方法などについて事前にセネガル側と合意し、体系的なモニタリング・評価の仕組みを作り実施することによって、計画の適切な実施を確保することが重要である。

第6章 結果に関する評価

6-1 重点分野における成果

 まず、重点分野別の成果を見ると、水供給、人的資源開発(職業訓練)、水産分野では他分野と比べて成果、インパクトともに大きかったと言える。また、教育、環境分野でも一定の成果が見られた。それらに比べ、保健・医療、農業分野では限定的な成果しか見られなかった。経済インフラ分野はほとんど投入がなかったため、見るべき成果もほとんどなかった。

 水供給(特に農村給水)、職業訓練、水産分野は、他ドナーやセネガル政府があまり力を入れていない分野で、日本の比較優位が高い分野でもあることが、成果やインパクトを大きくしていると思われる。2000年以降、技術協力を強化してカウンターパートや地方政府、地域コミュニティの能力向上に貢献した分野(教育分野の中の就学前教育、環境分野の村落林業など)も成果が大きいと言える。また、水産分野のように、経験や知見を持った専門家が長期にコミットした分野も成果が大きかったと言える。

6-2 分野横断的課題・援助形態・援助手法に関する成果

 分野横断的な課題(貧困削減、ジェンダー、地方分権化)について言えば、まず、貧困削減に関しては、日本は貧困層の多い農漁村部や遠隔地への支援が他ドナーよりも多く、その意味で貧困層が裨益してきたと見なすことができる。しかし、貧困層に狙いを絞り込んだ援助ではないために、貧困層以外がより多く裨益したり、より貧困な層が裨益できなかったりという可能性があり、貧困削減の持続性も定かでないため、貧困削減に大きく貢献したとまでは言い難い。

 ジェンダーに関しては、水供給、水産、就学前教育などの事業では女性が受益したと見られるが、女性の社会参加やエンパワーメントまで実現できたかどうかについては定かでない。地方分権化に関しては、最近になって地方行政を対象にした事業が始まったばかりで、まだ評価できる段階にはない。

 援助形態に関して言えば、技術協力は、中央政府からコミュニティ・レベルまでセネガル側の能力強化に貢献している。無償資金協力については、セネガルの政府、NGOともに、その質については高く評価しているものの、タイド(ヒモ付き)援助であることによって非常にコストが高いものになっていると指摘している。

 援助手法のうち、援助協調はまだ日が浅いこともあって、成果が現れるまでには至っていない。援助協調にはプラス面とマイナス面があるため、前のめりに取り組むべきものではないが、セネガルのオーナーシップを高める観点から、および日本が重点を置く分野や比較優位がある分野でリーダーシップを発揮する意味からも、今後はより積極的な対応が望まれる。スキーム間連携は、特に無償資金協力と技術協力の連携が深まりつつあり、効果を上げてきているが、南南協力はまだ実績も成果も限定的である。その他セクター間連携とNGOとの連携は、限定的ながら一定の成果を上げている。セネガルの状況や開発課題に鑑み、諸連携、中でもNGOとの連携を今後強化することが望まれる。

6-3 自立発展性に関する貢献

 最後に、日本は基本姿勢としてセネガル側の主体性を尊重した援助を行なってきたことで、全体としてセネガルのオーナーシップや自立発展性の醸成に寄与してきたと言える。特にソフト面の援助は、分野による違いはあるものの、総じて中央から住民レベルまでセネガル側の能力やオーナーシップを高め、持続性や自立発展性を向上させていると言える。他方、ハード面では一部、いわゆるタイド援助や技術の適性といった点から自立発展を損ないかねない要素が見受けられた

第7章 提言

7-1 「対セネガル国別援助政策」のあり方に関する提言

7-1-1 目的および目標の明確化

 過去10年の援助政策が目的・目標を明示してこなかったため、日本の援助の趣旨が十分理解されず、援助に携わる人々にとっても何を達成するのかが必ずしも明確ではなかったと思われる。援助の一貫性、透明性、予測可能性、効果を高めるために上位目的を明示するとともに、5年間程度を目処にした具体性のある中期目標を設定する必要がある。中期目標は、セネガル自身の開発目標に沿って、可能な限り数値目標を含めて提示することが望ましい。

7-1-2 「選択と集中」の徹底

 セネガルでは準メジャードナーの日本が成果・インパクトの高い援助を行なっていくには、思い切った絞り込みが欠かせない。セネガルへの援助規模・要員で8重点分野も設けることは、散漫で効果・効率の低い援助とならざるを得ず、実際に援助効果の薄い分野がいくつか見られる。

 選択と集中にあたっては、セネガルの開発ニーズを中心としながら、これまでの日本の実績や比較優位性、他ドナーとの協調などを勘案して決めるのが適切と言える。それらを勘案した上で、分野を基準に絞り込んだ場合と、課題を基準に絞り込んだ場合の「試論」を以下に示す。

 分野を基準とした場合、開発ニーズが高いと思われる分野には農業や民間セクター支援があり、日本が実績を残し、比較優位があると思われる分野には水供給や水産、人的資源開発がある。

 開発課題を基準とした場合は、PRSPなどに照らして「持続可能な経済成長」、「貧困削減と格差是正」、「キャパシティ・ビルディング(能力強化)」の三つが大きな課題と思われる。「持続可能な経済成長」は、農漁業の振興、民間セクター支援や経済インフラ整備、職業訓練、環境保護によって達成されうる。「貧困削減と格差是正」は、基本的社会サービスの提供(教育、保健衛生、生活用水)やジェンダー主流化、NGOとの連携によって達成されうる。「キャパシティ・ビルディング(能力強化)」は、行政官や地域住民を対象とした人材育成などによって達成されうる。

 現在は分野別よりも課題別アプローチが主流になりつつあるようだが、課題別を取る場合には、散漫にならないよう、例えば貧困削減と格差是正に確実につながる持続可能な経済成長(零細農業意・零細漁業の振興、中小企業支援、農村インフラ整備など)に絞り込んだり、基礎教育・ノンフォーマル教育、農村部の保健医療に絞り込んだり、人材育成を中央レベルよりも地方・草の根レベルに絞り込んだりすることが必要と思われる。

7-1-3 取組み姿勢の明記

 開発課題に取り組むにあたっては、「留意する」といった多様な解釈ができる曖昧な表現ではなく、日本として具体的にどのような方針・姿勢で取り組むかを明確にすることが望まれる。明確にしすぎることで柔軟な対応が難しくなるという主張には一理あるものの、当初の方針・姿勢を修正すべき条件や環境の変化があった場合には、理由を明確にして修正することができる。

7-1-4 援助形態の検討

(1)有償資金協力(円借款)への慎重な対応

 セネガルがHIPCであることを考慮し、再び持続不可能な累積債務に陥ることのないよう、有償資金協力の実施にあたっては、債務の持続性などを慎重に検討して対応する必要がある。また、日本として債務負担能力があると判断する場合には、その判断の根拠を示す必要がある。

(2)財政支援の試み

 当面はプロジェクト型支援を基本としつつも、財政支援に試行的に取り組んでいくことが望ましい。これは、セネガルのオーナーシップを高めるためであるとともに、セネガルでも財政支援への動きが強まる中で、消極的な姿勢のままでは日本が重視する分野や課題でリーダーシップを取れずに不本意な援助を行なわざるを得なくなる恐れがあるためである。

 ただし、アカウンタビリティーの問題などにも配慮し、他国で進む先駆的取組みに学びながら、漸進的に取り組む必要がある。また、プロジェクト型支援と適宜組み合わせて実施していくことが望ましい。

7-1-5 援助手法の駆使

(1)各種連携の強化

 援助の効果・効率を高めるために、ドナー間連携、スキーム間連携、セクター間連携、NGOとの連携など各種連携についての政策・戦略を立て、強化していくことが望まれる。スキーム間連携は成果を上げており、セクター間連携も潜在性が高い。活発かつ成熟したNGOセクターが存在し、地方分権化が進むセネガルでは、NGOとの連携を強化することが適切と言える。

(2)南南協力の推進

 JICA中西部アフリカ地域支援事務所が開設された今日、西アフリカおよび仏語圏アフリカの中心的国というセネガルの優位性を活かし、地域内の南南協力を推進していくことが望ましい。東アジアの経験に学びたいという強い意欲をセネガル側が示していることから、日本のODA上位政策が掲げるアジア‐アフリカ間の南南協力に積極的に取り組んでいくことも望まれる。

7-2 セネガルとの枠組み合意と定期政策協議

7-2-1 セネガルとの枠組み合意

 セネガルのオーナーシップを高め、両国間のパートナーシップを強化すべく、セネガル側と開発協力に関する中期の枠組み合意を行なうとともに、枠組み合意に準拠して国別援助計画を策定することが望ましい(枠組み合意と国別援助計画の策定・見直しをシンクロナイズさせる)。

 枠組み合意では、5年程度の期間に達成する目標や、取り組むべき開発課題・分野、達成方法、中間レビューや評価のスケジュール・基準などについて合意するとともに、双方の役割や義務を明確化する。また、日本側が期間中のおおよその援助額を提示することによって、セネガル側にとっての予測可能性を高めることができる。

7-2-2 定期政策協議

 上記枠組み合意や国別援助計画の策定・見直しにあたっては、ハイレベルの政策協議を開催する必要がある。また、中間レビューを行なう時にも開催するのが望ましい。ハイレベル協議では、現地ODAタスクフォースの主体性を尊重しながらも、外務本省やJICA本部も参加し、ODA上位政策やその他のイニシアチブとの整合性を確保する。それ以外の年は、現地ODAタスクフォースがセネガル政府と年次協議を行なう。

 定期政策協議の開催や枠組み合意・国別援助計画の策定にあたっては、正統性や透明性を確保すべく、市民社会(NGO)をはじめとするステークホルダーの参画を得る。
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