I.実施計画に基づく事後評価
2. 政府開発援助(ODA)
(1)政府開発援助における政策
対ケニア国別援助計画(2000年8月~)
経済協力局開発計画課長 岡庭健
平成18年5月
目標
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我が国の対東アフリカ援助の拠点国の一つとして、その発展を支援し、良好な二国間関係の更なる強化を図る。
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施策の背景・概要及び必要性
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(1)ケニアは、サブサハラアフリカ諸国の中で、我が国との関係が最も緊密な国の一つであり、日本のケニアに対する二国間ODA供与額累積は、サブサハラアフリカ諸国の中ではトップを占めている。
(2)ケニアでは、2002年12月の大統領選挙においてモイ前大統領が引退し、ムワイ・キバキが大統領に選出されて現在に至る。ケニアにおける経済成長は1990年代後半から2000年代初頭に悪化したが近年は回復傾向にあり、2004年のGDP成長率は4.3%まで増加している。一方で、ケニアの貧困状況は経済が悪化した1990年代後半に悪化している。
(3)評価期間におけるケニアの国家開発計画としては、1997年の第8次国家開発計画(1997年-2001年)、2002年の第9次国家開発計画(2002年-2008年)がある。また、2002年12月に誕生したキバキ政権は「富と雇用創出のための経済再生戦略(Economic Recovery Strategy for Wealth and Employment Creation 2003-2007: ERS)(2003)」とその改訂版である「ERSの投資プロブラム(Investment Program for the ERS 2003-2007: IP-ERS)(2004)」を策定した。現在の開発計画として利用されているIP-ERSは「経済成長」「公平と貧困削減」「ガバナンス」を3つの柱としている。なおこのIP-ERSは、ケニア版貧困削減戦略書(Poverty Reduction Strategy Paper)として世銀・IMF理事会に提出されている。
(4)「対ケニア国別援助計画」は、「人材育成」「農業開発」「経済インフラ整備」「保健・医療」「環境保全」の5つを重点分野として支援を行うこととしている。
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投入資源
(コスト)
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平成12年度:無償25.89億円、技術協力31.81億円
平成13年度:無償48.23億円、技術協力32.78億円
平成14年度:無償10.49億円、技術協力29.57億円
平成15年度:無償13.73億円、技術協力30.35億円、円借款105.54億円
平成16年度:無償20.17億円、技術協力32.03億円
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施策の効果の把握方法
(枠組み)
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第三者評価「ケニア国別評価報告書」(要約のみ別添)を踏まえ、当該政策を目標、成果、プロセスの3つの視点から以下について評価した。
(1)目標の妥当性
(我が国の上位政策との整合性、ケニアの開発計画との整合性等)
(2)成果の有効性・インパクト
(国別援助計画に明記された重点分野ごとの成果等)
(3)プロセスの適切性・効率性
(援助計画策定の適切性・効率性、実施過程の適切性・効率性等)
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評価の結果
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(1)目標の妥当性
ケニアの開発計画との整合性についていえば、概ね妥当である。
我が国の「対ケニア国別援助計画」は、「第8次国家開発計画」(1997年-2001年)の期間中に策定されたため、ケニア側の開発計画をどのように認識した上でわが国の立場や重点分野をどのように位置付けたのか、という方針が何らかの形でわが国の計画中に示されていない。
(2)成果の有効性(国別援助計画の重点5分野ごとの分析)
(イ)「人材育成」では、初等教育の就学率、中等教育の教員数、高等教育機関への就学者数等の指標を見たところ、全体としては改善の方向性にあると判断しうる。
(ロ)「農業開発」については、生産拡大のための案件が実施されているが、ケニアにおける農業生産は、実質的にはこの数年間、産出額、付加価値額とも同水準で推移しており微増の傾向にある。
(ハ)「経済インフラ」に関しては、統計上、道路はここ数年で実質的な動きはないが、国際・国内幹線などでも未舗装(土・砂利)のままの道路が残っている。電力は純発電量が毎年増加しているが、需要を充たすために一定割合(総需要の2.5~5%程度)の輸入が依然として継続している。
(ニ)「保健・医療」に関しては、人口は年率2%台後半での伸びが継続しており、エイズ感染率は最も深刻であった2000年の約半分の水準となったが、幼児死亡率が高いなどエイズに関するMDGsの達成には、未だ課題がある。また疾病を引き起こす原因としてはマラリアが依然として圧倒的に多い。
(ホ)「環境保全」に関しては、全般的に、生態系の保護(野生動物の保護)及び森林については、この数年間で大きな増減はない。他方、安全な水へのアクセスについては、都市部と地方とで大きな差が依然としてある。
(3)プロセスの適切性
以下により、対ケニア国別援助計画のプロセスは適切であったといえる。
国別援助計画の策定に際しては、外務省内、対実施機関、対ケニア国との十分な協議が行われ、その結果を踏まえた援助計画が策定された。国別援助計画の作成プロセスと同様に、それぞれの援助スキームにおいて、ケニアからの具体的な要請を基に、外務省と実施機関、ケニア国政府とが協議を重ねながら、案件が形成されている。このような状況から、ケニアにおいてはタスクフォース内のコミュニケーション強化に関する活動が実施されている。
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評価結果を踏まえた今後の取組
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(1)目標の妥当性の視点については、「対ケニア国別援助計画」よりも後に策定されたケニア側の国家開発計画である「富と雇用創出のための経済再生戦略(ERS)」(2003年)、及び同戦略を改善及び具体化した「富と雇用創出のための経済再生戦略-投資プログラム-(IP-ERS)」(2004年)を踏まえ、今後に向けた我が国の方針の在り方を検討する。我が国として、1)ケニア政府が前政権時代の開発計画から継続的に重視している財政戦略、金融セクター改革をどう位置付けるか、2)ケニアにとっても最優先課題であり、また援助における国際的な最優先課題である貧困削減をどう位置付けるか、3)ケニア政府における前政権時代からの負の遺産でもある汚職の問題(政府のガバナンス問題)をどう位置付けるか、4)我が国として具体的な案件も実施してきた生態系保護、森林の保護・造成などの分野を今後はどのように考えていくのか、5)人口問題を今後も取り上げていく必要があるのか、という視点が重要である。
(2)成果の有効性の視点については、我が国としての重点分野を厳正に絞り込んで、「国別援助計画」の有効性を高めていくことが求められる。「選択と集中」をより効果的に進めるためには、開発課題とその解決手段との関係を明確にする「目標体系図」を計画策定の段階にて作成し、また、セクター毎ではなく「開発課題」によるセクター横断的な重点分野を設定することを検討する。
(3)ケニアの東アフリカ地域重視の姿勢、特に関税同盟のみならず幅広い分野での域内協働を進める「東アフリカ共同体」の重視の姿勢を踏まえて、東アフリカ地域内への波及効果も視野に入れながら、我が国としての政策を立案する。
(4)ケニアのオーナーシップや自助努力を重視しつつ、ODAのインパクトを全国的に波及させるために、援助形態の多様化(プログラム化、SWAPs、援助協調など)、広域性の確保につながる戦略的かつ継続的な案件実施、(案件形成・実施の前提となる)ベースライン調査やモニタリングを恒常的に実施することなどが考えられる。
(5)より柔軟性が高く機動的な援助を実現するために、有償・無償・技術協力という各援助スキームの一層効果的な組合せによって全体的な効果創出を可能とするプログラム型案件形成を重視する。
(6)相手国の政権交代など急激な環境変化が内外に発生した際に、それに柔軟に対応しうるような仕組み、また計画の進捗状況を把握して必要な改善を施していけるような仕組みを検討する必要がある。そのためには、「国別援助計画」の中間段階でのレビューを実施し、必要な軌道修正を行う仕組みを構築する。
*概算要求、機構・定員要求への反映
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概算要求
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機構要求
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定員要求
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反映方針
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○
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―
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―
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政策評価を行う過程において使用した資料等
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- 「ケニア国別評価報告書」
- (要約のみ別添。全文については外務省ホームページにて公表)
- 〔http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/index/shiryo/hyouka.html〕
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備考・特記事項
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「ケニア国別評価報告書」要約
1.ケニア国の現状と課題
- ケニアでは、2002年12月の大統領選挙においてモイ前大統領が引退し、ムワイ・キバキが大統領に選出されて現在に至る。キバキ政権は、政権誕生当初には広範な改革にコミットしていると各ドナーからも認識されていた。しかしその後、ケニア政府が汚職の改善に関して成果をあげられずにいることなどから、ドナーの評価は必ずしも芳しいものとはなっていない。
- 評価期間におけるケニアの国家開発計画としては、まず第8次国家開発計画(1997年-2001年)が1997年に発表され、その焦点を「持続的な開発のための急速な産業化」におき、貧困削減と雇用拡大を統合的なアプローチを通して進めるとした。しかしこの開発計画期間にはケニアの経済パフォーマンスはきわめて悪化し、2002年には第9次国家開発計画(2002年-2008年)が「貧困に寄与する成長(Pro-Poor Growth)を大きな目標に掲げ、自由貿易体制を最大限に利用して経済状況の回復に努めるとした。また、2002年12月に誕生したキバキ政権は「富と雇用創出のための経済再生戦略(Economic Recovery Strategy for Wealth and Employment Creation 2003-2007: ERS)(2003)」とその改訂版である「ERSの投資プロブラム(Investment Program for the ERS 2003-2007: IP-ERS)(2004)」を策定した。現在の開発計画として利用されているIP-ERSは「経済成長」、「公平と貧困削減」、「ガバナンス」を3つの柱としている。なおこのIP-ERSは、ケニア版貧困削減戦略書(Poverty Reduction Strategy Paper)として世銀・IMF理事会に提出されている。
- ケニアにおける経済成長の側面では、1990年代後半から2000年代初頭に悪化したが近年は回復傾向にあり、2004年のGDP成長率は4.3%まで増加しており、2006年には5%かそれ以上の成長率が予測されている 。この成長回復の原動力は園芸作物及び紅茶の好調な輸出に求められる。なおケニアの貧困状況は、ケニア政府による福祉モニタリング調査(Welfare Monitoring Survey: WMS)によれば、経済が悪化した1990年代後半に同様に悪化している。特にそのインパクトは、首都ナイロビで大きい。また寡婦世帯、構成員の数が多い世帯、世帯主が教育を受けていない世帯、インフォーマル・セクターに従事する世帯などが、より多く貧困状況にある。
- 国際収支と対外債務の側面から見ると、国際収支は経常収支が赤字であり、対外債務残高も増加傾向にある。ただし2003年の結果では、総対外債務のGNIに占める割合は47.5%に、デットサービスレシオは15%台となっており、改善のトレンドにある。なお現状では、ケニアは拡大HIPCイニシアティブの適用を申請していない。
- 貿易の側面を見ると、ケニアでは農業原材料の付加価値を上げるための取り組みを行ってきたが、2001年以降は原材料輸出の製品輸出シェアが再上昇して10%を越えている(2003年は10.9%)。その一方で、食品輸出のシェアは42.7%(2003年)まで下降している。輸出相手国では、アフリカ諸国との貿易が輸出総額の50%を占めている。ただし伸びが著しい園芸作物、カット野菜等は主として欧米向けである。また輸入においては、アフリカ諸国が占める割合は15%未満であり、主たる輸入相手国としては、産油国、さらに日本を始めとした先進国が大きくなっている。ただし2005年には、東アフリカ三カ国による関税同盟が発効し、関税の引き下げあるいは撤廃が行われて、域内貿易環境が好転する方向性にある。
- ケニアにおいては国内借入額が増大している等、歳入の強化は急務であり、その対策として海外直接投資誘致が、歳入の改善及び雇用創出等の点から進められている。ただし周辺国と比較してもケニアは、停電の多さとそれに伴う経済的な損失が大きい状況にあり、インフラを中心に投資環境の整備が不可欠な状況である。
- ケニアに対する海外からの援助の状況を見ると、2003年のケニアに対する援助額の大きさ(支出純額)の順では、米国、英国、世界銀行(IDA)、ドイツ、スウェーデンとなる。各国のケニアに対する援助重点分野を見ると、日本は従来から、1)人材育成、2)農業開発、3)経済インフラ、4)保健・医療、5)環境保全を重点としており、平成12年の国別援助計画では、これらの重点分野の中でも特に社会的弱者に直接裨益する「人材育成」「農業開発」「保健医療」を重点化するとしている。また英国はケニアへの支援額がトップであり、1)地域間格差の問題、2)教育、3)医療、4)行政、5)社会開発、6)経済分野と幅広い分野を重点としている。米国の重点分野は、1)民主化とガバナンス、2)貧困削減、3)人口と保健、4)自然資源管理、5)爆弾への対応などである。世界銀行の場合は、IP-ERSを尊重して、それに沿った形で1)公共セクター管理とアカウンタビリティの強化、2)ビジネスコストの軽減と投資環境の改善、3)脆弱性の改善とコミュニティの強化、4)人的資源への投資、の4点を重点分野としている。
- ドナーと2002年以降のキバキ政権の関係は、キバキ政権発足直後の反汚職を含めた改革姿勢がドナーに評価されていたものが、次第にその信頼を失っている状況であろう。ドナーは援助協調を進めているが、他国で見られるような援助モダリティも含めて改革の方向性及び方策を被援助国政府も含めて議論を進めるという状況より、ドナーが一致してケニア政府に改革を求めるという状況の方がこれまでは多いようである。
1 世界銀行web site
2.国別援助計画の評価結果(総合評価)
(1)目的の妥当性に関する評価
1)計画の目的・目標の分かりやすさ
- 「ケニア国別援助計画」においては、その目的・目標についての直接的な項目が設定されておらず、文章の中からそれらを読みとる必要があり、若干分かりにくい。
1)「ケニア国別援助計画」では、その目的・目標についての直接的な項目が設定されておらず、また目的と手段の関係(目標体系)も明確には示されていない。(その状況を踏まえ、第3章においては一定の仮定の下で評価を実施している。)
2)我が国上位政策との整合性
- 「ケニア国別援助計画」は、我が国の上位政策と基本的に整合している。
1)「ケニア国別援助計画」は、その策定当時の我が国の上位政策である旧「ODA大綱」「ODA中期政策」の原則及び重点項目・課題等に対して、基本的に整合している。
2)今後の計画見直しでは、国別援助計画の策定後に改定された新しい「ODA大綱」「ODA中期政策」が重視する「貧困削減」「平和の構築」をどう位置付けていくかが重要となる。貧困削減は、現行計画でも重視されているが、ケニアにおける貧困水準の高さ及び、MDGs設定やPRSP策定などの国際的な潮流の中で、我が国としての貧困削減重視の姿勢とそれに基づく支援政策をどのように示していけるか、という点である。
3)ケニアの開発ニーズ・国家開発政策との整合性
- 「ケニア国別援助計画」は、ケニアの開発ニーズ・国家開発政策と、若干の重点分野の相違は見られるものの、基本的に整合している。
1)前モイ政権下で策定された「第8次国家開発計画(1997年-2001年)」との比較では、人材育成(教育)、農業、経済インフラなどの重点分野で両国の計画は整合している。一方、ケニアがあげている産業化促進、雇用関連、住宅関連の分野は、「国別援助計画」では言及されておらず、逆に行政能力向上、民主化支援、エイズ対策、環境保全などは、「国別援助計画」にて重点とされているがケニアの計画では示されていない。これら重点分野は全てが一致している必要はなく、形式的な分野の相違は必ずしも整合性の欠如を意味しない。特に既に国際的に重視されているエイズや環境保全について、我が国の重点分野として明確化したことは意義があると考える。
2)次に、現キバキ政権により2004年に策定された現行の「富と雇用創出のための経済再生戦略-投資プログラム-」(IP-ERS)とは、人材育成、農業、経済インフラ、エイズなどの重点分野が、両国で一致している。他方、ケニア側があげる財政・金融関連、雇用関連、ガバナンス関連の項目は「国別援助計画」にはなく、逆に「国別援助計画」が掲げる人口問題・生態系の保護・森林保全などはIP-ERSでは重点となっていない。IP-ERSが、我が国の国別援助計画よりも後に策定されていることを踏まえると、今後の計画見直しに際して、我が国としての考え方を検討すべき点と考える。
4)他ドナー・国際機関の取組みの中での位置付け
- 「ケニア国別援助計画」は、主要ドナーの重点分野と、若干の分野の相違は見られるものの、基本的に整合している。
1)「国別援助計画」と主要ドナーによるケニア援助の重点分野を比較すると、全体的に大きな相違点はない。細かい点で、例えば森林保全・造成、生態系の保護などの環境分野につき「国別援助計画」のサブ重点分野で記載されているが、他ドナーの場合にはそうではない、等の特徴が見られる。前項と同様、ここでも「国別援助計画」と他ドナーの重点分野が必ずしも一致する必要はなく、ケニアにおける貧困削減と経済成長に対して、日本として独自に優先度を高く設定する分野や他ドナーとの相互補完などの観点から重点が設定されるべきものと考える。
(2)結果の有効性に関する評価
1)重点分野におけるインプット
- a)全体的な特徴として、ケニア経済に占めるODA資金のインプットの割合は、近隣諸国と比較すると低い。また日本からは、ほぼ毎年、5つの重点分野のそれぞれにおいてインプット(供与)がある。
- b)我が国の対ケニアODAでは、「国別援助計画」の重点分野(及びその下のサブ重点分野)において、他ドナーとの比較でトップ水準もしくはそれに次ぐ水準の援助額が投入(インプット)されている場合が多い。
- c)我が国の国別援助計画における目的・目標を達成するとの観点からは、評価期間中における案件実施は、そのカバレッジや件数の点で必ずしも十分ではないが、これは相手国があるという状況や、我が国の財政状況等を勘案すれば、やむを得ない。またもとより、日本単独の数年間の援助のみで、ケニアの社会経済状況を改善しきれるものではない。
1)援助資金のインプットをみると、全体的な特徴としてケニア経済に占めるODAの割合は対GNI比で近年3~4%程度で推移しており、近隣諸国と比較しても経済開発における援助資金への依存度合いが低い水準にある。
2)価期間中に実施された重点分野のインプットをみると、ア)「人材育成」では、基礎教育の拡充、高等教育・技術教育の拡充、行政能力の向上などの分野を支援してきた。その中で、日本は「高等教育・技術教育の拡充」に関して、他国より突出した額の援助を実施している。イ)「農業開発」については、主に生産拡大の分野で支援しており、援助額はデンマークに次いで2位である。ウ)「経済インフラ」では、運輸・交通、エネルギーが支援の中心であり、金額でみるとエネルギー分野での貢献が顕著である。エ)「保健・医療」については、感染症・寄生虫対策で貢献しており、ドナー国別では英国・米国の援助が突出しているが、日本はスウェーデン、EUと共にそれに次ぐ規模のグループに位置している。オ)「環境保全」については、生態系保護、森林保全・造成、給水、環境管理能力向上などの分野で支援しており、金額ベースでは、日本は、ドイツ、スウェーデンと並んで、相対的に規模の大きな額の援助を実施してきている。
2)重点分野におけるアウトプット
- a)「国別援助計画」に基づいて実施された個別案件は、所期のアウトプットを産み出しているものと考えられる。(但し、定性的に評価されている案件も多い。)
- b)他方、実施中である案件も多く、これらのアウトプットは現段階では確認できない。
1)各分野での主なアウトプット実績をみると、「人材育成」では、理数科における指導的教員の養成研修システムが確立され、地域内連携が実施された(中等理数科教育強化)。また「アフリカ人造り拠点」が設立され、共同研究・研修普及・情報ネットワークに関して、端緒となる活動が実施された(アフリカ人造り拠点)。
2)「農業開発」では、小規模灌漑に関して、小規模灌漑開発ガイドラインの策定、研修計画、水利組合の枠組み策定などが行われた(農村社会における小規模灌漑振興)。
3)「経済インフラ整備」においては、ソンドゥ・ミリウ水力発電事業(フェーズI、II)が実施されているが現在も進行中であり、アウトプットの出現はこれからである。また、橋梁の架け替えが行われている(アティ橋・イクサ橋架け替え計画)。
4)「保健・医療」では、エイズ診断キットの開発・製造に係る技術移転が行われキットが生産された。また急性呼吸器感染症に関して技術移転が行われた(感染症研究対策II)。さらに、ケニア中央医学研究所(KEMRI)内において、感染症及び寄生虫症対策用の血液検査キット製造施設と研修施設が整備中である(ケニア中央医学研究所感染症及び寄生虫症対策施設整備計画)。
5)「環境保全」では、野生生物の保護活動が実施され、ケニア野生生物公社が使用する視聴覚機材が整備された(野生生物公社に対する文化無償)。また社会林業普及に関して、農地林造成のための植栽・管理の実用的技術が提供された(半乾燥社会林業普及モデル開発)。その他、地方における給水施設が整備されている(メルー市給水計画)。
3)アウトカム指標との関連
- 重点分野によって若干の相違はあるが、ケニアの全般的な社会経済状況を示すアウトカム指標は全体として、改善の方向性にあるものの、依然として重要な開発課題が残る状況であることを示している。
- なお、データの制約等の理由により、全般的に代替的な指標を用いた分析となっている。
1)「国別援助計画」の課題(目的・目標が分かりにくい等)に加えて、政策手段である実施案件においてもアウトカムが十分に測定されていない場合もあるため、「国別援助計画」のアウトカムの評価には困難が伴う。ここでは国別援助計画の記述から推察して参考となりかつデータ入手しうる代替指標について、分析を試みた。
2)「人材育成」では、初等教育の就学率、中等教育の教員数、高等教育機関への就学者数等の指標をみたところ、全体としては改善の方向性にあると判断しうる。中等教育における理数科教育の改善状況などについては、関連指標が入手できない。
3)「農業開発」については、生産拡大のための案件が実施されていることから、農業生産や付加価値額を指標とした。ケニアにおける農業生産は、実質的にはこの数年間、産出額、付加価値額とも同水準で推移しており微増の傾向にある。
4)「経済インフラ」では、道路ネットワーク網の整備、及び電力供給を指標とした。統計上、道路はここ数年で実質的な動きはないが、国際・国内幹線などでも未舗装(土・砂利)のままの道路が残っている。電力は純発電量が毎年増加しているが、需要を充たすために一定割合(総需要の2.5~5%程度)の輸入が依然として継続している。
5)「保健・医療」では、人口増加、エイズ感染率、幼児死亡率、疾病を引起こす原因とその割合を指標とした。人口は年率2%代後半での伸びが継続しており、エイズ感染率は最も深刻であった2000年の約半分の水準となったが、幼児死亡率が高いなどエイズに関するMDGsの達成には、未だ課題がある。また疾病を引起こす原因としてはマラリアが依然として圧倒的に多い。
6)「環境保全」では、野性動物数の推移、森林の面積、浄水ポイント数、浄化された水源を継続して利用できる人口の割合、を指標とした。全般的に、生態系の保護(野生動物の保護)及び森林については、この数年間で大きな増減はない。他方、安全な水へのアクセスについては、都市部と地方とで大きな差が依然としてある。
4)ケニアの国民意識への影響
- a)ケニア側(政府幹部、有識者、国民)は日本の援助に対して、サステイナブルな案件(援助実施後も持続可能性の高い案件)が多い点、技術専門性が高い点、教育・保健分野などでケニアに有益な援助を実施してきた点、などを高く評価している。
- b)他方で、案件実施の成果が全国的に波及しにくい点、提供機器のスペアが入手できず稼働できないケースがある点、などで改善の余地があるとしている。
1)ケニアの政府幹部は、我が国の援助に対して、ア)ケニア側のオーナーシップ醸成に成功しており持続可能性の高い案件が多い点、イ)日本におけるカウンターパート研修の質が高く実務的に有益である点、等についてポジティブに評価している。他方で、ア)案件の成果が全国的に波及しにくい点、イ)供与機器のスペア部品が入手できず稼働できないケースがある点、などについて改善の余地があるとの評価をしている。
2)ケニアの有識者の見解としては、我が国ODAの技術専門性が高い点や、案件実施後の持続可能性の高さなどが評価されている一方で、案件の形成プロセスやガバナンス、汚職等の問題への態度の明確化、現地とのコミュニケーションなどの点での課題が指摘された。また今後に向けて、NGO・CBOとの連携を強化してコミュニティに根差した援助を実施することの重要性が指摘された。
3)ケニアの国民が我が国ODAをどう認識しているかについてのアンケート調査(サンプル数1,200)の結果、具体的な案件としては「ジョモ・ケニヤッタ農工大学」や「KEMRI」に対する認知度が高く、また、このような教育・保健分野等における日本の援助が、ケニアにとってこれまで有益であったと考えていることが判明した。そして今後は、これらの分野に加えて水道、道路・インフラ面での支援を期待している。
5)援助政策目標との関連
- 全体的には、現段階ではいずれの分野においてもまだその成果を出し始めている段階であり、「国別援助計画」にて想定されている援助政策目的の達成に大きく寄与するだけの効果を産み出すには至っていないとの評価になると考えられる。
1)全体として、ケニア国別援助計画の下で実施されている個々の援助案件では優良な成果をあげているものも少なくなく、それがケニアの開発課題の解決および我が国国別援助計画における上位目的に向けた成果を出し始めているものもある。他方で、まだ実施期間中でありアウトプットの産出もこれからである案件も多い。またこれまでの我が国の援助は全体として基本的に非常に前向きにケニア政府や国民から受け止められている一方で、実施案件の成果が全国的に波及しにくいとの課題や、NGO等との連携の下でコミュニティの貧困層などに案件の成果が直接裨益するような工夫の必要性などが指摘されている。そして、ケニアにおける各重点分野の開発課題は、全体として改善の方向性にあるものが多い一方で、依然として多くの課題が残されている状況である。それらを総合的に勘案すると、本評価の対象である今次の国別援助計画については、現時点では、いずれの重点分野においてもまだその成果を出し始めている段階であり、ケニアの開発課題の改善(および我が国の国別援助計画にて設定されている目的)に大きく寄与するだけの効果を産み出すまでには至っていないとの評価になると考える。
(3)計画策定・実施プロセスの適切性に関する評価
1)計画策定プロセスの適切性
- 「国別援助計画」は、東京と現地との協議、相手国との協議、実施機関との協議、などの点で、適切なプロセスにて策定されたと考える。
1)「国別援助計画」策定に際しては、東京と現地それぞれタスクフォースが組成され、外務省と実施機関の協議により案が検討された。またケニアとの政策協議の枠組みの中で、同計画案が複数回、協議されている。このようなプロセスにより、平成10年5月から平成12年8月まで約2年4ヶ月の期間をかけて、計画が策定された。
2)計画実施プロセスの適切性
- a)「国別援助計画」の実施プロセスは、全般的な枠組みとしては妥当と考えられる。
- b)他方で、ケニア側(政府幹部)からは、計画実施プロセスの実務において、コミュニケーションの質・量面での不足が主たる原因と思われる問題点(優先案件の非整合、ケニア側の考え・ニーズの理解やベースライン把握の不足等)が、多く指摘されている。
1)「国別援助計画」は、援助実施機関における計画・方針や、個別案件のプロセスに反映されている。また現地ODAタスクフォースは、内部でのコミュニケーション強化が図られており、今後有効に機能してその目的を果たしていくことが期待しうる状況である。これらを踏まえ、同計画の実施プロセスは、全般的な枠組みとして妥当であると考える。
2)他方でケニア政府幹部からは、改善の余地があるという視点からの指摘も多かった。例えば案件形成に関し、ケニア側の優先順位は低いにもかかわらず日本側の順位が高いために採択されるケースがあるとの指摘があった。また案件形成時におけるコミュニケーション不足から、ケニア側の現状(ベースライン)やニーズがよく日本側に理解されていない、あるいは日本政府とケニア各省との直接対話が不足している、といった指摘があった。更に、援助に係る事務手続きが煩雑でかつ長時間を要するとの意見や、我が国の国別援助計画の存在や重点分野が、ケニア政府における援助窓口である財務省以外のライン省庁には必ずしもよく知られていない、との指摘があった。なお、これらの指摘は、あくまでもケニア政府側がインタビュー調査において表明したものであり、日本側の認識や事実とは異なっている可能性も否定できない。また日本の援助の原則に沿わない発言もあると考えられる。しかし、少なくとも、ケニア政府の複数の幹部が日本の援助に関して共通してそのような認識を持っている、という点を踏まえて今後の改善策を考える必要がある。
3)全般的に、改善の余地があると指摘された事項は、制度的なものを除くと、日本とケニア間の対話の質・量の不足に起因しているものが多いと思われる。
3)他ドナーとの連携の枠組み
- 多分野でドナー・コミュニティとの対話が行われている一方で、特にケニア政府も重視し始めているセクターワイド・アプローチ(SWAPs)に対しては、日本の姿勢の不明確さについて指摘がある。
1)ケニア政府各省は、SWAPs重視の姿勢を踏まえ、ドナー・コミュニティとの対話の機会を増やしており、ドナーもセクター毎でのドナー会合を開催している。このような流れの中、日本政府も様々な枠組みにおいて他ドナーとの情報交換を行っている。教育分野で昨秋まで日本がDFIDと共に議長を務めるなど、日本のプレゼンスが高い分野もある。
2)他方、ドナー側及びケニア側からは、SWAPsの流れに乗ってこない、SWAPsに対する立場を対外的に明確にしていない、等の指摘があった。
4)検証システムの有無
- 我が国の「国別援助計画」は、検証システムを有していないため、例えば政権交代などの諸環境変化に柔軟に対応しにくい。他方、ケニア側の現行の開発計画には国際的な取組みとも連動した妥当な仕組みが整備されており、実務面でも機能し始めている。
1)我が国「国別援助計画」は、5年という期間が設けられているが、特定のモニタリング機能や見直し機能を有しておらず、政権交代などの環境変化に柔軟に対応しにくい。
2)ケニアでは、IP-ERSにてモニタリング・評価の仕組みに言及しており、これに沿って計画・国家開発省にモニタリング・評価局が設置された。その仕組みを用いた最初の進捗報告書である「IP-ERS Annual Progress Report (APR) 2003/04」が、2005年3月に公表された。まだ初年度であり、検証システムとして十分な成果あげるには至っていないが、進捗確認や環境変化への対応を確保する仕組みとして妥当と考える。
3.政策立案及び実施に関する提言(国別援助計画への提言)
(1)目的・重点分野に関して
1)目的・目標の明確化と現実的な目標設定
- a)我が国とケニア双方の国益を見据えた上で、我が国としてなぜケニアへの援助を実施するのか、何を具体的な目標とするのか、それを踏まえて重点分野をどのように選択し集中していくのかなど、対ケニア援助の目的・目標を一層明確にする必要がある(特に貧困削減、平和の構築、財政、金融、雇用、ガバナンスについての支援方針や目標を明確化する必要性が高い)。
- b)また次期計画の策定に際しては、相手国の社会経済状況を一気に改善するような大きな目的・目標(最終成果)ではなく、「国別援助計画」期間中における、我が国の援助案件の実施を通じて達成可能な現実的な目的・目標(中間成果)を設定することが重要である。もしくは、重点分野の目標としては現在のような最終成果を設定するにしても、その下のサブ重点分野においては中間成果を設定することが必要である。この中間成果としては、例えば、セクター全体の目標ではなく、個別に我が国が実施する案件のアウトカムで置き換えることが実務上の観点からは現実的である。具体的に人材育成を例にとると、「基礎教育の拡充」というサブ重点分野の成果指標として「小学校就学率の下落防止」という目標を掲げるのであれば、我が国が実施する案件個別事業が対象とするある地域、例えば「A地区に置おける小学校の就学率」と地域をしぼりこんだ形で成果を設定するケースが挙げられる。
- c)中間成果の設定については、この方法以外にも、「国別援助計画」に対応する「年次行動計画」のような文書を作成し、そこでより現実的かつ具体的な目的・目標の設定をすることも有用な方策である。
1)国別援助計画が真の戦略文書として機能し、また期中のレビューや事後の評価にも十分に耐えうるように、目的・目標は明快に設定され、記述されることが求められる。
2)また、現行のODA大綱や新ODA中期政策との整合性を確保する上で、「貧困削減」「平和の構築」等の分野を次期の国別援助計画でどのように位置付けていくかは重要な点である。IP-ERSとの関連では、次期の国別援助計画で、財政・金融・雇用・ガバナンスなどの分野をどう位置付けていくのかも、明確にすべきである。
3)この内、特にガバナンスについては、我が国は、他ドナーがケニア政府の汚職等によるガバナンスの欠如を理由に援助を凍結していた期間にも、援助は政府ではなく国民に対して実施するとの考え方に基づいて援助を継続してケニアの発展を支えようとしてきた。他方で、ガバナンスへの対応がケニアのIP-ERSにおける3本柱の1つとして位置付けられていることを踏まえ、この問題に対する我が国としての対応を明確化していくことが求められる。
4)国別援助計画において、達成可能な現実的な目標設定をすることにより、国別援助計画を援助の現場において多くの援助関係者が参照する、より効果的に機能する文書とすることが重要である。
5)国別援助計画にて、現実的な中間成果を設定するに際しては、国別援助計画に対応する「年次行動計画」のような文書を作成して、そこでより現実的かつ具体的な目的・目標を設定する案も有効な方策である。なお、このような年次文書は、「ODAの点検と改善」報告書(20045年12月)にて言及されている「国別援助計画実行方針」に相当するものである。この方法により、年度毎の進捗状況(結果・成果の達成度合い等)の把握がより容易かつ適切となる。
2)ケニアの「東アフリカ地域」重視を踏まえた政策策定
- ケニアの東アフリカ地域重視の姿勢を踏まえ、地域内への波及効果も視野に入れながら、我が国としての政策を立案することが重要である。
1)個別の案件に関しても、例えばインフラ整備や制度設計支援、キャパシティ・ビルディング等において、単にケニア国内のみならずに同地域内での波及効果も視野に入れた政策の形成・実施が求められる。東アフリカ共同体は関税同盟のみならず幅広い分野での域内協働を進める方向にあり、東アフリカ共同体の5ヵ年開発計画を考慮した我が国の政策決定が必要となろう。
3)戦略計画としての「選択と集中」
- 今後3年間で対アフリカ援助額の倍増という方向性はあるにしても、ケニアへの援助が急激に増加急速に激増する環境にはない中で、我が国としての重点分野を厳正に絞り込んで、政策としての「国別援助計画」の有効性を高めていくことが求められる。
- その際、開発課題とその解決手段との関係を明確にするためには、「目標体系図」を計画策定段階において構築する方法か、ケニアや他ドナーの計画にも見られるような、「開発課題」によって重点分野を構成する方法も、有効と考えられる。
1)この選択と集中により、目的と手段(実施案件)とを明確に関係付けることも可能となり、現行計画における計画と案件実施の一部不整合という状況を改善することにつながる。その結果として、政策の有効性も高まることとなる。
2)現在の国別援助計画における重点分野は、人材育成を除くと、農業開発、経済インフラ整備、保健・医療、環境保全というように、どちらかというと「開発課題」ではなく「政策分野」によって構成されている。日本の援助方針は、従来、セクター毎に分けて考えることが多かったため、政策分野によって重点を整理することは理にかなっているが、例えば「貧困削減」を達成するためにセクターの壁を越えたクロス・セクトラルな総合的アプローチが必要なことがあるように、他に「開発課題」によって援助方針計画を構成する方法も検討しうる。我が国が現在改定中の対ガーナ国別援助計画やケニアIP-ERSや他ドナーの戦略計画にもそのような例が見られる。
3)この方法により重点分野を設定すると、開発課題にどのような方策でアプローチしてその課題を解決していくのか、という「目的」-「手段」の関係を明確化できるメリットがある。例えば、コミュニティの貧困削減→貧困層のアクセス改善→上水道・基礎教育へのアクセス改善…などのロジックにより「目的」-「手段」の関係が構築される。
4)なお、このような選択と集中を明確にした後も、重要なイシューがある場合には、上記「年次行動計画」等を活用して、柔軟に対応することが求められる。
4)自国産業育成の重視
- 「国別援助計画」では必ずしもその方向性や方針が明確ではない自国産業(特に中小企業)の育成策につき、ケニア経済の成長に不可欠であることから、これを明確化していくことが重要である。
1)必要に応じて、中小企業育成を重点分野として設定すると共に、我が国がどのような支援策を採ることが可能であり有効であるかを検討することが望まれる。
2)具体的には、例えば以下のようなことが考えられるのではないか。
A)今後有望と考えられる産業部門を見出して育成することが重要。現在JICAが行っている「産業振興マスタープラン調査」を通じて有望分野が明らかになってくると思われる。
B)2005年に我が国が公表した、アフリカ開発銀行グループと共同で実施する、中小零細企業育成や投資基盤整備等のための、アフリカの民間セクター開発のためのイニシアティブ(EPSA for Africa)(5年間で最大12億ドル)を通じて、中小企業の資金需要に対する支援を確実に行う。
C)ケニアでは、2004年の段階で、総雇用数780万人のうちインフォーマル・セクターでの雇用が約75%を占めるとともに、2000年から2004年にかけて1.4倍に増加している。その多くは小企業に雇用されているが、インフォーマル・セクターを急速に減少させる効果的な政策が見当たらない中、中小企業支援に際して、インフォーマル・セクターをも含んで支援策を検討する必要性は高い。
D)園芸作物、紅茶などの農産加工業が輸出産業として大きく、中でも園芸作物は急速に伸びている。アフリカからの農産加工業輸出はEU向けが多く、食料安全性(Food Safety)確保が重要な課題である。輸出農産加工業の更なる競争力を支援するために、政府はEUの食料安全基準に達する衛生状況と品質の確保、さらに商品としての魅力を向上させる品種改良などを支援することが重要である。
3)また上記の検討の際には、トップダウン(政策的なイニシアティブによる産業育成)、ボトムアップ(企業の自主的なイニシアティブに対する政府の側方支援)の相乗効果を図るような方策も検討することが求められる。
5)両国民に対する充分な説明の実施
- 「国別援助計画」の考え方や目的、及びそれを踏まえた案件形成・実施の考え方などを、これまで以上に双方の国民に対して説明することが求められる。
1)前者は、例えば、様々な国際環境やケニア側のニーズをどのように考えて、我が国としての政策を策定しているのか、等に関して説明することである。また後者は、例えば国別援助計画と個別の実施案件が必ずしも整合していないような場合に、何故案件が実施されているのか(いないのか)、等に関して十分に説明することである。
(2)援助手法・アプローチに関して
1)草の根(コミュニティ)レベルに直接裨益効果が及ぶ実施手法の検討
- 「国別援助計画」では、草の根(コミュニティ)レベルに直接の裨益効果が及ぶように、適切な手法の検討・採択が求められる。
1)手法として「NGOとの連携」「参加型の開発」などの重要性が指摘されており、これに関して、我が国として実践的な仕組みを構築していくことが望まれる。例えば、現地NGO等を通じたプロジェクトを支援する「草の根・人間の安全保障無償」のスキームを一層活用しつつ、様々なステークホルダーとの多層的な対話の枠組みを構築して、それを活用した案件発掘、ベースライン分析やモニタリング等の実施も検討しうると思われる。
2)ODAのインパクトを全国的に波及させる仕組みの確立
- a)我が国の実施案件が、その対象範囲が限定されていること、及び(農業や保健などの分野で)スケール・アップの要請に応えていないこと等により、全国的なインパクトに至っていないとの指摘が、複数のカウンターパートからなされていることを踏まえた対応が望まれる。日本の援助は、ケニア側が「自助努力」や「オーナーシップ」により自らスケール・アップすることを期待している側面があるため、一概にケニア側の要望やニーズに全て応える必要はない。ただ、このような要望やニーズがあるという事実を踏まえて、次期の国別援助計画ではスケール・アップの具体的方策について検討し、ケニア側と対話や議論を持つことが望ましい。
- b)具体的には、援助の「プログラム化」推進、広域性の確保につながるような戦略的かつ継続的な案件実施、(案件形成・実施の前提として)ケニアのベースライン把握や状況モニタリングを恒常的に実施する仕組みの構築、更にはSWAPs・援助協調へのより積極的な参画などが考えられる。
- c)このうち、「プログラム化」推進については、より柔軟性が高く機動的な援助を実現するために、有償・無償・技術協力といった各援助スキームの一層効果的な組合せを可能として、全体的な効果創出を可能とするような方策(プログラム型案件形成)を検討することが必要であり、外務省では既にそのような検討が開始されているがところ、今後、その実績プログラムを積み重ねることが期待される。
- d)また、現在、ケニア政府及びケニアに対するドナー間で主要な潮流になりつつあるSWAPsに関しては、次期「国別援助計画」のなかで日本の考え方や関与の方法、参加の範囲についてその立場を明確にするべきである。
1)ODAのインパクトを全国的に波及させるためには、例えば、日本の援助をよりプログラム化する(共通の目的・対象の下に相互密接に関連付けながら複数のプロジェクトを計画・実施する)ことが検討しうる。
2)また、仮に案件の対象地域が限定的であっても、また案件がプログラムでなくプロジェクトであっても、その実施により技術や情報が他の地方にも伝達されていくような方法論を検討して取り入れていくことも必要であろう。そのためには、ケニア側との多層的な対話(各地域や社会の各層、NGOや市民組織、各ドナー、各省庁など様々なステークホルダーとの対話)を一層重視し、それを踏まえて案件の戦略性を増すことによって、継続的なプロジェクト実施が案件実施とそのアウトカム産出についての広域性の確保につながるように工夫することなどが望まれる。このような工夫により、規模の利益が発生しうるなど、開発単位規模あたりのコストを低下させていくことにつなげていける可能性もある。
3)更により大きな方向性としては、セクターワイド・アプローチ(SWAPs)や援助協調の動きに対する立場を明確にしていくことが必要である。また併せて、ドナー間で検討中の「ドナー共同支援戦略」(JAS: Joint Assistance Strategy)に対しても、このSWAPsへの対応との一体性を保つように、我が国の立場・対応を明確化することが必要である。
4)SWAPsに参加しない場合のデメリットを考えてみると、仮にSWAPsが導入されているセクターで日本がSWAPsに参加しない場合、SWAPsに参加している他ドナーに比べ、当該セクターの政策策定への日本の参画の度合いが低下し、我が国の既存のプロジェクト・プログラムが当該セクターの開発計画上で十分に考慮されなくなるリスクがある。これは日本のプレゼンスの低下につながりかねない。また、その一方でSWAPsへの参加は慎重に判断すべきとの見方もある。SWAPsはコモンバスケットの設置の動きの母体となる場合が多いが、仮に他ドナーがコモンバスケットを推進した場合、現状のケニアの状況に照らせば日本国民への援助資金の使途の説明責任という観点からは我が国の参加は困難である、との意見がある。このような状況から、日本のSWAPsに対する考え方や関与の方法、参加の範囲についてよく議論・検討の上、その立場を明確にするべきである。
(3)実施体制に関して
1)「現地ODAタスクフォース」の一層の強化
- 次期「国別援助計画」では、我が国のODA全体に対する改革の方向性も踏まえた上で、「現地ODAタスクフォース」の一層の機能強化に関する方向性と具体的な方策を検討する必要がある。具体的には、下記4)で言及するような期中モニタリングの機能も担うこと、ケニア側との多層的な対話の窓口としての機能を担うこと、などが考えられる。
1)現在、現地ODAタスクフォースは現地大使館の強いリーダーシップの下で、各参加機関間での情報共有が徹底されるなど、有効に機能し重要な役割を担っている。この役割を更に強化していくことが望ましい。
2)特に、援助政策の有効性を高めていくためには、特定の個人が保有する資質やネットワーク等に過度に依存するのではなく、我が国の「システム」として政策の有効性を産み出せるようにしていくことが重要である。現地ODAタスクフォースが、そのようなシステムの核として機能していくことが望ましい。
2)ベースライン・サーベイ、ニーズ調査の徹底の充実
- ケニアに対する我が国のODAの効果を一層高めていくためにも、ケニアにおけるベースライン把握、ニーズ把握を充実させる必要がある。次期「国別援助計画」では、そのための具体的な方法や枠組みの検討・確立が必要である。
1)ベースラインの把握に関しては、例えば重点分野として選定した分野については、案件実施の有無に係らずベースラインを把握する仕組みを構築するなど、ケニア側の状況を常に把握できるようにしておくことが重要である。
3)手続の簡素化・効率化の方策の検討(例:「ファスト・トラック」案件など)
- より一層効率的な援助の実現のために、手続を簡素化して意思決定を早められるような具体的な方策の導入を行う必要がある。その例としては、特定の案件に関して一定の条件のもとで手続きを簡素化できる「ファスト・トラック」案件などが考えうる。
1)これは、ケニア政府幹部から、日本の援助における手続きが煩雑であることや個別案件の形成や検討に時間を要することへの指摘が多くあったことを踏まえての対策である。我が国の援助プロジェクト・プログラムは事前調査、プロジェクト形成調査、開発調査等、十分な調査を踏まえて実施されている。例えば、我が国が収集した情報・報告書以外の、国際機関を含む他ドナー等による既存の調査に基づいて、援助プロジェクト・プログラムを立案することが可能になれば、具体的な案件の開始までの期間の短縮が想定できる。また最近JICAで実施されている「実証型開発調査」のような、開発調査とパイロットプロジェクトの導入が組み合わされることで、パイロット案件ではあれ、援助開始までの期間を短縮することができる。
4)期中モニタリング・評価のメカニズム構築と実施
- a)「国別援助計画」を、その期間の中間段階でモニタリングして、内外の環境変化や目的の妥当性、進捗状況等を随時把握・検証しながら、必要な軌道修正を実施していけるような仕組みを構築することが望ましい。
- b)この点については、既述した「国別援助計画実行方針」のような「年次行動計画」に相当する文書を作成して、毎年の環境変化や我が国の細部の方針変更などを、「国別援助計画」本体ではなくこの年次行動計画において毎年柔軟に受け止めていく、という方策も可能である。
1)現行の国別援助計画の実施時に我が国が経験したように、相手国に政権交代が起きるなど大きなかつ急激な環境変化が、内外に発生したような際に柔軟に対応し得る仕組み、また計画の進捗状況を把握して必要な改善を施していけるような仕組みを検討する必要がある。例えば、5年間の「国別援助計画」の下に、「年次実行計画」を策定して毎年更新していくような仕組みが考えられる。このような仕組みが機能することにより、政策レベルでのPDCAサイクルが確立することとなる。
2)このような仕組みはまた、ケニアのIP-ERSにモニタリング・評価のメカニズムが組み込まれ、半期毎の進捗報告が実施され始めていることとも軌を一にする対応となる。
3)他方、手続の調和化の観点からは、このようなモニタリング・評価がケニア側への負担をかけずに効率的に実施しうるような枠組みも、中長期的に検討していく必要があろう。
5)様々なステークホルダーとのコミュニケーションの更なる強化
- ケニア側のODA窓口である財務省以外の各省や、NGO、他ドナーなど、様々なステークホルダーとの多層的なコミュニケーションを一層強化して、相互理解を深められるような枠組みを充実させる必要がある。
1)ケニアでは、外務省、JICA、JBIC、JETROが主催して、ケニア側各省や関係者を対象に、日本のODA事業の事例紹介や新規要請案件の協議を目的としたODAセミナーを2005年3月から現在まで3回にわたり実施している(2005年3月、2005年6月、2006年2月)。このようなコミュニケーション促進の努力は高く評価できる。
2)日本側とケニア側のコミュニケーションを一層強化し相互理解を更に深めるため、最終的にはケニア財務省が政府内での調整や優先順位付けを行うための役割を十分に果たす必要がある一方、日本側としても財務省以外の各省、NGO、他ドナーなど、様々なステークホルダーとのコミュニケーションを一層強化する枠組みを構築することが望ましい。